テクノロジーでユキヒョウを保護する
青海チベット高原にある三江源自然保護区とその周辺の草原には、チベットカモシカ、ヤク、チベットキツネ、ツル、ユキヒョウなど69種の保護動物が生息しています。
ユキヒョウの名は、雪線(せっせん: 雪が1年じゅう消えない地域の下限を結んだ線)上に生息することに由来します。灰黒色の葉の模様でカモフラージュし、食物連鎖の頂点に立つ堂々たる姿で山中を歩く孤独なハンターです。また、ユキヒョウは「アンブレラ種」と呼ばれ、彼らの生存が他の種や生態系全体に影響を与えることを意味します。

ユキヒョウの横顔
ユキヒョウは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に分類されています。世界で残っているのは8,000頭以下と考えられており、そのうちの6割が中国に生息しています。2007年に設立された山水自然保護センターは、南西部の山脈である青海チベット高原とその周辺都市で、ユキヒョウを含む複数の生物種とその生息地の保護に取り組んでいます。
同センターの研究者は夜行性のユキヒョウは縄張り意識が強く、最大で200平方キロメートルの範囲を歩き回り狩りをするため、見つけにくいネコ科動物で保護や調査が非常に困難であると指摘しています。
AIによる認識
ユキヒョウの行動を妨げずに観察するために研究者は通常生息地に赤外線カメラを設置します。カメラの前を動物が通り、赤外線が感知されると、写真や動画が撮影されます。

赤外線カメラで撮影されたユキヒョウ
ユキヒョウの模様は人間の指紋と同じようにユニークなので個体識別が可能になり、歩きまわったり、捕食や子育てしたりする様子がより詳しくわかるようになりました。
しかし従来の研究では手作業に頼っていたため、カメラの映像をすぐに実用的な知見に変換することができませんでした。

山水自然保護センターの研究員が行ったフィールドワークの様子
ユキヒョウの撮影では、保護活動家や地元の放牧者が実際に撮影場所に行き、メモリーカードを回収し、画像を加工・分析するための機器に取り込む必要がありました。しかし、ユキヒョウの生息地は通信手段が確保しにくい厳しい環境であるため、この作業には時間と労力がかかります。
また、ユキヒョウは夜間や明け方に行動することが多く、岩場に溶け込むようなカモフラージュが施されていることもあり、データを見る際には研究者が手作業で特定の個体を識別する必要がありました。
年間50万枚の写真を手作業で処理すると約300時間かかります。しかし、この規模のデータは十分な計算能力と組み合わせれば、ディープラーニングの学習材料の宝庫となります。今後はこれらの情報をデータベース化して研究に活用し、より効果的な保全策を策定していく予定です。
ファーウェイはフルシナリオ対応のAIフレームワーク「MindSpore」を赤外線カメラの映像処理に適用。AIフレームワークに基づくオープンソースモデルをこのように使用するのは初めてとなります。MindSporeはデバイス、エッジ、クラウドの各シナリオに対応した画期的なAIフレームワークです。開発者がより優れた、効率的で柔軟なAIソフトウェアおよびハードウェアアプリケーションを作成できるよう、新しいAIプログラミングパラダイムを構築するように設計されています。ファーウェイと山水自然保護センターは、MindSporeフレームワークのYOLOv3ターゲット検出モデルに基づいて、単一の推論表示ページとバッチ推論ツールを開発し、28万枚の赤外線写真の初期バッチを処理しました。
次の画像は推論結果と効果図を示しています。

50万枚の写真の事前審査は、手作業に比べ2日半ほどで完了します。最終的な識別には専門家による解析と確認が必要ですが、AIによって全体の所要時間は半分になりました。
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10種
高原の生態系に生息する10種を特定
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95%
ユキヒョウの認識再現率は95%
学習済みモデルはユキヒョウ、アカギツネ、ブルーシープなど、一般的な10種または種のカテゴリーを正確に識別することができます。検証セットにおける全体の認識精度は約92%に達しており、その中でもユキヒョウの認識精度は95%に達しています。

現在、オープンソースモデルで認識されている生物種カテゴリー

赤外線カメラの推論写真: ユキヒョウ
自然保護に関心のある開発者のために、ファーウェイは種の識別のためのモデルとツールをオープンソース化し、関連ツールの開発とデータセット、データ処理、データクリーニングの適用のための敷居を低くしています。また、ファーウェイはAtlasハードウェア、ヘテロジニアスコンピューティングアーキテクチャCANN、Ascend MindSpore、MindX、ModelArtsなど、Ascend AIの基本ソフトウェアとハードウェアプラットフォームもオープンにしています。
生物多様性の保全において、ICTは効率と精度を桁違いに高め、ユキヒョウのような絶滅危惧種を長生きさせるための貴重なツールになるはずです。