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ハノーバーメッセに見るインダストリー4.0とNB-IoT

2018.07.06

IoTを実現する通信規格の1つとして商用化が進むNB-IoT。このコーナーでは、携帯電話研究家としてモバイル通信を追いかけてきた山根康宏氏が、5Gの到来とともにNB-IoTがもたらす“つながった”未来を、世界各国の導入事例を紹介しながら探ります。今回はインダストリー4.0におけるNB-IoTの役割に注目しました。



山根康宏(やまね やすひろ)

香港を拠点とし、世界各地で携帯端末の収集とモバイル事情を研究する携帯電話研究家・ライター。1,500台超の海外携帯端末コレクションを所有する携帯博士として知られるが、最近では通信技術やIoTなど広くICT全般へと関心を広げ、多岐にわたるトピックをカバーしている。『アスキー』『ITmedia』『CNET Japan』『ケータイWatch』などに連載多数。


「つながる」製造業の新潮流

インダストリー4.0の提唱国であるドイツでは、その実現に向けた取り組みが進められている。2018年4月にハノーバーで開催された産業関連の展示会『ハノーバーメッセ2018』でも、インダストリー4.0の展示が大きく目立っていた。実はインダストリー4.0の構想が初めて披露されたのは2011年の同展示会だった。これ以降、ハノーバーメッセは単なる産業機器の展示会ではなく、ドイツを中心としたスマートファクトリー化の動きを発信するイベントへと様変わりしている。

インダストリー4.0とは、単なる製造業のデジタル化ではなく、製品の設計から原材料の調達、製造から梱包、運搬まで、生産現場に関わるバリューチェーン全体を相互に接続し、効率化を図るものだ。スマート化された工場は、他社との生産分業や異業種とのコラボレーション、企業規模の大小を超えた連携もスムーズに行える。その結果、製造コストや生産日数の削減、消費者ニーズに応える製品の迅速な市場投入が可能になる。

通信環境の高速化とスマートフォンの普及は新しいサービスを生み出し、また従来サービスの高付加価値化をもたらした。インダストリー4.0は製造現場にも同じように新たな潮流をもたらすのだ。

低消費電力とカバレッジでスマート化を加速

インダストリー4.0の実現にはさまざまな技術が必要だが、中でも情報伝達インフラとなる通信技術の重要性は非常に高い。高速な4Gネットワークは工場の遠隔操作や無人化のためのリモートコントロールに欠かせないものになった。さらにギガビット速度、超低遅延の5Gが実用化されれば、世界中どこからでも遠隔地の工場をリアルタイムでコントロールできるようになる。

一方、機器の情報収集も不可欠だ。だが機器の予防保全用に振動計測センサーを取り付けるにしても、BluetoothやWi-Fiでは電源確保や取得データの受信用サーバーの設置が必要で、すべての機器にセンサーを取り付けるのは難しい。しかし超低消費電力のLPWA(Low Power Wide Area)の普及により、工場内のあらゆる機器にセンサーを取り付けることが可能になった。

複数のLPWA方式の中で、NB-IoTにはセルラー回線を使うことによるメリットがある。工場が5Gや4Gネットワークのカバレッジエリア内であれば、NB-IoTもそのまま利用できるのだ。他のLPWAの通信方式では改めて基地局を設置しなくてはならず、電波の到達度も低いため工場内に非カバレッジエリアが生じる恐れもある。NB-IoTはインダストリー4.0の実現を加速する有力な通信方式といえよう。

ドイツで進む商用化
欧州での普及を後押し

ハノーバーメッセ2018では、2017年にドイツ全土にNB-IoTネットワークを構築したドイツテレコムによるNB-IoTの活用セミナーも開催された。同社はすでに商用サービスを開始し、月額199ユーロ(約25,870円)で500KBのSIMを25枚(デバイス25個分)利用できるプランを提供している。ドイツではボーダフォンも今年9月までにNB-IoT網の構築を急ピッチで進めており、同社によると完成すれば400万台のデバイスの接続が可能になるという。これは従来の通信方式の30倍以上ものキャパシティだ。こうした大手通信事業者の積極的な取り組みにより、インダストリー4.0の本場ドイツでNB-IoTがスマートファクトリーのデファクトスタンダードとなれば、その動きはヨーロッパ全体に広がっていくだろう。

ハノーバーメッセ2018にはGSMAも出展し、NB-IoTやLTE Cat.M1のモジュールを展示した。セルラー回線を使ったLPWAでは、NB-IoTでは速度や容量が足りない場合はCat.M1を使うこともできる。他のLPWA方式と比べると、より高い要求にも対応できる柔軟性を持っているのである。

会場では実際に工場の機器にLPWAモジュールとセンサーを組み合わせた製品はまだあまり見られなかった。しかし機器メーカーはLPWAの採用に興味を持っている。例えば産業用ロボットの大手ABBはモーターに後付け可能な振動センサーを展示していたが、Bluetoothを使うためデータの受信デバイスを必要とする。また電池の持ちは最大5年とのこと。NB-IoTならセルラー回線でデータを受信できるうえ、電池寿命も倍となる。ブースの担当者からは今後のNB-IoTの採用について前向きな話も聞かれた。

ABBは後付け式振動メーターを展示。LPWA化が待たれる

GSMAブースにはNB-IoTモジュールも展示された

検針のスマート化は工場にも有用

NB-IoTソリューションの実例として会場で大きく紹介されていたのは、ファーウェイがミュンヘン空港で行ったPoC(概念実証実験)だ。テレフォニカドイツとIoTプロバイダーのQ-loudとの協業で、空港に700以上もある電気、水道、ガスメーターの検針を人間の目視から自動にし、データを可視化する。メーターの表示はアナログの文字盤だが、Q-loudが開発した読み取りカメラ『EnergyCam』を取り付けて数値をデジタル化する。この方法は古い計器を使っている工場でも有用で、既存の機器を交換することなくインダストリー4.0を実現できる。

ファーウェイは2017年から東芝デジタルソリューションズとNB-IoTのスマートファクトリーへの活用に向けた技術検証も進めている。東芝のIoTアーキテクチャ『SPINEX』上にファーウェイのNB-IoTソリューションを組み合わせ、電波環境が悪く電源確保が困難な工場内部での機器の遠隔監視の実現を目指すという。

ファーウェイがミュンヘンで実証実験を行ったスマートメーターでは、
Q-loudのデジタルカメラでデータを読み取りNB-IoTで送信する

ロジスティクスのIT化もインダストリー4.0には重要。
CeMAT2018のパナソニックブース

製造から物流まで
真のインダストリー4.0を実現

このようにLPWAは工場のスマート化を支える重要な技術の1つだが、インダストリー4.0は1つの工場のスマート化だけでは不十分である。国内はもちろんグローバルにアッセンブリの分業が進むことから、地域や国を超えたスマート化は必須だ。また原材料や製品の一部となるモジュール、そして完成品が世界中の工場から集まり、世界中へと輸出されるため、ロジスティクス面でも国を超えた接続性が求められる。個々のローカルコネクションではなく、グローバルで運用できる同一規格のセルラー通信によって相互の互換性を確保することが、真のインダストリー4.0の実現には必要だろう。

ハノーバーメッセ2018のドイツテレコムブースではフラウンホーファー財団と共同開発したNB-IoTを使ったトラッキングデバイスも展示。荷物やパレットに取り付け、セルラー回線のある場所ならどこでもトラッキングができる。工場がNB-IoTのカバレッジエリアであれば、共通の通信方式で一貫した貨物の追跡も可能だ。実は今年のハノーバーメッセではロジスティクス関連の大型展示会『CeMAT2018』も同時に開催されており、製造と物流、2つの業界がインダストリー4.0の実現に向けたタッグを見せていた。

IoT、5G、AI、ARなどの技術が融合することで、インダストリー4.0は遠くない将来に実現するだろう。NB-IoTはその構成要素として、今後も重要性を増していくに違いない。

※1ユーロ=130円換算