チリの砂漠で莫大な天文観測データの保存・解析を可能にするファーウェイのコンテナ・データセンター
ESO/C. Malin
何百年にもわたって天体観測者を魅了してきた、雲のないチリの夜空は、いまも天文学研究に最適な条件を備えている。チリ北部・アタカマ砂漠の奥深く、チャナントール山の山頂に設置されたALMA(Atacama Large Milimeter/sub-milimeter Array:アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、通称アルマ望遠鏡)は、現在地上で稼働している最もパワフルな天文観測機器だ。世界中の天文学者が、この望遠鏡が収集・分析する莫大なデータから、宇宙の新たな事象が発見されることを期待している。
世界一の感度・分解能を持つ望遠鏡が驚異的な量の画像データを収集
ALMAは直径12mと7mの66台のアンテナからなる電波望遠鏡で、2種類のアンテナからの画像を合成することで感度・分解能ともに世界一を実現しており、高精細な画像により恒星の誕生や銀河の形成について重要な知見をもたらすとされている。15年間にわたる期間と14億米ドル(約1,512億円※)に上る費用をかけて建設され、2013年3月に稼働を開始して以来、ALMAはチリの夜空から驚異的な量の画像データを収集してきた。
ALMAの建設は欧州、米国、東アジアの複数の機関による共同プロジェクトで、各国の天文学者は3地域のARC(ALMA Regional Center:ALMA地域センター)が提供するデータ収集サービスを利用して最先端の研究を行っている。ALMAの観測データは収集後12か月間は各研究者の独占所有となるが、その後はパブリック・ドメインとなり、世界中の誰もがアクセスできるようになる。
砂漠でも設置の容易なコンテナ・データセンターでバーチャル天文台を実現
2015年4月、ALMAの観測データを保存・分析・共有するためのプラットフォームとして、ALMAはチリ国内の5つの主要大学とREUNA(Red Universitaria Nacional:チリ国内大学ネットワーク)と共同でChiVO(Chilean Virtual Observatory:チリ・バーチャル天文台)を設立した。ChiVOによって、研究者や学生はオンラインでALMAの観測データにアクセスし、さまざまな解析を行うことが可能になる。
ALMAが生成するデータは年間200TB(テラバイト)以上に及ぶ。この大規模なデータの保存と解析を実現しているのが、ChiVOの設立メンバーでもある南米有数の工科大学UTFSM(Universidad Técnica Federico Santa María:フェデリコ・サンタ・マリア工科大学)と、中国とチリの天文学界における交流促進を目的とするCASSACA(Chinese Academy of Science South America Center for Astronomy:中国科学院南米天文研究センター)が、ファーウェイとのパートナーシップによって構築したデータセンターだ。ファーウェイのコンテナ・データセンター・ソリューション『FusionModule 1000A』と、『FusionServer RH2288 V3』サーバー、『OceanStor S5600T』ストレージを採用したこのデータセンターは、HD動画なら30年分、ALMAの観測データ5年分に相当する1PB(ペタバイト)のストレージ容量を持つ。
電源、冷却、ITキャビネットがすべてひとつになった「オール・イン・ワン」のコンテナ・データセンターは、どんな条件下でも短期間で簡便に設置ができる。また、堅牢な防塵仕様と空調機能により、砂漠の高温環境でもデータを安全に保護することが可能だ。耐震性も高く、地震の多いチリでも安定した稼働が保証されている。
2015年5月、チリと中国のリーダー間でデータセンター設立の調印式が行われた(写真左から2人目より、中国科学院国家天文台副台長 趙剛(ツァオ・ガン)氏、中国の李克強首相、チリのミシェル・バチェレ大統領、UTFSM学長ダーシ―・フエンザリーダ(Darcy Fuenzalida)氏)
ALMA
2015年4月、ChiVoの設立式典でスピーチするALMAコンピューティング部門長ホルヘ・イブセン(Jorge Ibsen)氏
ChiVoのデータセンターは2015年7月に主要設備の設置を完了、9月に正式に稼働を開始した
科学の発展をICTで支える
UTFSM情報学部教授でChiVOのディレクターを務めるマウリシオ・ソラール(Mauricio Solar)氏は、「このデータセンターは、科学研究のためものとしてはチリ国内で最大規模となります」と述べる。「ALMAのデータを活用した研究には、1ファイル200GBにもなる観測データの保存や分析、伝送が必要です。そのためにはこうしたデータセンターが不可欠です」
ファーウェイはこれまでにも世界各国で大学や学術研究機関向けにソリューションを提供してきた(次ページ参照)。人々の生活やビジネスのみならず、人類の知の発展にとっても、ICTは大きな変革をもたらす。ファーウェイは科学研究が求める莫大なデータ処理能力と高い信頼性を備えた製品とソリューションによって、今後も科学の進歩を陰ながら支えていく。
科学研究を支えるファーウェイのソリューション
CERNのグリッド・コンピューティング向けデータセンター
スイスに本部を置く世界最大の素粒子物理学研究機関CERN(European Organization for Nuclear Research:欧州原子核研究機構)では、LHC(Large Hadron Collider:大型ハドロン衝突型加速器)により、「神の粒子」と呼ばれるヒッグス粒子の発見をはじめとする数々の大規模な実験プロジェクトが行われている。LHCで生成される年間50PBにも上る実験データを処理するため、CERNはWLCG(Worldwide LHC Computing Grid:世界規模のLHCコンピューティング・グリッド)を構築している。WLCGはCERNが運用するデータセンター(Tier-0)、世界各国に設置された13のデータセンター(Tier-1)、各国の大学や研究機関(Tier-2)、学部や研究者個人(Tier-3)の4層のコンピューティング・リソースからなり、Tier-0のデータセンターはその中核としてLHCから得られるローデータの保存と分配を担う。
ファーウェイは、CERNが最先端のICT活用のために企業とのコラボレーションを進めているCERNオープンラボを通じて、UDS(Universal Distributed Storage:汎用分散ストレージ)クラウド・ストレージ・システムを開発。2012年にWLCG Tier-0のCERNデータセンターに導入され、その高い拡張性、信頼性、互換性が実証されている。
欧州の『ヘリックス・ネビュラ・サイエンス・クラウド』
2016年4月、欧州委員会は、欧州の科学研究において増大を続けるデータの処理に対応するため、国境や分野を横断して科学研究データを保存、管理、分析できるオープンでシームレスな仮想プラットフォームの構築を目指すEOSC(European Open Science Cloud:欧州オープン・サイエンス・クラウド)イニシアティブを立ち上げた。これに沿って、CERNをはじめとする欧州の10の主要研究機関の主導によりハイブリッド・クラウド・プラットフォームの実現に向けて世界各国のICT企業との産学連携を進める『ヘリックス・ネビュラ・サイエンス・クラウド』プロジェクトが、開発段階の技術を実用化に向けて調達するPCP(Pre-Commercial Procurement:商用化前調達)を実施。11月に、ファーウェイとドイツ・テレコム傘下のTシステムズほか数社による連合事業体が設計段階のパートナーのひとつに選ばれ、Tシステムズとファーウェイがドイツで運営する『オープン・テレコム・クラウド』をベースとしたハイブリッド・クラウドの開発を進めることが決定した。CERNとTシステムズはすでにOpenStackベースのオープン・テレコム・クラウドの集中的な評価を行い、同サービスが科学研究に必要な大容量データを扱うハイパフォーマンス・コンピューティング性能を十分に備えていることを確認している。
カリフォルニア大学高性能アストロコンピューティング・センター
カリフォルニア大学の複数のキャンパスと、同大学と提携する3つの米国国立研究所が参画するUC-HiPACC(The University of California High-Performance Astro ComputingCenter:カリフォルニア大学高性能アストロコンピューティング・センター)では、天文学、天体物理学、コンピューター科学分野の研究者が宇宙のしくみに関する数理モデルの開発や検証を行ってきた(現在は資金中断のため研究活動を停止中)。同センターでは計算宇宙物理学が要するハイパフォーマンス・コンピューティングのクラウド化を早くから進め、学内にスーパーコンピューター『Hyades』を設置。Hyadesではファーウェイのソリューションを採用した1PBのプライベート・クラウドにより、データのアーカイブと共有を実現している。
(画像提供:S. Gottlöber, G. Yepes, A. Klypin, A. Khalatyan )