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「格安」だけではないMVNOへ

 MVNO元年と言われた2014年。ファーウェイもSIMロックフリー端末の販売を開始し、MVNO事業者の皆様とともに市場の拡大の一端を担ってきました。今回のSpecial Interviewでは、SIMロックフリー端末におけるパートナーの1社であり、動画配信サービス用STB(Set Top Box)でも製品をご採用いただいている株式会社U-NEXTの代表取締役社長 宇野康秀氏に、MVNO事業参入における戦略や他事業とのシナジーについてお話をうかがいました。聞き手はITビジネスアナリストの大元隆志氏。同社の取り組みを踏まえ、「格安スマホ」の今後についても論じます。

U-NEXT

有線ラジオ放送の最大手USENによる動画配信サービスGyaOから派生したU-NEXT(旧GyaONEXT)を母体とし、2010年に株式会社U-NEXTとしてUSENから独立。テレビやPC、スマートフォン、タブレット向けの動画配信事業に加え、2013年にはイー・モバイルのネットワークを利用したLTE対応モバイルデータ通信サービス『U-mobile(E)』でMVNO事業に参入。また、独立当初よりNTTのフレッツ光の販売代理店としても実績を積んでいる。

2015年、格安スマホは次のステージへ

 流通大手イオンが昨春発売した月額2,980円のスマートフォンは、従来価格の半額以下の維持費でスマホを所有できることから「格安スマホ」ブームの火付け役となり、追随する家電メーカー、ISPなどが続々と現れた。『日経MJ』紙が例年発表しているヒット商品番付でも「格安スマホ」が2014年上期の「横綱」を獲得するなど、通信業界にとどまらず注目を集めた1年だった。

 初期の「格安スマホ」ブームは、安価に調達可能な型落ちのスマホと3G回線を利用した「安いけど、それなり」という内容だった。もちろんそれでも、LINEとTwitterができればいいというユーザーには問題なく使えるサービスであり、「スマホは使いたいけど高い」と躊躇していた消費者の背中を押すことには成功した。

 しかし、一方で一気に過熱した「格安スマホ」ブームの中で、差別化を図るMVNOも出てきた。音声通話の品質向上に力を入れるIIJや、オリジナル・スマホの企画から販売までを計画するCCCモバイル、提携するECサイトで商品を購入すると通信料金が下がるNifMoなど、「安いだけ」というくくりから頭ひとつ抜け出そうとする動きが見え始めている。2015年は「格安」から脱却し、「選択肢」が増加する年になりそうだ。

 そうした中、動画配信事業からMVNO事業に参入したU-NEXTは、「格安」だけではない「選択肢」をどのように提供しようとしているのだろうか。

モバイル業界のLCCが目指す「通信の先にある楽しみ」

大元:『U-mobi le』サービスによって新規領域へと参入した動機は、どのよう

なものだったのでしょうか?

宇野氏:米国ではモバイル契約者の10%がMVNO利用者ですが、日本では低価格SIMの利用者はおよそ1%です。もし米国と同じ10%のレベルまで普及すると仮定すれば、日本国内でも1,400万回線程度のボリュームになることが期待できます。さらに、どうしても大手携帯3キャリアの回線でなければならないという人が10人中9人もいるだろうかと考えると、市場の可能性としてはそれ以上にあるのかもしれません。これまでは、選択肢が極端に少なかっただけなのです。

 SIMロックフリー義務化の流れに見られるように、総務省はMVNO事業者数を増加させようとしていますし、市場の盛り上がりも感じる。モバイル・ビジネスに参入するにはベストな時期だと考えました。また、フレッツ光の販売代理店として全国250社のパートナー企業の協力を仰ぎ、国内でも上位の販売実績がありますので、回線の販売力にも自信を持っていました。

大元:1,400万回線のうち、どの程度のシェアを取りたいと考えていますか?

宇野氏:できるだけ多くですね(笑)。契約数は非公開ですが、いまのところ販売は好調です。

大元:総務省の狙いどおり、MVNO事業者も多彩な顔ぶれになってきました。単に安さを競うだけでは限界がありますし、安かろう、悪かろうの競争になってしまうとMVNO市場が一過性のブームで終わってしまうリスクもありますが、御社はどのような方向性を目指していますか?

宇野氏:モバイル業界のLCC(Low CostCarrier)を目指したいという狙いがあります。ただ、LCCと言ってしまうと「格安路線」と思われるかもしれませんが、私たちはLCCの利用者の本質的な狙いを意識しています。たとえば旅行にかけられる予算が10万円だとしたら、LCCを利用して航空運賃を安くすれば、その分、旅先でホテルや料理のグレードを上げたり、エステや買い物を楽しんだり、もっと豊かな旅の思い出が作れるわけです。つまり、旅行の予算を10万円から8万円に下げるためにLCCを利用するのではなく、予算はそのままでも運賃を下げることで、もっと旅そのものにお金をかけたいと思っているのではないでしょうか。

 これを当社の戦略に当てはめると、通信費を削減できれば、インターネットにつながったその先にあるエンターテイメントをもっと楽しむことができる。MVNO事業によって通信費を抑える方法を提供することで、映像配信サービスでより豊かなコンテンツを楽しんでいただけるのです。

LTE使い放題で「安くても速い」 リアル店舗では安心感を訴求

大元:U-mobileの強み、差別化要素は何でしょうか?

宇野氏:ひとつは、映像配信サービスとの連携によってコンテンツを手軽に楽しめることです。U-mobileの契約者には、U-NEXTのビデオ・オンデマンドやブックサービスで動画や電子書籍の購入に使えるポイントを毎月600円分プレゼントしています。

 機能面では、LTEに対応していることです。これまでの格安スマホは3G対応の端末がほとんどで、「安いけど遅い」というイメージが強かったですが、当社ではNTTドコモの回線を利用したLTEをデータ容量使い放題、通信速度無制限で月額2,980円で提供し、「安くても速い」を実現しています。

大元:大手通信事業者がデータ通信従量制へと舵を切る中、LTE使い放題というのは思いきった料金プランですね。

宇野氏:音声通話時間が減り、データ通信量が右肩上がりという現状で、お客様の満足を第一に考えてプランを見直しました。ユーザーのニーズを中心に据えたMVNOだからこそできるサービスを提供したいという思いがありました。おかげさまで、昨年11月の導入以降、契約者数はそれまでの約2倍のペースで増加しています。

大元:昨年10月には路面店も出店されました。これも強みのひとつでしょうか?

宇野氏:そうですね。いまのところリアル店舗はパイロット・ショップと位置づけており、まだ1店舗だけですから、過大な契約獲得は指標にしていません。販売効率だけを考えれば、ネット販売や販売網による拡販に注力したほうが効果的です。

 リアル店舗では、お客様に安心感を感じていただくことができます。そこに行けば実際に端末を触ったり、サポートを受けられる場所があるという安心感には、購入に悩んでいたお客様の背中を押す効果があると考えています。路面店があることでメディアに取り上げていただく機会も増え、PRにもつながります。また、MNP(Mobile Number Portability:携帯電話番号ポータビリティ)の当日対応も行っており、その場ですぐに乗り換えたいというお客様のニーズにもお応えしています。

大元:格安スマホはシニア層に受けているといった話を聞きますが、U-mobile

の購入者層に特徴はありますか? 

宇野氏:店舗ではどちらかというとICTリテラシーが高いお客様が多いですが、全体としては各世代にまんべんなくご利用いただいており、普通にスマホを使うという方が多い印象です。

大元:端末とのセット販売もされていますが、売行きはいかがですか?

宇野氏:従来のように手元に余っている端末に格安S IMを挿すというよりも、最新の高性能スマートフォンとMVNOの組み合わせでメイン端末とするというお客様が増えていると感じます。さらにメイン端末を切り替えた後、それまで使っていた端末に2枚目のSIMを挿すという新たなニーズも生まれてきており、結果的に回線契約の増加にもつながるため、セット販売は当社にとって重要な施策です。

大元:ファーウェイの『Ascend G6』や『Ascend Mate7』も扱っていらっしゃいますが、採用に至った決め手は?

宇野氏:価格だけではなく、デザイン、機能のバランスが良かった点ですね。また、世界的に実績のあるブランドですし、U-NEXT向けのSTBを提供していただいた際にも、こちらが求めるスペックに柔軟に対応してもらえたという経験がありましたので、信頼感を持っていました。

固定とモバイルで広がるU-NEXTの世界

大元:U-mobileによってその先にあるU-NEXTのコンテンツへとつながれば、屋外でも家の中でもエンターテイメントを楽しめるようになりますね。

宇野氏:モバイル回線とSTBでスマホやタブレット、PC、TVをシームレスにつなげ、いつでもどこでもコンテンツを楽しめる世界を実現したいと思っています。当社のお客様にはリテラシーの高いヘビー・ユーザーから標準的なユーザーまで幅広い層の方々がいらっしゃいますから、多様なニーズに対応した楽しみ方を提案していきたいですね。

大元:そうした意味では、固定回線も重要になってきますね。先ほどフレッツ光の販売実績に触れられましたが、光固定回線の需要はすでに飽和状態に近く、単体では売りづらいのではないでしょうか。回線販売において工夫しているポイントは?

宇野氏:光回線の販売においては、利用者のライフステージの変化に着目し、ユーザーが回線を必要とする理由や時期を考えるようにしています。一例としては、賃貸住宅の大手仲介業者と提携し、引越しのタイミングで切り替えをお勧めしています。固定回線市場の総数だけに着目すると飽和しているように見えても、引越しによる切り替え需要は一定数発生するのです。こうしたマーケティング施策はとりわけ重視しています。

大元:固定回線と言えば、NTTの光回線の卸売が通信業界で注目を集めていますが、これについてはどうお考えですか?

宇野氏:先方のご意向にもよりますので現時点ではなんとも言えませんが、お客様により豊かなコンテンツを楽しんでいただくという観点からは、有望な方法のひとつですね。モバイルにせよ固定にせよ、いろいろなサービスと組み合わせることで、U-NEXTにしかできない価値を生み出していきたいと考えています。

ブームから定着へ 鍵を握るのは独自の付加価値

 昨年は多岐にわたる業種からMVNO事業者が出そろったが、今後は各社が独自の付加価値によって「格安スマホ」のイメージをどう払しょくしていくかが鍵になりそうだ。「格安スマホ」の認知度はMMDLaboの調査によれば75.1%に達しており、コンセプトは市場に十分に浸透したと言える。しかし、この「格安」というイメージが足かせとなり、「格安スマホって、安いけど遅いんでしょ、端末もダサイし」という先入観を持たれる可能性がある。「格安スマホ」の本質は、使い方に応じた適切なプランの選択肢が増え、端末の機能やデザインにも選択の幅が拡がるということだ。「安さ」だけが訴求ポイントの市場はいずれ疲弊する。「格安スマホ」から「適切な価格のスマホ」へと理解を深められるかが、今後の市場拡大を検討する上で重要となるだろう。

 また、「ユーザーとのタッチポイント」にも着目したい。アマゾンのKindleのように、すでに膨大な既存顧客を抱えている企業が、ユーザーとのタッチポイントの確保を狙って独自の端末を開発・販売する例は多い。ここでの注目は日本郵政のMVNO参入だ。報道によれば日本郵政はMVNO事業への参入を予定しており、郵貯への振り込みなどをスマホアプリで実施する計画だという。郵貯のスマホアプリをプリインストールした端末を販売すれば、アプリの利用率が増加するのは容易に想像できる。NifMoが成功すれば、ECサイトのアグリゲーターになる可能性もある。Y!MobileはYahoo!サービスの利用により通信データ容量を増加させることで、自社サービスの利用促進を行っている。スマホはユーザーと企業をつなぐラストワンマイル。こうした用途がどこまで広がるかは興味深い。

 さらに、NTT東西が提供する光回線のサービス卸「光コラボレーションモデル」が開始されれば、MVNO事業者がモバイルと固定のセット割や付加価値の高いサービスを提供する可能性も高まる。いずれにせよ、さまざまな形で「低価格」以外の「価値」を訴求することが、「ブーム」から「定着」への移行を左右することになるだろう。2015年も、引き続きMVNOが強い関心を集める年になりそうだ。

取材・文

大元隆志(ITビジネスアナリスト)

大手システム・インテグレーターで通信事業者のインフラ構築、設計、企画などに14年従事。モバイルを軸としたITのビジネス企画を得意とし、MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)アワードの審査員も務める。『ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦』など著書多数。Yahoo!ニュース、Impress IT Leaders、ZDNet、CNETなどIT系メディアで多くの記事を執筆。米国PMI認定PMP、MCPC認定シニアモバイルシステムコンサルタントの資格を持つ。