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上海テレコム

上海テレコムは、イノベーションを通じて、高密度のモジュラーIDC(Internet Data Center:インターネット・データセンター)の構築を推進している。これは、レガシーIDCインフラの潜在能力を引き出すと同時に、将来のクラウドIDCプロジェクトの指針となるものだ。2010年に開催された上海万博の中国パビリオンにほど近い場所に、上海テレコムが所有する周家渡(Zhoujiadu)ビルがある。5 階の展望台からは、有名な浦東(Pudong)スカイラインを背景に、万博会場跡地と黄浦江(Huangpu Jiang)が織りなす絶景を一望できる。4階を占める周家渡IDCは、万博会期中には上海テレコムの「コマンド・センター」としての役割を果たしたが、現在は従来型IDCから次世代クラウドIDCへとスケールアップされている。

中国のIDC市場を牽引

上海テレコムのIDCサービスの歴史は、1999年まで遡ることができる。当時の主力はホスティング・サービスとアクセス・サービスだったが、ドットコム・バブルがはじけた後も総売上高は安定した伸びを示した。

2007年にはマネージドIDCサービスの提供を開始し、ネットワーク管理、サーバー管理、データベース管理、アプリケーション管理のほか、いくつかのセキュリティー・サービスもポートフォリオに加えた。

2011年に入ると、中国の通信事業者は自社のパイプラインの価値をさらに生かすために、各社が競うようにクラウドの潮流に乗った。2011年が中国の通信業界で「クラウド・コンピューティング元年」とされるゆえんだ。上海テレコムは、まず動向をうかがうために、カスタマイズ可能なデータベース・サービス管理をはじめとするさまざまな革新的サービスを投入した。

同年1月1日、上海テレコムは数十万人のプレミアム加入者を対象に、1ユーザーあたり100GBのクラウド・ストレージ・スペースの無料提供を開始した。これにより、中国の消費者はクラウド・コンピューティングに初めて触れることになった。

さらに同年10月12日には、SME(Small and Medium-sized Enterprise:中堅・中小企業)向けのクラウド・レンタル・サービスを導入した。コスト・パフォーマンスの高さと使い勝手のよさを特長としたこのサービスは、SME顧客のITインフラ構築を容易にし、事業運営の効率化に貢献している。

上海テレコムのIDC事業の売上高は、2011年に9億人民元(約108億円※)を記録し、2012年は13億人民元(約156億円※)を見込んでいる。市場シェアの観点から見ても、中国東部のIDC市場の60%、上海市に限れば実に80%を握る同社は、同地域における市場リーダーとして誰もが認める存在である。

従来型IDCの課題

チャイナ・テレコム全体としての企業戦略、およびMONET(Metro Optical Network)光ファイバー・アクセス・イニシアティブ(上海市政府と上海テレコムの共同イニシアティブ)のもと、上海では大幅な帯域幅増強が計画されている。また、上海テレコムでは、2012年のIDC事業のフォーカスをサービス・プラットフォーム・イノベーションと付加価値製品マーケティングに置いており、いずれもIDCのマシン・ルーム、電力設備、トランスポート・ネットワーク、インターネット帯域幅に対する要求の増大につながることが予想される。

上海テレコムとファーウェイが2011年前半に開始したクラウド・ストレージ・サービス「eYun」は、中国の通信事業者の間ではこれまでに類を見ない規模の商用アプリケーションだ。展開から1年でユーザー数は20万人を超え、容量は8.7PB(ペタバイト)に達している。しかし、このサービスの結果、上海テレコムのIDC設備が持つハードウェア上の制約が表面化し、これがクラウド事業のさらなる発展を妨げる要因となっていた。

通常のIDCの電力密度は、キャビネット1台あたり3~5KWだ。それに対し、クラウドIDCはサーバー密度がはるかに高く15KWに達する。ところが、上海テレコムのIDC設備の電力密度は6KWにとどまっていた。つまり、消費電力が約4.5KWのブレード・サーバーの場合、各キャビネットに1台しか設置できないことになる。そのため、上海テレコムがクラウド事業を当初の計画通りに推進するには、データセンター・スペースの拡張が必要だった。しかし、上海の不動産価格の高騰を考えると、これは巨額の投資が必要になることを意味した。

もう1つの大きな問題は電力効率だ。というのも、従来型IDCは通常、電力の約3分の1を無駄にしているからだ。上海テレコムのIDCの場合、平均PUE(Power Usage Effectiveness:電力使用効率。データセンター全体の消費電力をIT機器の消費電力で割ったもの。値が低いほど電力効率が高い)は2だった。つまり、コンピューティングに直接関連しない設備がサーバーとほとんど同じ電力を消費していたということだ。500台のサーバーが稼働するIDCの場合、サーバーだけでも180万人民元(約2,160万円※)の電力コストがかかる。したがって、照明・冷却・損失によって消費される電力を加味すると、その約2倍もの電力コストがかかることになる。将来のクラウドIDCの規模を考えると、このレベルのOPEX(Operating Expense:運用コスト)は受け入れられない。

さらに、非常に多くのサーバー、ネットワーキング機器、ストレージ機器を運用する必要があるため、インテリジェントな統合管理も大きな問題とされていた。上海テレコムの従来のIDCは、電力環境監視システムを通じて障害アラーム・サービスのみを提供することが可能だが、これではまったく不十分であることは明らかだった。

ファーウェイと協力してIDCを刷新

上海テレコムは、CAPEX(Capital Expenditure:設備投資費)の抑制とプロセスの迅速化の観点から、新しいIDCを構築するのではなく、レガシーIDCの刷新を図ることを決定した。構築が完了した暁には「次世代クラウドIDC」として、クラウド業界にとって「ショールーム」のような存在になる。そう考えた経営上層部は、周家渡IDCの刷新を最優先プロジェクトとした。また、今後3年から5年にかけてのビジネス・ニーズを踏まえ、サーバー密度、信頼性、グリーン・オペレーションに関して設備の最新鋭化を図る意向を示した。さらに、実用的で信頼性の高いクラウド・サービスをSMEに提供するために必要な柔軟性と、中国東部の公営・民間の重要な企業顧客に対応するための技術力の実現に向けて、モジュラー設計の採用を決めた。

上海テレコムは、高密度のサーバー展開と柔軟な拡張が可能なレベルとして、PUEを2から1.6に改善することを明確な目標として掲げた。また、設備管理の改善を通じて、PUEのリアルタイム表示を可能にする計画だ。

戦略的重要性という意味で、このプロジェクトに対する上海テレコムの期待は非常に高かった。そこで、ファーウェイはとりわけ入念な事前調査に取り組んだ。ファーウェイと上海テレコムとの緊密な協力は、まず技術交換の形で始まり、やがて上海テレコムの専門家や経営層との意見交換へと発展した。このような努力が実り、コンサルティングからプランニング、詳細な提案、プロジェクト・デリバリー、購入後の保証までを網羅した、ファーウェイのワンストップ・ソリューションは信頼を獲得した。

上海テレコムとファーウェイは、周家渡IDCの現地調査に加え、事業発展計画の策定も共同で行った。そして、8つのサブシステムを再設計し、設計図と構成リストを作成した。電力分配システムには、電力変換を抑える高電圧DC電源ソリューションを採用し、電源効率の5~9%向上を達成した。冷却に関しては、閉鎖式の冷却路を採用して冷却用空気のプールを確保したほか、通路単位で調整可能な水平給気によって通気道を短縮することで、冷却効率の向上を図った。

短期間でプロジェクトを完了

周家渡IDCの刷新は、わずか2週間で完了した。キャビネット1台あたりの電力密度は11KWと、既存の建物で十分に対応できるレベルに向上した。加えて、設備のPUE値(スマート・モニタリングによる表示に対応予定)も、実際に1.6未満となる見込みだ。これは、30%の消費電力削減に相当することになる。さらに、次世代クラウドIDCソリューションとしての期待に十分応える使い勝手のよいインターフェース、容易なリモート・コントロール、柔軟なスケーラビリティーも実現した。

周家渡は、上海テレコムにとってテストケースとなるクラウドIDCであると同時に、チャイナ・テレコムとして初のモジュラー・クラウドIDC構築の試みとなる。チャイナ・テレコムはこのプロジェクトを2011年のハイライトとして高く評価しており、グループ内における上海支社のプレゼンスが高まった。チャイナ・テレコムは、クラウドIDCにおいて中国国内の競合他社をさらにリードし続けるために必要なモデルを実現したと言えるだろう。