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中国3 大インターネット企業BATのサービス

2017.08.26

中国のインターネット業界を代表する3企業、百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)。3社の頭文字を取ってBATと称され、その急成長ぶりで世界から注目を集めています。3社はそれぞれ検索エンジン(バイドゥ)、EC(アリババ)、SNS(テンセント)と異なるサービスを主力事業に成長し、いずれも中国では人々の生活に欠かせない存在です。今号のHuaWaveでは、中国のインターネット・ユーザーがBATのサービスをどのように利用して情報収集、情報共有、購買をしているのか、とくに日本との接点をクローズアップして探っていきます。

HuaWave編集部(バイドゥ、アリババ)、山谷剛史(テンセント)

インバウンドのこれからを映し出すバイドゥの訪日観光客向けサービス

百度(バイドゥ)

2000年に北京で設立。中国市場シェア約7割を占める検索エンジン『百度』を中核に、アンドロイド・アプリストア『百度応用(バイドゥ・インヨン)』、オンライン百科事典『百度百科(バイドゥ・バイク)』、地図サービス『百度地図(バイドゥ・ディトゥ)』、知識共有サイト『百度知道(バイドゥ・ジーダオ)』、旅行情報ポータルサイト『百度旅游(バイドゥ・ルーヨウ)』、旅行検索サービス『去哪儿(チュナール)』、動画配信サービス『愛奇藝(アイチーイー)』など、幅広いオンライン・サービスを手がける。2005年にNASDAQに上場。日本法人は2006年に設立され、百度の検索広告やインバウンド・マーケティングなど企業向けサービスのほか、日本語入力アプリ『Simeji (シメジ)』の開発・提供も行っている。

バイドゥ株式会社国際事業室室長 髙橋大介氏

中国で最もよく使われている検索エンジン『百度』。そこで検索されるキーワードには、中国でいま何が話題になっているのか、中国人は何に興味を持っているのかが、リアルタイムで反映されています。

「情報検索とアプリストアという、インターネットとモバイルの入り口をおさえているところがバイドゥの強みです」と語るのは、バイドゥ株式会社国際事業室室長の髙橋大介氏です。中国から日本を訪れる観光客が急増する中、彼らがどのように情報収集を行っているのか、またそこから見えてくるインバウンド市場のこれからについて、同氏にお話をうかがいました。

知的欲求が原動力

百度が提供する多岐にわたるサービスは、日本旅行の計画段階から旅行中、帰国後にいたるまで、訪日観光客の情報収集・発信のプロセスを幅広くカバーしています(図参照)。

「旅行の準備段階(①~②)で参照されることが多いのが、『百度旅游』にユーザーが投稿する旅行記です。『百度旅游』にはさまざまな旅の情報に加えて旅行記のコーナーがあり、旅先から戻ったユーザーが観光地の様子や食事、購入した商品などの写真つきで旅の思い出を詳細につづっています。百度での検索結果にもこうした旅行記が上がってくることが多く、実体験に基づいたリアルな情報として参考にされています」(髙橋氏)

旅行者の生の体験が旅行記やSNS上の投稿としてシェアされることで、日本での行き先、宿泊するホテル、どんなお店で何を買うかといった旅のイメージがより具体的になり、パッケージ・ツアーから自分の興味や目的に合わせて旅程を組み立てられる個人旅行へとシフトが進んでいます。昨年1年間にバイドゥの旅行検索サイト『去哪儿』経由で発券された日本行きの航空券は約70万件。つまり、それだけの旅行者が自ら行先を決めて旅行を手配していることになります。「とくに最近は、アニメやドラマなど“クール・ジャパン”のコンテンツに登場する地名や店名を検索し、行ってみるといった旅行が増えているようです。中国人の旅行といえば買い物と思われがちですが、実際は日本をもっと知りたい、体験したいという知的欲求が原動力になっているのです。買い物はそのついで、というケースがほとんどです」と髙橋氏は話します。

検索とSNSの循環で情報がより詳細に

ついでとはいえ、やはり買い物は欠かせません。家族や友人からのリクエストも含め、何を買って帰るかを事前に買い物リストにまとめる作業(③)では、検索のほかに商品のスペックや価格など詳細な情報がチェックできるECサイトも活用されます。「アリババの『天猫(Tモール)』『天猫国際』に出店している日本企業のサイトや、日本のアマゾンなどが情報収集に使われています」(髙橋氏)

また、人気商品を知る手段として検索ランキングも有用です。髙橋氏は「人気商品ランキングは広告的に使われることもありますが、バイドゥが提供している買い物ランキングは純粋に商品名の検索数に基づいた客観的・中立的なもので、信頼性は高いと思います」と言います。

さらに、微信などSNSでの情報シェアが盛んになったことで、買い物リストの内容がより詳細になってきているとか。「『百度』で検索されるのは、メーカー名+商品ジャンルといった大まかな情報ですが、SNSでは自分の好みや知識をみんなに知ってほしいという動機が働くので、検索で得た個別の商品に関する詳細な情報を拡散する傾向にあります。それを見た人が今度は商品名まで指定した検索をする、といった循環が見られます」と髙橋氏。SNSならではの情報発信が、得られる情報の内容にも影響しているようです。

“旅ナカ”データの活用に期待

“旅ナカ”と呼ばれる旅行中の情報収集に役立つサービスも、昨年から開始しています。そのひとつが『百度SIM』です。訪日予定の旅行者に中国国内の旅行代理店やウェブサイト上でSIMカードを販売し、訪日後すぐに使える通信環境を提供するとともに、買い物などに利用できるクーポンを抱き合わせにすることで割引額によって通信料金を実質無料にするというものです。また、今年の春節(旧正月)シーズンに合わせ、中国で人気の地図サービス『百度地図』に日本地図を追加しました。これには今後、店舗に近づいたらその店の情報を表示するといったビーコンを利用したプッシュ型広告の展開などを計画しています。

もうひとつは、企業や店舗と提携し、検索ランキング上位の商品に「百度ランキング1位」をアピールするロゴを添付する『百度クレジット』です。「まだ始まったばかりですが、店頭で購買を促す最後の一押しとして期待されています。ファッション業界の企業を中心に、多く引き合いをいただいています」(髙橋氏)

これらのサービスは開始から日が浅く、本格的な展開はこれからになると髙橋氏は言います。「クーポンやビーコン、クレジットの導入店舗から得られる購買データと、百度が持つオンラインのデータを連動させて分析すれば、いろいろな施策に発展させていけるでしょう。旅行中に日本のリアル店舗で購入した商品を帰国後にプッシュし、越境ECにつなげるなど、より精度の高いマーケティングを実現したいと考えています」

拡大を続ける越境ECをリード アリババの『天猫国際』

阿里巴巴集団(アリババグループ)

1999年に馬雲(ジャック・マー)が浙江省杭州市で設立。企業間で製品をオンライン取引できるB2B プラットフォーム『Alibaba.com』で急成長し、2003年、個人出店によるC2C ECサイト『淘宝(タオバオ)』を開設。2008年から『淘宝』内に企業が消費者向けに出店するオンライン・ショッピングモールを立ち上げ、のちにB2C ECサイト『天猫(Tモール)』として独立させる。『淘宝』『天猫』はそれぞれC2C、B2CのECサイトとして取引額、ユーザー数ともに中国最大となっている。このほか、越境ECに特化した『天猫国際』、ショッピング検索エンジン『一淘(イータオ)』、オンライン決済サービス『支付宝(アリペイ)』、共同購入サイト『聚劃算(ジュファサン)』などEC関連を中心に幅広い事業を手がける。日本法人は2008年にソフトバンクとのジョイント・ベンチャーとして設立。日本企業の『Alibaba.com』『天猫』『天猫国際』への出店をサポートしている。2014年にニューヨーク証券取引所に上場。

アリババ株式会社社長室 事業支援担当部長 赤塚保則氏

中国は日本や米国と比べてもEC(電子商取引)利用率がきわめて高い巨大なEC市場となっています。これを牽引してきたのが、『淘宝(タオバオ)』と『天猫(Tモール)』を運営するアリババです。ここ数年、中国では11月11日を「シングル・デー」と称し、独身者が1人でオンライン・ショッピングを楽しむことから転じて、オンライン・ショッピングの日として各社が一大セールを実施する習慣が定着してきました。昨年のシングル・デーには1日だけで『淘宝』『天猫』あわせてオーダー数4億6,700万件、総取引高は912億人民元(約1兆7,600億円※)にも上りました。

さらに最近注目を集めているのが、中国国内から海外の商品を購入する「海淘(ハイタオ)」=越境ECです。中でも日本は人気の購入先で、経済産業省の推計では2015年の日本から中国への越境EC取引額は8,006億円で、今後も大きく成長を続けることが見込まれています(グラフ参照)。アリババは越境ECに特化したECサイトとして2014年に『天猫国際』をスタート。個人向けの国際商取引促進のため関税率と通関手続きを緩和した「保税区制度」を活用して世界各国の企業が同サイトに出店しており、開始から2年目となった昨年の取引額は初年度から179%増加しました。

こうした勢いのある越境ECで、中国人消費者はどんな製品をどのように買い求めているのでしょうか。日本企業の『天猫国際』出店をサポートするアリババ株式会社の社長室事業支援担当部長 赤塚保則氏にうかがいました。

グローバル化が進むEC市場

中国EC最大のイベントとなるシングル・デーも、グローバル化が進んでいます。『天猫国際』設立後2度目のシングル・デーとなった昨年は、出店企業が初年度の経験を生かし入念に準備して臨めたこともあり、大きく取引額を伸ばしました。

「米国のナッツ類、ドイツやオーストラリアの大人向け粉ミルク(脱脂粉乳)、韓国の化粧品など、通常の人気製品が大幅に値下げされ、よく売れました。越境ECの場合はシングル・デーでも特別に大きな買い物をするわけではなく、普段から売れているものが爆発的に売れるという特徴があります」と赤塚氏。

越境ECにおける日本製品へのニーズは高く、とくに食品や化粧品、ベビー用品など安全性が重視される製品が購入されています。また、複数の商品をまとめたセットや福袋もお得感があり人気を集めています。最初のうちは商品の種類を絞っていた出店企業も、経験を重ねるにつれて売れ筋商品や在庫を精確に予測できるようになり、製品ラインナップを広げられるようになってきたと言います。

カスタマー・サポートの9割が購入前の問い合わせ

赤塚氏は、「市場が成熟しはじめ、越境ECでも国内ECと同様に多様なユーザーに向けたマーケティングができる段階に来ていると感じます。消費者の目も厳しくなって、出店さえすれば売れるという状況ではなくなり、中国ECユーザーの購買行動に合わせた施策が必要になっています」と語ります。

「中国ECで最も重要な要素がカスタマー・サポートです。日本のカスタマー・サポートはアフター・サービスが中心ですが、中国では購入前の問い合わせが9割を占めます。商品の機能やデザインなどについて事細かな質問がチャットで寄せられるので、サポート担当者には幅広い製品知識が求められます。また、国内の多くのEC店舗では早朝から深夜まで長時間チャットを受け付けているため、日本企業が出店する際にも同様の対応が期待されます」(赤塚氏)

サイトにはきわめて詳細な製品情報を掲載し、商品画像にはあらゆる角度から撮影した写真を使うといった工夫も必要です。とくに越境ECでは“日本品質”へのこだわりを持って厳選した買い物をするユーザーが多く、購買の判断材料としてより詳しい情報が要求されます。

「日本はサービスの水準が高いと言われますが、中国のECユーザーの期待はそれ以上と言えるでしょう。日本市場向けのECサイトに直接誘導するだけでは、こうした中国人ユーザーのニーズには応えられません。『天猫国際』には『淘宝』や『天猫』で蓄積した中国ECのノウハウがあることが強みです」(赤塚氏)

モバイル化で広がるユーザー層

農村では対面でサポートももうひとつ注目すべき動向は、ECのモバイル化です。「現在、アリババのECユーザーの7割近くがモバイルからの利用で、若い世代を中心に増加しています。同時に、これまで都市部に集中していたEC利用がモバイル化とともに地方に広がる傾向も見られています」と赤塚氏。かつては家庭や職場で高速回線を利用できる都市部のユーザーがPCからECサイトにアクセスするのが主流でしたが、スマートフォンの普及が地方にまで拡大するにつれて、新たなユーザー層が取り込まれてきました。

こうした動きに対応し、アリババは2014年から農村部に『農村淘宝サービスセンター』を開設しました。これはEC利用に不慣れな農村の住民に対し、係員がその場でサポートしながらオンライン・ショッピングやチャットでの問い合わせができるというセンターで、現在1万2,000以上の村に設置されています。

また、アリババのECサイトの決済手段として開発された『支付宝(アリペイ)』もモバイル化で急速に利用が進み、いまやユーザー数は4億人、1日の取引件数は1.2億件、利用可能な店舗は50万件と、オンライン決済だけでなくあらゆる支払いに利用されるようになりました。インバウンド需要に対応し、日本国内でも約200の店舗で導入されています。

価値ある商品を求めるフェーズに

越境ECで今後の展開が期待されるのが、医薬品の販売です。日本の医薬品は訪日観光客にも人気のカテゴリーで、ネット上で広まった「12の神薬」と呼ばれる医薬品が品切れになるほど売れたことも話題となりました。『天猫国際』でも日本のドラッグストアは人気の店舗ですが、これまでアリババは安全性を考慮した自主規制として海外の医薬品の販売を禁止してきました。しかし昨年末の規約改正で一部の医薬品販売を許可し、これまで日本に行かなければ買うことのできなかった商品が『天猫国際』で購入できるようになったのです。現在はまだ実際に医薬品を販売する店舗は少ないですが、メーカーを含めて販売体制が整えば、大きな可能性を秘めているジャンルです。

ただし、神薬のように特定の商品が突出して売れる傾向は薄れてきており、「みんなが買っているから買う」というフェーズは終わりつつあると赤塚氏は見ています。「中国の消費者は検索やランキング、SNSなどさまざまなチャネルを活用してどん欲に情報を収集し、本当に買うべき商品、価値ある商品を見極めるようになってきています。品質や価値を追求するのは日本企業の得意なところ。それを時間をかけて地道にアピールしつづけていくことが大切だと思います」

※1人民元=19.3円換算(2015年11月11日現在)

驚異的な普及率で人々の生活を変えるテンセントの『QQ』『微信』

騰訊(テンセント)

1998年に広東省深圳市で設立。1999年にインスタント・メッセンジャー『QQ』をリリース。その後ゲーム開発や販売などを手がけ、2011年より『微信』の提供を開始。このほか、タクシー配車アプリ『滴滴打車(ディディ・ダーチェ)』(2015年にアリババ傘下の『快的打車(クァイディ・ダーチェ)』と合併)や、検索エンジン『捜捜(ソウソウ)』、マイクロ・ブログ『騰訊微博(テンセント・ウェイボー)』なども提供している。2004年に香港証券取引所に上場。

山谷 剛史(やまや たけし)

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強く、統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。著書に『新しい中国人~ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)、『日本人が知らない中国インターネット市場』『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』(インプレスR&D)、『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』(星海社新書)がある。

PCの『QQ』、スマホの『微信』

テンセントは、2000年代は『QQ』を、2010年代は『微信(WeChat)』を柱に、中国人に高い支持を得ているSNSを提供しています。どちらもテキスト、音声、ビデオ対応のチャット・ツールで、それぞれ6億人以上のアクティブ・ユーザーがいますが、どちらかと言えば現在は『微信』のほうに勢いがあります。

『QQ』は中国のPCのキラーソフトとして登場したPCベースのサービスですが、微信はスマートフォン向けアプリとして登場したもので、『W h a t s A p p 』や『LINE』などと同様に登録している電話番号に紐づけて利用します。複数の人たちと情報をシェアするときには、『QQ』では第三者からも見られるブログ『QQ空間』を利用し、微信では「朋友圏」というタイムラインに投稿するか、LINEのグループのようなクローズドなグループ・チャットを使います。

2000年代には誰もがPCで『QQ』のチャットを利用しており、ハイテクが苦手な中高年層も若い世代の家族になんとか教わりながらPCを触ろうとしていました。やがてより操作が簡単なスマートフォンが普及すると、中高年層も含めさらに幅広いユーザーが『微信』を使い始め、いまでは『微信』はすっかり時代のトレンドとなりました。一般的には、軽い日常会話なら『微信』、ビジネスで討論するなら昔ながらの『QQ』という棲み分けがされています。

新サービス普及の担い手

 『QQ』や『微信』は、中国の消費者がPCやスマートフォンを導入する最大の目的となっています。そのため、『QQ』や『微信』を紐づけた新サービスは、ときには億単位で一気に普及します。上述の『QQ空間』や、『QQ遊戯』ほか『QQ』アカウントを使ったゲーム、アリババの『支付宝』に対抗する電子マネー『微信支付(WeChat Payment)』、微信で紅包(ホンバオ、お年玉)を送りあう『微信紅包』などがその例です。

QRコードのような二次元コードは当初中国では一向に利用が進みませんでしたが、2012年にテンセントが『微信』にQRコード・リーダーを採用すると1年も経たずに普及しました。店舗の店頭や広告に掲載されているQRコードをスマートフォンで読み取ると、店舗や企業の『微信』の公式ページに飛び、割引などさまざまなサービスが受けられる仕組みで、いまでは街中のいたるところで見かけます。

『微信支付』は『支付宝』と同じく、オンライン・バンキングなどによりアカウントにお金をチャージし、店頭やネット・ショップ上のQRコードにかざすだけで支払いができるほか、個人間での取引やグループへの送金も可能です。2014年の春節の時期にスタートした『微信紅包』は、グループ宛てに送った金額をメンバー間で分け合うというサービスで、瞬く間に大流行となり、今年の春節には88億件もの紅包がやりとりされました。このように、テンセントはネットの新サービス普及の担い手としてBATの中でもとりわけ大きな影響力を持っています。

『微信』のインターフェース。チャットやタイムライン投稿のほかにも、近くにいる人を友達に追加できる機能や、

端末を振ると同時に振っている人とつながったりビーコン情報を受け取れたりというシェイク機能も充実している

学校からシニア層まで誰もが『微信』で情報シェア

こうして都市部を中心に老若男女が『微信』を利用するようになった結果、いまやあらゆるコミュニケーションが『微信』に集中しています。

学校ではプリント類は一切配らず、教師からの連絡や宿題に関する質問のやりとり、授業風景や学校行事の写真の配信などが『微信』で行われるようになりました。また、親族がまるごとひとつのグループ・チャットに登録され、旅行の写真を送ったり、おすすめの製品情報をシェアしたりといった使い方も出てきています。筆者が拠点とする雲南省はインターネット利用率が全国でも最下位となっていますが、そんな地域でもシニア層を含めた家族でのグループ・チャットをよく目にするようになりました。シニア層にスマートフォンが本格普及して初めてとなる今年の春節には、メディアでも「家族群(グループ)」という単語を含むニュースが多く見られました。中国青年報社会調査中心の調査によれば、調査対象の2,000人強のうち81.9%が『微信』で家族グループを作っており、70.7%が紅包を送りあい、65.4%が『微信』によって親族の関係が強化されたと回答しています。

人を動かすコミュニケーション・ツール

現在中国で、『微信』と『QQ』は、ライバル不在のSNSです。オンライン・オフラインを問わず「役立つ」「自慢したい」と思う体験や情報があれば、すぐにそれを『微信』や『QQ』でシェアするのです。日本旅行の写真付きレポートやおすすめの日本製品の情報も、朋友圏やグループ・チャットでひんぱんに飛び交います。中国ではいわゆるステマ的なメディアの記事よりも、口コミが高く信頼されるため、『微信』や『QQ』で拡散した情報は多くの人々を動かします。コミュニケーション・ツールとして生活の中に深く入り込んでいるテンセントのサービスは、中国人の消費行動を形づくるうえで、今後も重要な役割を果たしていくと言えるでしょう。

スマートフォンでのコミュニケーションはシニア層にも広がっている