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ファーウェイにおけるCEO輪番制度の意義

2012.07.09

本文は、当社CEO(最高経営責任者)任正非が2011年度の年次報告書の巻頭で、すべてのステークホルダーにあてたメッセージを日本語訳したものです。ファーウェイではユニークなCEO輪番制度を導入しています。取締役会から選出された3名の代表者が、任期6か月のCEO職を輪番で担当します。任は、このメッセージで当 制度への自身の想いを述べています。

変化の時代を生き抜くために

われわれは目まぐるしく変化する世界に生きています。過去20年の変化は驚くほどです。中国はかつて非常に貧しい国でしたが、今や多くの自動車が走り、高速鉄道網が張りめぐらされ、都市の現代化が進み、高価な品々が流通しています。

エレクトロニクス産業の変貌はさらにめざましく、それは音声の時代から超ブロードバンドの時代に至る通信産業の発展を見れば明らかです。こうした発展は多くの人々を幸福にしてきましたが、他方ではいまだその恩恵にあずかれない人たちもいます。

私はかつて「情報通信の流れは太平洋と同じくらい膨大なものとなる」と言ったことがあります。一体それはどのようなものでしょうか。それを思い描く想像力を、われわれは幼い子供ほども持ち合わせていません。かつては目覚しい技術力を持ち、世界をリードしていたものの、その後急増する情報技術の需要に追いつけず、消え去ってしまった通信機器ベンダーが何社もあります。

ファーウェイには破綻から自らを守る不思議な力のようなものがあるでしょうか。あるいは、他社の追随よりも早く自らが成長していく力を持っているのでしょうか。

ファーウェイのCEO輪番制度

リーダーの輪番制は、別段新しいものではありません。社会の変化が比較的ゆるやかだった時代には、皇帝が数十年にわたり統治し、平和と繁栄をもたらすことが可能でした。中国では、唐、宋、明、清の各王朝時代にそうした順調な時期がありました。また、在来型産業ではかつてCEOが7~8年ごとに交代する企業があり、CEOはその業界内で好況を何度か経験しました。

ビジネス環境が目まぐるしく変化する現在、新興企業が次々と現れ、その一方、またたく間に消えていきます。ファーウェイは社会の急速な変化に十分に対応するための方法をまだ見出していません。CEO輪番制度が正しい選択かどうか、それは時間が教えてくれるでしょう。

従来型の株主資本主義では、BOD(BoardofDirectors:取締役会)が株主を代表し、資本価値の継続的・効果的な増大を目指します。BODはコーポレート・ガバナンスの一環として意思決定を下すにあたり、株主から委任された権利・責任と、資本構造の長期的安定を考え、保守的になる傾向があります。

CEOをBODの監督下に置くのは万国共通のならわしです。私が思い描く“CEO”とは、博識で、世界的な視野と広い心を持ち、技術と業界の動向を常に把握している経営者です。こうした優秀な人材の中から1人を選び出し、CEOとして長期経営を任せるのは、それができるだけの資源と特権を有する企業にとっては有効かもしれません。

しかしファーウェイは、知識とお客様からいただく評価を財産とする企業であり、技術への投資を第一としています。そのため、技術のダイナミズムと市場の変動性を考慮したうえで、当社は少人数の経営者が交代でCEOの職務を引き受けるというCEO輪番制度を採用しました。

いくつもの業務を処理し、深い洞察力を備え、正しい方向づけをするといったことを1人のCEOに期待するよりも、複数のCEOがそれを輪番で受け持つほうが効果的であると、当社は考えます。とはいえ、この場合、連帯責任という別の問題が発生します。

ファーウェイは完全社員持株制度を導入していますが、BODは株主である従業員や顧客以外の利害関係者(政府、供給業者など)の利益の最大化が最終目標ではない、と明言してきました。むしろ、お客様の利益に軸足を置き、従業員の献身を推奨する姿勢を企業価値の中核としています。なぜならば、ファーウェイの存続はそこにかかっているからです。

輪番CEOを務める資格を複数の「頭脳明晰」な人たちに与えることで、CEOは世界の絶え間ない変化にさらされながら、特定の枠内で意思決定を下せるようになります。これが当社のCEO輪番制度の利点です。

多様性と調和が成功をもたらす

以前は、1人の人間がCEOとして行動する権限を与えられ、企業の運命を左右していました。こうした慣行は中国のことわざ「成功も失敗も蕭何(しょうか)※次第」そのものです。歴史は、こうした慣行が大きなリスクを伴うことを繰り返し教えてくれます。

株主の期待に応えて毎四半期、毎年の経営成績をあげるため、CEOは多くの業務に忙殺されます。多忙を極め、企業の将来について深く研究したり考える暇もなく日々を過ごす、というのが従来の光景でした。こうした状況に置かれたCEOは、自分の思うように満足に仕事ができないことも多々あります。

ファーウェイの輪番CEOは、複数の経営者から構成されているため、彼らが多様性の中で調和を追求することにより、会社は環境の変化に機敏に対応できるようになります。

意思決定は上層リーダー集団で下されますから、頑固な1人の人間のために会社が硬直化するといったこともなく、予想外のリスクのために事業が不安定化することもありません。

輪番CEOは6か月交代で会社を指揮します。就任期間を終えて非番になったCEOは、引き続き会社の意思決定機構の中核的メンバ一としてとどまり、事業上の意思決定権と人事権を保持します。

この制度は職位の権利と義務を組織的に割り当てるものであり、輪番CEOの使命と責任を社内でローテーションするものではありません。つまり、非番になった輪番CEOはその使命と責任を他に転嫁するわけではなく、むしろ集団的意思決定に参加し、次に輪番CEOとしての当番を引き受けるときにはさらに準備万端な状態となっているのです。

こうした制度を採用すれば、中国のことわざ「どの皇帝も自分のお気に入りを集めて内閣を作る」という言葉で表されるような状況を回避できます。この輪番制度では、優秀な従業員たちが異なる輪番CEOのリーダーシップのもとで働き続けます。また、各CEOの就任期間中でも、経営幹部の任命はトップ経営陣の集団的意思決定に基づいて行われるため、不当人事を防ぐこともできます。さらに、資本上の制限とBODによる牽制のため、会社がやみくもに事業を拡大することもありません。私はCEO輪番制度こそが当社の持続的な成長を支え、成功へ導く効果的な処方と考えます。たとえ期待通りの結果が生まれなくても、新しい試みに挑戦したことに悔いはありません。

当社のCEO輪番制度に対して皆様より貴重なご意見をいただくとともに、これからも寛大に見守っていただければ幸いです。