新たな情報時代の繁栄は「ユーザー・エクスペリエンス」がカギ
情報化時代が急速に発展したこの20年、さまざまな技術革新が起こり、多種多様なアプリケーションが生まれました。現在は、デジタル化の目覚ましい進展と、モバイル・ネットワークの爆発的な普及を契機に、デジタル・コンテンツの量が急増しています。また、情報格差の縮小と同時に、ネットワーク・アクセスの障壁が減少し、世界中の人々がより自由に情報共有や通信を行えるようになりました。
この新しいデジタル時代のキーワードは、「ユーザー・エクスペリエンス(ユーザー体験)」です。ユーザーは、業界の今後の方向性を左右する極めて重要な立場にあるため、ユーザーにはモバイル・ネットワークに迅速かつ簡単にアクセスできる手段を提供する必要があります。それが業界の発展を促し、情報時代の繁栄にもつながるのです。
I. ユーザー・エクスペリエンスが業界を発展させる
今日、人々は何百万というオンライン・サービスやアプリケーションを利用可能で、24時間いつでもデジタルライフを楽しむことができます。デジタルライフの基礎となるネットワーク・インフラが、このようなユビキタス接続環境を中枢で支えていますが、ユーザー・エクスペリエンスに関わる接点はごく僅かです。ユーザー・エクスペリエンスと継続的なサービス提供に対するニーズが今後の技術発展のカギを握っているため、ユーザーに最適な体験を提供することが最重要課題となってきます。
その目的を達成するには、以下の要素が決め手となります。
スピード: 通信速度の新しい尺度「待ち時間ゼロ」
これまで、ネットワークの通信速度は何度も飛躍的な向上を遂げてきました。ダイヤルアップから家庭用光ファイバ通信サービスへと技術が急速に進歩したおかげで、わずか20年で回線容量は1000倍に達しています。しかし、これほど速いペースで進化したにもかかわらず、ユーザーはいまだに回線容量の増強を求めています。
このような回線容量への強いニーズに反して、通信速度の尺度は将来的に、サービス提供に要する回線容量からユーザーの応答待ち時間に代わることが予想されます。今後は、ユーザーの待ち時間ゼロを指針としてインターネットは発展します。
品質: 拡張現実技術に基づく動画やその他メディア形式の実現
インターネットが発展する過程で、ウェブコンテンツも単なるテキスト、画像、音声から高精細度の動画や次世代メディア形式(3D、スーパーハイビジョン、拡張現実技術)へと変容を遂げてきました。このようなダイナミックなメディア形式は今後普及が進み、eコマース、ソーシャル・ネットワーキング、ブロードキャスト・メディアなど各種アプリケーションで利用が拡大すると考えられます。
自由: いつでもどこでも簡単、迅速なインターネット・アクセス
固定回線を通じてインターネットを利用するユーザー数が20年で20億人に達したのに対し、モバイル・インターネットのユーザー数はわずか5年で10億人まで増加しました。固定回線の2倍の早さです。現在は、モバイル・インターネットとスマートフォンが普及したおかげで、ユーザーはいつでもどこでもオンラインに接続することができます。
同様に、各種のオンデマンド・サービスは今後も引き続き提供されるでしょう。特にテレビ番組のオンデマンド・サービスは、時間的な拘束がなく、今よりはるかに自由な視聴が可能となるため、需要の高まりが予想されます。このようなオンデマンド・サービス提供のカギとなるのが、時間や場所を問わずサービスやアプリケーションに容易にアクセスできるモバイル・インターネットです。
シンプル: 人間工学的に優れた機能
人間と機械の関係の歴史は、キーボードやマウスからタッチパネル、動作認識システムへと移り変わる入力手法の変遷にも見られるように、複雑な入力装置から人にとってより自然で直感的な手法への回帰を表していると言えるでしょう。将来的に、さらに人間工学の進化を重ね、発声、身振り手振り、感情表現といった自然な行動を取り入れるかたちで、ユーザー・エクスペリエンスはより高まると考えられます。
共有: コミュニティ・ベースの活動でユーザー・エクスペリエンスが向上
Googleは 検索サービスに数学的ロジックを取り入れ、膨大な情報への効率的なアクセスを実現しました。一方、Facebookは単なるツール・レベルの改良を飛び越え、人間の社会性を機能に取り入れ成功しています。インターネットの社会的側面を強化することにより、Facebookはユーザーの感情面のニーズに適度に対応し、情報共有という欲求を満たしているのです。Facebook現象から見て取れるように、今後は一般ユーザー向けサービスと企業ユーザー向けアプリケーションの両方において、ある種のコミュニティ体験を支援する機能が必要不可欠になると考えられます。
今後の通信業界は、ユーザー・エクスペリエンス向上というテーマを軸に発展します。優れたユーザー・エクスペリエンスを実現するには、速度、品質、自由さ、シンプルさの向上と、共有機能の簡便化が必要となり、また、これらは根本的な人間性を反映した要素とも言えます。
II. 通信業界の発展に影響する10のポイント
ユーザー・エクスペリエンスとネットワーク技術の進歩は、密接な関係にあります。ユーザー・エクスペリエンス追求はネットワークの発展につながり、ネットワーク技術が進歩すればユーザー・エクスペリエンスは向上するのです。そして、最先端のモバイル・ネットワークが普及して利便性が向上すると、通信業界の発展につながる新たな機会も訪れます。
この新しい機会を最大限に活かすため、通信業界は業界全体として次の10の行動指針を実行していく必要があります。
1. モバイル・ネットワークがギガビット時代に突入—いまこそユビキタスなブロードバンド・ネットワークを構築する機会
現行のモバイル・ネットワークは、回線容量不足が最大のボトルネックとなっています。固定回線ネットワークに比べ、モバイル・ネットワークのユーザー・エクスペリエンスは大きく劣っており、ギガビット・レベルのモバイル・ブロードバンド・ネットワークを構築しない限り向上は見込めません。通信事業者が提供するモバイル・ブロードバンド・サービスの質を持続的に向上させるためには、ネットワーク・アーキテクチャの革新と継続的なコスト削減が欠かせません。
2. インテリジェントな光ネットワーク保守管理を導入し、オール光の時代に対応する
通信業界では、100年以上前から人手に頼って通信用ケーブルを管理してきました。銅製のメタル線は運用効率が非常に悪く、その保守管理作業はネットワーク・メンテナンスの中でも最もコストがかかります。今後、業界全体が光アクセスへと移行を始めたとき、配線、保守、トラブルシューティング、障害復旧に関する高度な技法と光ネットワークのインテリジェントな保守管理手法の導入は、光ネットワーク展開の促進につながります。
3. 通信業界はオールIPネットワークへの移行を進め、オール・パケット段階に入る必要がある
IP技術はこの20年で未曾有の進化を遂げ、現在の通信ネットワークはTDM(時分割多重)とIP(インターネット・プロトコル)のハイブリッド環境となっています。将来的には、オールIPベースの単一ネットワークが必ず主流となるでしょう。通信業界はオールIPへの移行を推し進め、サービスの移行、ネットワークのコンバージェンスと相互接続、および運用保守の手続き変更を完了し、オール・パケット段階へと進む必要があります。
4. データの集中化とデータ・センターをベースとするネットワークの構築には、クラウド・コンピューティングを活用したITインフラが不可欠
ネットワークの主要コンテンツが音声からデータへと代わり、交換機からデータ・センターへの移行も可能となりました。こうした動きにより、ネットワーク開発分野で注目を集めている「平坦化」に新たな価値が加わっています。仮想ストレージ、分散ストレージ、クラウド・コンピューティングに基づく並列処理などの新技術は、エクサバイト規模の処理能力やストレージ能力を実現します。また、クラウド・コンピューティングを活用したITインフラは、データ集中化とデータ・センターをベースとするネットワークの構築に不可欠な要素となります。
5. オペレーション/ビジネス・サポート・システム(OSS/BSS)は、産業チェーンのオープン環境やオンデマンドの運用モデルに合わせて現代化する必要がある
通信業界の最重要課題は、コスト効率から価値の創造へとユーザーのニーズに合わせて変化し、業界のあり方も完全なクローズド・システムから完全にオープンなものへとシフトしています。通信事業者が運用するITシステムの現代化と刷新が求められているのは、ユーザーに対し価値を創造し、オープンな産業チェーンを構築する必要があるためです。このような取り組みを通じて、製品の設計から開発、市場投入、価値分配へとつながるプロセスをエンドツーエンドでサポートしなければなりません。この種のシステムでは、ユーザーができるだけ自由にシステムを制御できるように、ユーザーによるパッケージ・デザイン、パッケージや回線容量の選択を可能にする必要があります。
6. ビッグデータの分析により顧客ニーズを把握し、順応性の高い組織を構築する
オープンなインターネット時代には、ユーザーのニーズは多種多様で刻々と変化します。オールIPアーキテクチャの下、ネットワークの自動化と統計的多重化が実現しており、ネットワーク品質とサービス品質(QoS)の確かさには目を見張るものがあります。通信事業者はビッグデータの分析を進めることにより、ネットワークの状態とユーザー・ニーズの把握、順応性の高い組織の構築、ユーザー・エクスペリエンスとサービスの向上、事業機会の掘り起こしが可能となります。
7. 回復力のあるインテリジェントなネットワークを構築し、需要に応じた回線容量を実現する
ネットワークと回線容量は通信事業者の業務を支える礎であり、ネットワークはますますインテリジェント性と回復性を帯びてきています。この動きはオンデマンドのユーザー・エクスペリエンス向上に寄与するもので、ユーザーは自身のニーズに合わせて回線容量とサービスを自由に選択できるようになります。また、サービスをオンデマンドで提供することにより、ネットワークの利用を効率化してコストも削減できます。
8. デジタル・メディア・コンテンツを取り入れ、各種プラットフォームでデジタル配信チャネルを構築する
デジタル・コンテンツが普及し、ネットワークがデジタル・メディアの配信チャネルとして使われるようになると、従来のコンテンツ配信チャネルは崩壊します。今後、メディア・コンテンツ・プロバイダー業界では、デジタル・メディア・コンテンツを取り入れた上で、携帯電話、PC、テレビ、タブレットのクロスプラットフォーム環境でオンデマンドのユーザー・エクスペリエンスを実現することがトレンドとなり、戦略的に重要な機会にもなります。
9. ITサプライ・チェーンを統合し、既存のITビジネス・モデルに与えるクラウド・コンピューティングの影響を活かしてICTを変革する
クラウド・コンピューティングの登場でIT業界のビジネス・モデルは様変わりし、製品の販売からサービスの販売へと業態も移行しています。現在進行中のブロードバンド・ネットワークの普及は、クラウド・コンピューティングのサービス提供に不可欠な要素です。通信事業者は、ローカル・サービスや高品質ネットワーク、セキュリティー、信頼性といった固有の利点を活かし、ITアプリケーションと通信機能を統合すべく多大な努力を重ねています。そうして実現したエンドツーエンドのICTソリューションは中小企業でも手が届き、小規模な企業でも大企業レベルのICT機能を利用できるようになります。
10. 信頼できる情報サービスを提供し、サイバー・セキュリティーとプライバシー保護を保証する
オープンなIPネットワークとクラウド・コンピューティング・モデルの登場で、情報セキュリティーとプライバシー保護の重要性が高まりました。このため、通信事業者は、情報とプライバシーを万全に保護するセキュリティー・ソリューションを一般ユーザー、企業ユーザー両者に提供するために、基本アーキテクチャ、データ保護、アプリケーション保護、法令遵守をまとめたエンドツーエンドのセキュリティー・アーキテクチャを構築する必要があります。
情報化社会の概念は昔から喧伝されていますが、実際に情報を基盤とする社会の発展はまだ始まったばかりです。ユーザー・エクスペリエンスを追求する試みは、今後も情報サービスに変革をもたらすでしょう。通信ネットワークと通信技術の開発もこれから新しい段階へと突入します。ユーザー・エクスペリエンスとネットワーク技術向上の融合により、情報サービスの発展が強力に促され、新しいアプリケーションや技術の開発、普及も加速していきます。