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コア設備のクラウド利用で地域BWAの高度化を実現 無線と有線の融合で豊かな情報通信環境の提供を目指す

2018.01.13

株式会社愛媛CATV常務取締役 白石成人氏に聞く

2.5GHz帯の周波数を用い、地域の公共福祉のための利用を目的とした無線通信サービスを提供する地域BWA(地域広帯域移動無線アクセス)。2014年の制度改正で、それまでのWiMAX方式に加えてTD-LTEと互換性のあるAXGPおよびWiMAX R2.1AEによる高度化方式が導入されたことで、その可能性があらためて注目されています。

愛媛県松山市を拠点とするケーブルテレビ事業者、株式会社愛媛CATVは、阪神ケーブルエンジニアリング株式会社(阪神電気鉄道株式会社100%子会社。以下、HCE)の地域BWAセンターが提供するコア設備の機能をクラウド利用して、従来から行っていた地域WiMAXサービスを昨年9月にAXGP方式へと高度化しました。

ファーウェイのソリューションが支える同センターによって高度化を実現した経緯とその成果、地域BWA事業の今後の戦略について、愛媛CATV 常務取締役 白石成人氏にお話をうかがいました。

株式会社愛媛CATV

愛媛県松山市とその周辺市町(東温市、松前町、砥部町、伊予市、久万高原市、愛南町、四国中央市)をサービスエリアとし、約13万6,000世帯に放送・通信サービスを提供するケーブルテレビ事業者。自主制作の地域情報番組や多チャンネル放送、ケーブル回線を利用した高速インターネット、固定電話サービスのほか、MVNOとして携帯通信サービス『ケーブルモバイル』を提供。2016年9月には地域WiMAXサービスをAXGP方式に高度化し、下り最大110Mbpsの無線通信が可能な『イーネット・ワイヤレス』を開始した。

高度化地域BWAで安定したサービスが可能に

編集部:地域ケーブルテレビ事業者として、御社は長年にわたり地域の放送・通信インフラを支えてこられましたが、その中で無線通信事業をどのように位置づけてきたのでしょうか。

白石氏:当社はケーブルテレビサービスからスタートし、2000年からはケーブルによるインターネットサービスも手がけていますが、お客様により多様な選択肢を提供するためには無線通信にもしっかりと足場を築かなければならないと考えていました。そこで2008年に総務省が地域WiMAXの免許付与を開始した際に真っ先に申請を行い、2010年からWiMAXサービスの提供を始めました。2015年からは自治体とタッグを組んで同サービスを活用した『えひめFree Wi-Fi』を県内各地で提供しており、ケーブルテレビ事業者単体としては全国でも飛びぬけて多くのWi-Fiアクセスポイントを設置しています。

また、2014年12月には日本ケーブルテレビ連盟が主導するケーブルテレビ事業者によるMVNOサービス『ケーブルスマホ』の一環として『ケーブルモバイル』をスタートしました。こちらは同様のサービスを提供している国内の地域ケーブルテレビ事業者の中では、最も多い契約者数を獲得しています。

売上規模では無線事業が当社の事業全体に占める割合はまだわずかですが、昨年9月にWiMAXを高度化地域BWAへと移行したことで、今後は大きな成長が見込めると考えています。

地域BWA基地局(写真は愛媛大学構内に設置されたもの)を光ファイバーで屋内設備のBBUに接続し、クラウドで地域BWAセンターのコア設備を利用。屋内設備は現在、自社社屋内を含む4か所にあり、今後は各NTT局舎にBBUの設置を進める予定

編集部:地域BWAを高度化した背景についてお聞かせください。

白石氏:WiMAXは技術的な制約が多く、とりわけ当社のシステムが特殊な仕様だったこともあって、端末、基地局、センター設備の相互接続性に大きな課題がありました。ネットワーク品質も安定せず、お客様にご満足いただけるサービスを提供することが難しく、事業としては苦戦していました。しかし、制度改正によってTD-LTEと互換性のあるAXGP方式が利用可能になったことで、市販の端末を使用して安定した接続を実現できるという期待が高まったのです。

ただ、当社は基地局を自社設備として運用し、自らがMNOとしてサービスを提供することにこだわりを持っていたため、当初は適切なソリューションがなかなか見つかりませんでした。いくつかの選択肢はあったものの、そのほとんどがMVNOとしての運用を前提としていましたし、コア設備をゼロから自前で作るのは初期投資がかかりすぎます。ケーブルテレビ業界全体で共有のコア設備を構築するという案も浮上していましたが、結局は立ち行かなくなり、いったんは業界内で地域BWAの火が消えかけてしまっていました。


編集部:そうした中で、HCEの地域BWAセンターという新たな選択肢が出てきたわけですね。

白石氏:はい。月額のサブスクリプションモデルでコア設備を利用できるというお話で、これなら初期投資を抑えながら柔軟な運用ができると、すっと腑に落ちました。加えて、同センターを立ち上げ、大手通信事業者に依存せずに地域事業者として自力でサービスを展開しようという阪神電気鉄道の志にも共感しましたし、TD-LTE規格をリードしてきたファーウェイのソリューションを採用しているというのも心強かったです。さっそく大阪のセンター設備を見学し、昨年8月末には松山市内の10局、周辺の東温市、松前町の各1局の基地局を高度化した上、松山市内には新規に2局を増設し、9月からサービス提供を開始しました。


編集部:高度化によって期待どおりの効果は得られましたか。

白石氏:マイグレーションが完了したと同時に、これはいけるという手ごたえがありました。松山市内の路面電車で提供している『えひめフリーWi-Fi』は、車両-センター間の接続がWiMAXではかなり不安定だったのですが、高度化してからは移動中でも一度も途切れることなく快適に高速通信が利用できるので、お客様に自信を持ってサービスを提供できるようになりました。LTEはいったん電波をつかむと非常に伸びがよく、理論上のエリア外に出てからもしばらくはそのまま受信できるので、路面電車や、昨年12月に提供を始めた松山空港と市内を結ぶリムジンバス車内のWi-Fiなど、交通機関での利用にはとりわけ強いと感じます。

端末の確保も格段に容易になりました。現在はホームルーターとモバイルルーター、タブレットをそれぞれ1機種ずつご用意していますが、今後はラインナップを拡充していきたいと考えています。また、デュアルSIMのスマートフォンならMVNOサービスとの併用も可能なため、そうした使い方もこれからご提案していく計画です。

松山市内を走る伊予鉄道の路面電車内では、SLを復刻させた観光列車『坊ちゃん列車』を含む全40車両、運行範囲の全域で高度化地域BWAを活用した『えひめフリーWi-Fi』が利用可能。運転席に設置されたボックス内に電源やルーターなどの装置が格納されている

地域のニーズに対応するセキュアで柔軟なネットワーク

編集部:サービスの利用状況はいかがですか。

白石氏:開始当初は『えひめフリーWi-Fi』や松山秋祭りのストリーミング中継など、B2B向けを中心に展開していましたが、今年2月からは一般ユーザー向けサービス『イーネット・ワイヤレス』の提供を本格化しています。2か月無料のお試しキャンペーンを打ち、ユーザー数を順調に伸ばしてきました。

意外にも需要が高かったのが集合住宅です。これまで地理的・物理的条件により固定の光回線が引けなかった物件にも手軽にインターネット接続を導入できるということで、不動産会社や管理会社からの引き合いが増えているほか、松山市にも市営住宅への導入を検討いただいています。また道後温泉のホテルでも、従業員の方々が生活する寮で、4月から新たに入居した新入社員からのインターネットを使いたいという声に応えてサービスを導入していただいた事例があり、手軽かつ低コストで安定した高速通信が利用できるようになったとご好評をいただいています。


編集部:公共分野での活用も推進されていますね。

白石氏:地域に資するサービスを提供するというのが地域BWAの本懐ですから、公共インフラとしてさまざまな用途にお使いいただくことが重要だと考えています。松山市は早くから市の主導で光回線化を推し進め、官が主体となって有線ネットワークを整備してきました。それに対し、われわれは民間企業として地域BWAにより無線の公共ネットワークを構築することで、官民でともに包括的な通信インフラを築き上げていこうという使命感を持っています。官民共同で整備した有線・無線のネットワークを、自治体や教育機関、医療機関などにそれぞれのニーズに合わせて自由に使っていただきたいのです。

その際に高度化地域BWAが強みを発揮するのは、閉域網を構築できるということです。地域BWAセンターにおいてユーザーごとに通信の優先度(QoS)設定や閉域網の構築が容易にできるため、学校や病院、官公庁など高いセキュリティが求められる用途にも安心してご利用いただけるセキュアな専用ネットワークを提供できます。松山市内の小中学校にはすでに当社が有線の専用回線を提供していますが、これに地域BWAが加われば、教室内だけでなく校庭や体育館などより多くの場所でセキュリティを確保しながら、無線による接続が可能になります。また愛媛県は今秋、初の単独開催となる国民体育大会(愛顔つなぐえひめ国体)、全国障害者スポーツ大会(愛顔つなぐえひめ大会)を控えており、地域BWAで競技場でのネットワーク接続への需要にも対応していくほか、愛媛新聞社が県内の高校生を対象に実施している国体記者養成講座において、遠隔授業やコミュニケーションの手段として活用してもらう試みも進めています。

そのほか、自治体の業務用イントラネットや監視カメラシステム、大学病院でのナースコール向けネットワークなどの用途でも検討や実証実験が進められています。こんな使い方をしたいというアイデアをどんどん出していただき、実現できるよう、引き続きアピールしていきたいと考えています。

毎年10月に開催される松山秋祭りでは、市内各所で電柱などにスマートフォンを設置して名物の神輿を動画撮影し、地域BWAネットワークを介してストリーミング中継を実施

えひめ国体の開催に向けて、愛媛新聞社の記者経験者が講師となり、県内21校の高校生を対象に取材や写真撮影、記事の書き方などをレクチャー。遠隔での講座運用や情報共有に地域BWAを利用している

コア設備のクラウド利用ができたからこその挑戦

編集部:今後の展開についてお聞かせください。

白石氏:当社は2020年までに有線ネットワークの100%光化を計画しており、これにあわせて地域BWAも有線と同等のカバレッジにすることを目指しています。今年中に松山市内に20局、周辺市町に2局を増設し、毎年20局のペースで2020年までに96局を展開する予定です。投資の規模で言えば無線は有線の約5%程度のごくわずかな建設費で、同じだけのカバレッジを展開できます。加えて、高齢化・人口減少が進むとともに、有線の場合は回線の撤去費用という問題も生じてきますが、無線ならそうした保守コストもかかりません。無線単体で見れば売上への貢献はまだ多くありませんが、全体としては大幅にコストを増やすことなく利用者増が見込めるという点で、今後重要な役割を果たしていくと期待しています。

無線分野への参入は後発であり、MNOとしてやっていくには相当な勉強量が必要だと覚悟はしていたので、まずは地域WiMAXとMVNOで基礎体力をつけ、BWAの高度化に踏み切った際も多少の失敗はいとわないと考えていました。そうした挑戦ができたのも、月額でコア設備を利用できる地域BWAセンターがあったからこそです。実際に利用を始めてみると、きわめて安定したサービスを実現できることがわかり、これなら有線・無線の融合戦略として十分な戦力になると確信しました。BWAによって有線と無線のシナジー効果をさらに高め、地域のお客様に豊かな情報通信環境を提供していきたいと思っています。

松山市を中心とした地域BWAのカバーエリア。2020年に向けて郊外へもさらにエリアを拡大していく計画

コア設備の機能をクラウドで全国に提供
高度化地域BWAのエコシステムを構築する
阪神ケーブルエンジニアリングの地域BWAセンター

阪神電気鉄道株式会社は、コミュニケーションメディア事業としてケーブルテレビ放送やインターネット接続サービスなど情報通信分野の事業を手がけています。グループ会社のベイ・コミュニケーションズによる地域WiMAXサービスの実績、阪神ケーブルエンジニアリング(HCE)による電気通信工事やアイテック阪急阪神によるネットワークインテグレーションの知見を活かし、2015年に新たな高度化地域BWA事業を開始。HCEがファーウェイのソリューションを導入してコア・ネットワークを自前で構築し、その機能を地域BWAセンターとして、グループ会社のみならず全国の地域通信事業者にクラウドで提供しています。愛媛CATVのほか、秋田県、滋賀県、三重県、広島県、徳島県など全国各地のケーブルテレビ事業者が同センターをクラウド利用して高度化地域BWA事業を展開しています。