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インテリジェンスで進化するテレフォニカのネットワーク

モバイル・ブロードバンド・ネットワークでE2E(End to End:エンド・ツー・エンド)のQoE(Quality of Experience:ユーザー体感品質)を保証することは、多くの通信事業者にとって重要な課題だが、テレフォニカ(Telefónica)はこの点について先駆者と言える。同社のテクノロジー・ディレクターであるカエターノ・カルバジョ(Cayetano Carbajo)氏に、ネットワークの進化に関する豊富な知識に基づく見解をお話しいただいた。

Telefónica

スペインを拠点とする、同国およびラテンアメリカ諸国最大の通信事業者。世界24か国で事業を展開し、固定、モバイル、インターネット、有料TVサービスを合わせて3億人を超える顧客を持つ。

インテリジェンス要素がもたらす利点

ファーウェイ:ネットワーク運用に際し、ユーザー体感品質が大きな関心を集めています。この点についてテレフォニカが実践していることを教えていただけますか。また、今後どのようなネットワーク・インテリジェンス要素を導入していくべきだとお考えでしょうか。

カルバジョ氏:ネットワークに統合できるインテリジェンス要素は数多くあります。これらを導入すれば、通信事業者はアクセス・ネットワークへの投資よりも少ない投資で多くの利益を得ることができます。たとえば、E2E QoEの管理、顧客データのビッグ・データ・プラットフォームへの統合、クラウドと伝送ネットワーク間の連携の管理、効率的な高品質の動画配信などです。

 中でもE2E QoEの測定が重要だと考えています。QoEこそユーザーが最終的に体感するものであり、顧客満足度を左右するものです。QoEは通信の過程におけるあらゆる要素に関連しています。インターネット、アプリケーション、デバイス、通信事業者ネットワークなど、どの部分に障害が発生してもお客様のQoEに影響を与えてしまいます。QoEを測定して保証するための準備はまだ十分とは言えません。まずは新しいシステムを導入し、社内プロセスを更新して、QoE向上のための能力を高める必要があります。

 当社ではモバイル・ブロードバンド・ネットワークのためのE2E QoEプロジェクトを開始し、2G/3Gデータ通信、メール、ウェブ閲覧、ストリーミング、ファイル共有など、60を超えるQoE指標を測定しています。このシステムは、RNC(Radio Network Controller:無線ネットワーク制御局)、DNS(Domain Name System:ドメイン名システム)、OCS(Online Charging System:オンライン課金システム)、SGSN(Serving GPRS Support Nodes:加入者パケット交換ノード)などのすべてのネットワーク・ノードから、またプローブからも情報を収集する重要な仲介メカニズムを備えています。これにより、全情報が統合された形でデータベースに送信され、E2E QoE測定に必要なすべての相関を計算します。このデータはE2E QoEを保証すると同時に、ビッグ・データ運用や顧客サービスにも利用できます。また、各種デバイスの動作情報も取得することが可能です。たとえばデバイスのモデルごとにE2Eレイテンシを測定・解析し、各モデルの1日の平均パーセンタイルやQoEへの影響を割り出すことができます。

ファーウェイ:OTTプレイヤーとの競争において、技術とネットワークの観点から通信事業者が持つ強みは何でしょうか。また、これに関して通信事業者はどんなことを実践していく必要がありますか。

カルバジョ氏:通信事業者の強みは、OTTとユーザーの間に立っている点だと思います。どちらにとっても、通信事業者が提供する接続環境が不可欠です。また、お客様との関係も特有です。お客様は問題が発生すると通信事業者のカスタマー・サービス・センターに連絡し、実際に誰かが現場に出向いて対処する必要がある場合にはOTTではなく通信事業者から人材が派遣されます。通信事業者とOTTの関係を称して「コーペティション(coopetition) = 競合(competition) + 協業(cooperation)」という言葉が使われますが、これは私たちがOTTとどのようにやっていくべきかを明快に表していると言えるでしょう。通信事業者の最大の資産であるネットワークにインテリジェンスを統合することは、OTTと競合・協業していく上でも重要な点です。OTTにとって便利なインテリジェント機能を追加すれば、ネットワークはより完全な形で利用されることになり、通信事業者としても安心できます。

ファーウェイ:OTTとのコーペティションを考慮すると、通信事業者は技術とネットワーク全般に関して今後どのような戦略を立てていくべきでしょうか。SDN(Software Defined Network:ソフトウェア定義ネットワーク)はこの点で役に立ちそうでしょうか。

カルバジョ氏:これまでの経験からすると、まず柔軟性が必要だと言えるでしょう。お客様がネットワーク上でどのサービスをどのように利用することになるかは予測がつかないからです。いま利用されているサービスの多くは、5年前には想像もできなかったようなものばかりです。同様に、5年後10年後のサービスを予測するのは困難です。こうした状況で新しいサービスとその要件、さらに要求される通信容量の増大に対応するためには、高い柔軟性が必要なのです。次に、OTTの登場により技術やサービスのサイクルがここ数年で短くなっていることから、通信事業者にもサービスのTTM(Time-to-Market:市場投入までの時間)の短縮が求められています。とはいえ、やはり通信事業者ならではの信頼や信用という点も軽視できません。

 SDNはいまや流行となっており、理論的には有用であるように思われます。当社のネットワークにもSDNの利点を取り入れたいと考えてはいますが、残念ながらまだ技術として成熟しているとは言えません。当社は現在、より実用的かつ簡単な方法でデータセンターにSDNを導入しようとしています。また、多くのパートナーとの連携によりイノベーションを実現して、伝送ネットワークにできるだけ早くSDNを導入することを目指しています。

未来志向のネットワークを構築

ファーウェイ:現在、テレフォニカはM2M(Machine to Machine:マシン・ツー・マシン)に注力されていますが、ネットワーク・アクセスに対するテレフォニカの戦略を教えていただけますか。多様化するアプリケーションへの対応をどのように進めていく計画なのでしょうか。

カルバジョ氏:当社は、固定通信とモバイル通信の両者について詳細に定義された戦略を掲げています。モバイル通信については確実にLTEへ移行しており、現在LTEネットワークを展開しているところですが、これは通信容量の増加だけでなく、データ・サービスにより適した新たなアーキテクチャという点においても多くの利益をもたらすでしょう。固定通信についてはファイバーが有望であると考えており、当社の主要市場であるスペインとブラジルを含めた多くの国々でFTTH(Fiber To The Home:ファイバー・ツー・ザ・ホーム)を展開しています。

 アプリケーションと通信ネットワーク間の互換性については、通信ネットワークはアプリケーションに対して汎用性を持つことが望ましく、あらゆるアプリケーションがネットワーク上で運用できなければならないと思います。もちろん、ネットワーク容量を増大し、アプリケーション要件に適うように改善していくことが求められます。この点でM2Mのようなアプリケーションへの対応は大きな課題となります。今後数年間でトラフィックの大幅な増加が見込まれており、私たちはこれからやってくる試練に向けて準備する必要があります。

ファーウェイ:LTEにおけるバックホールの課題が増大しています。テレフォニカのバックホール構築の進捗状況についてお話しいただけますか。現在のインフラストラクチャに基づく現実的な解決策はどのようなものでしょうか。

カルバジョ氏:バックホールがLTEネットワークのボトルネックとなることは明らかです。解決策のひとつは基地局の近くにファイバーを導入することです。つまり、はじめにアグリゲーション・ネットワークを構築し、その後トラフィック量の多い基地局に直接ファイバーを設置するのです。もうひとつはマイクロ波からIPへ進化させる方法で、これにより通信容量を大幅に増加させることが可能です。また、周波数や位相同期といったLTEに必要とされる多くの機能や、異なるサイトからの伝送路のアグリゲーション方法についても考える必要があります。

 さらに、LTEではバックホールを総体的に考慮しなくてはなりません。優れた無線アクセスがあっても適切なバックホールがなかったり、優れた無線アクセスとバックホール・ネットワークがあっても無線リンクのバッファ・サイトなどの一部の機能が欠けていたりすれば、最終的なユーザー・エクスペリエンスは期待通りのものでなくなってしまい、それ以外の部分での努力が無駄になります。ファーウェイ: データ・トラフィックが増大する中で、伝送とバックボーン・レイヤーに対してテレフォニカはどのような戦略を取られていますか。現時点で優先的に取り組んでいることと、今後2~3年の計画を教えてください。カルバジョ氏:現在実施しているのは伝送ネットワークの容量をアップグレードすることです。100Gの商用展開がコスト面でようやく現実的になってきたので、当社でも導入を進めています。これによってネットワーク容量は大幅に増大します。今のところ400Gや1Tは展開していませんが、コストが下がって展開が現実的になると見込まれる5~6年後に着手する計画です。特定のリンクで限定的に100G超の適用も可能かもしれませんが、費用はまだ手ごろとは言えません。

 今後2~3年の間は、コンバージェンス実現に向けた取り組みをしていくつもりです。IPと光のコンバージェンスについてはまだはっきりと見えていませんが、特にコントロール・プレーンではマルチベンダー対応が主な条件だと思います。SDNに加え、PCE(Path Computation Element:パス計算装置)の利用が今後2~3年で進むと見込んでいます。

 考えられるもうひとつの動向として、光学デバイスをさまざまなネットワーク・ノードへ統合し、いわばDWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing:高密度波長分割多重方式)をあらゆる場所で可能にすることが挙げられます。また、光メッシュ技術も継続的に進化させていく予定で、すでにいくつかの戦略を実施しており、これまでのところネットワーク管理と冗長性の点で大きな改善が見られています。今後2~3年でこの分野を強化し、最終的には光メッシュ・ネットワークで波長競合の解消(contentionless)を実現することができると期待しています。

ファーウェイ:テレフォニカのモバイル・コア・ネットワークの構築について教えてください。パケット・コア・ネットワークをどのように進化させていく計画ですか。

カルバジョ氏:現在、容量増大に向けてコア・ネットワークを進化させる一方で、動画の最適化やアーキテクチャのシンプル化などの外部機能をパケット・コア・ネットワークに統合することも検討しています。また、コア・ネットワークはGSM、UMTS、LTEなど複数の方式に適応しなければなりません。MME(Mobility Management Entity:モビリティ管理エンティティ)やSGSNのプーリングといった冗長化も当社にとってたいへん重要ですし、以前にシグナリング・ストームによる深刻なノード輻輳を経験したことから、MMEでのシグナリング・ストーム保護機構も不可欠だと考えています。これらを一つひとつ実現し、より優れたQoEを提供することを目指しています。