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モバイル・ブロードバンド音声サービスの現状と発展

ネットワーク技術の発展により、携帯電話の音声サービスは近い将来、モバイル・ブロードバンドとの統合を前提とした音声サービスとして発展することが期待されます。ここで言うネットワーク技術の発展とは、GSM/CDMA/UMTSがLTE(Long Term Evolution)へ移行する無線技術の発展と、交換網(CS)がIMS(IP Multimedia Subsystem)へ置き換わることを意味します。

本稿では、LTE世代における音声サービスを実現する技術を概観し、今後の展開を分析するとともに、VoLTEへのスムーズな移行をサポートするファーウェイのソリューションをご紹介します。

モバイル・ブロードバンド・音声サービスにおける4つのアプローチ

ここ数年、LTE世代における音声サービスとして、次世代に相応しいサービス・グレード、既存サービスとの整合性、シームレスな移行、OPEX/CAPEXの削減、モバイル・ブロードバンド・サービスとの融合、LTEにおける制約など、さまざまな観点から多様な技術が検討されてきました。最終的には、以下に示す4つの方式が商用構成としての現実的な解となっています。

1. CSFB

1つ目のアプローチとして、CSFB(CS Fall back)が挙げられます。CSFBでは、LTEはデータサービスのみを提供し、音声サービスは引き続き交換網で実現されることとなります。データ通信のためにLTEに接続している状況から、音声サービスのために3G交換網(CS)に接続替えをする(Fallbackする)形でサービスを実現することから、CSFBと呼ばれています。

この方式は、すでに導入されているMSC(Mobile-service Switching Center)と呼ばれる交換機をCSFBに対応させるだけでサービスが実現可能であるため、既存の保有資産を最大限活用でき、IMSを含む新規開発が不要となり、早く安価にサービスを提供できるという利点があります。また、LTEが世界各国で段階的に導入されており、その時期も統一されていないこと、VoLTEによる事業者間接続の業界標準が定まっていないことを考慮すると、ローミングのユースケースにおいて、既存の音声サービスを継承するCSFBは当面、必須の技術となります。一方で、CSFBは呼処理が複雑となり電話接続手順に要する時間が長くなってしまうという短所があります。さらに、交換機の寿命の問題もあり、CSFBはIMS(VoLTE)の展開が完了するまでの過渡期の技術であるという見方が一般的です。

2. SVLTE

2つ目のアプローチは、SVLTE(Simultaneous Voice and LTE)と呼ばれる、データサービス(LTE)と交換網による音声サービスの2系統のサービスを同時に利用可能な端末を用いた実現方法です。SVLTEは技術的に完全に端末に依存しており、既存交換網への変更やIMS(VoLTE)の導入の必要がなく、導入障壁が低いというメリットがありますが、端末が高価になり電力消費量も大きくなるというデメリットがあります。2012年8月現在、CDMA 1xとLTEのSVLTE端末が、IMS(VoLTE)導入までの当座の技術としてすでに使われています。一方、GSM/UMTSとLTEのSVLTE端末はまだ実際に使われている事例はありません。

3. OTT

3つ目のアプローチは、Google Talk 、Skype、Line のようなOTT(Over The Top)サービスがLTEあるいは3G上で音声サービスを提供する方法です。OTTサービスは接続形態を選びませんが、LTEは広帯域、低遅延、常時接続(always-on)、完全IP接続を特長とすることから、OTT音声サービスを実現するために非常に適した条件を備えていると言えます。しかしながら、音声通話から得られる収益は通信事業者にとって主な収益源となっているため、OTT事業者単独によるサービスに対して、通信事業者からの積極的な支持は期待できません。

通信事業者はOTT事業者に対し、LTE上の音声通話サービスに関連して、加入者ID、標準化された相互接続、QoS保証、交換網との連携、データサービスと連携した課金モデルなどの優位性を持っています。今後、OTT事業者による音声通話サービスは特に長距離通信において伸びることが予想されますが、通信事業者による音声サービスが今後も主な通信手段であり続けることに疑いの余地はありません。

4. VoLTE

4つ目のアプローチは、IMSを基盤技術としたVoLTEです。IMSは、ネットワークへの接続方法を選ばず、さまざまなマルチメディア・サービスに対応可能なことから、オールIP時代のコア・ネットワークの標準となっています。ここ数年の努力により、IMSは成熟した技術となり、固定系サービスであるVoBB(Voice over Broadband)、PSTN(Public Switched Telephone Network)マイグレーションでも主流技術となったほか、携帯電話の世界では、3GPPやGSMAにより音声通話技術の標準として位置づけられています。

これまでに紹介したCSFBやSVLTEは、交換網によるサービスに依存しており、それぞれに制約があることはすでに述べました。これらの技術はあくまでも当座をしのぐためのものであり、次世代の音声サービスの主流にはなりえず、完全なVoLTEへの移行の前段階の技術に過ぎません。IMSを使ったVoLTEのみが、LTEの提供するQoSを使ったキャリア・グレードの音声サービスを提供できます。つまり、IMSを基盤技術としたコア・ネットワークによりVoLTEを構築することは、携帯電話業界にとって避けて通れない道であると言えます。

通信事業者にとって、VoLTEを導入することこそが、発展的なモバイル・ブロードバンド音声サービスへの道となります。これにより、通信事業者は2つのメリットを享受することができます。1つ目は、音声とデータをLTEに統合することで、無線区間の利用効率を数倍に高めることができ、結果としてネットワーク・コストを削減できます。2つ目は、IMSを用いることにより、加入者に提供可能なサービス内容を従来の音声サービスに比べて向上させることが可能となります。例えば、状況に応じてHD(高精細)の音声や、ビデオコーデックを使うことでより品質の高いサービスを提供することができます。また、CSFBやSVLTEのようなPre-VoLTEに比べて、通話接続手順に要する時間が飛躍的に短縮されます。ファーウェイが実施した試験では、VoLTEは交換網を用いた音声接続手順の半分の時間で接続を完了させられるという結果も得ています。さらに、RCS(Rich Communication Suite:リッチ・コミュニケーション・スイート)との統合により、新たな魅力的なサービスの創出が可能となります。

VoLTEへの段階的移行

第1段階:LTE部分導入時Pre-VoLTEアプリケーションの活用

LTE導入の初期段階では、LTEは、特に利用が集中するエリアに対して、データ通信カードやタブレット型PC向けのデータサービスを提供しますが、下記に示すような音声通話サービスの提供も可能になります。

◆「LTEデータ通信カード + ソフト・クライアント + PC」の組み合わせにより実現される音声サービス。特定用途の要求を満たしつつ、通信事業者は専用端末によるVoLTEに向けたノウハウを蓄積することができます。

◆「LTE CPE(Customer Premises Equipment) + 固定電話」を用いた方式によるサービス。ドイツなどの一部のヨーロッパ地域では、この方式によりブロードバンド・サービス(データサービス)と音声サービスを、固定回線の敷設が難しい地域向けに提供しています。

◆SVLTE、CSFBによるサービス。例えば北米では、VerizonがSVLTEを、AT&TがCSFBを採用し、LTE導入を推進していくことを表明しています。

第2段階:LTEサービス・エリア拡大に伴うVoLTEの導入

この段階になると、LTEサービス・エリアはかなり拡大されており、少なくとも都市部や人口密集地域においては音声・サービスが提供可能となっています。一方で、スマートフォンの大部分は、VoLTEの機能を具備するようになっています。通信事業者がIMSを基盤としたVoLTEサービスを提供できるようになるのもこの段階です。

通信事業者がVoLTEを導入するためには、多くの新しい技術を必要とし、評価や実証実験を含めて長い準備期間を要します。IMS自体も導入は容易ではありませんが、既存のMSC、加入者情報データベース、課金などを含むIT系資産の統合や更改の必要性も考慮する必要があります。これらの準備期間には、少なくとも1年程度が必要となると考えられます。

この段階においては、まだLTEによりカバーされない地域があるため、通信事業者は音声サービスの提供において、交換網のカバレッジの広さに頼らざるを得ません。LTEと交換網が相互に協調するにあたって、通信事業者は2つの技術的問題を解決する必要があります。1つは、加入者がLTE網から交換網にエリア移動した場合に、MSCにより完全に音声サービスを提供する方式、MSCがIMSと協調して音声サービスを提供する方式、あるいは、MSCをEMSC(Enhanced MSC)にアップグレードし、3GPPで標準化が進んでいるICS(IMS Centralized Service)を導入する方式の中から最適なものを選択することです。2つ目は、音声通話中あるいは呼び出し中において、LTE網からCS網に加入者が移動しても通話を継続できる技術の確立です。3GPPからは、SRVCC(Single Radio Voice Call Continuity)と呼ばれる方式により、標準化手順が提示されています。

第3段階:音声・サービスにおいてVoLTE が主流となる

この段階では、LTEによりほぼすべてのエリアがカバーされるようになり、さらにLTEとHSPA(High Speed Packet Access)のような他方式が一貫性のあるサービスを提供することが可能となり、既存交換網によるサービスを凌駕します。モバイル・ブロードバンド音声サービスは完全に主流となりますが、この段階まで到達するには多くの時間と投資が必要とされます。

導入戦略

ネットワークの簡素化

一般にIMSによる音声サービスの実現はソフトスイッチによる方式に比べてネットワーク構成が複雑になりますが、VoLTEでは、前述の通り既存交換網との連携が必要となり、さらに複雑性が増します。多くの構成装置の連携による複雑性を回避するために、ネットワーク構成を簡素化することは最優先事項となります。以下にネットワーク構成の簡素化を実現する方法を示します。

第1に取り組むべきは、共通化です。ファーウェイのSingleCOREソリューションは、多くの共通化を実現しています。SingleCOREは、交換網設備とIMSで必要とされる設備を同じハードウェア・プラットフォーム上で実現し、基盤ソフトウェアも共通化することで柔軟な機器構成を可能とし、リソース利用率の向上、保守性手順の共通化によるコスト削減を実現します。VoLTEのように複数のサービスを統合して実現するサービスにおいて、共通化は必須です。さらにファーウェイでは、SingleSDBにより加入者データの一元管理のソリューションも提供しています。

第2は、共通化されたコンポーネントを用いて、サービスを可能な限り少ない構成装置によって実現することです。例えば、ファーウェイのMSC-SはMGCF(Media Gateway Controller Function)、mAGCF(MobileAccess Gateway Control Function)、SRVCC IWF(Inter Working Function)、CSFB Proxy、IBCF(Interconnection Border Control Functions)、IM-SSF(IP Multimedia Service Switching Function)機能と統合されています(図3)。

さらに、通信事業者は複数のサービスをいくつものアクセス手段により実現するために、FMC(Fixed Mobile Convergence)の導入を検討する必要が出てきます。IMSは本来、FMCを目指した技術ですが、実際の導入にはいくつもの考慮が必要となるため、FMCを導入する場合は、初期段階よりFMCを前提とした計画を立てるのが懸命です。FMCでは複数のタイプの音声コーデック、制御信号のサポートが必要になります。さらに、現時点での大きな課題として、TAS(Telephony Application Server)のようなサービス制御機能では、VoBB、PSTN、VoLTEや各通信事業者固有のサービスなど、多岐にわたる接続方式のサービス機能を一元的に提供することが求められます。このような課題を抱える状況で、いくつかの通信事業者は既設のIMSをVoLTE向けに使えないという問題に直面し、IMS関連設備の置き換えを余儀なくされています。

既存ネットワークへの影響の最小化と柔軟な構築手法

VoLTEを導入することは、単純にIMSを導入するということではなく、コア・ネットワーク設備を刷新する必要があります。新設備を既存ネットワークに接続する作業は常に難しい課題となります。既存のMSCやHLR(Home Location Register)への影響を最小限に抑える方法を考慮し、他の機能についても並存、統合を慎重に検討することが求められます。

性急なネットワーク全体の刷新は、ライフサイクルの問題や高コストを招くため、可能な限り避けるべきです。VoLTEの初期段階においては、SRVCCやCSFBは中央集約型かつ少数のMSCによる実現を考えたほうがよいでしょう。このような状況を考慮して、既存のMSCへの機能追加が難しい場合には、MGCFやSRVCC IWF、CSFB ProxyにMSC機能を配備することをファーウェイは提案します。

加入者データベースについては、導入初期段階では、統合HLR/HSS(Home Subscriber Server)によりLTE加入者を収容し、既存交換網サービスはそのまま運用する方式を採用することをファーウェイは推奨しています。この方式を用いることにより、HLRの刷新に必要な膨大な作業を軽減することが可能となります。

魅力的なサービスの提供

すでに述べた通り、VoLTEでは高品質の音声やビデオを提供することができ、通話接続時間の短縮が実現可能ですが、これだけでは既存交換網を置き換える理由として十分ではありません。多くのアプリケーションが既存の音声サービスを超えることが求められますし、OTT事業者が提供するサービスと同等以上のサービスを提供する必要があります。RCSはすでに欧州の通信事業者により提供されており、メッセージング、写真・ビデオ共有を音声サービスと同等の位置づけで提供しつつ、インターネット系のサービスとも融合を図っています。このように、RCSは広い範囲に対する適用が期待されており、VoLTEの成功はRCSなしにはありえません。VoLTEとRCSはともにIMSを基盤とした技術であり、親和性が高いため、サービスを融合できます。通信事業者は、VoLTEと同時にRCSによるサービス提供も検討することで、さらにサービスを魅力的なものにすることが可能になります。さらにファーウェイでは、GSMA、3GPPで標準化されたサービスを拡張あるいはカスタマイズした形のRCSを提供可能です(図4)。

ここまでの説明では、RCSを提供することは通信事業者が独自にサービスを提供することのように思われるかもしれませんが、実際には、RCS API GWを用いたUNI接続を用いてサービス提供事業者との連携を実現することも可能となっています(図5)。

VoLTEの商用展開に向けて

3GPPにおけるR8/R9/R10の長期にわたる検討と、GSMAによる改善の努力により、VoLTEに関する標準化は成熟した技術となっています。これに関し、2011年には多くのトライアルや相互接続試験が実施され、さらにLTEに対応したスマートフォンが登場するなど、通信業界では大きな動きがありました。

コア・ネットワーク関連では、主なIMSソリューション提供ベンダーがVoLTEのサポートを表明しており、通信事業者とともに実証試験を実施しました。

そして、2011年5月にはIMTC(International Multimedia Telecommunication Consortium) SuperOP! 2011が開催され、業界を上げてのVoLTEの相互接続試験が米国ハワイで実施されました。ファーウェイは最も積極的に相互接続試験に貢献したベンダーとして、LTE/EPC(Evolved Packet Core)/IMS機器を提供しました。また、同年9月には、MSF(Multi Service Forum)によるマルチベンダー接続の試験も実施されました。

さらに、2011年にはメジャーな端末ベンダー各社からLTE対応のスマートフォンがリリースされ、LTEの普及に大きく貢献しました。しかし、これらはあくまでもCSFB、SVLTEに向けた端末であり、端末チップセットによるVoLTEやSRVCCへの対応は2012年から本格的に開始されます。VoLTEの商用展開は、北米、ロシア、中東、そして日本の通信事業者によって2012~2013年にスタートする見込みです。

以上のようにVoLTEへのシフトは、携帯電話業界においては必然の流れであり、今後1~2年で最も注目される技術の1つとなります。

ファーウェイは、業界トップクラスの2G/3G/LTEのソリューション提供を通じて培ったエンド・ツー・エンドのノウハウをさらに発展させ、次世代のコミュニケーションの主流となるモバイル・ブロードバンド音声サービスの発展に積極的に貢献していきます。