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ファーウェイのソリューションは、モバイル・ブロードバンド

聞き手/神尾寿:モバイルIT市場のお話を伺う前に、先の東日本大震災について少しお聞きしたいと思います。3月11日の東日本大震災はモバイルキャリアにも大きな被害をもたらしたわけですが、イー・モ

バイルの影響はいかがでしたでしょうか。

阿部基成氏:東日本大震災では、震災による直接的なダメージもそうなのですが、その後に続いた停電の影響を強く受けました。ネットワーク障害の報告は震災直後から2~3時間後から徐々に増えていくと

いう感じでした。

 直接的な被害でいいますと、東北地方を中心に878局の基地局が一時停止しました。これも主な被害の原因は停電でした。

神尾:東京はいかがでしたでしょうか。当時、私も都内におりましたが、大手キャリアでは大規模な輻輳が発生したのに対して、イー・モバイルの回線はつながっていたと記憶しているのですが。

阿部氏:ええ、東京で輻輳は起きませんでした。われわれもあとで通信記録を確認したのですが、接続率はほぼ100%成功していました。

神尾:今回の震災を教訓に、イー・モバイルの災害対策が変化する部分というのはあるのでしょうか。

阿部氏:そうですね。従来の震災対策は直接的なネットワーク故障をどう軽減するかという観点で行われていたわけですが、今回、一番被害の原因となったのが停電です。特に被災地では停電が長く続いたも

のですから、「停電対策をどうするか」を考えて対策していく必要を感じています。

具体的な取り組みとしましては、法令では停電時のバックアップ電源は約3時間となっていますが、主だった基地局を中心に一日はバックアップ電源で稼働できるようにしていきます。

 また、自然エネルギー発電を利用した基地局向け電源設備も今後導入していく予定です。

スマートフォンの“テザリング需要”の変化

神尾:モバイルIT市場、とりわけデータ通信端末市場に目を向けますと、ここ数年はイー・モバイルがモバイルWi-Fiルーターの製品化やセット販売で新市場を作り、そこに大手キャリアが参入するという図式が顕著でした。2009年から2010年でデータ通信市場全体がかなり拡大したわけですけれども、現在の市場トレンドについて、どのように見ていますでしょうか。

阿部氏:一言でいえば、「データ通信市場が一般化してきた」と言えます。われわれがデータ通信市場に本格的に取り組みはじめた4年前は、パソコンを外に持ち出すというニーズが、法人市場を中心に小さなものでした。しかし、iPod TouchなどWi-Fiでインターネットが利用できるデジタル・ガジェットは登場しはじめていた。ノンPCのモバイル通信需要をどう取り込むかを考えて、モバイルWi-Fiルーターを製品化した経緯があります。

神尾:“ノートパソコン以外”のデータ通信端末市場に、積極的にデータ通信サービスを売ろうとした。これがイー・モバイルの躍進にとって重要な一手になりました。

阿部氏:企画した当時は、iPod TouchのようなノンPCでここまでモバイルデータ通信需要が広がるかは不分明なところもありましたが、あれから4 年ほどたって「データ通信市場が一般化した」と感じています。

神尾:市場トレンドで見ますと、昨年のiPadが決定打になったかなと思うのですけれど、「いろいろな機器をWi-Fiルーターでつなげる」ことが一般化しました。この傾向は、まだまだ続くということでしょうか。

阿部氏:モバイルWi-Fiルーター市場は、今後も堅調に成長します。ただ、もうひとつのトレンドとして、Android のスマートフォンがテザリング機能を「標準的な機能」として出してくることも注目です。モバイルW i - F iルーターの機能が、次第にAndroid スマートフォンの中に包含されていく。市場そのものが(Android スマートフォンのテザリング機能に)収斂していくのかな、と思っています。

神尾:しかし、日本だけでなく海外も含めて、スマートフォンのテザリング需要というのは、まだかなりニッチではないでしょうか。ハイエンド市場では注目されていますが、使い勝手の悪さもあって、今のモバイ

ルWi-Fiルーター市場のようにカジュアル化しているとは思えません。

阿部氏:おっしゃるとおりです。今のスマートフォンのテザリング市場は一般化していない。しかし、われわれはカジュアル化の方向に持っていきたいと考えています。

 これは今後のデータ通信市場全体の「広がり」と大きく関わっています。確かに使いやすさの面で見れば、今はモバイルWi-Fiルーターの方がスマートフォンのテザリング機能より優れていますが、一方で「端末を何台も持ち歩かないといけない」という課題もあります。一般ユーザーに何台ものモバイル通信機器を持ち歩いてもらうというのは、本質的な部分での使い勝手や、毎月の料金の部分でハードルがあるとも考えています。でしたら、いつも持ち歩く“1台目のスマートフォン”で、必要な時にテザリングできた方が、より一般ユーザーにとって使いやすい。敷居が低い、と言えます。

神尾:なるほど。料金がひとつのポイントですね。

阿部氏:ええ。スマートフォンでのデータ定額と同額でテザリングもやる。ここが重要

であり、われわれの武器だと考えています。

神尾:現時点では、モバイルWi-Fiルーターよりスマートフォンのテザリング機能の方がハイエンドユーザーのニーズとなっていますが、本質的には逆なわけですね。スマートフォンのテザリング機能が“気軽なデータ通信需要”を掘り起こして市場の裾野を広げる役割であり、その上にある本格的なデータ通信需要に応えるために

モバイルWi-Fiルーターが存在する。確かにこの市場構造を「逆転」させられれば、データ通信市場はさらに拡大します。

 そう考えますと、先に投入された『Pocket WiFi S』は戦略的な商品だったといえます。

阿部氏:そのとおりです。とはいえ、テザリングを武器にしたスマートフォンは、われわれもまだ開拓中といったところです。しかし、われわれが「いつも肌身離さず持ち歩きたくなるスマートフォン」を投入できるようになったら、データ通信市場の構造を変えて、その規模も大きくできるでしょう。

神尾:端末ラインナップの構成も少しずつ変わりそうですね。

阿部氏:われわれの市場競争力という観点ですと、高速データ通信があります。現在ですと、下り最大42Mbpsの「EMOBILE G4」に対応する端末はデータカードのみですが、今後モバイルWi-Fiルーターの発売も予定しています。技術がこなれて実装しやすくなれば、高速データ通信サービスをスマートフォンに搭載してテザリング需要を喚起していく。ラインナップ全体では、モバイルWi-Fiルーターとスマートフォンが拮抗していくような形になります。

先行開発をグローバルに。

ファーウェイの魅力とは

神尾:今後、モバイルIT市場は急速に変化と拡大をしていきますが、その中で、イー・アクセスとしてファーウェイにどのような期待をされていますでしょうか。

阿部氏:ファーウェイには多くの期待をしていますが、まず端末では「日本市場にあったもの」をしっかりと作っていただきたい。特に重要なのは、日本市場に“先に”最新端末を開発・投入していただくことだと考えています。すでにP o c k e t WiFiシリーズでもやっていただいていますけれど、やはり日本市場のニーズは世界より先を行っている。ですから、日本市場向けに新しいものを積極的に投入していただき、それをグローバルに展開する。こういうビジネスモデルは日本メーカーは、なかなかできない。これが実行できるのが、グローバルメーカーであるファーウェイの強みであり、われわれキャリアから見たファーウェイの魅力であると考えています。

神尾:日本市場は先行開発に適したマーケットですが、これまでは「そこで閉じてしまう」傾向が顕著だった。特に日本メーカーは日本市場の先進性を足がかりにグローバル展開していくことを苦手としてきたわけですが、ファーウェイならそれができる、と。

阿部氏:ええ。今後は先進性とあわせてコスト競争力が重要になりますので、日本で先行開発してグローバル展開するスキームを持っていることが重要です。これができることがファーウェイらしさ、と言えるでしょう。われわれは今後も新規市場開拓に注力していきますので、そのパートナーとしてファーウェイには期待しています。

《神尾寿氏のまとめ》

■ テザリング市場の課題と大きな可能性

イー・アクセスの強みは、積極的に新市場の創出に取り組むことだ。モバイルWi-Fiルーターの市場投入とその後のノンPCとのセット販売はその好例であったが、同社はすでに「次の一手」であるスマートフォンのテザリング市場に取り組んでいる。

 現状のスマートフォンのテザリングには、使い勝手の悪さや“1台目端末”として重要な本体バッテリーをかなり消費してしまうなど利用上のデメリットも少なくない。しかし、本文で述べられているとおり、スマートフォンのテザリングには一般ユーザーのデータ通信需要の「裾野を拡大する」効果はある。また音声サービスやメールの利用も促せれば、モバイルWi-Fiルーターのみだと難しかった顧客の囲い込みも可能になるだろう。その点で、イー・アクセスがスマートフォンのテザリングを重要戦略に位置づけるのは正しい。

 モバイルIT市場全体を見据えれば、今後はスマートフォンの先にあるマルチデバイス市場を拡大しながら、データ通信の需要そのものを拡大していくことが成長において重要だ。イー・アクセスとファーウェイのパートナーシップにおける“先行的な市場開拓”には引き続き注目していきたい。

阿部 基成(あべ もとなり)

福岡県出身。2000年、イー・アクセス株式会社入社。ADSLのサービス企画を担当し、同社のホールセールビジネスの立ち上げに参画。その後、イー・アクセスの経営企画部門を担当し、2007年4月よりイー・モバイル株式会社の執行役員副社長に就任。イー・モバイル社とイー・アクセス社の統合後、現在は、サービス戦略本部本部長として、イー・モバイルのサービス・商品及びカスタマーサポートを統括する。

神尾 寿(かみお ひさし)

フリージャーナリスト/コンサルタント。専門分野は通信(モバイルIT)と自動車・交通、電子マネーなど。著書に「次世代モバイルストラテジー」などがある。複数の企業の客員研究員やアドバイザー、国際自動車 通信技術展(ATTT)企画委員長、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを務める。Web媒体や新聞、雑誌での執筆活動のほか、精力的に講演活動も行っている。