任正非とカナダ『グローブ・アンド・メール』紙とのインタビュー筆記録

2019年12月2日

中国、深圳(シンセン)

01 グローブ・アンド・メール(The Globe and Mail)記者:この度またお時間を作っていただきありがとうございます。 ご存知のように、今日は孟女史の逮捕からちょうど1年経ちました。 それで、1年前に何が起こったのかについていくつか質問をしたいと思います。カナダで起きたことの経緯についてはある程度知っていますが、中国でなにが起きているのか、そして彼女の逮捕で任CEOご自身になにが変わったのかを含めてもう少し教えていただきたいと思います。

まず孟女史はカナダで逮捕される2年前から米国への旅行を控えていたようですが、ファーウェイは、2017年から米国が調査を始めていること、そして彼女が何らかのリスクにさらされていることを知っていましたか。

任正非: 孟晩舟の事件は、米国が計画している政治活動の一部だと思います。ファーウェイは長い間米国市場から排除されてきました。米国での事業が縮小するにつれて、上層部の役員を行かせても、やることがないので、行く意味はありません。 ですので誰も行かなくなりました。

記者:それは米国での逮捕を避けることでも、米国での法的問題を避けることでもなかったということですか。

任正非:なにかを回避するためではありません。単に仕事がないから米国へ行かないだけです。数年前から米国市場を小規模の国と同じように扱っており、すべての決裁権を現地オフィスに一任しています。その理由は少額の取引しかないからです。

02 記者: 彼女がバンクーバーで逮捕された後、任CEOはどこでどのように知ったか、そして逮捕の知らせがどのような形で伝えられたのかについて少し教えてください。

任正非: 彼女が拘束されたとき、私は中国にいましたが、アルゼンチンに出発する直前でした。 会社の法務部から彼女が逮捕されたとの報告を受けましたが、なにかの誤解だと考え、まさかこれが米国が画策した排除活動の序章であることを知るよしもありませんでした。

記者: アルゼンチンに出発する予定でしたね、カナダ経由で行かれる予定でしたか。

任正非: いいえ、ドバイで乗り継ぐ予定でした。

記者: 彼女は任CEOに直接電話せずにファーウェイの法務部に電話しました。 彼女はなぜ任CEOではなく法務部に電話したのか、その理由をご存知ですか。

任正非: これは法律に絡む問題であり、彼女がまず法務部に知らせるのは当然のことでした。

記者: 孟女史の逮捕を知って法務部に何を指示したか、どのような目標を与えたか覚えていますか。

任正非: 特に何かを指示したわけではありません。法務部は私の管轄ではありませんので。とにかく弁護士を手配し、現地の法的手段でカナダと交渉するよう言っただけです。つまり法的措置を講じてこの問題の解決にあたることでした。

03 記者: 最初は、それは誤解だと、何らかの法律上の誤解から生じた問題だと思ったとおっしゃっていました。ではいつから孟女史だけでなく、ファーウェイを巻き込む大変深刻な事件になるという認識に至ったのでしょうか。

任正非: 5月16日です。米国は当社をエンティティリストに追加し、制裁に踏み切りました。 その時から、彼らは私たちを排除するための交渉の札として孟晩舟を利用していることに気付きました。

記者: つまり、昨年の12月から5月までこの事件は誤解によるものだずっと信じていたということですか。

任正非: そう考えていました。

記者: どうすればこの問題を解決できるとその時考えていたのでしょうか。

任正非: 弁護士を雇うことです。

記者: 5月以降、どのように解決しようと思ったのですか、例えばこの事件がどれほど長引くのか、具体的にどのような対策を講じるかなど考え方は変わったのでしょうか。

任正非: 5月になってから米国は最終的にはファーウェイを潰すことを念頭において行動している、そして孟晩舟の件はその序章に過ぎないと考えるようになりました。制裁が課された環境に適応するために会社の組織構造を見直し、製品開発システムを強化する必要があると感じました。まず会社が存続するためにできる限りの努力をすることにしました。これが解決策を見つけるための唯一の方法です。ですので5月以降は事業の継続性の確保のためにいくつかの方向転換があり、最大限の努力をしてきました。

04 記者: 孟女史は、カナダで逮捕される前に、米国と引き渡し条約を結んでいる他の6つの国に旅行しました。 カナダの後、彼女はメキシコとアルゼンチンにも行くことを予定していました。どちらも米国と引き渡し条約を結んでいます。なぜワシントンは彼女を逮捕する場所としてカナダを選んだのですか。ご見解を教えて下さい。

任正非: それについてはワシントンに尋ねたほうがよいでしょう。ワシントンの計画を知っていたなら、彼女はそもそもカナダにいくことはなかったでしょうし、カナダを巻き添えにし、板挟み状態にさせることもなかったでしょう。

記者:カナダでは、米国はカナダが求められれば何でもする弱い国と見なしているからと考える人がいます。 これがカナダが選ばれた理由の一部だと思いますか。

任正非: そうは思いません。カナダは素晴らしい国だと思います。カナダとアメリカは共通の祖先を持っていますが、先住民に対する考え方が異なっていたために2つの国に分かれました。個人的にはカナダ人は大変品格がある素晴らしい民族だ思います、礼儀を重んじ、ルールを守ることは弱さを示すものではありません。

記者: カナダはルールを守っていると思いますか。輸出やカナダ人が中国で受けた処遇といった観点からカナダはその結果に苦しんでいます。 これらの結果はカナダにとって公平だと思いますか。

任正非: カナダがこの事件でルールを守っているかどうかについて話しているのではなく、カナダと米国は先住民政策に違いがあり、これにおいてカナダはより優れている政策を取っているという趣旨のことを言ったと思います。

記者: 孟晩舟女史の事件でカナダは単にルールを守っていたと思いますか、それともカナダも政治的に干渉していると思いますか。

任正非: この場合、米国が明らかに政治的干渉をしていると思いますが、カナダはそのために損失を被りました。カナダはトランプに補償を求めるべきだと思います。

記者: 孟女史が逮捕された第一報を受けた会社の反応について教えてください。すぐに彼女の家族をカナダから避難させましたか。それとも逮捕後もご家族は滞在し続けたのですか。

任正非: ファーウェイは孟晩舟の家族をどうするかについては関与したことはありません。会社としてカナダで弁護士を雇い、カナダの法律に従って彼女が持つ権利を守ることに取り組んでいました。

05 記者:ファーウェイはカナダに対して報復しようと思えばできたはずですが、 敢えてそれをしませんでした。ファーウェイはカナダの電気通信会社に機器を販売しており、多くのカナダ人を雇用しています。それでも、報復するような措置を取りませんでした。何故ですか。.

任正非: まず、カナダは素晴らしい国だと信じているからです。米国が閉鎖的になっていく中、カナダはもっと開かれるべきです。門戸を開くことは、カナダに大きな機会をもたらします。たとえば、国際会議が開催される場合、一部の科学者は米国へのビザを取得できないため、参加できない場合があります。米国の代わりにカナダで開催されれば、米国の科学者も長旅せずに参加できます。世界中から科学者がカナダに集まってくると、カナダは科学技術の新しいハブとして重要な役割を担うことができます。当社はカナダを発展の拠点に選択しました。その思いはいささかも揺るぐものではありません。

第二に、カナダはAIの発祥の地であり、「AIの生みの親」と呼ばれた3人ともカナダにいます。そういう人材がいるカナダにAI分野への投資を増やしていきたいと思っています。孟晩舟事件は、当社のカナダでの戦略的成長と投資に影響を与えることはありません。

事件はいずれ過去のものになりますが、カナダという国はずっと存在します。したがって、どこの国でも事業戦略を簡単に諦めることはできません。

カナダでの最近の議論を聞きますと、カナダが引き続きファーウェイの5Gを選択すべきだという声が上がっています。ファーウェイの5Gが選ばれた場合は、カナダが高品質の5Gネットワークを構築できるように最善を尽くします。米国に近いという理由で5Gに関してカナダ市場を手放すと考えたこともありました。

しかし5Gを導入すると、カナダは酷寒地域での鉱石の無人採掘などさまざまな分野でAIソリューションを活用できます。ファーウェイは自動運転においても世界の最先端を行っています。当社が持っているこの技術を採掘設備や農業に活用することで無人農業を実現し、トラクターが24時間365日土地を耕作できるようにします。もちろんトラクターに燃料を補充する必要がありますが。AIにより、カナダは農業と鉱業の生産量が増え、人々の暮らしが大幅に向上することが期待できます。

人工知能の素晴らしい基盤を持つカナダはそれを国家戦略に据えて取り組めば、世界トップクラスになることができます。

カナダに投資すれば、AIの先人からから多くのことを学ぶことができるだけでなく、この技術を使用してカナダ社会に利益をもたらすこともできます。どの国でも簡単に諦めたくありません。何かが起きる度にその国を諦めるようになれば、世界での居場所がなくなります。

06 記者: 明らかに、ファーウェイの米国での問題は、時間の経過に伴って好転する気配はありません。前回お会いした際も、カナダの主要都市で土地を購入するなどカナダでの事業拡大について話しました。具体的にカナダで何人を増やす、どれぐらいの規模拡大になるのでしょうか。2つ目は、北米の地域本部を移転することを考えた場合、カナダにすることがありますか。

任正非: カナダの従業員数はすでに1,200人ほどに達しており、その3分の2が研究開発に従事しています。今後も引き続き投資を増やしていきます。北米地域では、米国での実績がほとんどないため、本部はメキシコのままにします。 ただし、R&Dセンターを米国からカナダに移します。

記者: いつからカナダへ移転しますか。

任正非: カナダの従業員数は徐々に増えています。2019年に、カナダの現地法人に300人増員しました。禁輸措置により、米国内の従業員とメールや電話で連絡したり、技術を利用したりすることはできません。これは米国での事業拡大を妨げているため、カナダに移管します。

記者: 研究拠点をカナダに移すという考えについては、これは大変重大な決断でしょうか。数十人を動かすだけのことか、それとも大規模な移転として捉えているのでしょうか。

任正非: 大規模な移転になると思いますが、段階を踏んで実施していくことでしょう。その理由は、米国市民または永住権所持者がカナダのファーウェイ法人に勤務する場合、エンティティリストの制裁に違反しているかどうかの問題があります。 これは、意思決定を行う際の重要な考慮事項の1つです。 カナダで働く米国市民と永住権所有者がエンティティリストの規制対象ではない場合、カナダの研究拠点は大きくなるでしょう。

エンティティリストにより、部品の供給が止められ、大学や研究機関との提携を打ち切られているために当社は大きなダメージを受けています。今後エンティティリストによって課された制限が将来緩和され、米国市民と永住権所有者がカナダの研究センターで勤務できるようになるかどうかを見極めたいと思います。 これも我々の事業拡大の重要な基盤になります。

07 記者: 過去1年を振り返ると、カナダ政府は現在、米国の国家安全保障顧問ジョン・ボルトン(John Bolton)氏が孟晩舟の逮捕を裏で画策していたと考えています。 それが真実であり、彼女の逮捕に対する圧力が米国の司法制度によるものではない場合、孟女史の引き渡しに関するカナダの行動にどのような影響を与えると思いますか。

任正非: 昨日『The Globe and Mail』の記事を読みました。これは考慮すべきではありますが、まだそれを裏付ける証拠がありません。カナダがファーウェイと米国の間に挟まれ立ち往生していることを大変残念に思います。 ただし、事件が発生している事実を変えることはできません。適切な解決策を見つけるしかないです。

カナダは素晴らしい法治国家です。娘の逮捕中のカナダ王立警察(RCMP)による明らかな違反がありましたが、だからと言ってカナダが素晴らしい国であることを否定するものではありません。RCMPの役員は法執行に関して孟晩舟の事件処理に役立つために、何が起きていたか一つ一つ重要なポイントを思い出し、明確に説明する必要があると宣誓していました。彼らは沈黙したり、記憶にないふりをするべきではありません。

ファーウェイは、この事件でカナダでの事業展開を止めておりません。この事件を解決することで、中国とカナダの関係が修復されることを期待しています。また、2国間の緊張が緩和され、これまで通り協力し合っていくことを願っています。

米国は鎖国しようとしています。カナダは両手を広げて米国から締め出された人材を受け入れるべきです。彼らは、カナダに来ればもう1つのシリコンバレーを作れると思います。いま多くの人材が米国を去り、カナダはこれらの人々への扉を開くことができます。カナダの自然環境と生活水準は、米国のそれに遜色しません。米国は間違った道を進んでいるので、カナダはそれに応じて政策を立て、米国が放棄した道を進めるべきだと思います。

そうすればカナダは米国が達成できなかったことを達成できます。カナダは、両国が良好な関係を持っているという理由だけで、盲目的に米国に従うべきではありません。カナダはさらなる成長や発展を目指すなら、アメリカの二の舞になるようなことをすべきではありません。

08 記者: 孟女史の事件の解決には、米国との和解という方法があります。実は米国の多くの事件は和解の形で収束しています。ファーウェイが米国で和解を受け入れた場合、罰金が科せられる可能性がありますが、その代わり、米国の孟女史に対する引き渡し要求を引き下げると考える法律専門家がいます。ファーウェイが和解を受け入れるという道を選択しなかったのはなぜですか。

任正非: 米国政府からこのような解決策について提案されたことはありません。当社は米国政府と話し合う用意があるので、そのメッセージを米国政府に伝えていただけますか。

記者: アメリカと解決方法を検討・模索したいと思っているということでしょうか。ファーウェイは米国との和解交渉に本当に関心があるのですか。

任正非: はい、ただし事実と証拠に基づいている必要があります。

記者: このような和解は、通常、罪を認め受け入れるということになります。その後罰金など待っているでしょうが、刑務所に入れられることはありません。これを受け入れる準備ができているのですか。

任正非: さっきも申しあげたように、すべては事実に基づいていなければなりません。当社は事実に基づいている限り、これらの問題に関する交渉を受け入れるつもりです。

記者: しかし、任CEOは米国で弁護士を抱えていますが、なぜ弁護士にこのアプローチを検討するよう提案していないのでしょうか。アメリカの検察官にこの方法を提起するように弁護士たちに指示してはいかがでしょうか。

任正非: 当社の弁護士は、法廷での訴追に対する私たちの主張を述べています。 これは交渉の一種で、誰が正しいか、誰が間違っているかを判断することを目的としています。まず第一に、ニューヨーク東部地区連邦地方裁判所は証拠を開示しなければなりません。その後、証拠に基づいて法廷で弁論することができます。 弁護士と検察官との議論は、「大声」での交渉です。 これにより、双方がまず事実を浮き彫りにすることができます。 その後、「声を落として」静かに交渉することができます。 これも交渉の一種です。

記者: しかし、今は裁判所で弁論する段階です。 「小さい声」で話し合いをするタイミングはいつになると思いますか。 どの時点で、ある種の和解に向けて具体的に検討に入るのでしょうか。

任正非: 証拠や正当な理由を見つけられなかった米国政府が声のトーンを下げた場合、私たちも声を下げることができます。 そうなれば、法廷で議論する代わりに、カフェで穏やかに話し合えます。 カフェであまりにも大声で話すと、他の客の迷惑になりますので、自然に声を落とします。その時の議論の中心は、どちらがもう一杯コーヒーを多く飲めるかということになります。補償問題です。米国が間違っていたことが判明した場合、当社は名誉棄損に対する補償を受けることになります。

記者: しかし、公平的に言うと、米国は多くの証拠を出しました。その証拠のいくつかは、孟女史、または孟女史がいくつかの銀行と行ったやりとりに関するものでした。米国検察官が言うには、彼女がSkycomとファーウェイの関係について嘘の陳述を行ったそうです。彼女は任CEOの命令に従ってそれをやっていたのですか。

任正非: 米国政府は、もしその証拠があれば、裁判所を通して提示すべきです。これまでのところ、法廷で提示された証拠はありません。ニューヨーク東部地区連邦地方裁判所は、できるだけ早く証拠を開示する必要があります。

記者: しかし、米国は宣誓供述書を公開したほか、孟氏が提供したパワーポイントのコピーも公開しました。つまり、それは正式な法的プロセスを通じて公表された証拠であり、Skycomとファーウェイとの関係について彼女が不実の証言をしていたという米国の主張を示しているものです。その不実の陳述はあなたが指示したのですか。

任正非: 私は何も命令しませんでした。ニューヨーク東部地区連邦地方裁判所は証拠を開示し、できるだけ早く聴聞会を開始すべきだと思います。

記者: Skycomがファーウェイの子会社であったにもかかわらず、両者の関係についてはファーウェイがSkycomを売却したというのはなぜですか。

任正非: この問題は裁判所に委ねたほうがよいでしょう。

09 記者: カナダで5G政策について議論が行われています。カナダの5Gに関する審議に関して、ファーウェイまたはご自身はカナダ政府と接触がありましたか。

任正非: ありません。カナダ政府とそのような話し合いはしていません。 5G機器を提供しているベンダーはファーウェイだけではありません。エリクソンも提供しています。その前にカナダが5Gを導入するかどうかという問題があります。次はエリクソンとファーウェイのどちらを選択するかです。これらの決定はすべてカナダ政府次第です。 ファーウェイが選ばれた場合、もちろん最善を尽くします。逆に選ばれていない場合でも、当社のカナダでの投資計画は変わりません。カナダへの投資を継続します。

記者: カナダ政府は、デジタル製品をテストするためのいわゆるサイバーセキュリティセンターを運営しています。これは、2010年から英国で作られたテストラボによく似ています。カナダの同機関は過去にも、ファーウェイの4Gネットワーク技術をテストしたことがありましたが、今ファーウェイの5G機器のテストを開始していますか。

任正非: 現在、カナダにサイバーセキュリティテストセンターを設立する計画はありません。ただし、カナダと英国は同盟国ですので、英国でテストされた機器を導入することができます。

10 記者: 9月にファーウェイは5G技術を他の国にライセンス供与することができると発表しました。先月の初めに、アメリカの通信会社から直接の打診はなかったと仰っていました。あれから新たな進展がありましたか。これについてファーウェイの本気度を知りたいです。ライセンスの詳細を確認できるような場所を設けましたか。もう一つはこれらの技術のライセンス価格は設定されていますか。

任正非: まず5Gライセンスについてまだ米国企業からの問い合わせはありません。第二に、当社のライセンスは包括的なものであり、制限は設けていません。これは非常に大きな決断であるため、米国企業がそれについて考える時間を必要とすることは理解できます。

記者: 5Gのライセンスの費用はいくらですか。コストは概ねどれくらいになりますか。

任正非: 決定するのが難しいです。それだけ金額が大きいということです。それが少額であれば、米国企業はとっくに決断したでしょう。

11 記者: 少し話を戻しますが、和解に関する問題についてお伺いします。カナダから孟晩舟氏を解放する方向へと導くには和解を考えていますか。

任正非: いいえ。孟晩舟は罪を犯していないので、釈放されるべきです。 ファーウェイと米国の裁判では、まず法廷で誰が正しいのか、誰が間違っているのかを明らかにする必要があります。それが明確になる前に、私たちが有罪を認め、罰金を支払うなら、贈収賄と同じではありませんか。米国政府に賄賂を提供することはできません。彼らは法廷で私たちにどのような問題があるのかを示し、世界中の人々に証拠を見せる必要があります。その後は、カフェに移動して詳細を話してもいいです。証拠がない場合、我々は簡単に妥協しません。

記者: お話から和解についてはそれほど関心を持っているようには聞こえません。

任正非: まず白か黒かをはっきりさせる必要があり、その後和解の可能性について話し合うことができます。

12 記者: もう1つ、法に関する質問をさせてください。ファーウェイは米国の地方の通信事業者に関する決定について、米国のFCCに法的異議を申し立てる準備をしているそうです。それは事実でしょうか。またファーウェイは現時点で米国で他の裁判を起こす計画がありますか。米国ではほとんどビジネスがないにもかかわらず、なぜ訴訟を起こしているのでしょうか。どう見ても御社にとってあまりメリットのあることではありませんが。

任正非: はい、 FCCを訴える予定です。これは米国憲法が私たちに与える権利です。私たちには米国の人々にサービスを提供する権利があります。ファーウェイから購入するかどうかを決めるのは、米国の通信事業者ですが、私たちは、アメリカ国民にサービスを提供する憲法上の権利を守っています。

記者: これからもアメリカを訴え続けますか。私の知る限り、これは現在進行中の6件目の訴訟だと思いますが。

任正非: これからも出てくる可能性があるでしょう。但し、これだけの訴訟を処理するために弁護士を確保できるかどうかわかりません。

13 記者: 5Gのライセンス売却について最初に言及された時、随分思い切った提案のように聞こえました。また、海外での信頼を取り戻すために企業の組織構造を見直すことがあるのかと、何度も尋ねられていると思いますが、会社を分割したり、会社の事業の一部を他国に移転したりするなどの選択肢について考えたことはありますか。企業の構造を根本的に見直すような重大な変更はありますか。

任正非: まず、当社のガバナンス自体はオープンで透明性があります。社外から人を受け入れたり、資本参加を必要としたりしません。私たちは、世界中の人々にサービスを提供していることだけで当社が責任ある企業であることを示していると思います。社外から一人または二人を招き入れるだけでは、当社の透明性を証明できません。第二に、事業を分割することは考えていません。外部資本は受け入れません。第三に、欧州で大規模な工場を建設するかどうかについては、間違いなくそうします。

14 記者: 先程、和解を検討すると述べられましたが、司法取引を受け入れるのでしょうか。

任正非: それは不可能だと思います。

記者: しかし、これは問題を早期に収束する方法です。米国の事件の90%以上は、この種の取引によって解決されています。

任正非: これは原則の問題だと思います。和解を議論する前に、事実と証拠を明らかにする必要があります。

記者: しかし、米国の多くの人々にとって、司法取引は服役を免れる方法の一つです。司法取引に応じれば、娘さんが刑務所に入らなくて済むかもしれません。それは魅力的な選択肢になりませんか。

任正非: 罪を犯していないのに、なぜ彼女は刑務所に行かなければならないのですか。カナダの司法制度は公正です。これは単に、米国が我々に妥協を迫る手段です。

記者: ファーウェイの事業や娘さんが現在置かれている状況を考えても、罪を認めて取り引きする価値があるとお考えになりませんか。

任正非: いいえ、考えていません。

15 記者: ヨーロッパでの工場建設の話についてですが、なぜヨーロッパを選んだのでしょうか。東南アジアやメキシコなどもっと人件費が安いのに、なぜヨーロッパなのでしょうか。

任正非: コストは当社の考慮事項ではなく、戦略的なニーズです。

記者: Mate 30の携帯電話には米国の技術が搭載されていないという報道があったと思います。詳しいことを教えていただけますか。御社は今年、米国のすべての技術を排除しようと懸命に努力してきたことを知っています。コンシューマー向け端末機器から米国の技術を完全に取り除くまでに、今からどれくらいかかると思いますか。

任正非: 来年には実現できるはずです。

記者: 当初は、2〜3年かかると仰っていたと思います。そうではなかったでしょうか。

任正非: 今年と来年で2年ではありませんか。

記者 : 予想より早く進んでいるのでしょうか。

任正非: そういうことではなく、2020年を過ぎれば3年になります。

16 記者: 欧州の工場計画について、率直にお伺いします。ヨーロッパでどのようなものを作ることを想定しているのですか。

任正非: 大規模な5G関連製品の生産を計画しています。その実行可能性についてはまだ検討中です。

17 記者: この1年はファーウェイにとっても、そして任CEOご自身にとっても特別な1年だったと思います。ご自身は、外部とのコミュニケーションにおける役割が大きく変わりました。過去1年間でファーウェイの政府および広報活動の重点がどのように変化しましたか。こうした活動に会社がどれだけの経費を費やしているのかご存知ですか。こうした取り組みは会社にとって以前よりかなり重要になったのではないでしょうか。

任正非: まず第一にいま会社は危機に直面しています。私も率先して行動しなければなりませんでした。これまで当社の広報部門は世界中の利害関係者との関わりに多大な努力をしてきており、世界中のお客様やその他の利害関係者の理解を深めることに努めていました。

私たちを理解していない国については、広報活動を断念しています。一方、私たちに理解を示している人のために、たくさん投入して彼らとの関係強化に力を入れています。一部の国で縮小した広報費を他国の広報に使っているため、総予算はそれほど増えていません。

18 記者: 過去1年間の出来事を考えると、ファーウェイが世界中でどのように信頼を取り戻すか、または新たに築くかについて見守っている人が多くいると思いますが、信頼問題を信頼の赤字に例えた場合、信頼の赤字は単にファーウェイだけの問題なのか、それとも中国の問題もしくは中国企業の問題なのでしょうか。

任正非: この1年、私たちは信頼の赤字を抱えているとは思いません。代わりに多くの信頼を獲得しました。なぜなら、米国のような超大国は無料で私たちのために世界中で広告しているからです。

過去には、ファーウェイの製品が本当によいのかと疑っている国もありました。しかし、ファーウェイに対する米国の排除活動は、彼らの疑念を払拭して、ファーウェイがすごい会社であることを気付かせたので、彼らは私たちをより信頼するようになりました。

今年、ファーウェイを訪れる人数が69%も増加しました。生産ラインを訪れ、新製品が米国の部品を使っていないことを知り、その製品を持ち帰ってテストするお客様がいます。その結果、パフォーマンスが非常に優れているため、彼らはいっそうファーウェイに厚い信頼を寄せています。ですので信頼赤字など存在しません。

また、彼らが当社のキャンパスを訪れたとき、社員送迎用シャトルバスがたくさん走っていること、また、あちらこちらにある社員食堂がいつも満員で大繁盛していること、従業員はまだ肉料理を買う余裕があることを目にして安心したと思います。もちろん生産ラインは年中無休で稼働しています。これは彼らの当社への信頼をさらに強固なものにしました。

したがって、信頼の赤字などはありません。お客様は逆に私たちが信頼に値する企業であることを改めて認識したと思います。

エンティティリストに追加されたとき、今年の業績が低下する可能性があると予測しました。しかし、これまでのところ、会社は力強い成長を維持しています。これは、私たちが信頼の赤字を被っていないという事実の証です。

19 記者: 今年のファーウェイは勢いよく成長を遂げていますが、主に中国国内事業の好調によるものですか。この好業績は国が所有する通信企業からファーウェイへの補助金によって支えられているのではないでしょうか。

任正非: ネットワーク機器事業の成長は主に海外市場が牽引しているため、海外のお客様への出荷を優先して確保しています。一方、スマートフォン事業では、海外では減少しましたが、国内では拡大しています。

20 記者: 先程ファーウェイの社員が欧州での工場建設はまだ実現可能性の検討段階にあると指摘しましたが、ヨーロッパに大規模な工場を移した場合、ファーウェイにとっての利点は何ですか。なにかの問題解決に役立つものでしょうか。

任正非: 将来の工場に完全にAIを導入する予定です。したがって、これらの工場には、ヨーロッパの福祉国家が抱えている一般的な問題や、欧州企業の労働組合が抱える問題はありません。コストは少し高くなるかもしれませんが、欧州からの信頼が深まると同時に、現地に多くの税収と雇用をもたらすことができます。これにより、欧州諸国との協力関係もさらに緊密なものになると思います。

21 記者: ファーウェイの「インテリジェントな監視サービス」事業が大きくなりつつあります。今ファーウェイは、こうした自社の設備を使ったスパイ活動している可能性があると米国から非難されています。ファーウェイはなぜ監視ビジネスにこれほど大規模な参入を図ろうとしているのですか。御社のこの分野の責任者である段 愛国(ドゥアン・アイグゥオ)氏は、ファーウェイがこの分野でナンバーワンになりたいと言っています。

任正非: 世界はいずれクラウド社会、インテリジェントな世界に変わっていきます。これには巨大な情報ネットワークが必要になります。米国はまた、クラウド社会への参入機会を狙っています。既存の通信ネットワークは、将来的にクラウドベースのネットワークになります。クラウド化の世界は、私たちが想像するよりもはるかにオープンになります。スマートシティはまだその第一歩に過ぎません。

22 記者: ファーウェイのグローバルサイバーセキュリティおよび個人情報保護最高責任者であるジョン・サフォーク(John Suffolk)氏は英国でファーウェイと新疆公安局とのパートナーシップについて尋ねられたことがありました。ファーウェイはその技術の販売先という点で道徳的責任を感じているかという質問に対し、彼は、ファーウェイが法的責任を感じていると答えました。御社が開発したこれらの技術の多くは、政府に利用される可能性があり、人々の自由に深刻な影響を与えます。ファーウェイは自社製品の販売対象を評価する道徳的義務があるとお考えですか。

任正非: 最近『グローブ・アンド・メール』の新疆問題に関する記事を読みました。この問題について詳しく調査していいと思います。中東問題に対する米国の解決策と新疆に対する中国の解決策のどちらが良策だと思いますか。近年、新疆ウイグル自治区は安定して来ており、重大な社会的事件や刑事事件は発生していません。新疆ウイグル自治区の経済も成長しています。社会が豊かになり、かつ適切に分配されると、紛争が次第に沈静化するでしょう。米国は、中東の安定、経済の発展にもっと力を入れ、地域の人々を貧困から救い出すのを助けるべきです。そうすれば米国は道徳的に優位な立場にあります。

記者: 今のアメリカがこの面では道徳的に優位な立場にないという意味でしょうか。

任正非: 米国は、正しく行動すれば、いつでも道徳的に優れた立場にあるのです。たとえば、数十年前に米国は安定した国際システムを確立することで世界に貢献し、世界の平和と発展の維持に寄与してきました。その見返りとして、世界中の国々が事実上の国際通貨としての米ドルの地位を認めています。しかし、米国は自ら確立した国際秩序を自らの手で破壊しています。元通りの米国になれば、その地位を取り戻すことができます。

23 記者: 任CEOはアメリカへの憧れについてよく話していました。任CEOのお気に入りのコーヒーはアメリカーノだということをスタッフから聞きました。また『スタートレック』の映画が好きで、もちろんアメリカに旅行もされました。また、米国がエベレストの頂上にあり、中国がその麓にあるとおっしゃっていました。テクノロジーにおいても、経済においても米国の支配的地位の終焉をご存命中に目の当たりにする可能性があると思いますか。

任正非: アメリカは素晴らしい国だと思います。かつて米国下院議員ニュート・ギングリッチ(Newt Gingrich)氏は、ファーウェイの強みを認めてくれましたが、5Gを除いて米国はまだ殆どの分野でまだ世界トップクラスではないですか。

しかし、5G分野における米国の貢献も無視できないと思います。4G開発の初期段階で、米国のコンピューターエンジニアがWiMAX標準を提案しました。若い彼らは革新に大胆で、多くの新しいアイデアを提案しましたが、若すぎることもあって通信業界の専門知識に欠けていました。

通信業界はグローバルなネットワークカバレッジを提供し、ネットワークをエンドツーエンドで処理する必要があるため、非常に複雑です。ITUによって策定された世界的な通信規格書類のボリュームはおそらくこの部屋の何倍もあるでしょう。こうした膨大な標準を理解するには多くの時間がかかります。通信業界の研究者は年長者が多く、考え方は比較的保守的です。 WiMAXで採用されている多くのコアテクノロジーは、容量を大幅に増やすことができるMIMO技術などで、LTE業界に大きな影響を与えました。電気通信分野の研究者は、WiMAXからの多くの新しいアイデアをLTE技術の理論に取り入れました。これらの技術革新は、世界中の数十万人の通信専門家やエンジニアの努力と、業界が長年にわたり蓄積してきた強力な技術基盤により実現されたものです。

より広い帯域幅、より多くのアンテナ、複数世代横断の技術の統合を可能にする技術など、多くの5G技術はWiMAXに触発されました。ファーウェイと米国企業との5G競争において、ファーウェイは独自の技術の優位性があるからではなく、多くの国の素晴らしい発想からインスピレーションを得て、3GPPの理想の実現に寄与できたのです。そのため、ファーウェイはその発明と技術を世界と共有しています。ファーウェイは、エリクソンとノキアと多くのクロスライセンス契約を結んでおり、アップルとクアルコムとも特許ライセンス契約を締結しています。ファーウェイは技術を独占していません。

米国は今でも素晴らしい国であることに変わりありません。ロス米国商務長官はインドで、米国は2、3年あればファーウェイを抜くと述べました。私は彼が言ったことを信じていますが、社会のさらなる発展のためにそれほど長く待つことはできません。

24 記者: ファーウェイの道徳的責任、または任CEOから見るファーウェイの道徳的責任に関する私の質問に戻ります。 グローブ・アンド・メールを読んで下さって大変嬉しく思います。しかし、新疆問題だけでなく、ファーウェイ従業員がアフリカ政府の野党政治家へのスパイ行為、ハッキング行為などの活動を支援したとして非難されました。従業員のこうした行動を受け入れているのでしょうか。それともこのような活動に関わることを規制する義務があると思いますか。

任正非: ファーウェイがアフリカ政府のサイバーセキュリティチームに関与したという報道記事には、虚偽の内容が含まれており、ウォールストリートジャーナルに弁護士より抗議の書簡を送付しました。また、リトアニアの裁判所は、アフリカ連合に対するいわゆるスパイ活動に関するLrytas UABの報告書には、ファーウェイに関する虚偽の記述が含まれていると裁定しました。

当社はさまざまな国にトラックを販売するトラックメーカーのような企業です。トラックでなにを運ぶかは、私たちではなく、運転手が決めます。国としてどうであるべきか、そして設備の管理方法は、その国が決めることです。

記者: しかし人工知能のように、ファーウェイが開発している技術の一部は、社会を変える力、世界中の経済のあり方を変える力を持っています。御社は単に道路を走り、簡単な機能しか備えていないトラックのようなものを作っているわけではなく、人工知能やスマート監視、スマートシティなど社会の根本的な機能を変える可能性のある技術を開発しているのです。これらの技術の開発と販売がどうであるべきかを深く考える責任はありませんか。

任正非: AIは武器ではありません。当社は、すべての国のデータ主権を尊重します。当社は事業を展開する各国および地域の法律、ならびに国際法を遵守しなければなりません。これをもとに社会のために新しいテクノロジーの開発に取り組んでいます。当社の新しい技術の導入に否定的な国があれば、その国の市場に参入しません。新しいテクノロジーの開発・導入が進んでいる段階で、その新しいテクノロジーに不利な環境を作りたくはありません。

記者: AIの話以外にも、任CEOの経歴も興味深いものがあります。会社を立ち上げたばかりのとき、中国はまだ計画経済の要素がたくさん残っていましたが、任CEOは計画経済の運営方法や利益を追求しない経営について批判的でした。その計画経済から脱却して市場経済の仕組みを取り入れたことにより経営を軌道に乗せました。AIは将来、再び計画経済の要素の一部を復権させるような強力な機能を持ち合わせていると思いますか。 AIがそのような影響を与えると思いますか。

任正非: まず市場競争というマクロ環境は必要です。競争こそユーザーに利益をもたらし、企業を成長させる原動力です。企業内で計画を立てることは、品質の向上、コストの削減、リソースの無駄の削減に役立ち、競争を促します。先ほどご指摘の計画経済については、それは企業の社内業務の計画性ではないかと思います。

25 記者: 孟晩舟女史に関連した質問をいくつかさせてください。 彼女がどんな気持ちでこの1年間を過ごしてきたと思いますか。 苦しんでいるように感じていますか、それともいつも通りの暮らしをしているのでしょうか。彼女がカナダにあとどのくらい留まることになるかについて彼女と話していますか。

任正非: 親として子供がいなくて寂しいです。娘も自分の子どもたちに会えなくて寂しがっているはずです。 これは彼女の人生に大きな影を落としています。彼女の母親と夫は交代でカナダに行ってそばにいてあげたり、子供たちも休暇中に彼女に会いに行ったりしています。彼女は心を強く持つために勉強したり絵を描いたりしているようです。訴訟のすべての詳細は弁護士に一任しています。

カナダには、公正透明な法制度があると信じています。彼女の事件の詳細がすべて公開されれば法律の透明性が証明されます。裁判所の判断を待つだけです。

26 記者: 彼女が今朝WeChatに投稿した文章をお読みになったと思いますが、彼女は、過去1年間の自分がどんな気持ちで過ごしてきたかを綴り、そして今後も不確実性に直面する覚悟ができているという気持ちを明らかにしました。彼女の役割についてご自分の後継者として期待していないと過去に言及されましたが、彼女がカナダでの経験や過ごした時間、得たものを考えると、彼女の人間性や将来会社での役割について見直すことを考えていませんか。

任正非: タイトルだけ見ましたが、中身は読んでいません。生活や仕事に追われ、毎日頑張っている人たちに自分の気持ちに共感してもらおうとすることは少し思慮が足りないと思います。みんなは彼女の気持ちを汲み取ってあげる時間はないかもしれません。歴史を通して見ると、ヒーローは試練から生まれることが多いのです。彼女の辛い経験はきっと彼女を強くしています。この経験は彼女の人生において大きな価値があります。

ファーウェイのようなテクノロジー企業のリーダーになるには、戦略的な深い観察眼が必要です。次の10年、20年、またはそれ以上の遠い未来を見通す力が不可欠であり、社会や企業がどこに向かっていくのかを見極める必要があります。したがって、洞察力のない人がこの会社の舵取りをするのは困難です。ファーウェイのようなテクノロジー企業の場合、リーダーはテクノロジーを深く理解し、精通する能力が求められます。孟晩舟は戻ってからも強くなったCFOとして活躍してもらいます。

ファーウェイのこれからの道のりは決して平坦ではなく、大きな挫折や破綻リスクを伴う茨の道が待っているかもしれません。しかし、これらの困難を経験した彼女だからこそできることがあると思います。それは将来直面するかもしれない艱難辛苦を乗り越える過程で私達の大きな支えになってくれると思います。世界には成功し続ける企業はありません。 『ファーウェイ、冬はかならずやってくる』という本に書かれたようにファーウェイはずっと安泰ということはありえません。私は災害は大事な資産でもあると思います。ファーウェイは今年は一連の災難に見舞われたにもかかわらず大きな進歩を遂げており、そのためにリスク耐性が高まったかもしれません。

カナダの「AIの生みの親」と呼ばれる3人のことをぜひ知っていただきたいと思います。モントリオール大学のヨシュア・ベンジオ(Yoshua Bengio)教授、トロント大学、ジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton)教授とアルバータ大学のリチャード・サットン(Richard Sutton)教授の3人です。カナダはAIを国家戦略として位置付けるべきです。トルドー首相はこの3人とコーヒーを飲みながら、カナダのAI戦略について助言してもらうとよいでしょう。トロント大学はハーバード大学とMITに近く、バンクーバーはワシントン大学とスタンフォード大学に非常に近いです。この3人のAIの先人のもとに優秀な人材を結集させれば、カナダに大規模な産業帯を作り上げることができるのではないでしょうか。それをどのように実現するか検討する必要があります。彼らは20年前から世界最先端の成果を収めており、このような人材を流出させてはなりません。

27 記者: 前回も3人の話をされましたね。また、カナダがAI分野での優位性についても語られましたが、カナダという国への関心からでしょうか、それとも企業として自社の利益を念頭においた関心でしょうか。

任正非: 私は個人的な問題をカナダの発展から切り離しているので、ファーウェイの利益を考えて発言しているわけではありません。確かに個人的にカナダといくつかの問題を抱えていますが、それより人間社会の素晴らしさに目を向けるべきだと思います。大所高所から社会全体の進歩を考える必要があり、そこに私情を挟むべきではないと考えます。私は3人の教授とコーヒーを飲みながらお話したことがあります。トルドー首相には3か月に一度ぐらい、彼らとコーヒーを楽しむことを提案します。人口が少なく、豊富な資源と膨大な土地を持っているカナダにとってAIの活用は喫緊の課題ではないかと思います。

対照的に、中国は人口が非常に多いため、AIに対するそのような差し迫ったニーズはありません。AIの活用について多くの人から「AIが広がったために仕事を失った人たちはどうすればよいだろうか」と否定的な質問を受けることがあります。それを考えた場合、人口が少ないカナダは積極的にAIを開発すべきだと思います。

この3人の教授の連絡先を後ほどお知らせします。彼らが活躍すれば、きっとカナダの発展に素晴らしい役割を果たすことでしょう。彼らに関する私の提案は、私自身の問題やファーウェイとはまったく関係ありません。単純に彼らのような天才は埋もれてはならないと思っただけです。

記者: それで、ご自身が彼らに会われた時、ぜひファーウェイへとお誘いされなかったのですか。

任正非: 彼らはAIの世界的な権威です。彼らの才能を最大限に活かせるようなプラットフォームはファーウェイにはありません。しかし、彼らに研究資金を提供したいと思います。その場合、米国のバイドール法を適用し、その研究結果を所有することなく、紐を付けずに資金を提供するだけです。カナダ政府が許可していれば、多額の資金を提供する準備ができています。

米国は、5Gを原子爆弾のようなものと考えています。 5G技術はどこから来たのか知っていますか。実はトルコのエルダル・アリカン(Erdal Arikan)教授によって10年前に発表された数学論文がきっかけでした。カナダの戦略的展望に良い影響を与えることになるので、トルドー首相はぜひその3人をコーヒーに招待するよう心からお勧めします。

記者: 興味深い話です。この問題は資金提供と関係があると思いますか。首相は彼らと一緒にコーヒーを飲んでいる時、国から資金またはその他のサポートを提供すると申し入れるべきだということですか。つまり、カナダが3人のAI先人に支援を提供することは、国から資金を援助するという意味でしょうか、それとも何か他の支援方法でもあるのでしょうか。

任正非: 政府が彼らに資金を提供するという意味ではありません。カナダが国家戦略産業としてAIを位置付けた場合、AI事業に参入する企業が増え、酷寒地域の無人採鉱や農業向けのソリューションなど、さまざまなアプリケーションの開発につながります。これにより、カナダはAIを活用して経済を発展させることができます。彼らのような研究者が研究資金を必要とする場合、当社が喜んで提供します。カナダ政府が資金を使う必要はありません。

グローブ・アンド・メール(The Globe and Mail)はカナダ全土向けに発行される日刊紙。現在の発行部数は約323,000部で、カナダ国内第2位の実績を誇る。