任CEO『ユーロニュース』インタビュー

Ren Zhengfei

01 ユーロニュース記者: ファーウェイの創始者、CEOの任正非(レン・ジェンフェイ)さんです。本日は「グローバル対話」にお越しいただきありがとうございます。

はじめに任さんの子供の頃についてお話を伺いたいと思います。1944年に中国の最も貧しい省でお生まれになりました。そこでどのような少年時代をお過ごしになったのですか。子どもの頃のことをなにか覚えていらっしゃいますか。

任正非: 私が子供の頃は今のような情報社会ではなく、今の子供たちのように毎日宿題に追われることもなかったので楽しく過ごしていました。両親もあまりかまってくれなかったので遊びに明け暮れるような毎日でした。川で泳いだり、魚を取ったり、鳥を打ったりとにかく放課後は全部自由時間でしたね。

貧しかったのですが、豊かさとはどんなものかわからなくて、ましてやヨーロッパの人々の暮らしぶりを知る由もなかったので、辛いとは思わなかったのです。今多くの人がすでに気づいていると思いますが、子どもたちが健やかに成長していくために、ものの豊かさより心の豊かさのほうがより大事です。今の子どもたちは勉強に費やす時間があまりにも長すぎてかなり負担になっています。そして親御さんの子どもへの期待もエスカレートするため、私たちの時代に比べると確かに豊かになりましたが、子どもたちは必ずしも幸せではないように思います。

そういう意味では自分の子どものころはきっと楽しかったのでしょう。

02 記者: ご自分について、若い頃は何者でもなかった、なにも成し遂げなかった、軍に入って施設兵になったと語っていましたが、ご自分の軍隊生活を振り返ってどうでしたか。

任正非: 私が若かった頃は中国は経済発展が非常に遅れている時代でした。当時の若者は希望や新しい機会を求めていました。軍に入ることは普通の仕事より恵まれていたので私も軍に入りたかったのです。もちろん軍人になることは名誉なことでもありました。しかし軍の一員であることは厳格な規律のもとで懸命に働かなければならないことを意味していました。当時は文化大革命の真っ最中で中国は混乱状態に陥っており、「知識は役に立たない」と考えられていました。そのために中国のインフラ建設は停滞していましたが、海外から導入された一部の重要な施設の建設だけが例外でした。しかし建設現場が過酷な地域にあるためにだれも行きたがらないので、やむを得ず軍隊が派遣されました。そのおかげで文革中でありながら、私はフランスのテクニップ(TECHNIP)社とスペイシム(SPEICHIM)社の当時最先端の大型化学繊維プラントの技術に接することができました。辛いことも多かったですが、大変幸運だったと思います。

03 記者: 軍から退役後、地方の石油会社に数年間勤務され、後にファーウェイを創業したと伺っています。80年代の末にファーウェイを立ち上げた時のビジョンはどういうものでしたか。なぜファーウェイを設立したのか、そして会社が目指すものは何でしたか。

任正非: 軍隊も計画経済体制によって管理されていたので、利益もコストも考えることなく任務を完了することだけが目的でした。しかし軍を離れ地方に行って見たら、そこはすでに商品経済が始まっており、中国は改革開放政策をスタートさせていました。一方、私は商品とはなにかも知らず、市場経済について全く無知でしたので大変戸惑いました。政府から「市場経済」を導入する通達が来ていましたが、政府内部でも賛否両論状態で激しい議論が繰り広げられたそうです。商品の意味もわからない人たちには、これがやがて大きな社会体制の転換につながっていくことなどもちろん知ることはできませんでした。社会の変化について行けなくなり、当時勤務した国有企業で大きな失敗をやらかしてしまってクビになりました。それでも生きていくためにはなにかしなければならないので、自分の会社を立ち上げることを思いついたのです。「万が一失敗したら」という心配も頭の片隅にありましたが、これしか生き延びる道はありませんでした。

記者: 僅かな資金でファーウェイを立ち上げたのですね。たしか3,000ドルぐらいだったと思いますが、これぐらいの資金でできたばかりの会社をどのようにして軌道に乗せることができたのですか。

任正非: 当時の中国はお金を持っている人はほとんどいませんでした。他にも何社かスタートアップ企業がありましたが、みんな資金繰りに困っていました。ファーウェイも同じでした。当時民間企業の登記は5人の株主と3,000ドルほどの資本金が条件でした。私には当然そのよう大金はなかったので何人かに出資をお願いしてやっと3,000ドルを集めて登記できたのです。会社ができた途端に無一文になりました。

最初は他社から商品を仕入れて販売する業務がメインでした。販売で稼いだお金を借金返済にあてていました。この代理販売で会社を少しずつ大きくしていきましたが、一筋縄にはいかないことが多く試練の連続でした。最初の数か月間はもちろん無給のままでした。ようやく給料を出せるようになり、それでも月給は100ドル足らずでした。

記者: 創業期は大きな困難に直面していたということですが、それでもめげずに前に進んでいく原動力は何でしたか。どのような未来を描いていましたか。

任正非: 生き延びることだけでした。

記者: それだけですか。

任正非: そうなんです。生きるだけで精一杯でした。子どもを養い教育を受けさせなければなりませんでした。私自身は子どもたちに十分な愛情を注ぐことはできなかったのですが、せめて生活費ぐらいは稼がないとという思いが強く、就職口を探しまわることもありましたが、ことごとく断られました。最初はただ就職したかっただけでしたが、うまくいきませんでした。その理由の一つは国有企業での失敗があって信用してもらえなかったことだと思います。もう一つの理由は当時社会全体は転売による商売が主流で、技術がわかるかどうかは重要ではありませんでした。行き詰まっている時に政府が民間企業の創設を認めるようになったことを聞いて、私も一念発起して勢いで会社を作ってしまいました。

04 記者: 20世紀の80年代に創立されたファーウェイは今はハイテク事業、テレコム事業、モバイルテレコム事業分野のグローバル企業までに成長し、従業員は18万8千人もいます。任さんも裸一貫で起業した小さな会社の社長から今日の中国で最も知名度の高い経営者の1人となりました。ここまで急成長を遂げた理由はご自分は何だと思いますか。

任正非: 創業初期から会社を存続させるためにお客様を大切にすることの重要さを痛感しました。お客様の価値観を尊重し、お客様の利益を尊重することは不可欠でした。品質の良い製品、サービスを提供しなければお客様にお金を払ってもらえません。まさにお客様を神様のように扱い、「お客様のニーズを満たし、お客様の価値観を実現させるためにはどんな苦労も厭わない」を社内で徹底したことで会社の評判がどんどんよくなり、製品の売れ行きも好調になりました。

ファーウェイがある程度規模が大きくなった時、当社に市場主導権を全部奪われてしまうのではという危機感を覚えた仕入先に製品の提供を打ち切られました。ですので今回の制裁措置は初めての経験ではありません。打ち切りをきっかけに自前の製品がないと生きていけないと悟って自社開発に踏み切りました。最初に開発した製品は40ユーザー対応のアナログ交換機でした。今から見れば極簡単なものでしたが、当時はプレッシャーが大きかったです。改革開放政策をスタートしたばかりの中国では小規模なホテルや店舗で小型製品を必要としていたため、ファーウェイにとってはチャンスでした。こうして小型機器の開発から出発して培った人材、資金、経験とお客様からの信頼を頼りに一歩一歩と階段を登ってきました。

稼いだお金をすぐに使うのではなく、節約に努めて貯めた資金を研究開発に回しました。これは創業から一貫している方針です。お客様に全てを捧げることでお客様からの信頼を築いてきました。今でも多くのお客様から信頼を寄せていただいています。ご存知のように米国は同盟国である欧州で当社への攻撃を煽り続けていますが、欧州のお客様は米国の圧力に耐えて当社の製品を購入し続けてくれています。これは当社が欧州で数十年間の努力によって培った厚い信頼があるからです。

05 記者: アメリカ問題は後ほどまたお伺いします。ファーウェイが中国市場でどのようにして拡大してきたか、当時中国市場での事業開拓がどれだけ大変だったのかに興味があります。どちらかというとファーウェイは通常ではありえない成長を遂げているように見えますが。違いますか。

任正非: 当時の中国の通信市場は100%欧米企業の天下でした。スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキア、フランスのアルカテル、ドイツのシーメンス、アメリカのルーセント、カナダのノーテルネットワークスに日本のNECと富士通も加えて「七国八制」と呼ばれ、まさに通信業界の戦国時代でした。しかしこれらの企業がつくる大型交換機は都市部向けのものばかりで、コストが高く、農村部のニーズに対応していませんでした。

その頃中国の農村部では電話が普及し始めたばかりで、我々にとって隙間産業のようなものでした。まず40人対応の交換機からスタートし、徐々に100人対応、200人対応、最大2,000人対応まで作ることができるようになりました。その後中小都市のニーズに狙いを定め大型交換機を生産しました。我々はこうして一歩一歩と階段を登ってきました。

06 記者: 技術問題や経営の課題に直面した時、ファーウェイはどのように乗り越えてきたのでしょうか。確か中国政府がファーウェイのことをよく思わない時期もあり、政府はいっそファーウェイを消してしまおうと考えたこともあったそうですが。どうですか。

任正非: そうですね、初めの頃は政府にファーウェイのことをあまり理解してもらえなかったことが原因ではないかと思います。ファーウェイが取り入れた従業員持株制度は従業員が資本を所有するため、「ファーウェイは資本主義の企業だ」、「中国の社会主義体制に合っていない」といった意見がありました。しかしこの誤解は十数年前に解消されました。当社の納税額がどんどん増えていったからです。

現在ファーウェイは毎年世界各国に200億米ドルを納税していますが、中国政府への納税額がその大部分を占めています。社会に貢献し、信頼を重んじ、法律を遵守する姿勢が徐々に中国政府に知られ、受け入れられるようになりました。これが1つ目のチャンスです。

当社にとって2つの目のチャンスが訪れたのは20年ほど前にアフリカに進出した時でした。一部のアフリカの国は戦乱で欧米企業が撤退しました。その空いた穴を当社が中国農村部で展開した設備で埋めることができました。アフリカの事業は当社の海外事業の足がかりとなり、おかげである程度資金力がつきました。

ファーウェイの海外での成功は中国政府の心象をよくした部分もあります。ファーウェイは中国市場でうまい汁を吸って大きくなったのではなく、海外でも自らの力で開拓しました。後に欧州市場に参入できたことも中国政府からファーウェイが認められた材料になったと思います。それで政府の誤解が解けたと思います。

欧州市場に入ってからタイミングよく当社に幾つかの変化がありました。ロシア研究所のある若い研究者は十数年間をかけて2Gおよび3Gシステムのアルゴリズムを画期的に進歩させました。アルゴリズムの融合には、理論上最大50%のコスト削減と設備の重さ半減のメリットがありました。もちろん実際はコスト削減効果は30%~40%程度だったかもしれませんが、なにより製品の小型化は欧州では重要な意味を持っていました。鉄塔や電信柱が少ないヨーロッパでは基地局は古い建物の上に設置するのが主流でした。設備が重いと建物が支えきれない場合があるので、ファーウェイの小型基地局は欧州で歓迎されるようになりました。

この2Gと3Gシステムの融合したアルゴリズムをきっかけにファーウェイのSingleRANソリューションの欧州市場での快進撃が始まったのです。また同じアルゴリズムで2G、3G、4Gシステムの統合も可能になりました。2G、3G、4Gのいずれも対応可能な基地局が完成し、大きな効率向上効果があり、収益性も改善しました。そのおかげで研究開発に回す資金もできました。

当時の3Gは欧州のWCDMA、アメリカのCDMA2000、中国のTD-SCDMAなどいくつかの規格が存在しました。新しいアルゴリズムを利用してこれらの規格に同時に対応する製品を開発したことで同じ製品を欧州でも中国でも販売できるようになりました。

お客様のニーズを満たした上、当社の競争力と収益力の向上にもつながりました。コスト削減と収益向上で資金が潤沢になり、研究開発への投資を増やしていけるという良いサイクルができあがりました。

4つ目のチャンスですが、現代の通信は70年~80年の歴史がありますが、その間、各国の政府は通信用の周波数帯を段階に分けて通信事業者に割り当ててきました。そのために十数の周波数帯が発給された老舗の通信事業者はその都度アンテナを設置し、全てのアンテナの構成が異なっています。アンテナの本数が増えるにつれ、基地局が重くなり、コストが重なっています。当社は独自のアルゴリズムでこの十数種のアンテナを一本にまとめ、マルチバンド・マルチモードの製品の開発に成功しました。この技術は当社独自のもので、これでファーウェイは世界通信機器ベンダーのトップに躍り出たのです。当社が通信業界をリードするようになったのは5Gからではなく、4Gからでした。その原点といえば、ロシアの若者の研究成果でした。彼は今でもフェローとして、素晴らしい科学者として当社で活躍中です。彼はまだ40代です。

5Gのコアとなる技術にPolar符号が使われています。これは十年ほど前にトルコのアリカン(Arikan)教授が発表したPolar符号に関する論文がきっかけでした。論文発表から2か月後にファーウェイはその解析と開発に数千人を投入しました。

5Gでさらに世界をリードするようになったのはこの2つの研究成果が鍵でした。当社のターニングポイントともなったこの2つの成果はいずれも基礎研究の範疇になります。

もう一つ転機となる機会があったと思います。それは通信市場の成長に陰りが見え、ファーウェイの事業が低迷していた時にジョブズのiPhoneがタイミングよく発表され、モバイルインターネット時代の幕開けとなったことでした。 iPhoneの出現は通信機器市場を一気に拡大させました。そのおかげで当社は今日の地位を築くことができました。

07 記者: 技術分野においてファーウェイは確かに成功しています。そして中国市場で強力な事業基盤を築き上げました。米国との貿易摩擦が発生するまでのファーウェイの海外市場の開拓は大変難しかったのでは。それともファーウェイはずっと順調に業績を伸ばしてきたとお考えですか。中国に対し様々な疑問を抱いている国があることも認識されていると思いますが。

任正非: 5月16日に米国のエンティティリストが発表されるまでは海外事業は比較的順調でした。お客様に当社の製品を選んでもらうことだけにフォーカスすればよかったのです。政治家は様々な考え方を持っているかもしれませんが、お客様はファーウェイ製品が優れているかどうかの一点だけを評価します。米国の政治家や国のリーダーたちがヨーロッパで懸命にネガティブキャンペーンを行っていることは周知の通りですが、それでも欧州のお客様はファーウェイの製品を買ってくれています。同盟国から、かつ多くの大物政治家から圧力をかけられても当社の製品を買ってくれることは当社に信頼を寄せているなによりの証拠です。

ですので、エンティティリストに追加されるまでは特に圧力を感じることはありませんでした。お客様も当社の技術とサービスや導入した場合の収益性などを高く評価していたと思います。

記者: お客様の支持があったから事業がうまくいっていた、つまり顧客が自分で選択したと仰いました。しかしこれらのお客様は自国の政府からファーウェイの製品を排除するように言われる可能性があります。一部の国や地域ではすでに現実となっていますが、ファーウェイはどのようにこの難局を乗り切りますか。

任正非: 乗り切れないような国があればその国でのビジネスを断念し、そのお客様を諦めるという選択肢もあります。全ての国、全てのお客様にファーウェイを受け入れてもらうことなど考えていません。我々を認めてくれるお客様だけのためにサービスを提供すればよいのです。政治家の言いなりになる企業は果たして事業を継続していけるのでしょうか。企業の存亡を左右するものは政治家ではなく、お客様と、さらにその先のお客様です。お客様が商品を買ってくれるから収益を上げることができ、事業を継続していけるのではないですか。

08 記者: アメリカと中国の貿易摩擦にファーウェイが巻き込まれた形になっていますが。米政府はファーウェイに対して、通信ネットワークや自社の通信機器を通じて他国へのスパイ活動を行う可能性があると指摘しています。ファーウェイはこれまで他国やファーウェイのお客様にスパイ活動を働いたことはありますか。

任正非: まず中米間の貿易戦争は当社とは関係ありません。米国ではほとんどビジネスがないからです。そのため米国のサイバーセキュリティや情報セキュリティは当社とは無関係のはずです。ファーウェイのものを使わないからと言って、アメリカのネットワークと情報セキュリティが確保されているわけではありません。

2つ目に、当社は創業から30年間にわたり170カ国の30億人へのサービス提供に関わってきましたが、仰ったような問題を起こした証拠はどこにもありません。証拠があれば米国はとっくに引っ提げてEUに見せるでしょう。このような問題を起こしたことも、起こす動機も当社にないことはすでに歴史によって証明されていると思います。

3つ目は、これからどうすべきかです。ファーウェイの5G技術は大変進んでいるが、技術ではないリスクにも目を配る必要があるとEUは報告書の中で指摘しています。それで我々は自社が信頼に値することを示すために、EUの全ての法律規定を遵守し、所在国の政府に予め「〇〇を保証する、または〇〇をしない」と約束し、その国の監査を受けるようにしています。ファーウェイのことを最も厳しく監視しているのは英国です。当社は英国やドイツなどの国に信頼をおいており、彼らの検査を全面的に受け入れています。彼らも当社の課題についてどこを改善すべきか指摘してくれます。こうして双方の間に信頼関係が生まれています。事前の約束と事後の監査でEUの管理規定を満たしており、やれることをすべてやっている当社にチャンスがあるはずです。

記者: 先程ファーウェイは今まで一度もスパイ活動を働いたことがない、スパイ活動をするように求められたこともない、今後もスパイ活動を行うことがないと仰っていました。間違いありませんね。

任正非: はい、一切したことがありません。今後もその可能性はありません。

記者: しかしスパイ活動はそれなりのメリットがあるはずです。なんと言ってもデータや情報は「新しい石油」と言われているような時代ですから。

任正非: 第一に、各国のデータ主権を認めなければなりません。データ主権はデータがある国にあって、当社にありません。当社はデータを持っていても使い道はありません。仮にこのようなことに一度でも関わって世界に露見したら、もう二度とお客様に製品を買ってもらえないでしょう。そうすれば会社が破綻し、従業員もみんな去ってしまい、借金だけが残るでしょう。

記者: やってしまったけど、それを隠したという可能性はありませんか。

任正非: なんのために隠すのですか、動機も必要性もありませんし、その可能性もありません。例えば自動車メーカーが車を販売した場合、その車に何を載せようとその車の所有者の自由でしょう。同じように通信事業者に販売した設備はその通信事業者によって運用されるわけで、設備がある国の法律によって監視・管理されています。当社はデータに接することもできないので、データを抜き取ることなどできませんし、そのデータを必要としていません。

09 記者: 米国のやり方はさておき、オーストラリアもファーウェイを排除すると決定しています。イギリスはまだ最終決定していませんが、他にもファーウェイのやり方に疑問を抱いている国があります。米国のやり方の是非に関わらず、米国の一連の行動によってファーウェイが深手を負ったのでは。

任正非: そこまで大きなダメージはなかったと思います。逆にこれだけ多くの政治家が世界中で宣伝してくれているので、ファーウェイにとってはありがたいことです。「アメリカがここまでファーウェイを攻撃するのはファーウェイが良いものを作っている裏返しだ、買って間違いないだろう」と考えるお客様もいるかもしれません。

最近当社を訪問するお客様は69%も増えています。ファーウェイがアメリカの部品抜きでやっていけるかどうかを確認するために来ています。皆さんにも今日見ていただいたと思いますが、アメリカの部品がなくても当社は製品を生産できます。かつお客様の評判も上々です。アメリカの部品がなくてもお客様に製品を提供し、信頼関係がいっそう深まっています。アメリカのバッシングが障害になっているというより、むしろアメリカが当社の広報活動をしてくれているとポジティブに受け止めています。

記者: 米国の措置によりファーウェイに財務上のリスクをもたらしていると考えていないということですね。ファーウェイは信頼性を失墜させ、消費者離れが起きていると思っていないのでしょうか。

任正非: 財務リスクが起きる可能性はありません。成長速度もそこそこ維持できます。その理由の一つは、従業員が危機感とプレッシャーを持つようになったからです。事件が起きるまでの彼らは少し慢心になったところがありましたが、事件をきっかけに以前よりもモチベーションが上がっているため、生産能力は高まったわけです。これは内なる要因になります。

2つ目は外的要因が働いています。一部のお客様に買ってもらえないことは理解できます。一方、多くのお客様が当社の製品を買ってくれているのも事実です。当社にしかない製品の独自性をお客様が気に入って買ってくれているのだと思います。

後ほどCDを差し上げます。中国国慶節の祝賀パレートの様子を記録したものなのでぜひ見てください。数万人のパフォーマーによるマスゲームはファーウェイの5Gを使ってテレビで生中継されました。大変クリアな映像が中断することなくスムーズに中継されています。テレビ局のカメラマンが背負っているリュックサックの中に小型5G基地局が入っています。この技術の凄さはメディアの方によく理解していただけるのではないでしょうか。

こうしたことからも当社はこの分野では世界の最先端を行っているとおわかりいただけるかと思います。当社にはたくさんのチャンスがあり、買ってもらえないという心配はまったくありません。受注が多すぎて出荷が間に合わないと心配しているほどです。また出荷が間に合わない場合は中国のお客様に納期を少し猶予してもらって、海外のお客様を優先しています。海外のお客様の獲得は大変ですから。

したがって、当社には財務リスクはありません。お客様の信頼については改善できます。お客様に当社の製品を直に見ていただく、または使用していただくことで当社の製品の良さをわかってもらえます。もちろん製品には米国の部品が使われていないことも確認できます。

記者: 現在の状況についてあまり憂慮していないと仰っいましたが、米国の禁輸措置でファーウェイが海外(欧州など)で新しいスマートフォンを発売しても、グーグルのサービスが利用できないことは消費者の購入マインドに影響が出るのではないでしょうか。これはファーウェイにとって大きな打撃になりませんか。

任正非:そのようなことはないと思います。当社はグーグルと良好な関係を築いており、様々なことで合意しています。一部の地域ではグーグルのサービスは利用できないかもしれませんが、当社のスマートフォンは独自の機能がありますので、それを気に入ってくれる消費者もいます。今年の端末の販売は2.4億台を見込んでおり、大きな伸びがあると期待しています。ですので影響があるとしても100億ドル程度にとどまるのではないかと思います。当社にとって100億ドルは大したことはありません。ですので、あまり問題にしていません。端末関連のエコシステム問題については2、3年あれば乗り切れると確信しています。

10 記者: アメリカはファーウェイをブラックリストに入れてアメリカ市場からファーウェイを締め出そうとしています。ファーウェイは問題解決のためにどのようにアメリカ政府にアプローチするつもりですか。

任正非: まずアメリカとは交渉していません。その代わりに法廷で争っています。法廷で証拠を示してもらうことが問題解決の鍵だと思っています。

2つ目に、例え米国政府が政権交代してもエンティティリストが取り消されることはありません。したがって、アメリカの長期的な圧力がかかっている環境に耐えていくことを覚悟しています。しかしこれは最終的には米国企業にダメージを与えることになるでしょう。ファーウェイは世界で170カ国、30億人へのサービス提供を支えています。米国が部品の供給を打ち切れば、多くのシェアを失うことになるでしょう。とりわけ中国市場での損失が大きくなると思います。これは米国の利益にはなりません。

記者: 任さんの決意は固いようですね。米国の世界における影響力は確かに大きいですが、もしトランプ大統領に会う機会があれば、なにを話しますか。

任正非: 忙しい大統領のことですから、お会いする機会はないでしょう。

記者: 会えるとしたら、どんな話をするつもりですか。

任正非: そうですね、米国企業が中国ビジネスを失わないようにしていただきたいですね。中国市場に参入して結果を出せば、米国企業の経営状態を改善でき、世界で利益を得ることができるのです。

アメリカはせっかく良いものを持っているのに、みんなに売らないともったいないです。美味しいりんごがあれば、食べたい人に売ってお金を稼ぐのが普通でしょう。倉庫にほったらかしにしたら腐ってしまい、だれも買ってくれませんよ。

本気で米国企業の利益を考えるなら、中国市場を大事にすることですね。グローバル化は米国にとってメリットが大きいです。米国がグローバリゼーションに背くような道を選べば、欧州にとってはチャンス到来です。

11 記者:現在米中両国の貿易紛争はまだ続いており、双方は度々交渉しています。なぜここまで深刻化しているのか、またなぜファーウェイが巻き込まれたのか、これからの両国の貿易交渉の行方についてどのような期待を持っていますか。またはこの問題を解決する方策があると思いますか。

任正非: 中米間の貿易交渉で何を争っているか、どこまで進んでいるかなどにあまり関心はありません。当社の米国でのビジネスはありませんので、米中交渉がどちらに転んでも当社の状況は変わらないと思います。米中間の交渉事を気にしていません。これは両国間の懸案問題で、当社は米国企業、そして世界各国のお客様との問題にだけフォーカスしています。

記者: しかしながら、これはすでに多くの国や企業を巻き込んだ一大泥沼紛争と化しています。御社も渦中にあるのではないですか。

任正非: 応酬の繰り返しでは実際の問題解決にはなりません。中国が米国の大豆を買えば、米国はチップを売ってくれるのですか。そうはならないでしょう。大豆をどれだけ買うかはさほど重要ではありません。大豆が少なければ食用油の使用を少し控えればよいのです。国の存亡にかかる問題ではありません。私はこれは大きな問題ではないと思います。

12 記者: 米国がファーウェイにもたらした課題と困難はすでにご家族まで巻き込んでいます。現在カナダにいる孟晩舟さんはあるイランの企業との関係を故意に隠蔽した、またイラン制裁違反と関連した容疑で逮捕されました。彼女は今どう過ごしていますか、大変ご心配されているのでは。

任正非: カナダは法治国家として、その法律は公正であり、透明であることを信じています、今後証拠となるものをきちんと示してもらいたいです。カナダの司法システムを信じるしかありません。

記者: 彼女は無実ですか。

任正非: もちろんそう思います。

記者: しかし刑務所に入れられるようなことがあれば、彼女はきっと中でも勉強を続けるでしょうと仰っていました。彼女が収監される可能性があると思いますか。

任正非: 彼女が刑務所に入る可能性があるとはいっていません。軟禁状態にあっても勉強し続けるでしょうと言いました。

記者: 彼女の様子はどうですか、お父様としてご心配されていると思いますが・・・

任正非: 彼女は今保釈され、カナダの自宅で軟禁生活を送っています。いろいろと予定を立てているようです。社会や一般市民と接する機会もあり、普通に暮らしていると思います。

13 記者: 娘さんの状況や、アメリカのブラックリストのことを考えると、ファーウェイが傾くかもしれないと思ったことはないですか。

任正非: ファーウェイの成長スピードが速くなると思います。当社は30年の成長を経て多くの従業員は裕福になりました。それで一部の社員に緩みが出ていました。快適な生活に慣れると人間は本能的に楽なほうを選び、苦労したくなくなります。今回のアメリカの一撃でみんな目が覚めて危機感を持つようになり、モチベーションが上がりました。本来制裁で売上が落ちるはずでしたが、逆に増収という結果になりました。ですのでファーウェイは破綻寸前などの問題はありません。すでにご覧になったと思いますが、各製造現場が通常通りに稼働していますし、従業員も普通に出勤し、食堂も人で溢れているでしょう。従業員の給料も減ったわけではありません。従業員の努力で収益が急増すると、それをどうするかという現実的な問題があります。将来戦略的投資をさらに伸ばしていくことを踏まえて対策を講じる必要があります。

記者: ファーウェイにとって従業員の重要性についてどう思いますか。ファーウェイの株式はほぼ従業員が所有していますが、これは企業の経営または業績にとってどれほど重要でしょうか。

任正非: 従業員による株式所有制度と従業員のモチベーションとはあまり関係ないと思います。従業員は経済的な利益ではなく使命感に突き動かされていると思います。当社は「ファントムストック」(仮想的株式)譲渡制度を実施しており、従業員の過去の努力に対して付与しているものですが、配当を与えればそれで終わりではありません。従業員の貢献はその後も価値を生み出し続けています。「社員持ち株制度」は過去の努力への報酬という意味で、ある程度合理性を持っていますが、使命感を持っていなければモチベーションは続かないのです。今の状況でいうなら、彼らの使命感は弱まるどころか、一層高まっていると言えましょう。

記者: 任さんはどのような経営者ですか。

任正非: 私はあまりできの良い経営者とは言えないでしょう。財務のことや管理のこともわからなければ技術にも疎いです。実務についてはエキスパートやスペシャリストに任せています。

記者: ファーウェイはここまで成長しているのに、そう思っていらっしゃることに驚きました。

任正非: 今年の収益増には特別な理由がありました。上半期はアメリカの制裁の影響はまだ出ていなかったのです。5月の禁輸措置発動以降、我々も必死に挽回しようと努力しました。少し落ち込みがありますが、緊急対策を講じてなんとか成長率を大きく落とすことなく乗り越えてきました。

来年はエンティティリストが敷かれた状態でやっていかなければなりませんが、業績は悪くならないと思います。来年の年末にぜひまたお越しください。

今ファーウェイの従業員は19.4万人に増えています。アメリカの制裁に対応するために優秀な社員を必要としているため、採用を増やしました。来年も期待できると確信しています。是非お越しになってその目で確かめていただきたいです。

14 記者: 将来的に5Gがファーウェイの重要なビジネスの一部となることは間違いないとファーウェイの本社見学を通して感じました。多くのハイテク企業にとって5Gの重要性は高いと思いますが、5G技術は世界のルールを変える技術だと思いますか。5Gは人々の暮らしをどう変えていくと思いますか。

任正非: 5Gの役割に関しては、簡単にいうと一般道路と高速道路の違いと同じです。大容量低遅延の特徴を持つ5Gは情報社会や人工知能をサポートする役割を果たすでしょう。5G技術は直接的な価値を生み出すわけではありませんが、5Gが支える情報システムは未来の社会の進化にとってその価値は計り知れないでしょう。

記者: 視聴者の皆さんに5Gはどのように彼らの暮らしを変えるかについてお話いただけますか。5Gによって様々な新しい技術が可能になり、これらの技術はまた生活の様々な場面で、例えば公共サービスや交通、ヘルスケアなどに活用されると思います。

任正非: 5Gで何ができるか、1つ例をあげましょう。簡単に実現できないかもしれませんが、例えばエアバス320には実に17トンの信号ケーブルが搭載されているそうです。将来もしケーブルを使わずに無線で飛行機にある各種デバイスをつなぐことができるようになれば、飛行機の自重が減り、燃料も少なくなり、巨大な価値を生み出せます。我々はこれを「エアバス320計画」と冗談で呼んでいます。

また家庭向けもそうです。ブロードバンドシステムにも多くのケーブルが使われていましたが、今は必要がなくなりました。コンパクトな無線デバイス1つだけで十分です。これは最も簡単な例です。

他にもたとえば産業機械に小さな基地局を実装し、その機械が制御するデバイスを基地局に接続することができます。これにより全てのデバイスを制御するシステムにリアルタイムに自動接続できます。

5Gの低遅延は自動運転などの問題にも役立てられます。工業自動化や未来の生活をどう変えていくのか想像もできません。現時点ではその影響は少しずつ現れています。例えば数千キロ離れている場所のデバイスを遠隔操作する場合、遅延が発生することは皆さんもわかると思います。その遅延により誤作動が起きる可能性があります。5Gの場合は、遅延はわずか1ミリ秒、またはそれ以下になりますので、遠隔によるリアルタイム操作が可能になります。こうした活用は人びとの生活を大きく変えることができると期待されています。もちろん現段階ではまだ想像に過ぎませんが。

5Gによってどのようにして社会により多くの価値をもたらすかについては、多くの企業が一緒になって取り込むことが必要です。当社が目指しているのはこれらの企業を支えるインフラを提供する役割です。このインフラをどう活かすかはこれらの企業の力量次第です。

記者: これにはリスクが伴いますね。5Gおよび5Gによって実現される技術は更に多くの情報やデータを生み出します。これらのデータと情報の安全性は確保される必要があります。人々の暮らしはこれよって大きく変わるということですね。

任正非: 新しいことは必ずメリットとデメリットが同居します。いかにしてメリットを生かして、デメリットを抑えるかを考えることは重要だと思います。最初から完璧なものはありません。

記者: 先般EUは5Gサイバーセキュリティに関する報告書を発表しました。報告書では5Gの出現でネットワークが攻撃されるリスクが高まっている。これらの攻撃はEU以外の国または政府の支持を受けている国によって行われる可能性があると指摘されています。こうしたことからEUは5Gのセキュリティ問題を懸念していることは明らかです。一方、EUは5Gの可能性についても十分に認識し、そのチャンスを逃したくないと考えています。現実的に5Gはどれほどのリスクがあると思いますか。

任正非: 自動車のリスクはどうですか。自動車はスピードを出しすぎると事故を起こすでしょう。しかし自動車は安全運転できると素晴らしいところへ運んでくれます。理屈は同じです。どんなことでも良いか悪いかの2択しかないような単純なものではありません。リスクマネジメントができるかどうかが肝心です。

EUは5Gの良い面も悪い面も認識しているので、新しいことに対し、拒絶反応を起こすのではなく、それをどのように管理し、リスクを回避するかを考える必要があるのではないでしょうか。

15 記者: EUは個人情報の保護を大変重要視しており、データ保護の新しい条例を作りました。一般市民も自分の情報とデータがどのように使われているかについて懸念しています。インターネットやソーシャルメディア、御社の設備などを使って他国に干渉する国があるのではと心配する声があります。通信業界の大手として、我々のような消費者が安心できるようになにかメッセージを送っていただけますか。

任正非: 皆様の懸念は理解できます。私も皆さんと同じです。毎日電話しているので、米国に盗聴されているのではないかと心配しています。当社はEUのサイバーセキュリティ管理規定やGDPRなどのすべてのEUの法律を厳守します。ご安心ください。もちろん安心できるかどうかは時間と事実によって検証されなければなりません。当社が現段階できることは、全ての規定規則を遵守し、データ主権を尊重すると皆さんに約束することです。これだけは揺るぎないものです。

記者: これから数か月間、または数年間EUは5Gを整備していくと思われます。EUとして5Gの活用、およびセキュリティ管理体制において自らの地位を確立したいと考えています。5Gまたはその他のデジタル技術においてファーウェイはEUとどのような関係を築きたいと考えていますか。

任正非: まず、EUのデータ主権戦略を支持します。これを原則に欧州でAIを推進していきたいと考えています。ARMベースのインテリジェントシステムやAtlasの深層学習システムなどを欧州に開放し、欧州の中小企業にイノベーションができるプラットフォームとリソースを提供します。EUまたは欧州の国のデジタルエコシステムの構築を支援し、ウィンウィン関係を確立していきます。

欧州の中小企業に投資し、彼らの取り組みを後押しします。みんなが利益を共有できるようなシステムを作ります。欧州で豊かな「土地」を耕して、欧州の企業がそこで様々なものを育ててもらいたいと思います。欧州のデジタルエコシステム構築に全力を尽くします。

記者: EUが最近直面している様々な困難の中で、正直に言うとアイデンティティの危機が少しあります。EU内部には政治的軋轢が深層的に存在します。任CEOの考え方を教えて下さい。最近EUをめぐる深刻な課題や事態から、加盟国同士が共通の認識に達することが如何に難しいかがわかります。そのような複雑な地域で新規事業を展開することは大変難しいのでは。

任正非: 個人的にはこの課題を乗り越えられると思います。まずお客様に心より信頼していただけるよう自社が全力をあげなければなりません。紛争や政治問題に関与することはありませんし、どちらかに立つこともありません。真摯に自分自身の仕事と向き合えばかならず克服できると思います。

16 記者: ちろん、EUの大きな政治的激震の1つは、英国がEUを離れるブレグジット(英EU離脱)です。ブレグジットが決定的になった場合、英国と中国の関係はどのように変わりますか。ビジネスの観点から、中国と英国の貿易、ビジネス、経済関係などについて、どんなことを期待していますか。

任正非:英国のEU離脱が現実になろうとなるまいと、英国の繁栄は英国の人々の努力によってのみ実現できます。結果はどうであれ、英国は強くなるためには自分の努力で成功を掴むしかないと思います。

外部環境は人々が思うほど悪化していません。貿易は、世界のすべての国にとって重要です。中国はヨーロッパから飛行機をたくさん購入する必要があり、この需要を満たすためにヨーロッパは生産を拡大する必要があります。また機械や自動車などの欧州製品に対する中国の需要の高まりも、欧州諸国、特に英国にとって大きなチャンスになるため、これらの機会をつかむために欧州諸国も一生懸命頑張る必要があります。政府との関係は、ビジネス環境づくりのために必要ですが、マクロ環境が貿易に与える影響は限定的だと思います。

記者: 大手通信機器メーカーとしてファーウェイは英国のEU離脱の影響を懸念しているのでしょうか、それとも離脱によって新たなチャンスが生まれると思っているのでしょうか。

任正非:英国のEU離脱がファーウェイに影響を及ぼすことはないと思います。ファーウェイへの影響があるとすれば、人口の変化ですが、それも変化がなさそうです。そこにいる人々がコミュニケーションする必要があれば、当社は影響を受けません。EU離脱はその国の国民が決めることであり、ファーウェイはその変化に適応して自分のやるべきことを全うするだけです。

17 記者: 香港では混乱が現在も続いていますが、ビジネスの観点から、香港の不安定な情勢はファーウェイの事業にどのような影響を与えていますか。

任正非: 香港は大陸に対しても、世界に対してもそれほど大きな影響を与えていないと思います。資本主義の香港と社会主義の中国大陸は制度が異なりますので、香港情勢は大陸の政治状況を変えるようなことはないと思います。

香港の人々は言論の自由と合法的にデモを行う権利を持っていますが、私的財産、公共財産を破壊するべきではありません。破壊行為は非生産的です。中立の立場を取っている人々は、これらのデモ参加者から距離を置くでしょう。デモ参加者が暴動を続けると、最終的には社会から孤立します。

声を上げて主張し、冷静に要望を伝えることは民主国家において最も重要な姿勢です。破壊行為はどこの国でも支持されません。

18 記者:将来に目を向けたいと思います。任CEOは今年75歳になってもまだ会社の舵取りをしていますが、ファーウェイの今後の見通しについて、どのような目標があるのか、どう実現していくのかお話いただけますか。

任正非:正直にいうと私は何年も会社の具体的な運営に関わっていません。私は単に拒否権を持っているだけです。会社は問題なく運営されているので、この権利を行使したことはありません。これは私の年齢とはほとんど関係ありません。

私は今時間に余裕があり、しかも健康状態も悪くありません。そこで広報部から記者の皆さんに会うように頼まれました。それまで記者と会ったことはほとんどありませんでしたが、今はこうやって皆さんとお話する時間を増やしています。私はファーウェイの運命を左右するような立場にありません。会社はこれからも成長していくことと信じています。

記者: 会社の運命を握っていないと仰っていましたが、それは違うと考える人はいます。ファーウェイの運営に中国政府が関わっている、ファーウェイはスパイ行為を働いて、信頼できないと様々な批判や非難の声がありますが、これらの声に対し、なにか言いたいことはありますか。

Ren: 特に言うことはありません。彼らの発言が正しいかどうかはいずれ検証される時が来るでしょう。

記者: さきほども言いましたが、75歳になった今も任CEOはまだ会社の運営に関わっています。ご自分の会社での役割をかなり控えめに述べていらっしゃいますが、長年にわたって舵取りをしており、会社の成功を支えてきたことは紛れもない事実です。ご自分の今後の去就についてどう考えていますか。具体的日程は決まっていますか。

任正非: まず、私の権限は会社内で制限されています。やりたいことをなんでもできる権限があるわけではありません。第二に、ファーウェイには民主的な集団的意思決定システムがあります。つまり、集団的意思決定と拒否権によって制限されています。私は毎日出社していますが、形だけで直接会社の経営に関わっていません。 私には拒否権がありますが、いままで一度も行使したことはありません。

将来、私と同じように、誰でもこの「人形」の役割を果たすことができます。実権を返上してこのポジションに就きたいという意志があれば、だれでも会社の「操り人形」になれます。 私はずっとこの立場にあったので、30年の間会社はあまり変わっていないように思われているかもしれませんが、 実際社内は目まぐるしく変化しているのです。ですので私の存在は会社の運営に影響しません。

記者: いつご退任なさるのかという私の質問にお答えになっていません。

任正非:私がまともに思考できなくなった時、またはアメリカ政府が私の退任を認める時に退きます。今会社は大変な時期にさしかかっています。私には私しかできない役割があるかと思います。例えば記者の皆さんとお話することができます。

記者: ご自分の人生の全てをこの会社に捧げたと思いますが、ご自分のことをワークホリックだと思いますか。お子さんたちと一緒過ごす時間はなかった、そして離婚も経験されたと話していましたが、今の成功は家族を犠牲にして成し遂げたものだとお認めになりますか。これに対し後悔していませんか。

任正非: 後悔しています。創業してまもない頃、アフリカや南米へ数か月間も出張したことがありました。家に戻ってもすぐまた出張に出かけるような日々でした。会社を軌道に乗せるまで妻と一緒にいる時間はあまりなく、プレゼントを買ってあげたこともほとんどありませんでした。

ある時下の子にプレゼントを買ってやったら、彼女から母にもあげないと次回は受け取らないと言われ、家族全員を十分に思いやってあげていないことを深く反省しました。自分が家族にしてあげられないことは今からまだ埋め合わせることができますが、私は両親を大事にしてこなかったことを大変後悔しています。両親はもうこの世にいないので、いくら侘びても足りません。悔いなく人生を送るのは難しいですね。それでも前に進むしかありません。

会社は今大きな曲がり角に来ています。万が一失敗した場合の後悔はこれまでのどんな後悔よりも大きくなるでしょう。今従業員が力を合わせて会社のこの大きなボートを一生懸命漕いでいます。私のような年寄りは、力が弱くても自分なりの役割を果たさなければなりません。若い頃はいろんなスポーツをやっていましたが、どれも大した結果を出せず、残念でした。今はあまり運動をしておらず、体力も落ちています。自分の引き際についてはちゃんと考えています。一生をファーウェイに捧げることはありませんのでご安心ください。私も旅行でもして人生をエンジョイする時間を残しておきたいです。

記者: お子さんについて後継者にふさわしい資質を持っているとは思わないと仰っていました。任CEOの後継者になる人はいますか。

任正非:後ほど広報部のスタッフから会社の第4回従業員株主大会での私のスピーチのコピーを差し上げます。後継者問題について話しています。後継者問題は実はもう数年前から制度化されており、会社も順調に運営されています。私は単なる人形的な存在です。この問題についてはご心配には及びません。

記者: ファーウェイをファミリー企業にするおつもりはないですか。

任正非: 私の家族は会社からそれほど利益を得ていません。ですのでそれ相当の責任を負うことはできません。将来的には、知力、能力、品格を備えた適格者が現れたら、バトンタッチします。しかし私の家族とは関係ありません。