ファーウェイ創業者兼CEO任正非とCNNとのインタビュー筆記録

2019年11月26日

中国、深圳

Ren Zhengfei

01 記者:任CEO、深圳ファーウェイ本社にお招きいただきありがとうございます。本日の交流をとても楽しみにしておりました。最初の質問です。中国ではつい最近世界最大規模の5Gネットワークが展開され、その中でファーウェイも非常に重要な役割を担っていると思います。一方で、消費者はそれほど盛り上がっていないようです。この状況を変えるためには何をするべきでしょうか。

任正非(レン・ジェンフェイ): ネットワーク構築は始まったばかりです。まだ整備が行き届いておらず、消費者は5Gがもたらすメリットをまだ実感していません。来年には中国市場での5Gスマートフォンの販売量は2億台となり、皆さんも実感できるようになることでしょう。特に、1000元ほどの5Gスマートフォンが市場に登場すると、個人ユーザーの方も体験の変化を感じられると思います。

また、5Gによる工業の自動化やAIの推進のためには長い道のりが必要です。AIは登場して間もない技術であり、低遅延、広い帯域幅、大きなデータトラフィックが必要です。深層学習やモデリングの確立にも発展の過程が必要ですので、すぐに大きく盛り上がるものではありません。

02 記者:ファーウェイはアメリカからの大きな圧力にもかかわらず成長を続けており、中国市場でのスマートフォンの販売台数も増え続けています。そして中国以外の場所でも世界的な通信キャリアを含む新規顧客を獲得しています。これは、アメリカが圧力をかけても決してファーウェイを倒すことはできないと証明しているのではないでしょうか。

任正非: ファーウェイでは創業当初から現在まで、一貫してグローバル化を経営理念に据えています。グローバル化された産業界全体の協業によって全世界にサービスを提供するというのが我々の思いです。しかしながら、我々とアメリカの間には様々な不確定の対立要素があるということも早くより察知していました。ですので、準備をしておく必要があったのです。アメリカから物を売ってもらえなくなったとしても、倒れることなく自立できるようにするためです。現状、生き残ることに関してはしばらくは問題ないでしょう。一方でとても心配しているのは、3~5年後でも我々が世界をリードできるのかという問題です。これは検討すべき問題であり、すでに内部での議題となっています。

03 記者:ファーウェイはスマートフォン市場でのリーダーの地位を保つことができるのでしょうか。現在ファーウェイのスマートフォン販売台数は増加を続けていますが、その増加は中国市場に限られており、グーグル(Google)アプリケーションの使用を禁止されたことはファーウェイの海外でのスマートフォン販売台数に大きな影響を与えています。仮にファーウェイが中国でのみスマートフォンを販売できるという結果になった場合、任CEOはどう思われますか。

任正非: そのような結果にはならないと思います。もしアメリカから明確にグーグルのGMSエコシステムの使用を禁止されるのであれば、我々自身のシステムを使っていくことになります。その実力を有していると確信していますし、2、3年以内には世界のエコシステムを取り込んでいくことができるでしょう。

記者:つまり、グーグルやファーウェイとの取引のためにアメリカ政府の許可を待っているほかの会社がいなかったとしても、将来ファーウェイのスマートフォンが世界的に展開されていくことに自信をお持ちだということですか。

任正非: これからもサプライチェーンのグローバル化を追求していきますし、アメリカ企業からの供給の増加も喜んで受け入れます。我々が彼らの部品を大量に使用することで、ウィンウィンの関係となるのです。アメリカ企業からの供給が受けられない場合には、代替策があります。仮に代替策が実行に移され、ある程度成熟、安定していくとそこから元の形に切り戻す可能性は小さくなっていきます。

ですから、今は皆にとって重要な転換期なのです。アメリカ政府がアメリカ企業の利益について考慮されることを望みます。ファーウェイの考え方としてはグローバル化を追求し、自主イノベーション、自力更生のような閉鎖的な道での孤立に向かうことはないということです。ただし、ファーウェイがほかの選択肢への努力をしないということではありません。万一アメリカ企業が部品を供給しないという状況になったとしても生き残る必要があります。

04 記者:マイクロソフト(Microsoft)がアメリカ政府の許可を受け、ファーウェイへの供給を継続できることになりました。グーグルも許可される可能性があるとお考えでしょうか。

任正非: マイクロソフトが許可されたということは、マイクロソフトの体系が今後も世界で飛躍的に発展し続けることになります。我々のPC、サーバーなどの生産量も非常に大きなものです。インテル、マイクロソフトのシステムを使用していきますし、その方向性への発展を強化していきます。

我々自身もKunpengチップセット、Taishanサーバーを開発しましたが、これだけを全面的に展開していくということではありません。これは万一供給を受けられなくなった場合に備えて、我々の体制を安定させるものです。もし供給の安全性が十分に保障されれば、予備の2つ目のシステムは実は必要ないのです。安全の保障がないために予備のシステムを作っています。

世界を見渡してもCPUを作り出すということは極めて難しいことであり、莫大な費用、物資、人力を投入してようやく代替策と予備を作り出すことができたのです。我々のような貧しい会社にとって、これほど大きな「スペアタイヤ」を作り出すためにはどれほど大きな代償が必要だと思いますか?やらざるを得ないことはありますが、必ずしも喜んでやっているというわけではないのです。

ですので、マイクロソフトやインテルのような開放的な姿勢は歓迎します。元々世界の中で最大の市場シェアを占めているにも関わらず、その一部を捨ててほかの技術体系に譲るというわけですから、感謝してもしきれません。

記者: 仮にグーグルがファーウェイへの今後の供給を許可されなかった場合、ファーウェイには予備の計画はあるのでしょうか。

任正非: あります。それも非常に大規模なものです。

記者: グーグルの申請がすでにアメリカ政府に拒否された、というような情報は届いているのでしょうか。

任正非: いいえ。

記者: ファーウェイは現在世界第2位のスマートフォンメーカーです。グーグルがなかったとしてもファーウェイが世界一になる可能性はあるのでしょうか。

任正非: 障害はないと思います。ただし時間はかかるでしょう。

記者: 時間がかかる、と。グーグルなしでどのようにして海外市場の壁を破るのでしょうか。

任正非: 「時間」とは海外市場を指しています。来年、再来年には海外市場に舞い戻ることになります。我々にはその力と決意があります。

05 記者: では5Gについてもお伺いします。アメリカは同盟国、近頃ではカナダやイギリス、ドイツに対して5Gに関してファーウェイと協力をしないように圧力をかけ続けてきました。先程挙げた各国はファーウェイとの5Gでの協力に関して開放的な姿勢なのでしょうか。

任正非: はい、彼らは開放的です。世界の国々はどこの5Gがより優れているのかを比較しています。通信キャリアはそれを知っていますし、政府関係者も理解しています。少数の政治家が政治の観点から独自の意見を持っているというだけです。ですが、現実主義に基づく検討をする人はやはり存在しています。

記者: 日本やアメリカ、オーストラリアのようにファーウェイの5Gの技術を拒絶している国があります。一方で、ファーウェイの5Gを強く支持する国もあり、5Gでは分裂の兆しが出てきています。中国とアメリカの5Gを巡る技術戦争によって5Gがさらに分裂し、5Gの真価が発揮できなくなるというようなことはあり得るのでしょうか。

任正非: 世界はとても大きなものです。ただ1社のベンダーに統一されるという状況は起こり得ません。複数のベンダーから供給が行われるのは当たり前です。ただ、5Gの標準は1つしかありません。もしほかの標準を確立しようとする人がいて、それがほかの標準と相互接続できないものになると困ってしまいます。ですから、たとえ一部の国で我々の製品が使われなかったとしても、ほかのベンダーの製品を使うことで最終的にはすべてが接続され、人類社会の発展を推進するのです。

ファーウェイだけが人類社会を推進させるのではありません。5Gは世界に、皆に、共有されるものです。皆が一緒になって世界の発展を推し進めるのです。

06 記者: 技術はますます複雑になりますが、信頼はどれほど重要なのでしょうか。

任正非: 技術がますます複雑になることで、技術的能力が信頼よりも重要になっていきます。信頼だけあっても、製品を提供する能力がなければ価値はありません。製品を作り出せれば、特定の人からは信用されなくとも、信頼してくれる人というのは必ずいるものです。製品を実際に使ってみると、その国の経済発展が推進され、これは使っていない国に対して「使わなければ置いていかれてしまう」という注意喚起になります。

例えば、イギリス人が鉄道を発明したばかりのころは、鉄道の登場を喜ぶ声ばかりではありませんでした。中国で初めて鉄道が使用された際、その評価は「鉄道は恐ろしい」というものでした。西太后が列車に乗り込んだ際、彼女は客車ではなく、機関車の先頭に置かれた椅子に座ろうとしました。「皇帝より前に誰もいてはならない」と言ったのです。しかし鉄道は社会に大きな進歩をもたらし、鉄道の普及に難色を示していた国でも最終的には列車が全国で走っています。

先進性を持つものは、必ずやどこかの地域の人々に幸福をもたらさなければなりません。幸福がもたらされたとき、人々はこの新技術がメリットをもたらすものだと実感し、新技術を排斥する動きはなくなります。紡織機はまずイギリスで発明されましたが、当時の労働者はこの紡織機を恐ろしい脅威と見なしてハンマーで叩き壊していました。ところが、今日になっても世界で最も優れた洋服の生地はイギリス製のものです。これは先進的な技術によってある国を発展させることが、周辺国家のロールモデルとなることを示しています。このような力は止まるところを知りません。人々は比較、選定を行っていくでしょう。

記者: アメリカ連邦通信委員会はファーウェイに対する規定を公表しました。言うなれば、我々はファーウェイを信頼していないので、農村地域の通信事業者が連邦政府の資金や補助金を利用してファーウェイ製品を購入し、ネットワークを構築することは許さない、という主張です。ファーウェイも対抗策を計画していると聞いています。なぜこの行動が重要で、またどのように対抗するのでしょうか。

任正非: ファーウェイはビジネスを行う企業であり、世界の人々に優れた情報サービスを提供することが目的です。政治的な目的を目指しているわけではありません。この原則に則って、アフリカや高山、熱帯雨林など、様々な厳しい地域においても我々はサービスを提供しています。

もちろん、アメリカの人々にもサービスを提供したいと思っています。かつてアメリカの大手通信事業者に対してサービスを提供したいと考えましたが、大手への提供はかなわず、小規模事業者に対してサービスを提供することで我々の価値を示すこととなりました。アメリカ政府によるこの決定は、政府が国民にサービスを提供するという政策に反することになります。この問題はあくまでその国と国民の間で解決を図る問題であり、我々はベンダーに過ぎませんので、この問題の解決には介入しません。ただアメリカ政府のやり方は憲法に反するものです。アメリカ憲法には国民のためにサービスを提供すると示されています。

記者: つまり、アメリカ政府は政治や貿易戦争をデジタルデバイドの解消よりも重視しているとお考えですか。

任正非: 政治と経済はそもそも分離できるものであり、一緒に扱うべきではないと思います。経済のグローバル化の最大の受益者はアメリカです。なぜならば、世界で最も優れたテクノロジー国家はアメリカであり、最も優れた製品を全世界に向けて販売する必要があるからです。仮に全世界に向けて販売することができなければ、ほかのところから代替製品が生まれ、アメリカはその市場を失うことになります。この世界にアメリカを追い越せる国はないのだとアメリカは自信を持つべきです。少なくとも短期間のうちに追い越せる国はないでしょう。この「短期間」は数十年かもしれませんし、100年近いものかもしれません。

アメリカのイノベーションのメカニズムと原動力には非常に強固なものがあり、各種司法制度も先進的です。これほど多くの優秀な人材が先を争うようにアメリカに流れ込んでおり、この点で世界のほかの国はまだまだ及びません。多くの優秀な人材がアメリカに定住したいと考える限り、我々は一流の人材を手に入れることができず、一流に次ぐ人々が集まることになります。しかし、このような人材を団結させることで、数人、数十人集まると一人の優秀な人材に相当することになります。ですから、我々の社員の数はアメリカ企業よりかなり多いにも関わらず、業績は特に上回っているというわけではありません。

このように見ていくと、アメリカはテクノロジーにおいてこれからも全世界をリードしていくことになるでしょう。そしてグローバル化もアメリカにメリットをもたらしますが、現在のアメリカ政府はグローバル化から離脱しようとしています。それは市場を少しずつ他人に明け渡すことであり、小さな芽が次第に芽生えてきます。このような国が将来アメリカに取って代わることとなります。

07 記者: 中米間の技術戦争の核心は信頼の欠如にあります。アメリカ政府はファーウェイを信頼せず、ファーウェイ製機器が中国政府に対してバックドアを提供していると現時点でも考えています。ファーウェイはどのようなやり方で懸念を取り除き、再度信頼関係を構築するのでしょうか。

任正非: アメリカのこの問いかけは偽の命題でしょう。数十年間ファーウェイはそのような事件を起こしたことがありません。我々がアメリカを説得することは不可能だと思いますが、アメリカの同盟国を説得することは可能だと思います。それらの国でファーウェイの機器を10年、20年と使っていただいている中で、ファーウェイがどのような会社であるかよく理解されているはずです。すると通信キャリアから自国の政府に対してファーウェイを許可するように説得するでしょう。

そしてファーウェイの設備はとても先進的です。エネルギー消費や帯域幅の指標、特に大きさ、重量に関する指標は世界を見渡しても他社では実現が難しいものです。例えば我々の5G設備を設置する際に、基地局は手で持ち運ぶことが可能です。鉄塔やクレーン車などは必要ありません。建設コストを大幅に減少させることになり、これは素晴らしい成果です。

ヨーロッパには古い建築が多くあり、大きな鉄塔を建てることができません。基地局は建物の屋根に設置するしかなく、重すぎると建物が耐えられなくなります。我々の機器はヨーロッパにとても適していると思います。優れた機能を持ち、重さも非常に軽いとなればこれらの国々には選ばれるでしょう。こうしたお客様の選択はアメリカ政府からの意見にも打ち勝つものであると思います。アメリカは強硬な主張をしていますが、お客様は自らに合わせた決断をされることでしょう。

08 記者: この問題にはファーウェイに対する信頼の問題と、中国政府に対する信頼の問題があります。中国政府がファーウェイにデータの提出を求めれば、ファーウェイは必ずデータを提出しなければならないのでしょうか。

任正非: まず、中国政府がこのように求めてきたことはありません。

また、中国共産党中央政治局委員、中央外事工作委員会弁公室の楊潔篪(ヤン・ジエチー)もミュンヘン安全保障会議にて「中国企業がバックドアを設置することは決して許可しない」と発言していますし、李克強(リー・クォーチャン)首相も今年3月の全国人民代表大会の記者会見にて「中国企業がバックドアを設置したり、情報を傍受することは認めない」と話しています。これが政府の法律解釈です。

そして、ファーウェイはデータを取得することができません。ファーウェイは素の状態の機器を通信キャリアに提供しており、通信キャリアが機器を運用して初めてデータが発生します。通信キャリアは主権国家の管理のもと運用を行うわけですから、その国の法律を守る必要があり、法に反することはできません。

我々はデータを取得できませんし、そのようなデータを必要ともしていません。この点についてはアメリカの主張はおかしなものです。自動車と同じで、自動車を使って悪事を働くこともできますが、何を運ぶのかはドライバーが決めることで自動車メーカーに責任はありません。同じ理屈で、我々は「トラック」を生産する会社に過ぎません。

09 記者: 2018年12月1日、アメリカの要求によってご息女の孟晩舟がカナダで逮捕されました。現在までで軟禁されて1年近くになりますが、これは任CEO個人にとって大きなショックだったのでしょうか。一人の父親として、どのような影響がありましたか。

任正非: 父親として、もちろん子供を気にかけていますし、心配もします。ただ、試練や苦難を経験することは彼女の人生の成長にとっていいことです。中米間の貿易戦争の中で、彼女は2つの大きな「ボール」に挟まれた一匹の「小さなアリ」のようなものです。このような状況に置かれたことを、彼女は誇りに思うべきです。世界で2つの国が争う中、彼女そのものが交渉材料の1つになっているのですから。

そして、孟晩舟は罪を犯したことはありません。アメリカの指摘は真実ではなく、いずれ法律から公正な結論が出るでしょう。ですので、彼女は落ち着いています。

現在は彼女の母親と夫が交代でカナダに行き、付き添って気持ちを落ち着けています。普段は勉強や読書、絵を描いたりして気持ちを整えています。カナダの法律が公平、公正かつ透明にこの問題を解決する日を待つだけの我慢強さが彼女にはあります。

記者: 彼女がアメリカに引き渡されないという自信はありますか。

任正非: それは大丈夫でしょう。加えて、我々はアメリカで訴訟を起こしており、ニューヨーク州東部地区での裁判に勝訴できると自信を持っています。我々の会社にはアメリカ政府と法律の世界で勝負をするだけの実力があると証明することになり、アメリカ政府も今後軽々しく我々を攻撃することはできなくなるでしょう。

記者: 前回孟晩舟とお話をされたのはいつですか。

任正非: 3、4日前です。

記者: 普段はどれくらいの頻度で連絡をとっていますか。

任正非: 特に決まった時間はありません。時々ネット上の面白い話を転送したり、電話をしたりします。

記者: 孟晩舟がカナダで軟禁されている中で親子関係がより緊密になったと感じることはありますか。

任正非: はい、これまで以上に近づきました。以前は孟晩舟から年に1回も電話やショートメッセージが来なかったのです。もちろん当時は子供たちが努力をして頑張っていると分かれば嬉しかったものです。現在では、関係性がより近づきました。

記者: カナダでの軟禁が彼女をより強くすると思いますか。今の試練が彼女のリーダーシップを高め、深圳に戻ったのちにこれまで以上にファーウェイでいい仕事ができるようになるのでしょうか。

任正非: このような試練は一人の人間の意志に大きな影響を与えます。彼女はさらに成長するでしょう。ただ、ファーウェイに戻っても特別に重視をされるということではありません。彼女はCFOに過ぎず、財務の仕事だけに関わります。ファーウェイのリーダーには技術に関するバックグラウンドが求められます。これがなければ戦略への観察眼が生まれず、そのような人間が会社をリードしても会社は明確な方向性を失い、次第に競争力を失うことになります。ですから、彼女が戻ったとしても元の仕事に就くというだけのことです。

記者: 軟禁中でもなんらかの身分でファーウェイの仕事をしているのでしょうか。仮にそうであれば、どのようなプロジェクトを担当していますか。

任正非: 今の仕事はすべてオンラインで処理する内容であり、日常的な管理には関与していません。梁華(リャン・ファー)を代理のCFOに任命し、すでにその職務に当たっています。梁華はかつてCFOを務めており、それを引き継いだのが孟晩舟でした。その後梁華は会長に転じましたが、孟晩舟に危機が生じたため代理のCFOも兼職することとなり、CFOとしての責任を担っています。孟晩舟も時にオンラインから意見を表明することもあります。現状はそのような状態です。

10 記者: カナダに自ら行かれて孟晩舟に会おうというお考えはありますか。

任正非: それはトランプさんが認めるかどうか次第です。彼にカナダへと招かれれば、私は行くでしょう。

記者: トランプ大統領は以前に、米中貿易戦争の解決につながるのであれば孟晩舟の案件に介入する可能性があると話しています。現時点でもファーウェイはこのような姿勢を歓迎していますか。

任正非: もしトランプ大統領が孟晩舟問題の解決に介入できるのであれば、孟晩舟の問題は犯罪ではなく取引ができる問題だということになります。取引の条件とは中国政府が貿易面でアメリカに大幅に譲歩し、その交換として孟晩舟の話が出てくるのでしょう。

中国は全体的にはまだ貧しい国だと思います。現時点でまだ数千万人の貧困層がいます。国連の貧困線の基準は1日1.9ドルの生活費ですが、中国での貧困線の基準は1.2ドルです。国連基準に合わせれば、中国の貧困層の数は中国政府が公表している数千万人という数よりもさらに多くなります。来年、中国ではこの数千万人の貧困層が貧困から抜け出せるように力を入れることになりますが、もしアメリカに対して貿易条件のさらなる譲歩をするとなると、孟晩舟の自由のために貧しい人々のお金を使うことになります。

そのようなやり方は検討していません。皆さんは中国の西部地域に行かれたことはないかもしれませんが、西部地域にはとても貧しい人もいます。現在の貧しい子供たちの写真をお持ちしましょうか。貧しい人々のお金と引き換えに我々の自由を手に入れるようでは、我々の良心が痛みます。

我々は自信を持っています。罪は犯していませんし、カナダの法律の下で裁判にも勝訴できると確信しています。もちろん、アメリカの法律も信頼しており、アメリカニューヨーク州東部地区の法廷でも勝訴しなければなりません。

11 記者: ご息女が逮捕されて2日後、Michael KovrigとMichael Spavorという2人のカナダ人が中国で逮捕されました。しかし彼らの境遇は孟晩舟とは違い、電話をかけることも家族に会うことも許されず、行動の自由もありません。彼らの待遇について考えられたことはありますか。彼らは公正な待遇を受けていると思いますか。

任正非: 私は今でも中国が逮捕した2人のカナダ人の名前や彼らがどのような人なのかを知りません。

なぜならそれは我々とは関係のないことだからです。我々が気にかけているのは孟晩舟が軟禁の中で寛容な待遇を受けられるかどうかであり、彼女は釈放されるべきだと考えています。アメリカがファーウェイという会社に対して訴訟を起こしたいのであればニューヨーク州東部地区裁判所で争えばよいのです。孟晩舟はあくまで個人であり、彼女はファーウェイそのものではありませんし、ファーウェイとしても会社の責任を孟晩舟に担ってもらう必要もありません。アメリカニューヨーク州東部地区裁判所での訴訟に対応するだけの自信はありますし、それとこれとは別の話なのです。

中国とカナダの両国間でどのようなやり取りがなされているのかは我々にはわかりません。我々は国家を代表しているわけではないのです。

記者: 1人の父親として、今でもあなたは孟晩舟とやり取りを行うことができ、軟禁中にお2人の親子関係はより緊密になりました。中国に拘留されている2人のカナダ人、Michael SpavorとMichael Kovrigについても、彼らの父親は同じような待遇を受けるべきだと思いますか。

任正非: このお2人の状況や法律についての状況を把握しているわけではありませんので、この件に対してはコメントをすることができません。

12 記者: 続いて、任CEOのリーダシップについてお伺いします。任CEOはファーウェイの創業者であり、またかつては人民解放軍の軍官でした。ファーウェイ社員との会話の中でも軍事用語がよく使われています。ご自身がファーウェイを率いて未来を守るために戦う将軍のようだと感じることはありませんか。

任正非: 私は将軍ではありませんし、なにか階級を授けられたこともありません。当時は中国の軍隊の下級軍官に過ぎませんでした。ジョージ・W・ブッシュよりは軍隊内での序列は高かったかもしれませんね。彼は中尉であり、尉官クラスの幹部ですが、私は佐官レベルの幹部でした。ただ、中国ではこれは本当に下級軍官にしか過ぎないものです。

また、企業としては組織と規律が必要であり、ばらばらになっていてはいけないのです。これはアメリカのウエストポイント士官学校から学びました。ウエストポイント士官学校の以前の校長に会ったことがあり、「若いころはアメリカのウエストポイント士官学校をとても崇拝していました。その管理方法、教育方法、そしてウエストポイント出身者の努力を崇拝していたのです。」とお伝えしました。会社ではかなり早い時期からウエストポイントの考え方や方法論を多く導入してきました。特に成績不振者の淘汰についてです。ただ、かつては対象を広げすぎました。一般の社員までこの体系に組み込んだことは少し酷だったかと思います。今になってわかりましたが、淘汰する必要があるのは管理層であって、普通の「兵卒」ではありません。管理層の淘汰によってマネジメントの仕事に圧力がかかると、我々の進歩につながります。

未来に向けて、我々は非常に難しい時期にあります。例えばアメリカが再度外部環境を変更させるのであれば、我々はどうすればよいのでしょうか?必ず対応策が必要です。つまり組織的な行為が必要ということです。その中で一部説明の難しい言葉もあるので軍隊の言葉を借用しています。ただの言葉であり、実際の軍事組織があるというわけではありません。

13 記者: 任CEOのリーダーシップのスタイルはとてもファーウェイに適していると思います。香港の指導者に対して、現在の動乱や抗議活動を収束させるためにリーダーシップという観点からなにかアドバイスはありますか。

任正非: 香港と中国本土は「一国二制度」です。香港は資本主義の道を、本土は社会主義の道を歩んでおり、同じ制度ではないのです。香港の問題は香港自身で解決するべきで、我々からの提案はなんら意味をなさないでしょう。

また、香港の問題は我々とあまり関係がありません。今関心があるのはどのようにして我々自身の「穴」を埋めていくのかということであり、香港問題ではありません。我々は政治家ではありませんので、香港問題にはあまり着目していません。香港にショッピングに出かけることは減りましたが。

記者: 先週末、香港では民主派が圧勝しましたが、これについてはどう見られますか。また中国ではどのような見方があるのでしょうか。香港と中国本土の間の摩擦を激化させるものでしょうか。

任正非: 「一国二制度」の法律体系の中で認められている行為は合法かつ有効です。香港の根本的な問題はどのようにして繁栄に向かうのか、そしてどのようにしてこの繁栄をすべての住民が分かち合うのか、ということです。これこそがすべての指導者にとって最も重要な使命であり、政治用語として民主であるか否かということを説明することではありません。今日の、そして未来の指導者が最も重点的に考えるべきことは香港が繁栄に向かう道です。人々がみな豊かになることこそが我々の願いなのではないでしょうか?

記者: 任CEOは香港の抗議者や彼らの主張する目標に対して同情的な見方をされていますか。

任正非: 実態を把握していないので同情もなにもありません。。暴力的な行為には徹底的に反対します。このような暴力的な行為は間違っています。人々は自由に思想を表明することができますが、暴力的な行為に走ってはいけません。これはアメリカでも許されないことです。

記者: では平和的な手段で抗議をする人々や彼らの目標に対して同情的な見方はされますか。

任正非: 同情するかしないかということにはなりません。私は彼らの主張を分析したことがないからです。彼らが今やっていることはわかりませんし、彼らが何を求めているのかも知りません。私が言えることは、「一国二制度」の下で平和的な手段は制度として認められているということであり、私が彼らを理解するかどうかという話ではないのです。ただし、極端な行動によって周辺環境を破壊することは許されません。これは間違っています。

記者: アメリカでは香港の側に立って争う議員もいます。彼らが香港問題に関わることで、中米間の貿易戦争や技術戦争、ファーウェイの今後のアメリカでの発展はさらに複雑な情勢を迎えることになります。これについてなにかご意見はありますか。

任正非: マルコ・ルビオ氏の発言を聞きました。中国外交部はアメリカに対して香港内政に干渉していると抗議していますが、ルビオ氏が言うにはアメリカが法案を採択して香港に干渉することは「アメリカの内政」だそうです。これはとんでもないジョークでしょう。

14 記者: ファーウェイはアメリカでのパートナー関係や業務を立て直す必要があると思いますが、現在の香港情勢や香港での抗議活動がファーウェイのアメリカでの業務の立て直しをより難しくしているのではないでしょうか。

任正非: 香港とファーウェイの業務の立て直しにはいかなる関係もありません。香港は商業的な貿易センターであり、テクノロジーセンターではありません。我々に製品や部品を供給する場所ではないのですから、香港は我々の世界でのいかなる協業関係にも影響を与えません。

記者: 仮にトランプ大統領が「香港人権・民主主義法案」に署名し、法律として成立した場合、これは中米間の貿易戦争に影響を及ぼし、ファーウェイの未来に影響をすることになる、という見方は正しいのでしょうか。

任正非:影響することはありません。すでにアメリカ市場に力を入れていないのですから、影響するはずがありません。アメリカの人々が我々を必要としていないのですから、我々もアメリカの人々にサービスを提供しようとは思っていません。

記者: ファーウェイはすでにアメリカ市場を完全に放棄したのでしょうか。

任正非: アメリカ市場を完全に放棄したとは言えません。我々もアメリカ憲法から与えられる権利を争う必要があります。ただ、アメリカの人々からサービスの提供を断られ、例えばAT&Tやベライゾン(Verizon)のような通信キャリアから製品を調達してもらえないとなると、我々が友好的な心を持っていたとしてもアメリカの人々にサービスを提供することはできません。アメリカは自由な社会です。開放的な姿勢で世界の様々な力を受け入れるべきですが、アメリカは現在この姿勢に反することをしています。このままで将来も世界をリードすることはできるのでしょうか?

15 記者: 任CEOはファーウェイに勤めて30年以上になり、ファーウェイを世界最大の通信機器ベンダー、そして世界第2位のスマートフォンメーカーにまで押し上げました。現在の中米間の貿易戦争、技術戦争によって引退することができなくなってしまったのではないでしょうか。長年の仕事できっとお疲れでしょう。

任正非: アメリカの貿易戦争や技術戦争とファーウェイの間にはあまり大きな関係性はありません。私の引退については、会社の生き残りと発展の問題を解決するまではがんばりたいと思います。この問題が軌道に乗れば、私は仕事量を段階的に減らしていくことになります。実は私の会社での仕事はかなり少なくなっていて、主に常務取締役会と輪番会長が日常的な業務をサポートしています。時には彼らから意見を求められることもありますが、聞きに来なければ私も知らないようなことです。私の会社での役割はすでに薄れてきています。もう少し薄れればなくなるでしょう。ですから、自分の身の引き方についてはあまり心配していません。短期間のうちにはその予定はありませんが、決まった時にはお知らせします。