ファーウェイ創業者兼CEO任正非 米国CNBCによる取材筆記録

2019年6月19日

2019年6月19日、中国・深圳のファーウェイ本社にて、当社創業者兼CEO任正非が米国CNBCによる取材を受けました。以下はその筆記録です。

Ren Zhengfei

Q1 記者: 昨日、トランプ大統領は、中国の習近平主席と会談したとツイートしました。アメリカはファーウェイを貿易戦争の中心に位置づけています。これについてどう考えますか。

任正非: 第一に、ファーウェイは米国内での販売がないため、中米間の貿易問題は当社と無関係です。第二に、中国と米国は2つの非常に大きな「球」であり、その中で我々はゴマ粒のようなものです。緩衝の役には立ちません。米国は法治国家です。ファーウェイと米国の問題は法律によって解決されるべきです。裁判所の判決を信じています。

Q2 記者: たしかに、ファーウェイのプレゼンスはアメリカではあまり高くありません。ファーウェイは意思に反して、途中で貿易戦争の中心に引きずり出されてしまいました。トランプ大統領がG20で習近平主席と会談した際、ファーウェイが取り上げられることを期待していますか。

任正非: 当社はそこまで重要ではないでしょう。偉大なお二人の対談で当社が取上げられるなど、あまり現実的ではありません。

記者: しかし、これは事実です。トランプ大統領も、他のアメリカの役人たちも、ファーウェイに関する議論に多くの時間を費しています。

任正非: 彼らは元気でパワフルです。数ある関心事の中からファーウェイのことを、苦労も厭わず、我々になり代わって懸念しています。このことに感激しています。当社はそのような身分ではないのに、彼らは高く持ち上げてくれました。

記者: 任CEOはファーウェイは注目に値しないと思うかもしれませんが、事実、アメリカでは、トランプ大統領を含む多くの政治家がファーウェイをめぐる議論に多くの時間を費しています。

任正非: それは我々が屈しないからかもしれません。どんなに叩いても倒れません。倒れる気配さえありません。終わりが見えない中、懸念を持ち続けるのは米国も疲れるのではないでしょうか。米国政府とは各方面からコミュニケーションを進めています。米国は法治国家ですので、裁判所でのやりとりがすなわち米国政府とのやりとりになります。双方が裁判所に証拠を提出し、判断は司法にゆだねます。我々が間違っているのか、いないのか、あるいは部分的に間違っているのか、判決を下すことこそが重要です。交渉カードになるほど価値があるとは思いませんし、そうするつもりもありません。

Q3 記者: 任CEOの望みに反するかもしれませんが、トランプ大統領はファーウェイが交渉の切り札であると発言しており、制裁による攻撃がすでにファーウェイのビジネスに影響を与えているのも事実です。任CEOも今週初めに、事業収入に300億米ドル(約3兆2,805億円)の影響が出る可能性があるとおっしゃいました。

任正非: 300億米ドルは我々にとって大きな問題ではありません。今年の当社の売上は1,000億米ドル(約10兆9,350億円)を超える見込みです。つまり我々の基本的な状況は変わっていません。いくつかの非中核製品を廃止しましたが、米国の制裁措置が我々に大きな影響を与えることはないでしょう。

記者: 多くの人は300億米ドルを重大な影響だと捉えるのではないでしょうか。それは昨年の売上のほぼ3分の1に相当します。株主であるファーウェイの従業員に影響が出るのではありませんか。

任正非: そうではありません。今年の計画は約1,350億米(約14兆7,623億円)ドルで、仮に収入への影響が約300億米ドル出たとしても、まだ約1,000億米ドルあります。現時点では、ファーウェイの売上は増加しています。5月末で20%以上増加しました。将来は減少に転じる可能性が高いと予測していますが、まだその兆候はありません。昨日の報告でもまだ増えていました。したがって、年末にはどのような状況になっているのか、まだよくわかりません。いずれにせよ、我々にとって300億米ドルの減少は許容範囲です。当社は上場していないので、あまり気にしていません。それよりも本物の経営品質を大切にしています。

Q4 記者: ファーウェイで最も急成長しているコンシューマー事業、スマートフォン事業の業績についてうかがいます。ファーウェイは今週初め、スマートフォンの出荷台数が40%減少したと発表しました。最も急成長している事業が米中間で起きている問題によって打撃を受けているなら、どのようにして事業成長を維持するのでしょうか。

任正非: コンシューマー製品は中国市場では減少していません。海外市場では最大で40%減少した時期がありました。現在は回復しており、海外での減少幅はすでに20%未満にまで縮小しています。そしてなお急速に回復しています。したがって、総合的に見ると、コンシューマー事業全体の年間業績はそれほど減少しないと予想します。

全社では、2019年の当初計画であった1,350億米ドルから、約1,000億米ドルに減少する可能性があります。これは2018年実績に相当します。一方で利益は増えています。利益成長率が予想よりも速く伸びています。利益の急上昇は戦略的投資の強化の必要性を示唆しています。そのため、財務報告はわずか数分で終了します。予想よりもはるかに好調なため、報告を受けなければならないことがないのです。

Q5 記者: 先ほど、利益は最も重要ではないとおっしゃいました。しかし、ファーウェイの利益に応じて配当を受けている株主従業員はいかがですか。彼らはどのように感じていますか。任CEOは彼らと話していますか。

任正非: 従業員は、ますます張り切って、ますます努力しています。今回の制裁には勝たなければならないし、勝てると考えています。皆自信に満ちています。機会があれば従業員と話してみてください。

記者: 従業員は、利益が減り、給料が減っても気にしないだろうとお考えですか。

任正非: 第一に、賃金は下がらないでしょう。我々は十分な給与支払能力を持っています。また、インセンティブ構造の改変を進めており、重要な局面で優れたパフォーマンスを発揮した多数の従業員に破格の昇進や昇給で報いています。長期利益は年末の損益計算書を見る必要があります。年初の計画を下回る可能性はありますが、私の予想は大きく上回っています。収益も非常に好調ですので、安心しています。もう財務報告は受けないようにし、技術的な問題に関心を向けています。

Q6 記者: Googleとの関係をどう評価していますか。GoogleのAndroid OSにアクセスできない場合はどうなるのでしょうか。

任正非: Googleは優れた会社です、我々も彼らをとても尊重しています。両社は同じ側の立場で利益を得ています。Google OSを実装しない場合、Googleは将来的に7億~8億のユーザーを失う可能性があります。毎年2〜3億人の新規ユーザーがGoogleを使わないことになるからです。この損失は非常に大きいです。当社も短期的にはある程度売上が減少し、損失を出すでしょう。ですのでこれは共通の問題です。ファーウェイはGoogle OSを勝手に置き換えることはしません。しかし、仮にアクセスできなくなってしまった場合、我々は自社OSに切り替えることができます。売上も回復するでしょう。

記者: ユーザーはそれを受け入れますか。すでにファーウェイ・フィリピンは、自社製品がGoogleやFacebookのアプリを実行できない場合、全額を払い戻すと発表しています。さらに多くのユーザーがこれを要求したらどうでしょうか。

任正非: 現在、国際市場でいくつか影響がありますが、それほど大きくはありません。当社の端末には、カメラ機能など、Googleに依存しない多くの新機能があるためです。Googleが当社に提供する最も重要なものはエコシステムです。Googleのエコシステムは大変優れています。

記者: ユーザーが、Android OSをサポートしないファーウェイ端末は使いたくないとすでに言っているとしたらどうでしょうか。どうしてこれほどの確信があるのでしょうか。

任正非: 米国は世界で最も強大な国であり、米国政府は世界中で我々に圧力をかけています。しかし現在、当社の製品を購入する顧客はますます増えています。これは顧客の信念の強さが米国政府のそれを上回っているという表れです。よって大きな影響はありません。当社の各システムから得られる統計レポートを見ても明らかです。さほど大きな圧力ではありません。

記者: 私の質問は、ユーザーがAndroid OSよりもファーウェイ OSを選択するだろうと確信している理由についてです。このことがこれまでに受けた打撃以上の悪影響をビジネスに与えないと確信している理由は何ですか?

任正非: 今が最悪の時期であり、今後影響は減っていくでしょう。当社では8万人以上の従業員が研究開発に従事しており、研究開発への投資額は年間150~200億米ドル(約1兆6,403億~2兆1,870億円)にのぼります。自らの生存と成長の問題を解決できないわけがありません。これが我々の自信の基礎です。

記者: 申し訳ありませんが、もう一度おたずねします。ユーザーがファーウェイ OSを使用しするだろうと自信を持っている理由は何ですか?仮に8月中旬にGoogleがファーウェイにAndroid OSを提供できなくなった場合、どうなるでしょうか。

任正非: 何も起きないでしょう。一部でファーウェイが選ばれなくなるだけです。しかし我々を選んでくれる人もいます。

Q7 記者: ファーウェイがアメリカで追求している戦略に特許ライセンスの強化があります。しかし現在、それも脅かされています。マルコ・ルビオ上院議員がこれを防ぐ法案を提出しています。これについてどうお考えですか。損失を特許ビジネスでカバーすることに関して、今何が起きていますか?

任正非: 米国は法治国家であり、最も多くの特許を有する国です。彼の提案が仮に米国議会で可決されれば、米国の法治国家としてのイメージは影響を受けないでしょうか。77億人の人々がどう評価するかであって、私が意見することではありません。

Q8 記者: これまでの発言から、任CEOがアメリカを賞賛していることは知っています。また、任CEOは歴史にも造詣があり、帝国や国家は時の経過とともに衰退する場合があることもご存じでしょう。なぜ任CEOはこれほどまでにアメリカを深く信頼し、アメリカがファーウェイを公正に扱うと確信しているのでしょうか。

任正非: 200年以上前の米国はまだ原野でした。この200年あまりで、米国はなぜ世界最強の国になれたのでしょうか。それは開放的だからです。世界の優れた人材が渡米を望んでいます。法制度、イノベーションの仕組み、そして財産保護システムも完璧です。それゆえ米国は台頭しました。したがって、我々も台頭できるよう、彼らに学ばなければなりません。

米国の長い歴史の中で、現在起こっているいくつかのことは短いエピソードに過ぎず、米国の歴史全体を代表しているわけではありません。米国に対する我々の敬意は変わりません。挫折によって変わるものでもありません。ちょうど子どもの頃、父母にお尻を叩かれても親を恨まないのと似ています。ファーウェイが何十年間、父母とともに過ごす中で、叩かれた時間はものの十数秒程度です。わずか十数秒で家族関係を壊すことはできません。現在の米国政府はファーウェイを叩いていますが、次の大統領はどのような考え方をするかわかりません。

Q9 記者: 任CEOは以前、ナンバーワンは慢心に陥る恐れがあるとおっしゃいました。アメリカは世界一の経済大国ですが、慢心している、または慢心する恐れがあるとお考えですか。

任正非: 可能性はあります。慢心と自己満足に陥らなければ、落伍することはなかったのではないでしょうか。

Q10 記者: 任CEOがおっしゃった比喩ですが、確かにファーウェイのアメリカとの関係は親に叩かれる子どもに似ています。度を越して激しく打たれるのではないかという心配はありませんか。ファーウェイの生き残りを心配していますか。

任正非: 心配していません。米国のエンティティリストにより当社が受けた打撃は、一部の非中核製品が減少した程度です。非主力事業を一部削減または閉鎖することになりますが、世界でリードしている主力製品はいかなる影響も受けません。

Q11 記者: 任CEOは、2021年に米国の攻撃による苦痛が終わったときに新しいファーウェイが生まれるとおっしゃいました。どのようにして成し遂げるつもりですか。アメリカの輸出禁止が解除されると仮定していますか。

任正非: 我々は自分自身を「おんぼろ飛行機」にたとえています。機体は打たれて穴だらけですが、エンジンと燃料タンクはまだ良い状態で、飛行しながら穴を修理できます。穴がふさがれば元通り飛べるでしょう。米国が我々への制裁を解除するからではなく、自分で飛行機を修理するので飛行を続けられるのです。

記者: どうやって準備しているのですか。ファーウェイは現在、アメリカのサプライヤーに頼らないことを最終目標としてチップを自社開発していますか。任CEOがおっしゃったその飛行機を修理するためにどのように準備しているのでしょうか。

任正非: いつでも、どこでも準備しています。終わりたくないからです。そのためには問題や欠陥を正さなければなりません。機体のどの穴が一番大きいかを見て、そこから直します。大きな穴がふさがったら小さな穴をふさぎます。全部直したら自由に飛ぶことができます。

Q12 記者: 2年後、ファーウェイはまだアメリカから同量の部品を購入していますか。

任正非: もっと買うかもしれません。米国のサプライヤーは長年にわたりファーウェイに尽くしてくれました。米国の会社が我々と取引できるようになったとき、当社が買わなければ、良心に背くことになります。ですので間違いなく買います。米国が当社に買わせないのは当社の責任でしょうか。ファーウェイは今後も買い続けたいと考えており、発注もしています。先方は承認を得るためにワシントンに行かなければなりません。承認されれば当社への販売が可能になり、当社も買います。ワシントンが許可しなければ別の方法を考えなくてはなりません。

記者: そうした他の方法を見つけることは可能でしょうか。準備はすでに整っているのですか。それは何ですか。

任正非: はい。たくさんあります。まずすべての穴をふさがなければなりません。今は穴だらけです。すべての穴をふさいでこそ飛行機は飛び続けられます。この写真をご覧ください。まさにこのおんぼろ飛行機のように、我々も満身創痍です。修理方法を体系的に説明することはできません。もし興味があれば、現場の従業員に取材して聞いてみてください。彼らはきっと説明してくれるでしょう。私は「修理工」ではありませんので。2年後にまた取材を受けたいと思います。今日より良くなっているかどうか、ぜひ見に来てください。

記者: ぜひ拝見したいです。とても興味深いです。まだ真にそこまで到達する方法や戦略について回答をいただいていません。ファーウェイは他の海外サプライヤーと協業するのでしょうか。それともすでに始めているコンポーネントの自社製造の比率を引き上げるのでしょうか。

任正非: いずれの方法も可能です。しかし最も重要なことは我々自身の力で会社の能力を向上させることです。

Q13 記者: 米中間の貿易協議がまとまることを願っていますか。

任正非: 当社は米国での売上がほとんどないため、中米貿易とは無関係です。 中米貿易という壮大な問題について両国で交わされるやりとりの中身は知るよしもありません。我々が気にしているのは、我々自身のささやかなことです。協議では当社が取り上げられないことを望みます。相応しくありません。

記者:トランプ大統領や米国当局者と話しましたか。

任正非:ニューヨーク州東部地区連邦裁判所とテキサス州裁判所とのやりとりをアメリカ政府とのコミュニケーションと捉えています。裁判を通じて問題解決を図るのが適切だと思います。

記者: たとえばの話ですが、トランプ大統領本人が任CEOに電話をかけてきたら話をしますか。

任正非: もちろん歓迎します。我々はコミュニケーションをとり、協力しあい、Win-Winの関係になれると考えます。情報化社会は非常に大きいので、おのおのが自身の強みを出し合って、情報化社会を構築するためにともに働くのです。ファーウェイは狭い範囲で小さな成果を上げただけで、残る広い範囲では、依然として米国が最も強力です。ですから、皆で協力して情報社会を築いてはどうか、私はこうお伝えしたいです。

記者: ファーウェイに関する国家安全保障上の懸念について彼に何と語りますか。

任正非: こうもお伝えしたいです。大気圏の厚さはわずか1,000キロメートルあまりです。一方情報社会のクラウドの厚さは、数千キロメートルは下らないでしょう。膨大な市場が開けています。チャンスにもあふれています。このきわめて大きな情報社会は、ゼロサムゲームではなく、皆で共同で築くものです。ファーウェイははコネクションの分野でほんの少しリードしているだけです。米国には大きな力がありますので、このビッグクラウドでより高いシェアを占有できるでしょう。

Q14 記者: 貿易戦争におけるファーウェイの役割と、ビジネスで受けているさまざまな打撃について、中国の主席や他の政府高官と話しましたか。

任正非: 彼らに会い、そのような特定の問題について話す機会がどうしてあるでしょうか。ファーウェイの問題は中国政府のデスクに置かれていますが、小さな問題にすぎません。米国のデスクに置いた場合はゴマ粒程度の問題にもならないでしょう。よって机上に持ち出して議論する価値もありません。当社は自分たちで問題解決する力があります。我々はまだ米国の法律を信じており、法を通じて米国との関係を解決します。

記者: ファーウェイには18万人の従業員がいます。また中国だけでなく世界でも有数の大企業です。ファーウェイのような、中国や世界にとって重要な会社が中国の政府高官と話すのは特別なことには思えませんが。

任正非: 問題を完全に解決する自信があるのに、助けを求める必要があるでしょうか。米国の制裁措置が発表されてしばらく経過しましたが、会社はさほど変わっていません。会社を見学されれば、従業員がまったく動揺していない様子をご覧になれるでしょう。業務も生産も通常通り行われています。特に生産ラインをご覧になってみてください。相変わらず勢いよく稼働しています。我々には助けを求める必要がありません。

記者: ファーウェイが助けを求めるかどうか聞いたのではありません。おたずねしたのは、中国の政治家と話をするかどうかです。ファーウェイに何かあれば、中国経済に影響が及びますよね? 今はそうではないかもしれませんが、ファーウェイのビジネスが減少し続ければそうなるでしょう。ファーウェイの収入はアリババとテンセントの合計を上回っています。

任正非: 主な理由は、我々が圧力を感じていないからです。当社はこの打撃を試練だと捉えています。この列火を無事くぐり抜けることができれば、ファーウェイは脱皮してさらに強くなります。中国には2つのことばがあります。「浴火重生、鳳凰涅槃」(訳注:鳳凰は火を浴びて再生し涅槃に至る、すなわち苦難を経て生まれ変わるの意)、そして「鳳凰は不死ゆえに鳳凰と知る」です。業火の中から助かる方法を自分たちで考えれば、さらに強くなれます。また、抜擢して昇進させるべき優れた人材を見出すこともできます。逆もまた然りです。このようにして、ファーウェイの組織は3~5年後にはより強く、より整ったものになるでしょう。その頃には苦境を脱し、次の一歩を踏み出す基礎が整っているかもしれません

記者: ファーウェイのビジネスについて中国当局と話をしないという意味でしょうか。

任正非: はい。例えば家族の中に子どもが2人いて、うち1人の子どもが両親に気に入られている場合、この子は一般的に大成しません。もう1人の、父母にさして構われなかった子の方がかえって抜きん出た能力を発揮するものです。なぜかというと、父母の溺愛、過保護が過ぎると、進取の気性が育たないからです。

当社は30年間、自分たちだけでやってきました。おかげで、まるで鉄筋鉄骨造りの家のように、圧迫されても打たれても潰れないほど鍛えられました。今回も、自分たちの力で、立ち上がって前に進まなければなりません。必ずや生き残れると信じています。ですから先ほどファーウェイを「おんぼろ飛行機」にたとえました。機体は穴だらけ、傷だらけでボロボロです。早く直すよう伝えています。18万の従業員が一斉に「修理」に取り組んでおり、誰がどこを直しているのか、私は細かく見ていません。

記者:ファーウェイが子どもで、中国政府が親だとすると、子どもは親と話をするものではないでしょうか。ファーウェイが(中国政府の)役人と話し合っていないというのは信じがたいです。米国では、企業は定期的に議員と話をします。

任正非: 米国の会社は法律を遵守しなければなりません。そして、彼らが政府と交流を持つのは普通です。しかし、ファーウェイと米国との関係に関しては、我々は自ら困難を乗り越えることができるため、助けを必要としません。

Q15 記者: ファーウェイに対する輸出規制はすでにファーウェイと取引のあるアメリカの会社に影響を及ぼしています。それはこうした企業の売上や利益の予測に現れています。彼らはファーウェイに代わってアメリカの当局者と話をしているのですか。彼らは輸出禁止解除を求めているか、少なくとも何らかの免除を受けようとしているのでしょうか。

任正非: 米国の制裁解除は彼らの力の及ぶ問題でしょうか。彼らが制裁を解除できるかどうかわかりません。したがって、ファーウェイへの攻撃は双方にとって苦痛です。当社の売上は減少しますし、彼らの売上も減少するでしょう。彼らは上場企業ですので、影響はより大きいかもしれません。我々は上場していないので、株価下落の責任を負う必要はありません。非上場ゆえのメリットです。

記者: 任CEOや役員はアメリカのサプライヤーと話していますか。

任正非: ファーウェイの上級管理職は、考え方や認識がある程度統一されています。米国政府の攻撃を受けても経営幹部が分裂することはありません。当社は米国のサプライヤーと積極的に連絡を取り、出荷を要請し、継続的に発注する必要があると考えています。米国が制裁したから我々も発注しないというのは良くありません。当社が発注していなければ、仮に制裁が解かれても、彼らも出荷できません。したがって、現在も出荷を要求しています。これと出荷しないことは分けて考えています。

我々は今も米国企業を尊重していますし、大切にしています。また彼らに助けられもしました。今、彼らも苦境に立たされています。我々と組んでいるせいで困難に直面しています。しかし、私に何ができるでしょうか。これは米大統領が意図したことであり、私にこの局面を変える力はありません。

記者:彼らはファーウェイに代わって訴えているのでしょうか。

任正非: 私にはわかりません。

Q16 記者: 貿易戦争で失うものが大きいのは中国とアメリカのどちらだと思いますか。

任正非: 貿易戦争は私と何の関係もありません。米国と中国のどちらが多くを失うのかあずかり知るところではありません。ファーウェイは米国内では販売を行っていないため、関税引き上げも我々には関係ありません。いかなることにも関わっていませんし、中米貿易戦争に関心を持っていません。

記者: 任CEOはグローバル企業の最高経営責任者です。世界中でビジネスをしています。貿易戦争の結果には関心がないのですか。

任正非: ありません。

Q17 記者:アメリカでビジネスができるかどうかについて気にしていますか。ファーウェイがアメリカ市場への参入を主張する一方で、Google、Facebook、Twitterなどのアメリカ企業が中国でビジネスを禁止されていることは、適切だと思いますか

任正非: いいえ。私はファーウェイが米国で長くビジネスを行うことは不可能だと見積もっています。ですので、米国市場に参入できるかどうか、私は気にしていません。たとえ米国が我々に市場を開放しても、体系作りには長い時間がかかるので、うまくいくかどうかもわかりません。

米国はファーウェイの市場への参入を禁止し、中国は他の企業の参入を禁止していますが、これは主権国家各々の行いであり、ファーウェイとは無関係です。

記者: ファーウェイはアメリカ市場への参入を求めていないのですか。

任正非: 求めていません。労力の浪費はしません。

記者: リソースの浪費でしょうか。ファーウェイはアメリカに多くのリソースを投じています。繰り返しますが、あなたはこのように私のインタビューを受けています。ロビイストを雇っています。定期的にアメリカのメディアと交流するためにエグゼクティブを雇っています。近づきたくないのなら、なぜこれほどするのでしょうか。

任正非: 米国市場に参入するためではなく、誤解を解消するためにメディアリソースを投入しています。米国政府は国内のみならず、世界中でロビー活動をしています。ポンペオ氏は行く先々で話をしていますし、トランプ氏が各国を訪れて話す3大トピックの1つはファーウェイについてです。したがって、ファーウェイも米国で発言し、影響を与える必要があります。

Q18 記者: Dヨーロッパやオーストラリアなど、現在御社との関係を検討している他の市場にについては懸念していますか。

任正非: 欧州の顧客とは20年の付き合いがあり、顧客は我々を非常に信頼しています。欧州各国は今のところファーウェイを排除していません。ですので、欧州の顧客へのサービスを強化する必要があると考えています。この考えは変わりません。

記者: その市場を維持することはどれほど重要ですか。それはファーウェイとの取引をやめるよう同盟国に圧力をかけるアメリカの行為によって変わってくるものですか。

任正非: 米国の圧力の影響はほとんどありません。顧客と強い信頼で結ばれているからです。このような情勢でもこれほどの信頼を寄せてくれています。この圧力が解消されれば、顧客からの我々への要求はせきを切ったように噴き出してくるかもしれません。その時になって、逆に供給できない事態になりはしまいかと心配しています。

記者: ファーウェイはすでに世界で顧客を失っています。オーストラリアはファーウェイの機器を禁止しました。

任正非: オーストラリアには自らの選択権があります。我々がそこまで注意を払うことではありません。

記者: ヨーロッパは大きな市場であり、ファーウェイの最も重要な市場の1つです。彼らも同じ対策を検討していますが。

任正非: いいえ、欧州では受け入れられています。

Q19 記者: 任CEOは何年もの間メディアに出てきませんでした。しかしこの6か月間、多くのメディアと交流しています。もしあなたが貿易戦争を気にしないなら、そしてアメリカでのビジネスに関心がないなら、なぜこうして我々の取材を受けているのですか。

任正非: まず、昨年の12月以降、世界のメディアの我々に関する報道の90%以上が無理解ゆえの否定的な報道でした。広報部は世界に本当のファーウェイを知ってもらう必要があると考えました。私がこれまでメディアに出てこなかったので、皆はメディアが私に好奇心を抱いているだろうと思っています。ですから、皆さんに会うことにしました。メディアとの多くのコミュニケーションの後、ポジティブな報道は27%に達しました。やがて30%に達するでしょう。世界でファーウェイへの理解が深まっています。過去6か月間、多くの話をしました。今後6か月はさらに話すでしょう。世界がいっそうの真実で満たされることを願っています。

今日の取材では、あなたに非常に良い印象を持っています。とても鋭い質問ばかりです。私は何もはぐらかしていません。真面目に回答しています。逃げ口上ではありません。このやりとりによって、米国の人々にありのままのファーウェイを知ってもらうことができます。まだ十分に理解されているとは言いがたいでしょう。多くの米国人は中国に来たことがありません。思い浮かぶのはまるで映画に出てくる100年以上前の中国人、すなわち辮髪におわん帽をかぶり、杖をつき、キセルを持っているような、非常に保守的なイメージかもしれません。そうした人は中国がインターネット時代に大きな進歩を遂げたことを知らないでしょうから、表に出てもっと話し、ファーウェイの真実の姿を知ってもらいたいです。

記者: 任CEOは私の質問をはぐらかしていないとおっしゃいましたが、そのように思えません。いくつかの質問には正面から答えていません。例えば御社のビジネスにすでに損害を与えている輸出禁止に対する戦略は何なのでしょうか。

任正非: その質問にはお答えしました。我々はそもそも米国のチップに頼る必要がありません。自分たちでまかなえます。OSについては、時間がたつほどに成熟していくでしょう。

記者: 世界中の顧客がAndroid OSではなくファーウェイOSを受け入れるだろうと楽観している理由についても回答いただけていません。

任正非: 事実、当社のグローバルでの受注は減少していません。注文は主にネットワーク通信機器に集中しています。これは当社の主力製品ですが、ほとんど縮小していません。世界中の多くの国が次々と「5Gが開通した」と発表していますが、それらの多くで当社の製品が採用されています。

したがって、我々への影響は端末がわずかに影響を受けた程度です。端末はそもそも当社の副業であり、本業ではありません。 ですのでそれほど影響ありません。

記者: コンシューマー向け事業はファーウェイの最も主要なビジネスではないのですか。ファーウェイの決算を見ましたが、コンシューマー向け事業はファーウェイで最も成長しており、最大の比率を占めています。そして今週初め、スマートフォンの出荷台数が先月40%減少したと発表されました。

任正非: なぜ米国はファーウェイの端末ではなく、5Gを攻撃したのでしょうか。それは当社の5Gが優れているからです。5Gはネットワーク通信機器であって端末ではありません。したがって、最も重要なのは、接続機器における当社の国際的な位置づけです。端末は海外で影響が出ましたが、国内はかえって伸びています。全体的な減少はそれほど大きくなく、大した問題ではありません。

Q20 記者: 任CEOにとって透明性は非常に重要であることを理解しています。 だからこそ、この場を設けてくださったのです。ファーウェイはなぜ民間企業であり続けるのでしょうか? これまで上場を考えたことはないのでしょうか。

任正非: もし今日のファーウェイが上場企業だとしたら、生き残れるでしょうか。会社の株価は変動し、ひとたび奔流にのまれれば、あっという間に流されるでしょう。当社は非上場企業ですので、売上が数百億米ドル下落しても大して影響されることなく、理想の実現を追求できます

非上場であることは上場するよりもはるかに利点があります。上場企業は短期的利益、当期の損益計算書に注意を払わなければなりません。長期投資をする勇気はなかなか出ません。我々はためらうことなく10年、20年先に投資することができます。ゆえに今後もさらにリードし続けることができ、ただ単に今5Gでリードしているというだけではないのです。ここに当社の強みがあります。

記者: ファーウェイよりもはるかに規模が大きい上場企業も苦難を乗り越え生き残ることができています。アメリカでは透明性の問題を抱えているファーウェイが、なぜ非公開に固執しているのか正直に言ってよく理解できません。R&Dへの投資については、ファーウェイより規模の大きい上場企業で、ファーウェイを超えないまでも遜色ない程度のR&D投資を行っている企業はあります。

任正非: ならば彼らは当社よりも優れているはずです。米国が当社の5Gを攻撃することもないはずです。

記者: もう一つ例を挙げましょう。 米国のFacebookは攻撃を受けていますが、事業の見直しに伴い株価が上昇し続けています。 なぜ株式公開がファーウェイの存続を妨げるのでしょうか。

任正非: 私は、ファーウェイは理想のために奮闘していると考えています。仮に当社が上場していれば、今頃持株を放り出して離れていく社員が続出しているでしょう。しかし我々は今一丸となって努力しています。社内は非常に団結しています。このように、困難を克服するための磐石な土台があります。これも上場しない利点です。

第二に、財務上は彼らの方が豊かであり、我々は最も貧しいテクノロジー企業です。しかし当社の科学研究への投資はすでに世界で五指に入り、今後さらに増えます。一時的に財務上の困難にぶつかって、多少縮小したとしても、そのせいで科学研究への投資を削るようなことはしません。毎年50~200億米ドル(約5,468億~2兆1,870億円)の投資を継続します。

Q21 記者: ファーウェイが抱えている問題の多くは、信頼と透明性の問題、またファーウェイが中国政府から離れて独自に運営できるのかという疑念から生じています。中国の法律が及ばない海外で独立した子会社をつくることを考えたことはありませんか。

任正非: ありません。

記者: それでは、ファーウェイが中国国家の延長であるという認識をどうすれば変えることができますか。

任正非: 77億人の思想を統一できる人がいるでしょうか。あれこれ異なる考えがあって当然です。顧客に認めてもらえれば十分です。万人に認めてもらうために特別なことをするつもりはありません。認めない人がいようとも、当社がどのような会社かは歴史が証明します。過去30年あまりの歴史はファーウェイの何たるかを証明しています。30年先も存続できていれば、さらに証明されるでしょう。上場することが唯一の手段であるとは思いません。

記者:上場について質問しているわけではありません。中国国外に独立した子会社を設立することについて話しているのです。もしそれが世界的に打撃を受けている御社の事業に役立ち、300億ドルの売上減少を回避でき、ファーウェイの存続を確保できるならば、海外で独立した子会社を作ることを考えますか。

任正非: 300億米ドルが何になるでしょうか。我々は運営方式を変える必要があるとは考えていません。ファーウェイが良い会社だと世界に証明するには、技術に疎い政治家に理解してもらうのではなく、顧客に体験、実感してもらうことが必要です。

記者: いかなる状況でも海外で独立した会社を作らないということですね。

任正非: 中国国外では、100以上の国に子会社があり、これらは独立しています。しかし、何も政治家に申し開きするためにこうしたのではなく、コンプライアンス問題を解決するためにしたことです。ファーウェイは現地法人所在国の法律、国連決議や、国際法の遵守を重視しています。

Q22 記者:カナダで拘束されている娘さんの孟晩舟についてうかがいます。現在カナダの自宅で米国への引き渡し裁判を待っています。これはもちろん望ましくない状況ではありますが、自宅にいることができるうえ、訪問客や弁護士と接することができます。しかし中国に拘禁されているカナダ人は同じような扱いを受けておらず、カナダから見れば、彼らは不当に扱われています。これについてどうお考えですか?

任正非: まず第一に、私の娘は有罪ではなく、犯罪の事実はありません。 スカイコムのイランとの以前の取引について、銀行は最初から最後まで完全に明確にわかっており、やりとりはすべてメールが残っています。メールには彼らのロゴもあります。彼らは会社を熟知していますし、取引や決算についてもはっきりわかっています。娘はその中で、カフェで彼らとコーヒーを飲みながら一言発言しただけです。これだけで重罪を犯したとみなされました。法廷がこれらの証拠を公開しさえすれば、ニューヨーク州東部地区連邦裁判所は検察側に尋問できます。当社の弁護士も尋問して経緯を証明できます。双方が証拠を出し合えば娘の問題は明らかになり、解決します。銀行は事情を最初から最後まで知っています。娘がコーヒーを飲みながら放った一言がなぜ罪に問われるのでしょうか。我々は、米国とカナダの司法がオープンで透明であると信じています。よってこの問題もやがて解決すると信じています。法によって解決されるのを辛抱強く待っています。悲嘆はしていません。

記者: カナダの司法システムはオープンで透明であると信じているとおっしゃいましたが、しかし中国に拘禁されているカナダ人が同じ扱いを受けていません。一方、娘さんは自宅でお客様と会ったり、弁護士と接触したりすることができます。これは適切だと思いますか。

任正非: それは国の問題です。私には答えようがありません。私は今「おんぼろ飛行機」の修理に力を注いでいます。どこをふさぎ、何を直すかといったことです。娘のことさえも気が回らない有様ですので、他のことにはなおさら気が回りません。政府間で交渉して解決にあたるのでしょう。

Q23 記者: 任CEO、本日は取材に応じていただきありがとうございました。

任正非: またお目にかかる機会があるでしょう。我々の「飛行機」の修理が済み、なお飛び続けていたら、その時またお会いしましょう。

※1米ドル=109.35円換算(2019年6月19日現在)