ファーウェイ 取締役副会長兼輪番会長 徐直軍、ソフトウェアエンジニアリング能力の強化、研究開発体制、サイバーセキュリティ、米国問題などについて語る 英国メディアインタビュー筆記録

2019年2月13日、ファーウェイ取締役副会長兼輪番会長 徐直軍(エリック・シュー)は英メディア6社の取材に応じ、各社が関心を持っているトピックについて率直に語りました。以下はインタビューの要点および筆記録です。

ソフトウェアエンジニアリング能力の強化について: これは簡単なことではありませんが、ファーウェイの将来の発展と真の信頼性の確立のために大変重要な意味を持っています。国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)の要件を満たすだけではなく、ファーウェイの将来の発展のために必ずやらなければならないことです。これは私たちのビジョンを実現するために不可欠です。
5Gについて: 5Gは原子爆弾ではなく、人を傷つけるものではありません。5Gはすべての人々に幸福をもたらし、すべての人々がより良いデジタル体験を享受できるという価値を提供するものです。
20億米ドルの投資について: 20億ドルは立ち上げ資金に過ぎません。3~5年をかけて、真の意味で各国の政府やお客様から信頼される製品を提供できるよう努力していきます。そうなれば、ファーウェイは未来に向けていっそう発展できるでしょう。
サイバーセキュリティについて: 技術は技術でしかありません。技術開発は科学者や技術者の仕事です。科学者や技術者は、誰もが標準に沿ってよりよい製品を作れるよう、共通の世界標準の構築に取り組んでいるのです。
将来について: 未来さえあれば、それは最大の勝利です。従業員はみな株主なのですから理解はしてくれるでしょう。今の利益が多少少なくなったとしても受け入れられますが、未来がないという事態は許されません。
英国でのファーウェイについて: ファーウェイと英国政府および英国の産業界との協業は長い間、英中協力のモデルケースとされてきました。

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1. 記者: 研究開発業務をどのように区分しているのでしょうか。 無線通信分野に関する基礎研究と顧客ニーズ志向の機能開発について、どのように優先順位や予算配分を行っているのでしょうか。

徐直軍: 弊社では業界の慣行を踏襲しながらも独自の研究開発管理システムを確立しています。当社の研究開発プロセスは1998年にIBMの指導のもとで構築され、IPD(Integrated Product Development、統合製品開発)と呼ばれているます。このプロセス全体と管理システムでは、将来を見据えた投資(主に研究とイノベーション)もあれば、お客様のニーズに沿った製品開発のための投資もあります。さらに、製品作りに必要な製造工程や技術への投資も含まれています。このように3つに分けて年間投資予算計画を立て、分野ごとに予算の枠内で割当の意思決定をします。

お客様のニーズ志向の機能開発の予算意思決定はIRB(Investment Review Board)、とIPMT(Integrated Portfolio Management Team)、将来向けの研究や革新技術の意思決定はITMT(Integrated Technology Management Team)と呼ばれる組織が行います。これらの組織が、何を研究するか、何を研究しないのか、いつまでに研究を終えるのかなどを決定します。

2. 記者: レビューサイクルは一般的にどのぐらいですか?

徐直軍: レビューは月や四半期ベースではありません。各製品の開発プロセスにおいてチェックポイントを決めてレビューを行っています。

将来に向けた研究やイノベーション、特許関連投資の意思決定チームはITMTと呼ばれています。以前は研究とイノベーション関連予算が全体の研究開発予算の10%を占めていましたが、ここ数年この割合を約20%まで引き上げており、今後は30%を目指します。当社には未来を見据えた専門チーム、予算、意思決定システムがあり、そこから特許が多く生み出されています。また、お客様のニーズを満たす製品開発を担う多数のチームと意思決定システムも備えています。

例えば、5Gの場合、2009年に5Gに関する研究活動の開始を決めたのはITMTでした。当時英国での5G研究に6億米ドルを投じると発表しました。この5Gの研究は現在も継続していますが、その研究成果に基づき、3年前から5G対応製品の開発に着手しました。これはIRBとIPMTによって決定されたものです。

3. 記者: 5Gの発展の歴史の中で、これが企業のコア戦略になるのだとひらめいた瞬間があったのでしょうか?例えば、先ほどのお話によれば、この技術が未だ存在しなかった2009年の時点で、数年後には重要な技術またはビジネスチャンスになるだろうと予測されましたね。

徐直軍: そこまでのものではありません。モバイル通信業界の歴史を振り返ってみると、発展パターンがあり、2Gの次は3G、4G、5Gと続きますが、5Gの次に頭に浮かんでくるのは6Gでしょう。4Gが現れた後、研究開発者は自然と5Gに目を向けました。

5Gはテクノロジーではなく、コンセプトです。「世代」という意味です。4Gに関する研究がすでに一段落したところで、次世代技術の開発が視野に入ってくるでしょう。5Gはこれらのテクノロジーの集合体です。

5Gの研究も2019年までにほぼ完了する予定です。研究チームは無線通信技術が将来どのように進化するのか、6Gにはどのような技術要素が求められるのかなどを検討し、研究開発に取りかからなればなりません。2028年から2030年にかけて、6Gは今日の5G同様に注目の的になって広く議論されるようになるのではないでしょうか。これは通信業界において当然の流れです。したがって、5Gに取り組んでいなければ未来はありません。

技術が進化すると、取り残される企業もあれば、勢いに乗って急成長する企業も現れます。

4. 記者: 中国企業の5Gにおける役割に関する米国務長官マイク・ポンペオ(Mike Pompeo)氏の発言についてどのようにお考えでしょうか。ドイツやフランスは、米国の中国企業排除の動きにかならずしも追随しないと表明したようですが、これは中国がこの議論に勝ち目がある兆候ということでしょうか。

徐直軍:勝ったかどうかについては私はコメントできません。マイク・ポンペオ氏のハンガリーやポーランドでの発言を読みました。もちろん中国語に訳されたものです。氏の発言から、今回の事件は米国政府が弊社に対し組織的かつよく練られた地政学的なキャンペーンを行っていること、また、国家装置を使って、一粒のゴマのような小さな弊社に狙いを定めたことがいっそう浮き彫りになりました。

ファーウェイは30年間にわたり、世界で170以上の国や地域で30億人に通信サービスを提供してきた自負があります。弊社が本当はどのような会社か、弊社のお客様やビジネスパートナー、そして弊社が奉仕する30億人のユーザーにはよく理解していただいていると思います。

我々がずっと疑問に思っていることであり、皆様からも質問されているのですが、弊社に対するこの一連の動きは果たしてサイバーセキュリティに対する懸念からなのか、それとも他の動機があるのでしょうか? 

彼らは他国のサイバーセキュリティや個人情報保護に本当に関心があるのでしょうか、それとも何かを企てているのでしょうか?

世間では米中貿易交渉を有利に進めるための切り札にしたいのだという論調もあれば、ファーウェイの設備がこれらの国々で幅広く導入されるようになれば、米国の関連機関はこれらの国々の情報にアクセスするのが困難になる、またはこれらの国々の機関やリーダーの通信傍受が難しくなるという主張も見られます。

70億人もいる世界ですから。英知ある人々からさまざまな可能性が導かれるでしょう。

5. 記者: 先日ドイツメディアのインタビューに対し、サイバーセキュリティには政治的思惑やイデオロギーが絡んでいると述べられました。仮に米国政府が政治的な目的を持っている場合、5年から10年後にネットワークや技術規格が中国主導と米国主導の二極化になるという考え方についてどう思いますか。
個人的意見ですが、技術的に実行可能かどうかは別にして、徐直軍氏の考え方(共通の標準があるべき)に賛同します。

徐直軍: サイバーセキュリティは本来専門的な知識が必要な技術問題の範疇にあり、これまで世界中の研究者や技術者がこれらの課題の解決に多大な努力をしてきました。弊社も各国政府や産業界と協力して関連標準の策定に取り組んでいます。標準規格が確立されれば、それに基づいて製品の安全性を検証することができるようになるからです。

ここのところ5Gとサイバーセキュリティが関連付けられるようになりましたが、それがどこから来ているのか、皆さんはよくご存知だと思います。5G機器の主要ベンダーはノキア、エリクソン、ファーウェイ、サムスン、ZTEですが、 ご覧のとおりそこに米国企業の名前はありません。 中国と欧州は協力して、サプライチェーン全体のコストを削減し、投資収益率を向上させるために、5Gや次世代モバイル通信技術に関する世界規格の確立に努めてきました。

産業界全体の努力により、ようやく5Gの世界統一規格ができあがりました。5G製品の開発はすべてこの規格に準じて進められています。しかし、サイバーセキュリティや5Gを政治的あるいはイデオロギー的な議論にすり替えた政治家がいるのです。これは長続きはしないと思います。

技術は技術でしかありません。技術開発は科学者や技術者の仕事です。科学者や技術者は、誰もが標準に沿ってよりよい製品を作れるよう、共通の世界標準の構築に取り組んでいるのです。

もちろん、各国にはそれぞれの考えがあり、どこの設備を採用するか決める権利があります。これまでの歴史を振り返ってみても至極当然のことです。

弊社の4G製品はすべての国に採用されたわけではありませんし、5G製品もすべての国のお客様に選ばれることは期待していません。弊社は弊社の製品を選択していただける国や通信事業者に優れたサービスを提供することだけに専念していきます。

一例を挙げると、弊社の本社がある深センに隣接する広州にあるチャイナモバイル広州は弊社の4G製品を採用しませんでした。これはまったく不思議なことではありません。オーストラリアの市場規模は広州よりも小さく、ニュージーランドの市場規模も私の故郷である中国の小さな都市・益陽よりもさらに小さいです。チャイナモバイル広州にも採用されていないのですから、特定の国では選択されていないことは大した影響はないと思います。それに、すべての国、すべてのお客様に製品を提供できるだけの能力を弊社は持っておりません。市場全体を支配することは不可能です。本社近隣の市場ですらチャンスがなかったのです。こうしたことは我々の業界では実によくあることです。弊社にできることは、信頼して選択してくれる国やお客様に誠心誠意にサービスを提供するのみです。

6. 記者: 米国ではファーウェイの機器採用を禁止するという大統領令を検討中という報道がありましたが、これは米国での5G展開においてどのような影響を及ぼすのか、超大国である米国がファーウェイを採用しないことになればどのような懸念が生じるかについて、お考えをお聞かせください。米国ほどの大国がファーウェイを排除することについて、どの程度懸念されているのでしょうか。

徐直軍: まず、米国では弊社の機器はほとんど使用されていません。過去には米国の非都市向け4Gネットワークに弊社の製品が使用されていました。(記者が言及されている件は)私もニュースで知りましたが、結果的には大した影響にはならないと思います。元々ほとんど実績がありませんし、今後も期待していません。

7. 記者: 英国に関して言えば、昨年末、MI6(秘密情報部)の責任者と国防相からファーウェイの設備のセキュリティについて懸念を抱いていることを示唆する発言がありました。最近では英国皇太子信託基金がファーウェイからの寄付の受取を中止するという報道もありました。これまでうかがったことを踏まえて、それでもこうした事態が起きてしまうことに対し、どれだけ苛立ちを感じていらっしゃるでしょうか。

徐直軍: まず、英国政府は確かに弊社の機器のセキュリティに懸念を抱いてきました。だからこそ、弊社はこうした懸念を払拭するために英国政府と協力し、共同でサイバーセキュリティ評価センターHCSECを設立したのです。

実はちょうど今朝フィナンシャルタイムズに掲載された元GCHQのディレクターRobert Hannigan氏の寄稿を読みました。この記事はご質問への答えをすべて網羅しているので、ぜひ読んでみてください。GCHQは英国のサイバーセキュリティを保障し、英国の人々により良いサービスを提供するために、ネットワークの監視・管理を確実にする一連の仕組みを導入しています。また、この記事の「潜在的脅威についてきちんと理解したうえで技術的な判断を行うべきだ」というサブタイトルにも私は大いに同意します。簡単に政治化すべきではないのです。ご質問の回答としては彼のほうが説得力があると思います。

英国皇太子信託基金からファーウェイの寄付の受取が謝絶されたことに対しては弊社はそれほどがっかりしていません。有望な若者を支援する当該基金の理念に共感し、それに敬意を表すために寄付することを決めたもので、政治とは無関係です。ただ、弊社に関する偏った根拠のない情報に基づいて、弊社に連絡もなく決定なさったことについては大変遺憾でなりません。

寄付を受け取るか、受け取らないかは弊社にとって影響はありませんが、皇太子信託基金が若者を支援してきた実績と今後も支援を継続することに対しては、改めて敬意を表したいと思います。

8. 記者:ファーウェイが「ファイブアイズ」のカナダと英国とかつて良好な関係にあったのは興味深いことです。そこで、ファーウェイと「ファイブアイズ」諸国の情報機関との関係について教えていただけますか。推測の域を出ませんが、情報機関が光ファイバー通信を傍受する能力を持っているなら、通信装置を流れる通信を傍受する能力も恐らく持っていると思います。ファーウェイはファイブアイズの情報機関とどの程度協力しているのでしょうか。

徐直軍: 言及されている情報機関との協力についてはよくわかりませんが、英国のGCHQとの関わりは把握しています。弊社とGCHQは大変建設的な協力関係を築いており、単に「YES」「NO」ではなく、各自が関心を持っている課題を持ち寄って技術的解決策や監視方法を模索することに努めています。この協力関係はずっと続くでしょう。

ファーウェイと英国政府および英国の産業界の協業は長い間、中英協力のモデルケースとされてきました。 弊社の英国での投資と事業活動、および英国政府との関わり合いは、両国が民間交流活動を行う際のケーススタディとされることもあります。東西の価値観や文化の違いがあっても、それを乗り越えてこのような建設的、友好的なモデルを生み出すことができるのです。これにより、弊社は英国で投資を継続し、大きく成長することができました。また、ファーウェイの技術や製品、ソリューションを導入した英国の通信事業者も、英国の人々に優れたサービスを提供することができました。

価値観や文化の違いがある者同士の協力は、多くの場合は、「YES」か「NO」の二択しかなく、じっくり話し合って課題や懸念の解決方法を見つけていくことはきわめて困難です。

その点、ファーウェイは英国と良い関係を築いています。 これは主に英国が開放性と自由貿易を強く支持しているからです。 英国は、問題の対処法として、明確な規則や規制を重んじます。それが自由で開放的な国である英国の礎石でもあると私は信じています。

9. 記者: 融合(コンバージェンス)と関係する質問を1つしたいと思います。今日ファーウェイの法人事業部のIPネットワークサービスプラットフォームを見学した際、ネットワークの監視とに関心が集まりました。というのも、すべてのトラフィックがここに集中するため、大きな課題となっているからです。電気通信分野ではネットワークだけではなく、ATMなどの規格もあります。この部分については政府からの要求は企業ネットワークに対する要件と同様のものですが、両者では使用するツールがまったく異なります。そこで、5Gトラフィックの伝送は、企業ネットワークの標準を使って情報開示することは考えられるのでしょうか。それにより、現在懸念されているセキュリティ問題、つまり、前面に表示ランプのある箱があるだけで、そこで何が伝搬されているかがわからないという問題は解決される可能性があるのでしょうか。法人向けビジネスは、ファーウェイが直面する通信インフラのサイバーセキュリティ課題の解決に役立つのでしょうか。

徐直軍: すべてのサイバーセキュリティの課題が技術的な問題であれば、技術や監視によって解決できるでしょう。衆知のとおり、サイバーセキュリティ問題は世界が直面する共通の課題となっています。そのため、5G関連規格の策定や技術を選択する際にも、セキュリティ問題には特別な関心が払われています。5Gは、使用される技術や標準規格という観点から見ると、前世代の2G、3G、4Gより安全性が高くなっています。これについては3GPPの専門家やGSMAの専門家に確認してもらえばわかるでしょう。

5Gネットワークを介して送信される情報には、256ビットの暗号化が組み込まれています。つまり、まだ世に出ていない量子コンピューターを使用しないと、送信された情報を解読することは不可能です。

10. 記者: 仰っていたことは無線インターフェースによる無線通信のことだと思いますが、今懸念されているのは通信インフラの問題です。

徐直軍: 5Gの場合、信号が携帯電話から基地局経由でネットワークへ送られます。弊社は英国のネットワークでは、基地局のみを提供しています。 また、基地局より上のネットワーク層には、弊社の機器は使用されていません。 Robertが彼の記事でも言ったように、ファーウェイはネットワークの「コア」部分には入っていません。

基地局より上のネットワーク層はほとんど他ベンダーによって提供されており、弊社とは関係ありません。

11. 記者: ファーウェイは英国では基地局だけ提供しているとのことですが、ユーザーデバイスから基地局まで暗号化されたデータが送信されます。基地局からIPネットワークに送信される際、復号化されるのでしょう?

徐直軍: 復号化も暗号化も通信事業者または政府の仕事です。

記者: 暗号化はファーウェイの設備を通して行われているのでは?

徐直軍: 弊社は暗号鍵を管理していません。世界の暗号鍵を全部手に入れたら、大問題ですよ。暗号鍵は各国がそれぞれ管理しています。

12. 記者: NCSCの2018年の報告書で、ファーウェイの製品に使用されているサードパーティ製の部品において問題点が指摘されていますが、これはファーウェイの企業文化と関係していると主張している人がいます。欧州企業に比べてファーウェイは多様な調達先から部品を購入しているように見えます。米国当局の訴状のように「ファーウェイが他社の技術を入手する従業員を奨励している」と極端な言い方をする例もあります。20億米ドルの研究開発費を、このサードパーティ製部品問題に対処するためにどのように使う予定ですか。サードパーティ製部品問題の根源はどこにあると考えますか。企業文化が原因なのか、他にも原因があるのでしょうか。今後これらの課題にどのように対処していく予定ですか。

徐直軍: まず、あなたは間違って解釈していると思います。言及されているサードパーティ製ソフトウェアは米国のWind Riverという企業が提供しているオペレーティングシステム「VxWorks」のことです。米国のシステムを使えば英国政府に信頼してもらいやすいと思ったのですが、そうではないことがわかりました。

ハードウェアであろうと、ソフトウェアであろうと、どんな製品でも、その開発はオペレーティングシステムを使用しなければなりません。開発者がアプリケーションソフトウェアを開発するときにWindowsやLinuxを使用するように、弊社の基地局用ソフトウェアの開発もオペレーティングシステムを使用する必要があります。 英国で展開されている弊社の基地局には、Wind RiverのVxWorksが使われていました。 もちろん、他のサードパーティ製ソフトウェアやオープンソースソフトウェアもあります。

レポートで指摘されているのはすべてのサードパーティ製ソフトウェアを管理する方法について改善すべき部分があるということであって、サードパーティ製ソフトウェアを使ってはいけないということではありません。まったく使えないとなると、企業はすべてのソフトウェアを内製する必要があり、各社は自社でWindows、LinuxのようなOSを開発し、Oracleのようなデータべースを作る必要がありますが、それは不可能でしょう。

この問題がレポートで取り上げられた後、Wind Riverと話し合いました。VxWorksは当時英国で弊社が使用していたバージョンを含めて英国のさまざまな業界で広く使用されており、通信業界よりセキュリティに敏感な業界でも大量に採用されているという説明を受けました。 そのため、当社のソフトウェア開発プロセスでサードパーティ製のオペレーティングシステム、データベース、オープンソースソフトウェアを使用することは、弊社の企業文化とは関係ありません。 一企業ですべて自力で行うことは不可能ですから、製品開発を行う企業にとってはごく当たり前のことです。

ファーウェイのソフトウェアエンジニアリング能力の強化にはなぜ3年か5年もかかり、20億ドルも必要なのか、疑問に思っている人もいるかと思います。

これを話すと少々長くなりますので、皆さんがお聞きになりたいかどうかわかりませんが。

英国政府と共同でHCSECを設立した目的は、主に弊社の製品にバックドアがある可能性があるという英国政府の懸念を払拭するためでした。弊社のソースコードをHCSECに提供し、DV(Developed Vetting)認証を受けた英国人にチェックしてもらった結果、弊社の製品にバックドアがないことが証明されました。これは最初の目的でした。

弊社がソースコードを英国のHCSECに提供したこと、DV認証を受けた英国人に検査を依頼したこと、弊社の機器にバックドアがないことが確認されたことは世界で広く知られています。Robertの記事にもそのように書いてありますし、GCHQも明らかにしています。いくつかの国が現在バックドアに関して抱えている懸念は、実は英国ではとっくに解決した問題なのです。

ソースコードを英国に提供した段階で、バックドアの問題はすでに解決しています。

この問題を解決してから、HCSECの次のステップは、弊社製品が攻撃、侵入、およびその他の可能性のある脅威に対抗できる堅牢さがあるかどうかを確認することでした。

弊社は8年間を費やして、自社製品の攻撃と侵入に対する防御能力を向上させてきました。 8年にわたる努力の結果、現在弊社はこの分野では最強です。これは私たち自身が主張しているわけではなく、この分野に特化した米国企業のCigitalによる客観的な評価と試験に基づいています。

Cigitalはソフトウェアセキュリティエンジニアリングの成熟度評価に取り組んでいる専門会社で、2013年に弊社製品のセキュリティに関する評価を開始しました。毎年12の分野でテストとレビューを行っていますが、 弊社は9つの分野で業界トップにランクされており、残りの3つでも業界平均を上回っています。

しかし、セキュリティの脅威は変化し続け、攻撃や侵入技術は常に進化し、ハッカーもレベルアップしています。 単に強力なセキュリティ機能、攻撃や侵入に対する強力な防御機能を備えているだけでは、外側だけが硬いココナッツのようなもので。割れてしまったらどうなるでしょうか? ココナッツのように中身は水だけではいけないのです。

そこで弊社と英国は外側から内側へと目を向けるようになりました、内側というのは、設備の堅牢さから、開発プロセスが高品質かどうか、信頼できるかどうかなどにまで及んでいます。結果のみならず、プロセスも問うようになったのです。

HCSECは弊社のソースコードにアクセスできるので、ソースコードが読みとりやすいか、修正が容易か、コードベースが堅牢かをすべて簡単に見分けることができます。 弊社はHCSECの前で「裸」になっているようなものです。

HCSECは弊社のソースコードが美しくないと言っています。弊社のソースコードはWindowsと同じように過去30年間にわたって構築してきたものですから、確かに美しくはないでしょう。コードの読みやすさや修正しやすさは改善すべきですし、コードの作成プロセスも改善が必要です。結果の品質と信頼性だけでなく、プロセスの信頼性も高めなければ、本当の信頼は得られません。このようにして、弊社はソフトウェア生産プロセス、すなわち我々がソフトウェアのエンジニアリング能力と実践と呼ぶものに注力するようになり、かつ、30年前からあったレガシーなコードを改善するために、将来を見据えた標準を適用することになったのです。

過去に直面していたセキュリティ上のリスク、使用していたソフトウェア技術、コーディングスキルは現在とは異なりますし、将来求められるものも大きく異なるでしょう。過去30年間に構築されたレガシーコードをリファクタリングするのに必要となる投資は膨大であり、これを行うと今日我々が顧客に提供する製品のスケジュールにも影響を与えます。

この件に関しては、弊社とNCSCの間で長い間激しく議論してきました。弊社は、すべてのレガシーコードをリファクタリングするのではなく、新しいコードに集中したいと主張しました。弊社のほとんどの幹部がNCSCとのこの議論に関わってきました。そして、その過程で、私たち自身がレガシーコードをリファクタリングすること、開発プロセスの質を高めることの意義を深く理解しました。これは簡単なことではありませんが、ファーウェイの将来の発展と真の信頼性の確立のために大変重要な意味を持っています。

クラウド、インテリジェンス、ソフトウェア定義が浸透する将来の世界では、ソフトウェアは非常に重要なものになるでしょう。ソフトウェアは政府機関やお客様から信頼を得られなければなりません。結果だけでなく、ソフトウェアを製造する際のプロセスについても、高い品質と信頼性を確保する必要があります。これは私たちのビジョンを実現するために不可欠です。

私自身は二度NCSCと話し合い、これ以上衝突してもしかたがないと気づきました。この取り組みは NCSCの要件を満たすだけではなく、ファーウェイの将来の発展のために必ずやらなければならないことです。英国から帰国後、他の幹部を説得し、取締役会で包括的なソフトウェアエンジニアリング能力の変革プログラムに着手することを決定しました。

13. 記者: それはいつ頃の話でしょうか。

徐直軍: 昨年年末です。取締役会での激論を経て、徹底的にソフトウェアエンジニアリング能力の向上、変革を行うことを決定しました。目標は信頼される製品を打ち立てることです。変革には3‐5年の時間がかかります。将来を見据えた標準と要求に基づき、徹底的にソフトウェア生産のプロセス全体を変革します。同時に、過去のすべてのコードについても将来を見据えた標準にあわせてリファクタリングを行います。

お客様の要求を満たしつつリファクタリングも行っていくためには、新たな投資が欠かせません。そこで20億米ドルの追加投資を行います。この20億ドルは主に過去のコードのリファクタリング、すべてのエンジニアに対するトレーニングなどの変革に関連する費用です。残念ながら私が変革の責任者になりましたので、これから5年間仕事がたくさん増えることになります。近頃は多くの時間を変革関連の業務に費やしています。

20億米ドルは立ち上げ資金に過ぎず、これだけで足りるということはないでしょう。3~5年をかけて、真の意味で各国政府とお客様に信頼いただける製品を提供できるよう努力していきます。そうなれば、ファーウェイは未来に向けていっそう発展できるでしょう。我々の創業者も全従業員に宛てた新年最初のメールで「ソフトウェアエンジニアリングの能力と実践を全面的に向上させ、信頼のできる高品質製品を打ち立てる」というメッセージを伝えました。

エンジニアリングの品質とはなんでしょうか? 簡単な例を挙げましょう。例えば皆さん中華料理はお好きかもしれませんが、厨房を見たことのある方はほとんどいないと思います。コックがどのような動き、プロセス、素材からその料理を作り出すのか、ほとんどの人は知らないでしょう。

今やろうとしているのは、厨房に入ってコックの調理にプロセス、基準、行動規範を打ち立てることです。コックがこれに従わなければ調理された料理は少し味が落ちるかもしれませんし、正しいプロセスに直すことができればまた美味しくなります。これこそが我々の行うソフトウェア能力向上の変革です。ソフトウェア生産プロセス全体、そして生み出されるコードから、高品質と高い信頼性を実現するのです。

これは大きなチャレンジですが、必ずやらなければならないことです。3~5年かかり、だからこそ20億ドルは立ち上げるための資金に過ぎないのです。 

実際、今後合計でどれほど投資する必要があるのかは、現在まだ我々もわかっていません。

もちろん、ファーウェイには強みがあります。それは我々が上場企業ではないということです。現時点の収入が多少減っても構わないのです。未来さえあれば、それは最大の勝利です。従業員はみな株主なのですから理解はしてくれるでしょう。今の利益が多少少なくなったとしても受け入れられますが、未来がないという事態は許されません。

14. 記者: コード全体のリファクタリングに関しておおよそのコストを見積もることはできますか?

徐直軍: 現在はハイレベルな計画段階であり、まだ見積もりまではできていません。できしだいお伝えしますが、できれば3月末までにハイレベルな計画を完了したいと考えています。

強調したいのは、先ほど触れた問題はファーウェイ独自のものではなく、業界のすべての会社に存在する問題だということです。各社ごとに分野が異なるので改善点はそれぞれ異なるかもしれませんが、完璧な企業は存在しません。そしてこの状況は絶えず変化し続けています。いかなる企業でも、コードを英国に送ってDV認証を受けた英国人に確認してもらえば、同じように多くの問題が出てくるでしょう。

15. 記者: コストの話に戻りますが、HCSECは新しいコードの検証、監督という面でどのような役割を果たすのでしょうか。また、どのようなスケジュールを想定されていますか?

徐直軍: リファクタリングされたコードは、英国のネットワークに用いられるものであればすべてHCSECによる検査を受けることになり、結果についてはNCSCの知るところとなります。今我々が話しているのはあくまで期待に過ぎず、最終的には結果をベースとしてどれほどの成果が上がったのかを検証する必要があります。

ファーウェイが英国でHCSECを設立した目的は問題を発見し、我々の進歩を推し進めるためであり、バックドアを探すためだけではありません。そもそもバックドアは存在しません。2018年、ファーウェイはHCSECに対し600万ユーロを投資しました。ファーウェイの問題点を見つけるためにも、これは価値のあるものです。私の観点から言えば、これはすべての開発チームにとっての後押しでもあり、また検証でもあります。

16. 記者: インターネットの起源は軍事に由来するものであり、もとは米軍の諜報活動のツールだったことを踏まえると、これは単に化けの皮がはがれてこれまでより明白に技術の政治性が露呈したということだと考えますか? またもしそうならば、これはどのように問題であり、どのように解決すべきでしょうか?

徐直軍: 技術はこれまでも政治と結びついていました。政治とは何なのでしょうか? 政治化しようと思えば政治化できますし、政治化したくなければ政治化しない。このようなものをどのようにして解決できるのでしょうか

人類の歩みの中で、それぞれの国に優れた知恵のある人間が多くいました。技術の進歩は人類に幸福をもたらすものです。特に5Gはそうです。5Gは原子爆弾ではなく、人を傷つけるものではありません。5Gはすべての人々に幸福をもたらし、すべての人々がより良いデジタル体験を享受できるという価値を提供するものです。

プライバシーの保護については、EUにはすでにGDPRがあります。現在英国はまだEUを離脱しておらずこの基準に則りますが、離脱した後も英国は自らの基準を持つことでしょう。これらの基準をしっかりと守りさえすれば英国、欧州の人々のプライバシーを保護することができます。

いかなる企業であってもGDPRに違反すれば厳罰を受けることになります。我々はGDPRのような基準を大変尊重しています。なぜならこれはオープンで、透明性が高く、皆に対して等しく適用されるからです。誰であっても遵守する必要があり、守らなければ処罰を受けることになります。

技術と専門性の観点から見るならば、サイバーセキュリティには本来基準を設けることができるはずです。オープンで、透明性が高く、差別のない基準を一度設ければ、誰しもがこれを守り、守れなければ処罰を受けることになります。

しかしイデオロギーと政治的観点を起点にしてしまうと、それは疑いと仮定に基づいて相手の善悪を判断することになります。いわば「あなたは殺人を犯しうる。生きているうちにいつか人を殺す可能性がある」と言うようなものです。

これこそがファーウェイが現在直面している事態なのです。

17. 記者: 以前にファーウェイにとってアジアが5Gの最も重要なマーケットであり、欧州の5Gは実用化の点では発展途上であるという発言がありましたが、具体的にはアジアのどの国が5Gを大規模に展開しそうなのか、それがファーウェイの5Gビジネスにおける市場シェアのどの程度を示すのか、教えていただけますでしょうか。

徐直軍: 私はグローバル市場を3種類に分類しています。

1番目は5Gのニーズが比較的高い市場。中国、日本、韓国、そして湾岸諸国です。

2番目は欧米諸国のうち米国を含む一部先進国。現在5Gのニーズはそこまで高まっておらず、4Gでさえもさほど整備されていません。皆さん、フランスと深センにある基地局の数を比べるとどうなるかご存知でしょうか? フランスの4G基地局数を全部合わせても、深センのチャイナモバイル1社の持つ数にも及ばないのです。

3番目は発展途上国です。ニーズはまだありません。

ファーウェイの今後数年における5G関連収入は主に1番目の市場から、そして一部は2番目の市場からもたらされると考えています。