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デジタル化時代における安全・安心な社会を目指して ファーウェイの協調型パブリックセーフティソリューション

2018.02.03

ファーウェイ グローバルチーフパブリックセーフティサイエンティスト
高宏栄(コー・ホンエン)

シンガポール警察の捜査官、防犯・地域警察責任者、広報担当者、訓練部門責任者などを経て、コンピューターシステム部門責任者として同警察のIT化を推進。システムインテグレーターにて政府機関向けシステムの導入に携わったのち、サン・マイクロシステムズおよびオラクルで15年間にわたってパブリックセーフティ部門のグローバル責任者を務め、世界各国の政府機関や警察におけるパブリックセーフティプロジェクトを数多く成功させた。2016年、グローバルチーフパブリックセーフティエキスパートとしてファーウェイに入社。警察での経験とICTに関する知見、業界での人脈を活かし、経験豊富な専門家を結集したパブリックセーフティコンサルティング・プランニングチームを率いる。シンガポール国立大学を首席で卒業、英リーズ大学でMBAを取得、シンガポールのナンヤンポリテクニックでeコマースのスペシャリストディプロマを取得。サイバースペース犯罪対策協会(Society for the Policing of Cyberspace)バイスプレジデント、国際組織犯罪対策イニシアティブ(Global Initiative Against Transnational Organized Crime)エキスパート。

デジタル化時代に進化する犯罪

デジタル技術は世界中でビジネスと経済を変革しているが、同時に犯罪にも変革をもたらしている。多くの政府や企業がサイバーセキュリティ能力の向上に尽力しているものの、サイバー攻撃の手法はそれを上回る速度で洗練度を増している。犯罪者は、ソーシャルネットワークやモバイルコンピューティング、クラウド、ビッグデータといったテクノロジーを採り入れ、犯罪を進化させているのだ。

国際刑事警察機構(ICPO)はサイバー犯罪を2つに分類している。1つは、ハッキング、マルウェアによる攻撃、DDOS、ランサムウェアなど、コンピューターのハードウェア・ソフトウェアを攻撃対象とした「先進的サイバー犯罪(advanced cybercrime)」、もう1つは窃盗、詐欺、テロなどの従来型犯罪にテクノロジーを悪用し、より高度な攻撃を可能にしている「サイバー利用犯罪(cyber- enabled crime)」だ。社会の安全を守る上では、この両方に対処しなければならない。

テロリスト組織はいまや地理的な制約に縛られることなく、デジタルなプラットフォームを利用して、同じ思想を持つ世界中のテロリストたちのエコシステムを形成している。2000年代後半に「オペレーションアキレス」と名づけられた国際捜査で世界各国の児童ポルノ制作者が検挙されたことで明らかになったように、子どもの性的搾取犯罪もグローバルにネットワーク化されている。ハッカーグループ「リザードスクワッド(Lizard Squad)」のような、サイバー攻撃をサービスとして提供する(Attack-as-a-Service)組織もある。

筆者はシンガポール警察で10年以上キャリアを積み、捜査官からIT部門のトップとなった後、20年近くにわたりIT企業でパブリックセーフティ向け技術に携わってきた。こうした経験から得られた結論は、適切な技術を活用した緊密な連携が、21世紀における犯罪対策のカギとなるということだ。

パブリックセーフティもデジタル変革を遂げなければ、デジタル化した脅威に打ち勝つことはできない。

パブリックセーフティが扱う事象は多岐にわたり、それぞれが異なるシステムで処理されている

サイロ化した組織・システム間の連携

その第一歩は、パブリックセーフティに関わる機関どうしの連携を強化することだ。これは簡単なことに思えるかもしれないが、実際にはきわめて難しい。

まず、パブリックセーフティが扱う事象はきわめて広範囲にわたる。テロ攻撃や路上犯罪、交通事故もあれば、ビザ申請や入国管理もあり、さらにはマネーロンダリングのようなホワイトカラー犯罪、パンデミック(疫病の流行)のようなパブリックヘルス上の緊急事態、地震やハリケーンなどの自然災害までもが対象となる。そのため、「パブリックセーフティ」と一言でいっても、そこには多数の機関が関わらざるをえない。

加えて、脅威の管理は通常、「防犯(発生を未然に防ぐ)」「探知(発生した事象を検知する)」「対応(発生した事象に対し適切な対応をとる)」「復旧(安全な状態に回復させる)」という4フェーズに分かれ、各フェーズでさまざまな処理を必要とする。しかし、多数の機関がそれぞれの処理のために異なるシステムを導入し、ばらばらに運用しているのが実状だ。平均的な大都市では、パブリックセーフティに関わるITシステムが100近く存在している。

このように組織・システム間でサイロ化して、孤立してしまったデータを共有し、連携を実現するのは容易なことではないが、成功事例もある。フィンランド警察は8年間かけてさまざまな既存のITシステムをVITJAという1つのプラットフォームに統合した。米国ではシカゴ警察が10年を費やして80以上ものシステムをCLEARというプラットフォームに統合し、これによって警察は容疑者のあだ名やタトゥーだけを手がかりに300万件の逮捕記録を検索できるようになった。こうした統合は長い時間を要するが、長期的に大きなメリットをもたらす。

悪意のネットワークには善意のネットワークを

次に重要になるのが、地域コミュニティとの連携だ。ネットワーク化が進む犯罪には、警察当局の力だけで立ち向かうことはできない。悪意のネットワークに対抗するには、善意のネットワークが必要なのだ。2013年のボストンマラソンにおける爆破事件で、警察が犯人を確保するにあたって、現場付近で一般の人たちが撮影していた写真や動画が大きな助けとなったことは記憶に新しい。犯罪者がテクノロジーを利用するのと同じく、市民との連携においてもテクノロジーが本領を発揮する。

脅威の探知の段階でテクノロジーを活用している一例として、中国黒龍江省の斉斉哈爾(チチハル)で行われているタクシーに監視カメラを搭載する取り組みがある。監視カメラをあらゆる場所に設置するのは手間もコストもかかるが、街中を走行しているタクシーの多くにはすでに交通事故対策としてドライブレコーダーが搭載されている。斉斉哈爾では市内の5,000台のタクシーに搭載されたドライブレコーダーをネットワークに接続し、犯罪や緊急事態が発生すると、警察が現場付近のタクシーが撮影する動画をリアルタイムで確認できるシステムを構築している。

中国黒龍江省の斉斉哈爾では、タクシーのドライブレコーダーを監視カメラネットワークとして活用

シンガポールの民間防衛庁(Civil Defense Force)が提供するスマートフォンアプリ『myResponder』も、対応の段階においてデジタルの力で善意のネットワークを活用している好例だ。街中で心臓発作を起こした人をこのアプリで通報すると、400m以内にいる心肺蘇生のトレーニングを受けたボランティア市民にアラートが送られ、患者の位置と最寄りのAEDの場所が示される。心臓発作は蘇生が1分遅れるごとに生存率が7~10%下がると言われており、一刻も早い措置が求められる。2015年に『myResponder』の提供を開始して以来、登録市民によって多くの人命が救われてきた。

シンガポールの民間防衛庁が提供するアプリ『myResponder』

こうした連携を可能にするためには、固定電話や携帯電話の通話、動画、GPSの位置情報、IoTセンサーを搭載した数百万のモノから得られるデータなど、さまざまなタイプのデジタルデータを即座に共有・分析できる共通の技術プラットフォームが不可欠だ。ここでもまた、サイロ化した組織・システムの統合が有効になる。

ファーウェイのC-C4ISR協調型パブリックセーフティソリューション

デジタル化時代の犯罪に対応するためには、警察当局は組織の壁を越えた連携を強化し、地域コミュニティとも緊密に協調しなければならない。統合された技術プラットフォームはこうした連携の効果を何倍にも高めることができる。そこでファーウェイは、協調型パブリックセーフティを提唱し、すべてが“つながった”社会において安心・安全を実現するためのC-C4ISRソリューションを提供している。

C4ISRとは、安全保障におけるCommand(指揮)、Control(統制)、Communication(通信)、Computer(コンピューター)の4C、Intelligence(情報)、Surveillance(監視)、Reconnaissance(偵察)を表す略語だが、ファーウェイのC-C4ISRソリューションはこのそれぞれにCollaborative(協調型)を冠したもので、以下の6要素からなる。

  • ●協調型指揮統制(Collaborative Command and Control):単一の窓口でさまざまなチャネルからの通報に対応し、複数の機関間で情報を共有して連携できる統合型コマンドセンターを実現
  • ●協調型通信(Collaborative Communication):LTEによるモバイルブロードバンド通信をベースに、音声通話による通報、アプリからの通報、警察の無線機器からの連絡、監視カメラの映像、位置情報など異なるタイプのデータを一元的に管理できるプラットフォームを構築
  • ●協調型クラウド(Collaborative Cloud):4つめのC(Computer)をCloudに置き換え、各地域のニーズに合わせたアプリケーションやリソースをクラウドで提供
  • ●協調型情報管理(Collaborative Intelligence):パブリックセーフティに関連するビッグデータを一元的に管理・分析し、多様な用途に活用可能な形で提供
  • ●協調型監視(Collaborative Surveillance):異なるメーカーの監視カメラからのデータを一元的に管理・分析する動画クラウドを提供
  • ●協調型偵察(Collaborative Reconnaissance):ファーウェイのOceanConnect IoTプラットフォームにより、さまざまなモノから得られるデータを一元的に管理・分析し、多様な用途に活用可能な形で提供

同ソリューションには、クラウド-パイプ(ネットワーク)-デバイスをエンドツーエンドでカバーするファーウェイの強みが活かされている。動画や大量のデータの伝送には高速で大容量の接続が必須だが、これまで音声通話を中心とした警察の通信に用いられてきたP25やTETRAといった狭帯域の無線通信ではこうした需要に対応できない。ファーウェイはLTEベースのブロードバンド接続を提供するとともに、あらゆる形式のデータを1台で処理できる統合型端末も用意している。また、大量の動画データから必要な映像だけを抽出・圧縮する動画シノプシスや、動画データを既存のFTPの7倍の速度で伝送できるSmartTransなどの動画処理技術も活用している。さまざまなICTの業界標準に準拠しているため、数百におよぶ世界の主要なプロバイダーの関連アプリケーションと統合が可能となっている。

ファーウェイのC-C4ISRソリューション

パブリックセーフティへの活用が期待される新技術

進化を続ける脅威の一歩先を行くには、さらに新しい技術にも目を向けなくてはならない。ロボティクス、AI、機械学習はいずれも重要な新技術だ。ただし、組織犯罪やテロから事故、自然災害まで多岐にわたる脅威から市民を守るには、最前線にいる警察官や警備員の知能と経験、直感が欠かせない。そのため、ロボットやAIが人間に取って替わることはなく、ルーティン業務や自動化が容易な活動、ビッグデータ解析、人間にはリスクが高すぎたり、人間の能力では不可能な活動において人間を補助する役割を果たすことになるだろう。

防犯の段階では、人の顔やナンバープレート、行動や事件の認知・評価をするパトロール用ロボットや、死角の多い高層ビルの集まるエリアで空中からパトロールを行うドローンなどが役立つ。また、危険物の運搬車両が犯罪者に武器として使われたり、事故に遭って深刻な危険をもたらしたりすることがあるが、コネクテッドデバイス/システムと高度なアナリティクスを併用すれば、有事の際に警察が車両のエンジンを遠隔で停止して被害を防ぐことができる。

探知の段階では、EUで実施されている『eCall 112』のように、コネクテッドカーが事故を自動で通報するシステムの普及が期待される。緊急通報のスクリーニングにAIを活用し、通報を緊急性に応じて優先順位づけし、いたずらや重複通報の順位を下げるといったことも考えられる。

対応の段階では、ビッグデータ解析によって群衆の行動や災害の発生状況などのシミュレーションを行えば、より精確な対応で人命や財産を保護することが可能になる。爆弾や危険物質の撤去といった人間が対応するには危険すぎる状況でも、ロボットやドローンが活躍する。

AR/VRも今後のパブリックセーフティを大きく変えるだろう。警察官がパトカーでパトロールをする際に、車載のカメラが撮影した建物や車、通行人の画像を認識・解析し、関連する情報がARでフロントガラスに映し出されれば、警察官は安全のための的確な判断を迅速に行うことができる。VRがあれば、指揮官が夜中にあわててコマンドセンターや事件現場に駆けつける必要もなくなる。HMDを装着して仮想のコマンドセンターに瞬時に入り込み、リアルタイムの位置情報や監視カメラ映像、ビッグデータにアクセスして、他のスタッフとやりとりすればよいのだ。

プライバシーとセキュリティのバランスは永遠の課題

パブリックセーフティのための技術活用を進める過程で、常に議論を続けなければならないのが、プライバシーの問題だ。情報の共有と連携を基盤とする協調型パブリックセーフティは、地域コミュニティとの信頼関係がなければ成り立たない。警察と政府は、法律、政策、ガバナンス、コンプライアンス、監査証跡(システムの処理記録)管理をしっかりと整備し、市民のプライバシー保護を保証する義務を負うが、一方で脅威に対抗するためには保護された個人情報のソースの一部にアクセスできるような仕組みも必要になる。

プライバシーだけを優先させれば、犯罪者が優位に立ってしまう。セキュリティだけを優先させれば、市民の不信感は募り、犯罪者と戦うどころではなくなってしまう。プライバシーとセキュリティのバランスには決して絶対的な正解はなく、あらゆる関係者が関与してその社会やコミュニティにおけるその時点での最適解を探り続けなければならない。

ファーウェイは各国・地域の法規制と慣習に適合したパブリックセーフティソリューションを提供している。だがどんな場合でもシステムのセキュリティは後付けではなく、開発・設計段階からデリバリーに至るまでエンドツーエンドに統合し、堅牢性を保証したうえで、個別の運用ニーズを満たしている。

都市の安全が豊かな生活をもたらす

パブリックセーフティの追求は、経済的繁栄にもつながる。ケニヤの取り組みがその好例だ。

観光が農業に次ぐ第2の外貨収入源である同国だが、近年は治安の悪化が観光業に陰りを落としていた。そこで、ファーウェイは現地の通信事業者サファリコム(Safaricom)とともに、2大都市ナイロビとモンバサにおいて、警察、消防、交通、医療を管轄する各機関のリソースを統合するデジタルプラットフォームを構築した。これにより各機関を分断していた情報サイロを取り除き、1万8,000人の警察官が情報共有の優れたツールを手に入れることができた。ケニア警察によれば、このソリューションの導入後1年間で2都市の犯罪発生率は46%低下したという。観光業は大幅に持ち直し、ホテルの稼働率も前年から18%上昇した。

都市の状況は国全体の経済を左右する。世界各国でスマートシティプロジェクトが推進されているが、スマートシティは安全が確保されて初めて成立するものだ。スマートシティに先立つセーフシティの実現が、各国政府の喫緊の課題となる。80か国、200以上の都市でセーフシティソリューションを提供するファーウェイは、組織間の連携、地域コミュニティとの連携を可能にする協調型パブリックセーフティによって、今後もデジタル化社会における安全・安心な暮らしの実現に貢献していく。