エンターテイメントから医療、農業まで― 無限に広がるドローンの可能性

いまや手ごろな価格で手に入るコンシューマー向け機種も増え、身近なテクノロジーとなりつつあるドローン。その可能性は空撮だけにとどまらず、あらゆるモノがつながった世界において重要な役割を果たすデバイスとして、さまざまな用途での実用化が進んできています。今号の『HuaWave』では、世界各地の最新のドローン活用事例と、本格的な商用展開に向けた課題について、テクノロジーメディア『ROBOTEER』の運営者でドローンについての著書もある河鐘基氏が解説します。
河鐘基(は・じょんぎ)
1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア『ROBOTEER』を運営。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。
誇大な評価は安定、実用化へ
ドローンが世界的に広く注目を集め始めたのは2015年前後。空飛ぶロボットが人間に代わって自動で仕事をこなしてくれる――当時、そんな“SF世界”の到来がメディアを中心にまことしやかに騒ぎ立てられた。約3年の月日が流れた現在、ドローンをまつり上げる誇大な評価・宣伝は徐々に落ち着き始めている。業界の関心も具体的かつ有効なユースケースを模索する方向にシフトしてきた。関連企業群のエコシステムが確立され始める一方、競争によるサービス淘汰も加速している。
ドローンは自律飛行や遠隔制御が可能な飛行体を総称する言葉で、別名UAV(Unmanned Air Vehicle)、UAS(Unmanned Aircraft Systems)とも呼ばれる。歴史的に見れば、インターネットなどと同様に長らく軍事目的での開発・研究・活用が主流だったが、2010年代以降、いまや世界最大のメーカーとなった中国・DJIの機体を中心に、コンシューマー向けや産業用途の製品およびソリューションが続々と登場し始めている。軍事用から商業用まですべてを含めた世界市場規模は、2015年の86.8億ドル(約9,635億円※)から、2020年には143.9億ドル(約1兆5,973億円※)にまで成長すると予測されている。詳しい金額は各調査資料や統計によってばらつきがあるものの、産業用途のドローンおよびシステムに関連する市場が今後大きく拡大・成長するという見通しは共通している。
※1米ドル=111円で換算
強みは機動性とデータ収集
ここであらためて、ドローンになぜ大きな関心が寄せられているのか整理してみたい。空を飛ぶという以外に、ドローンには大きく2つの特長がある。
1つは、「機動性および接近可能性」だ。直径数cmから1mほどまでと、機体サイズのラインナップが基本的に小型であるドローンは、有人航空機やヘリコプターに比べ活動できる空域・空間の制約が少ない。空域に関しては、地上と高高度の間、つまり低高度や中間高度で飛行タスクを処理できるという特長がある。例えば、これまでの空撮は高高度まで上昇したヘリコプターなどから高性能な望遠カメラで撮影するのが一般的だった。しかし、ドローンは相対的に低い高度、もしくは場合によっては地面すれすれの高さを飛行しながら撮影することができる。加えて、大型の航空機が近寄れない狭所での作業も実施できる。その「機動性および接近可能性」という特長は、配達、インフラ点検、屋内タスク、警備などさまざまな領域にドローンを応用できるという期待につながっている。
2つめの特長は、「空中からデータ収集ができる」ということだ。ドローンには可視光カメラ(一般的なカメラ)だけではなく、サーマルセンサー(熱感知)、超音波センサー、レーザーセンサーなどさまざまなデータ収集機器を搭載することができる。つまり、人間が視覚で認識する以上の情報を集めることができる。AIの発展とともにデータの価値が重要視されているいま、ドローンは産業用ロボットやスマートフォン、家庭用AIスピーカーなどとはまた異なるタイプの「実世界データ」を収集できる貴重な端末になると期待されているのだ。世界には数多くのIoT端末があるが、空中から情報を収集できる数少ないハードウェアの1つがドローンである。
各産業における活用例
ここでは、こうした特長を活かしたドローンの実用例とその詳細を具体的に見ていきたい。最もポピュラーなのは空撮だが、これはすでに広く認知されているので割愛する。
配送
まず、空撮の次に思い浮かぶドローンのユースケースが配送である。配送される物資には、一般的な消耗品や食品、また医療品など多種多様なものが想定されている。現在、アマゾンや中国・京東(Jingdong)、楽天などのEC大手や各国郵便当局が中心となり導入が検討されているドローン配送だが、実際のところ、実用化された例はほぼゼロである。落下の危険性などを考慮した際、法律的に許可するのが難しいというのが各国規制当局の実情のようだ。とはいえ、実用化への道のりは局地的には着々と進んでいると言える。
ジップラインは2016年からルワンダでドローンによる血液供給サービスを提供
特筆すべき例としては、米国のスタートアップ、ジップライン(Zipline)のケースがある。同社は自社開発のドローンおよびシステムを用いて、ルワンダのへき地に血液を送り届けるサービスを展開している。クライアントはルワンダ政府である。同社はルワンダの首都圏外での血液供給の約20%を担っており、飛行回数は6,000回を超え、12,000パック以上の血液を運んだ実績を誇っている。現在はタンザニアでもドローン配送システムの構築を進めており、米国におけるドローン医療品配送の商用化に向けても尽力中だ。
筆者は、ドローン配送はまずインフラが未整備な国や地域でサービスが研鑽され、その後、先進国や都心部にサービス展開されるというプロセスを経るだろうと予想している。フィンテックや配車サービスなどと同様に、需要があるのにインフラがない、もしくは不十分な地域から実用化が進むパターンである。日本で似たようなアプローチを進めているのが、香川県高松市を拠点とするスタートアップ「かもめや」だ。同社は米国や中国、カナダ、オーストラリアなどにならった「大陸型ドローン配送」ではなく、配送インフラが乏しい多くの離島が散在している日本の状況に合わせたソリューションを提案。陸海空の無人物流技術を組み合わせた「島国型無人物流プラットフォーム」の構築を進めている。
かもめやがスロヴェニアのスタートアップと共同開発した次世代物資輸送無人航空機『カモメコプター』。無人輸送船、無人輸送車と組み合わせることで、人口密集地や狭小地、離島などへ物資を輸送する「島国型」のプラットフォームを目指す。写真は今年2月、スロヴェニアで実施された飛行試験の様子
測量・インフラ点検
ドローンの利活用が進む分野に測量およびインフラ点検がある。特にインフラ点検は需要が高く、風車や陸橋のような高所、油田や天然ガスの採掘現場などでの作業は困難や危険が伴うため、人間の作業員の安全性確保という目的でドローンに期待が寄せられている。またドローンは人間の作業員より効率的に情報を収集できる場合が多く、コスト削減のメリットからも導入が進もうとしている。
測量やインフラ点検の現場は多種多様だが、ドローンの用途は基本的に空中から対象物のデータを収集することだけである。ソリューションを提供する企業の多くは、収集したデータを解析ソフトなどで加工したり、3D画像を生成したりしてクライアントに提示する。つまり最終納品物はあくまで「ビジネスに有効なデータ」で、ドローンは情報収集のための新たなツールという位置づけだ。
ドローンを使った測量、点検・探査事業を行う企業として知名度が高い企業には、英国のスカイフューチャーズ(Sky-Futures)、サイバーホーク(Cyberhawk)、米国のプレシジョンホーク(PrecisionHawk)、スイスのセンスフライ(senseFly)などがある。中でもスカイフューチャーズが提供する油田・天然ガス探査ソリューションは、人間の作業員チームが8週間かける作業をドローン1台で5日まで短縮したという成果が報じられている。
北海やバルト海、マレーシア沖など世界各地でドローンによる油田の点検・探査を行ってきたスカイフューチャーズは、2016年にメキシコ湾岸油田では初となるドローン探査を実施。人間による探査よりも高い安全性と効率を実現し、コストの削減にもつながっている
なお、ドローンによるインフラ点検の今後の展望としては、「完全自動化」がある。人間のオペレーター(操縦者)が計画を策定してボタンを1つ押すだけで、複数台のドローンが情報を収集し、連動した解析ソフトが有効なインサイトをはじき出すというものである。まだまだ技術的な課題は多いものの、実現した時のインパクトは非常に大きいだろう。
農業
農業分野では、「種まき」「農薬散布」「作物・土壌のモニタリング」などの用途でドローンの利活用が進む。従来の農作業は人間の勘や経験に負うところが大きかったが、ドローンが各種データを収集できるようになったことで、土壌や作物の状況を客観的に評価できるようになりつつある。いわゆる「篤農家」と呼ばれていた人たちの知見・ノウハウを、機械やシステムで再現できるようになったと言えばわかりやすいだろうか。
例えば、米国のエアロヴィロンメント(AeroVironment)はドローンとクラウド分析サービスを融合し、大規模な農場経営の効率性を高めることを目標とする。同社戦略担当副社長スティーブ・ギトリン(Steve Gitlin)氏はメディア取材に答え、「ほとんどの農家は自ら耕作地に足を運んで農作業を行うが、面積が100エーカーを超えると、一定の時間で全体を見て回るのは非常に困難になる。そのため以前の経験とサンプルに依存することになる」と指摘。より広範なエリアのデータを収集できるドローンの有用性について示唆している。
ヤマハ発動機は早くも1980年代から農薬散布用小型無人飛行機の開発に取り組んできた。写真は『RMAX』 の後継機『FAZER』
一方で、農薬散布に関しては技術的課題がある。空中から散布する場合、風や大気の状況、ドローンの動きを計算・考慮したうえで、必要な量を適切な箇所にまかなければならない。米国の厳しい審査をクリアした農薬散布用小型無人飛行機『RMAX』を開発したヤマハ発動機の関係者は、農薬を一定に散布する技術の実現はとても難しく、各国の食の品質に関するガイドラインや、食の安全に関する人々の意識にも配慮が求められると強調する。農薬がしっかりと作物に行き渡らなかったり、逆に散布量が多過ぎたりといったトラブルがあれば、最悪の場合、生産された農作物がすべて廃棄されてしまうことも起こりうるからだ。現在、日本や世界各国では農薬が足りていない箇所を認識して自動散布を行うソリューションが開発・テストされているが、食の安全性を徹底的に担保するためには、農薬の散布量および箇所を完全に制御できるよう、ソフトウェア・ハードウェア双方の技術向上がシビアに問われてくるはずである。
監視・調査・駆除業務
野生動物の保護や調査、害獣駆除などにも、ドローンは広く活用され始めている。ブラジルやアフリカでは、人間や家畜に伝染病をもたらす蚊や蝿などの害虫駆除にドローンが積極的に利用されており、オーストラリアでは海岸近くに現れる人食いザメを発見するため、AI搭載ドローンが実践投入されるなどの実例が報告されている。
日本では、長野県伊那市の例がある。伊那市は2017年10月に開催した「ドローン・フェス in INA Valley 2017」というイベントの目玉企画として、ドローンを使った「鹿検知コンペ」を企画した。

伊那市の鹿検知コンペ。大会当日は深い霧で山中が覆われ、害獣駆除の難しさが実感された
少子高齢化で人的リソースが減少するなか、農作物や高山植物への被害、表土の崩落などの原因を引き起こす鹿を効率的に発見する必要があり、ドローンに白羽の矢が立ったというわけだ。大会では機械学習や熱感知などさまざまな手法を取り入れた鹿検知手法が紹介された。
パッセンジャードローン
人間が搭乗するモビリティ手段としてのドローンも、研究・開発・投資が着々と進んでいる。パッセンジャードローンやAAT(Autonomous Air Taxis)、ドローンタクシーといった名称で呼ばれている同分野の先駆者は中国の億航(EHang)だろう。同社のドローンタクシー『EHang184』は2016年のCESで初公開され、世界中から大きな注目を浴びた。広報担当者によれば、2014年以来、すでに飛行テストの回数は数千回に及び、高度300mまで垂直上昇するテスト、ペイロード230㎏の積載テスト、8.8㎞の飛行距離テスト、時速130㎞の高速飛行テスト、台風・霧・夜間・砂漠・沿岸などの環境条件テストなど広範にわたる検証が行われているという。試乗した乗客数は、2017年末時点で40名以上にのぼるそうだ。
『EHang184』は有人のテスト飛行を着々と実施。これまでに40名以上の乗客が試乗している
このほかにパッセンジャードローンを開発している企業としては、ドイツのイーボロ(E-Volo)がある。同社も2013年に初の有人飛行テストに成功して以来、テストを繰り返している。公開された機体『VC200』は9つのバッテリー、18個の電気モーター、18の回転翼を搭載し、機体重量は450㎏。重量をなるべく減らすため、軽くて丈夫な炭素繊維が素材に使用されている。操作も簡単で、コックピット内に備え付けられたナビゲーション画面に目的地を入力したり、ジョイスティックを動かしたりすることで簡単に操縦でき、ヘリコプターなどの有人機のように長時間にわたる操縦訓練を受ける必要がないという。
ドローンの飛行に関する法規制は非常に厳しいが、人を乗せるとなるとそのハードルはさらに上がる。今後、実用化までにどれくらいの時間がかかるか非常に気になるところだ。
完全自動化はまだまだ先
ここまでに挙げた実用例の他にも、ドローンが活用されるシーンは多い。エンターテイメントやアート、広告、国境監視や海岸警備、行方不明者の捜索、防災・消火など枚挙に暇がない。一方で、刑務所への物資の密輸や麻薬取引、盗撮など、犯罪やテロにドローンが悪用されるケースも続々と報告されており、それら違法なドローンを発見・迎撃するための「アンチドローンシステム市場」も形成され始めている。
一方、ドローンの“売り”の1つは自律飛行とされているが、その飛行精度は通信環境や、風・雨など天候要因に大きく左右されてしまう。3,700時間以上の運用実績を誇る日本のトップオペレーターの1 人は、ドローン業務が増えるにつれ「筋トレが日課になった」とコメントしつつ、その背景についてこう述べている。
「ドローンを使えば現場作業が自動化でき、簡単に業務が進むと期待されていますが、実際には測量やインフラ点検にドローンを使うにはまだ技術面での壁があります。現段階で、その壁を補うのはオペレーターの仕事。テクノロジーの限界を見極めつつ、集中力を維持しながらドローンの操縦作業を行うためには、オペレーターの体力が必要です。業務に携わる同業者の中でも、『体力勝負』という話がよく出てきます。長い時には1日合計5時間ほど操縦することもあります。GPSの届かない制御の難しい環境でのフライトや、長時間の操縦を1週間連続で行うケースもあります。それでも、毎回のフライトでは集中力を同じだけ発揮しなければなりません。仮に注意が散漫になって機体を墜落させてしまえば、クライアントに迷惑がかかるだけでなく、人やモノにも被害が及びます」
用途によって差はあるものの、ドローン技術は自律飛行でタスクのすべてをこなせる段階には至っていない。どんな機体を選ぶか、どんなカメラを積載するか、構造物に対してどれくらいの距離を保って撮影するか、画像の解像度をどう担保するか、天候が悪い日に撮影を続行するか否かなど、あらゆる状況判断が人間に委ねられているというのが実情である。そのため、ドローンオペレーターの教育・派遣ビジネスがにわかに活気づき始めていることもあわせて記しておきたい。
技術発展で広がる可能性
期待と課題を抱えつつも少しずつ前進しているのがドローンテクノロジーおよび関連ビジネスの現状だと言って間違いはなさそうだが、ここでいくつか注目されているトピックについても紹介しておきたい。
まず1つが「目視外飛行(BVLOS、Beyond Visual Line of Sight)」だ。これは、オペレーターが目で確認できるエリアより外でドローンを飛ばすことを指す用語である。広大なエリアの調査・監視や配達などの用途を想定した際、目視外飛行が可能か否かは非常に重要な問題となってくる。だが、ドローンは既存の有人航空機やヘリコプターに比べて機体が小さいため、積載できる機材や積載物の量も相対的に少なくならざるをえないという難点がある。積めるバッテリーサイズにも限界があり、結果、飛行距離や飛行継続時間も制限される。また前述したように、現段階では技術的に精度が十分に担保されていない。目視外飛行が実用化されていくのはまさにこれからだ。
とはいえ、各国では目視外飛行の実現に備え法規制が着々と進められている。日本では今年3月末に目視外飛行許可に関する要件を政府が公表し、「飛行場所は第三者が立ち入る可能性の低い場所(山、海水域、河川・湖沼、森林等)を選定すること」「飛行高度は、有人航空機が通常飛行しない150m未満でかつ制限表面未満であること」などを定めている。一方、米国では個別審査となっているが、これまで約1,200件の申請がなされているものの、99%が非承認と、実質的に「認めていない」のと同義と言えそうだ。こうした状況を打破するために、プレシジョンホークなど、目視外飛行に対応した技術プラットフォームをリリースする企業も現れ始めている。
また「群集飛行」もドローンビジネスの可能性を広げる技術となりそうだ。最近では、韓国・平昌五輪の開会式で約1,200台ものドローンを同時に飛ばしたインテルのシステム『シューティングスター』や、ラトビアのスタートアップSPH Engineeringが開発した照明や花火なども一緒にコントロールできる『Drone Show Software』に注目が集まっている。これらはエンターテイメントやアート領域での利用が主に想定されているが、今後は飛行距離・時間ともに制限があるドローンの活動領域を広げてくれる技術となっていくかもしれない。例えば、ドローンが広域の山林で捜査活動や消火活動を担うとなれば、群集飛行技術は欠かせないものとなってくるだろう。

『Drone Show Software』は花火や発煙器、LEDライトを搭載した複数のドローンを制御することで、見事なショーを作り上げる
加えて「人工知能×ドローン」という話題もホットだ。特に画像認識技術との組み合わせには期待が集まる。活用例にはインフラ点検がある。これまで、インフラの破損・欠損具合は人間の作業員が目視で確認・判断する必要があった。しかし、ドローンが撮影した大量の画像データをAIに学習させ精度を上げていけば、点検・保守作業を自動化できるようになっていくだろう。それ以外にも、野生動物や害獣などを発見する、農作物の健全な育成を見守るといった用途にも、「人工知能×ドローン」の視点は有効となってくるはずである。
協業と多様性がドローン発展の礎
今後のドローンの発展と関連して切っても切り離せないのが「通信」だ。前述したように、ドローンは自律的に飛行しながら、各産業分野でより多くのタスクを担うことが期待されている。パッセンジャードローンの実現が現実味を帯びてきているように、いずれは人を乗せて飛ぶことにもなるだろう。その際、落下などのリスクを避けるためには、万全な通信インフラがまず整備される必要がある。また、放送や監視業務などで使われる場合、リアルタイムで動画を中継するなどの需要も生まれてくるのは確実だ。そうした用途にも、大容量データを高速かつ安定して送れる通信インフラが必須になってくる。落下のリスク、リアルタイム中継による大容量需要に加え、上述の目視外飛行の際には途切れない通信が広範囲で必要になる。そのため、セルラー、中でも大容量データの通信や低遅延を可能にする5G(第5世代移動通信システム)の商用化と普及が重要になってこよう。
最後に日本におけるドローン利活用の将来についても少々触れたい。やはりドローンの現段階での本質は「空を飛ぶこと」と「データを集めること」の2つに集約されるように思える。言い換えれば、「空飛ぶカメラ・センサー」であり、それ以上でも、それ以下でもない。モノを運ぶ、作業を担うなどの機能は今後のフェーズで段階的に実用化されるもので、乗り越えるべき課題はまだたくさんある。
「空飛ぶカメラ・センサー」を有効活用するためには、ドローン自体を理解するのももちろん重要だが、それにも増して欠かせないことがある。それは、ドローンが活用されようとしている分野・領域についてよく知るということである。前述の伊那市の鹿検知コンペに参加したエンジニアの1人は、「ドローンよりも、鹿の生息場所や移動習慣、体温などに対して深い知見がなければ、有効なソリューションを生み出せないと痛感した」と大会を振り返っている。
筆者は、今後のドローン産業の発展のカギとなるのは「協業」と「多様性」だと考える。各分野の課題を熟知したエキスパートとドローン専門家とのコラボレーションにより、「空飛ぶカメラ・センサー」であるドローン、そしてドローンが収集したデータが活きてくる。またデータを多様な見地から解析したり、横断活用することで、新たな商機が生まれてくるはずである。
ドローン利活用を考える際には、「ドローンと人間の協業体制」の構築を図る必要もある。測量であれ、インフラ点検であれ、農業における利用であれ、現段階ではドローンは技術的過渡期にあり、オペレーターなどの人間とドローンの効率的な協業体制が必須だ。言い換えれば、ドローンと人間の分業をいかに進めていくかという「線引き」が非常に重要になってくる。
現在、ハードウェア開発においては、中国・DJIが市場をほぼ席巻した状況だ。機体性能に比例した価格競争では独走状態にあり、3DR社など欧米大手もハードウェア事業から撤退する流れにある。仮に新たに業界勢力図を塗り替えられるプレイヤーがいるとすれば、それは各現場で起きている課題をしっかりと見据え、「ともに解決する」というスタンスを徹底した企業になるはずだ。
ドローンと通信で低空域のデジタル経済の実現を目指す
ファーウェイの「デジタルスカイ計画」
すべてがつながったインテリジェントな世界の実現に向けて、さまざまな領域のパートナーとともに無線通信の可能性を広げるイノベーションに取り組むファーウェイのワイヤレスXラボ。その注力分野の1つが、コネクテッドドローンです。2017年11月に同ラボが発表した「デジタルスカイ計画」は、高度300m 前後の低空域でネットワークカバレッジを提供し、ドローン活用のための高度な試験環境を構築することを目指しています。
この計画のもと、昨年は京東や億航を含むパートナー各社とともに上海にデジタルスカイハブを設置。こうした拠点は今後、欧州、カナダ、韓国などにも展開していく予定です。また、南京、広州、杭州、上海において、中国民用航空局とチャイナモバイル(中国移動)、億航などと共同で低空域のセルラー接続テストを実施し、4Gのライブネットワークを使用して安全なドローン飛行が可能であることを確認しました。
超広帯域、超低遅延、高信頼性、広範なカバレッジを実現する次世代の5G ネットワークではドローンの能力はさらに向上します。5Gの商用化に向けて、ワイヤレスXラボは引き続きココネクテッドドローンの活用推進に向けた取り組みに注力していきます。


上海のデジタルスカイハブでは、半径3km・高度200mまでの飛行が可能なエリアを2か所に設置。さまざまなシナリオでのコネクテッドドローンの活用を実地でテストできる環境を整えている(左)
深圳のファーウェイ本社ではコーヒーのドローン配達のデモを実施。スマートフォンで注文すると注文者がいる場所までコーヒーを届けてくれる(右)