このサイトはCookieを使用しています。 サイトを閲覧し続けることで、Cookieの使用に同意したものとみなされます。 プライバシーポリシーを読む>

観光を軸にインテリジェントな街づくりを目指すスマート敦煌

2018.07.06

中国・甘粛省の敦煌は、シルクロードが3つに分岐する地点であり、古くからさまざまな文化と人々が交錯する交通の要衝として栄えてきた。悠久の歴史と豊かな自然が混じりあう敦煌は、現在では人口20万人に対し年間900万人の観光客が訪れる国内有数の観光地となっている。

敦煌市は2011年からスマートシティプロジェクトを推進している。都市行政を軸にスマート化を進める多くの都市とは異なり、市の産業の60%をサービス業、とりわけ観光業が占める敦煌ではスマートツーリズムがその中核となっている。

2014年に設立された敦煌スマートトラベル社(DSTC、Dunhuang Smart Travel Company)は、同市のスマートシティプロジェクトを統括する役割を担っている。「スマートシティの構築においては、焦点を絞ることが重要です。敦煌の場合はそれが観光なのです」と、同社の孫暁強(スン・シャオチャン)会長は語る。

敦煌スマートトラベル社 社長
遜暁強(スン・シャオチャン)

スマートツーリズムを都市発展の原動力に

持続可能なスマートシティを構築するため、DSTCは「政府や金融機関に頼るという古い発想から脱却した」と孫氏は言う。これに代わるものとして、同社は社会資本と市のリソースを融合し、企業と社会が共同で取り組む新たなモデルを模索した。産業の発展とトップレベルのプランニングに主眼を置くことで、あらゆる産業のリソースを統合し、共有することが可能になると孫氏は考えている。「こうした考え方によって、わずかなリソースから大きな成果を生み出すことに成功しています」と氏は述べる。

孫氏は「スマートツーリズムはICTインフラからマーケティングシステム、都市管理、パブリックセーフティ、交通計画まで、敦煌市全体の発展を促す原動力とならなければなりません。当社は、スマートツーリズムサービスの提供を通じて、観光スポットのスマート管理を実現し、観光地としてのマーケティング機能の強化を目指しています」と語る。これにより、シルクロード上のリソースを共有するための地盤を作り、地域経済の活性化につなげるとともに、スマートシティインフラをあらゆる公共サービスに拡張できるようになる。


デジタル技術が可能にする新たな観光体験

敦煌の新たなスマートツーリズムモデルでは、観光客は主な観光スポットの入場券をオンラインで購入し、QRコードですばやく入場することができる。例えば鳴沙山・月牙泉名勝区では入場券の35%がオンラインで販売されており、QRコード、IDカード、顔認証、指紋認証などさまざまな方法での入退場が可能になっている。こうして利便性が向上したことで、同地区の2017年の入場者数は200万人を突破し、観光客の満足度は96.5%に達した。

一方、入場券を買わずに入口をすり抜けようとする一部の観光客への対策として、先進的なビデオアラームシステムと観光客の流れをモニタリングするシステムも多くの観光スポットで導入されている。同時に、監視カメラシステムは救急対応にも有用だ。鳴沙山は夏場の気温が45℃にもなるため、熱中症で倒れてしまった人を監視カメラで検知し、10分以内に救護できるようにしている。

DSTCはホテルや劇場など43の観光施設が集まる中心地にWi-Fiを完備している。「観光客が立ち止まる時間は平均10分という基準でWi-Fiを構築しています。市内に入ったら認証手続きを1回済ませれば、あとは移動に伴って自動的にWi-Fiネットワークが切り替わっていきます。これにより、ユーザー体験が大きく向上しました」と孫氏は言う。

同社はモバイルツアーガイドサービスも立ち上げており、スマートフォン上でインタラクティブツアーや観光地情報、地図、ナビゲーション、オーディオガイドなどを提供するほか、観光地の景観を360度のパノラマ画像でバーチャルに再現し、観光客が現地に到着する前に予習できるようにしている。

鳴沙山・月牙泉地区のコントロールセンターと入場システム。顔認証やスマートフォンに表示したQRコードで入退場ができる


ビッグデータ解析で観光リソースの利用を最適化

スマートツーリズムには、スマートシティの頭脳となるビッグデータが欠かせない。DSTCはファーウェイとの協業により、観光地のリソースをリアルタイムで管理するビッグデータ解析プラットフォームを構築し、観光客の特性と通行量を予測するモデルを生成して高精度のマーケティングに活用している。複数のデジタルチャネルから観光情報をタイムリーに発信するとともに、データを地域間で共有することで、オフシーズンや人出の少ない場所の観光客数を増加させ、観光業の持続可能な発展につなげている。

鳴沙山・月牙泉地区では昨年、このビッグデータ解析プラットフォームによって1日の観光客数が前年より34日早く3,000人を超え、ピーク期が112日間に伸びたことを突き止めた。この情報に基づいて周辺地域の観光リソースをよりよくマッチングさせたことで、陽関、玉門関、ヤルダン国家地質公園といった敦煌西部の他の観光地の観光客数を前年から15.78%増加させることに成功した。

「このプラットフォームによる解析から、2017年には団体ツアーは全体の10%以下に過ぎず、90%以上は個人旅行者で、そのうち60%が車で観光に来ていることがわかりました。そこで、レンタカーの乗り捨てサービスや自由に旅程を組み立てられるツアーなど、車で観光する人たち特有のニーズにあわせたサービスを提供し、満足度の向上に努めています」(孫氏)

莫高窟にはそれぞれの岩窟にQRコードが付され、スキャンするとそこで見られる文化財についての情報がスマートフォンに表示される


文化遺産の保護にもデジタル技術を活用

一方で、大勢の観光客が一度に詰めかけると、史跡にダメージを及ぼしたり、観光客の安全が損なわれたりすることがある。通常は入場制限が行われるものだが、そうと知らずに現地を訪れた観光客の入場を制限するとユーザー体験に悪影響を与えかねない。

敦煌ではこうした課題にもスマート化で対応している。ユネスコの世界遺産となっている莫高窟ではスマート予約管理システムを導入し、「温湿度や二酸化炭素濃度、観光客数、周囲の交通状況などをモニタリングし、それにあわせて公開時間や入場者数を調整するようにしています」(孫氏)。この予約管理システムにより、莫高窟はピーク期における観光客の集中緩和に成功している。

敦煌には他にも玉門関、漢代長城など保護を必要とする貴重な史跡がたくさんある。こうした史跡では、ワイヤレスセンサーやネットワーク技術を活用し、砂嵐や洪水、悪天候や動物の出現などネガティブな環境要因をリアルタイムでモニタリングし、早期に警告を発信できる仕組みを整備している。現代のテクノロジーは、「ダメージを回復する」保護から「ダメージを予防する」保護への移行を実現しているのだ。

入場者数や注射集などをリアルタイムでモニタリング


テクノロジーで花開く古代文化

現地での観光体験の向上や史跡の保護に加え、デジタル技術の導入は文化遺産の価値をより高めることにも貢献している。

DSTCは敦煌文献(莫高窟で発見された歴史的文書群)や敦煌についての研究論文など、20万件にのぼるデータを格納した23のデータベースを広く公開し、敦煌文化の保護、研究、広報など多用途に活用しているほか、市内の53の無形文化遺産のデジタル目録も作成している。また莫高窟の管理を請け負う敦煌研究院は、石窟内の仏像や壁画をデジタルコンテンツ化し、オンラインで提供している。

「こうしたデータをさまざまに活用することは敦煌文化の産業化につながります。スマートテクノロジーの助けを借りて、古代文化をもう一度花開かせることができるのです」


スマート敦煌を支える
ファーウェイのクラウドとビッグデータソリューション

前述の通り、ビッグデータプラットフォームは新たなスマートシティの基盤となる。複雑で迅速な対応が求められるスマートシティエコシステムには、きわめて高性能なビッグデータ解析プラットフォームが必要だ。こうしたプラットフォームはオープンでユニバーサルでなければならないと孫氏は言う。

「ベンダーの選定にあたっては、まずハードウェアの規格が統一されているかどうか、信頼性が高いかどうかを考慮します。また、ソフトウェアはオープンであることを重視しています。スマートツーリズムやスマートシティは、オープンな共有に基づくエコシステムだからです。こうした点でファーウェイは当社と考え方が近く、ニーズを十分に満たしてシルクロード沿いの各地でスマートツーリズムをさらに発展させていきたいと考えています」


文化を原動力に“スマート敦煌2.0”へ

敦煌は2016年のスマートシティエキスポ世界会議において、中国の都市としては初めてスマートシティ賞にノミネートされた。スペイン政府や世界銀行が共催する同会議はスマートシティ領域の最重要イベントで、賞へのノミネートは、敦煌の計画、戦略、実践が大きな成功を収めていることを示している。

「スマートトラベルが牽引する業界特化型スマートシティを“スマート敦煌1.0”とすれば、“スマート敦煌2.0”は敦煌文化を中核に据えたものになるでしょう」と孫氏。「これまでは、観光客が訪れたことで大規模な投資プロジェクトが立ち上がり、業界が発展しました。今後は、奥の深い敦煌の文化遺産がスマート敦煌の原動力となりえるでしょう。敦煌には人類の文明の膨大な記録があります」

孫氏はこうした記録はデジタル化が可能なものであり、そのデータを統合し、研究し、マイニングしていくことで、イノベーションが生まれ、貿易、デザイン、物流、金融など、さまざまな産業の次の潮流が生まれると考えている。「スマート敦煌というブランドが認知され、スマートシティのモデルとみなされるようになることを目指したい。発展の可能性は無限に広がっています」