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Wi2の仮想化導入戦略

2017.12.18

ここ数年、訪日観光客の増加や2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたインフラ整備の観点から新たに注目を集めている公衆無線LANサービス。2009年から同サービスを手がけ、2014年12月より訪日観光客に向けた『TRAVEL JAPAN Wi-Fi』サービスの提供も開始したワイヤ・アンド・ワイヤレス(以下Wi2)は、リソースの活用効率を向上し、急速なサービス拡大のボトルネックを取り除くため、ファーウェイの協力のもとSDN・NFVの導入を進めています。同社取締役技術運用本部部門担当役員の小松 直人氏に、迅速な事業展開を実現する仮想化技術について、導入の背景と将来の展望をうかがいました。

ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)

2007年にアッカ・ワイヤレスとして設立。その後、2009年に株式会社ワイヤ・アンド・ワイヤレスに社名変更、2010年10月にはKDDI株式会社と業務・資本提携を締結し、第三者割当増資によりKDDIグループ会社となる。ワイヤレスLANネットワーク専従の通信事業者として、日本国内20万か所以上の公衆無線LANスポットを運用するほか、インバウンド向けなどWi-Fiを活用した各種ソリューションを提供している。

訪日観光客向けのインフラとして重要性が高まるWi-Fiサービス

編集部:御社は2009年から公衆無線LANサービスを提供されていますが、その間、需要はどのように変化してきましたか。

小松氏:サービス開始当初は、急激に増加するスマートフォンのトラフィック対策として、各携帯電話事業者主導でWi-Fi環境整備が急速に進んだ時期でした。当社も、自社サービスのほかにKDDIグループとして『au Wi-Fi SPOT』を手がけるようになり、同サービスのスポット数を大幅に増加させてきました。その後、企業や自治体のカスタマー・サービスという観点から無料のWi-Fiスポットが注目されはじめ、当社では『at_STARBUCKS_Wi2』『KYOTO Wi-Fi』などを提供するようになりました。現在は訪日観光客の増加という新たなトレンドによって、海外からの観光客向けWi-Fiに対する需要が高まっています。いつでもどこでも情報にアクセスするための重要な社会インフラとして、Wi-Fiは大きな役割を担っていると考えています。


編集部:そうした中、現在提供されている公衆無線LANサービス『Wi2 300』の強み、ユーザーから支持を得ている理由はどのようなところにあるとお考えですか。

小松氏:同サービスでは現在、ベーシックエリア6万か所、オプションエリアを含めると20万か所以上のWi-Fiスポットを提供しています。利用可能エリアの多さに加え、リムジンバスなどのバス車内、鉄道、カフェ、飲食店など、利用ニーズが高いエリアを手厚くカバーしていることから、お客様からのご支持をいただいています。


編集部:2014年には訪日観光客向けサービスとして『TRAVEL JAPAN Wi-Fi』を開始されましたが、利用状況はいかがですか。

小松氏:スマートフォン・アプリは、配信開始から約1年3か月で150万ダウンロードを突破しており、現在も訪日観光客数の伸びが大きいアジアの国・地域を中心にダウンロード数を伸ばしています。各国でさまざまなプロモーションを実施して認知向上を進めている効果もあり、日本への入国前に自国で、あるいは入国直後に空港などでダウンロードしていただけることが多いのが特徴です。

また、訪日観光客の増加が引き続き見込まれる中、本サービスは彼らを重要な顧客とする小売業、交通系、サービス業など幅広い業種の企業、また多くの自治体に、集客ツールとしてご利用いただいています。さらに、同アプリ利用者の国籍・言語などをターゲティングしたうえで、位置情報を活用した行動分析レポートを提供する機能もあり、訪日外国人に特化したマーケティング・ツールとしてご好評をいただいています。

コスト削減と時間短縮によりビジネス拡大のボトルネックを解消

編集部:今回、NFVとSDNによる仮想化技術を導入された背景には、どのような課題があったのでしょうか。

小松氏:主に3つの課題の解決に向けて、2014年から導入の検討を始めました。第一に、費用対効果の改善です。Wi-Fiは3GやLTEなどのセルラー技術に比べ、標準化の進度が高くありません。そのため、特定のベンダーの機器による制約が強く、マルチベンダー化でコストを下げることが難しいという事情があります。Wi-Fiシステムとしてベンダーから提供される機能に頼るだけでなく、Wi-Fiシステムをサービスのパーツとして利用するといった工夫は行っていますが、それらのパーツを載せる基盤として、NFVのような標準化された仮想化技術の枠組みが機器調達の自由度を上げ、結果的にコストの低減につながるものと期待しています。

第二の課題は、ビジネス・スピードの向上です。サービスが順調に拡大する中、新規ネットワーク開設や障害復旧の短時間化が強く求められていました。

最後は、NFVを通じてクラウド・コンピューティングの利点を当社のビジネスに取り入れることです。NFV導入を検討していた当時、当社はすでに企業顧客向けの無料Wi-Fiサービスの運営システムにおいてパブリック・クラウド・サービスを利用していました。加入者向けに汎用的なサービスを提供する通信事業者のWi-Fiとは異なり、顧客ごとに異なるさまざまなニーズに対応しなければならない企業顧客向けWi-Fiにおいてパブリック・クラウドを活用し、それを実現する仮想化技術のメリットを十分に理解していた経験から、こうした利点をオンプレミスやネットワークの領域に拡張することで、コスト削減や時間短縮につながると考えました。同時に、クラウドを活用した基盤によって新たな収益を創出することも視野に入れていました。


編集部:大規模なプロジェクトですが、導入に向けた意思決定はスムーズに進んだのでしょうか。

小松氏:一般的に、ネットワーク仮想化の導入を検討する初期段階においては、技術開発、運用、関連ベンダーなどについての見解の相違からチームの中でコンフリクトが起こりがちですが、パブリック・クラウドの利用で仮想化やAPIによる自動化のパワーを全員が実感していたので、迅速かつ円滑にプロジェクトを進めることができました。

パートナーを選ぶ際に数社を検討し、機器の提供からインテグレーションまで一貫してお願いできるという安心感が評価の決め手となり、ファーウェイを選定しました。これは、当社がやりたいことをしっかりと理解してもらい、そのうえで実装をどうするかを議論できるという点でも、プラスになったと感じます。最初の段階ではNFVのみを検討していたのですが、2015年にファーウェイと実施したPoC(概念実証)を経て、既存のネットワーク資産まで制御対象を拡大し、SDN技術も導入することにしました。

自動化とサイロからの脱却で効率と柔軟性を向上

編集部:仮想化技術の導入によって、具体的にはどのような効果を期待されていますか。

小松氏:最大の期待は、効率と柔軟性の向上です。当社のサービスは企業や自治体など個別のお客様ごとのニーズを満たす必要があるため、デプロイメントにおいては時間的制約や技術的要件がそれぞれに異なり、柔軟な対応が求められます。また、iOSやWindowsといったソフトウェアのOTA(Over The Air)アップデートや、スタジアムのように大勢のユーザーが集まるイベントなど、予期せぬトラフィックや負荷の上昇に対応しなければならないケースも多々あります。NFVとSDNの導入により、このような品質維持を目的とするデプロイメント作業にかかる時間を50%削減することで、ユーザー体験の向上を目指します。

技術的には、自動復旧や自動スケーリングといった機能によって、技術者による作業を伴うことなくリソース不足に自動対応することが可能になるうえ、運用操作上の誤操作などに起因する人的な障害も回避されます。ここで重要なのは、ネットワークの突発的なリソース枯渇は部分的に発生する事象であり、その瞬間に当社の設備全体では余力のあるリソースも存在しているということです。現行の設備構成や運用ポリシーは、特定のAP(アクセスポイント)、APC(アクセスポイント・コントローラー)、PAC(パブリック・アクセス・コントローラー)ごとのサイロ・ベースとなっていますが、NFV・SDNの導入でサイロが取り除かれれば、オンプレミスとパブリック・クラウドがシームレスに共用されるリソース・プールへとアーキテクチャを変革し、リソースを柔軟かつ自動的に活用できるようになります。これにより、処理能力が現在の数倍になるとともに、キャパシティ拡大のための新たな設備投資も大きく節減可能になります。

さらに、新規ネットワークの開設期間の短縮も期待しています。現状では新規ネットワークの開設には2~3か月程度を費やしていますが、リソースの活用効率を上げることで増設サイクルを改善すると同時に、膨大なネットワーク情報の設定作業や確認作業を自動化することで、これを2~3日まで短縮できると見込んでいます。


編集部:人的リソースの活用という点では、どのような期待がありますか。

小松氏:当社は効率や費用削減という観点だけでなく、NFV・SDNを市場が対応すべき技術シフトとしても重視しています。短期的には、自動化による効率向上により、従来その作業に費されていたエンジニアの時間を他の業務に振り分けることができるようになるため、社員が複雑なネットワーク運用から開放され、サービス開発やサービス品質向上など、より生産的かつ付加価値の高い業務に多くの時間を割けるようになることを期待しています。さらには、先端技術であるNFV・SDNの経験と知識を獲得することが、人材市場におけるプロフェッショナルとしての技術者の付加価値向上にもつながると信じています。

業務改革と収益創出に向け長期的な価値創造を期待

編集部:将来的には導入の利点をどう活かしていこうとお考えですか。

小松氏:商用展開後は、こうした想定をKPI化し継続的に監視・改善することで、業務改革や組織スキルの向上にもつなげていきたいと考えています。パブリック・クラウド、NFV、SDN、自動化を統合した価値は、将来にわたって業務改善と新規収益創出の双方に寄与していくでしょう。

新規ビジネスとしては、前述のように『TRAVEL JAPAN Wi-Fi』においてすでにビッグデータを活用した取り組みを行っていますが、NFV・SDNの導入後はハイブリッド・クラウド技術でより簡単にオンプレミスからパブリック・クラウドにアクセスでき、パブリック・クラウド上の多種多様な分析ソリューションを容易に利用できるようになります。これを活用して分析精度の向上と分析サイクルの短縮を実現し、リアルタイムかつ高精度の分析を求めるお客様のニーズに応えていきます。


編集部:現在、商用展開に向けて導入を進めていますが、その過程でのファーウェイに対するご感想をお聞かせください。

小松氏:今回のプロジェクトは完全なリプレースではなく、既存のアセットを含めてインテグレーションしていくという難度の高いものですが、提案や議論を非常に積極的にしてくださっています。引き続きアグレッシブにプロジェクトをリードしていただき、最終的にはエンジニアリング・チームとして、ともにやりとげたという達成感を共有できたらいいですね。