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MWCレポート:モバイル社会の牽引役は通信事業者か、OTTか

『Mobile World Congress(MWC) 2014』が今年も2月24日から4日間、スペイン・バルセロナで開催された。通信業界最大のイベントとあって今年もさまざまなニュースが発表され、今後のトレンドが垣間見えた。ネットワーク、端末の両面から振り返ってみたい。

旗ふり役は通信事業者からOTTへ

会場を『フィラ・グラン・ヴィア』に移してから2度目の開催となった今年のMWC。8万5,000人が参加し、8つのホール(合計面積9 万8 , 0 0 0 平方メートル)で1,800社以上が自社技術を展示した。

今年の最大のトピックは、Facebookの共同創業者兼CEOマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏の基調講演だったように思う。12.3億人のユーザーを誇るFacebookではモバイルからのアクセスが9.5億人を占めており、モバイルの重要性が増している。初日24日の夕方の基調講演に登壇したザッカーバーグ氏は、自身がエリクソンなど数社と取り組んでいる途上国におけるネット普及の取り組みInternet.orgについて対談形式で語った。

「世界の3分の2の人が日常的にネットにアクセスできない。この問題を根本的に変える必要がある」とザッカーバーグ氏。「まだ接続していない人を接続する」ことは通信事業者のテーマであり、GSMAの大きなスローガンとなっている。これまでのMWCで、世界の通信事業者や端末メーカー、通信インフラ・ベンダーのトップが代わる代わるステージに立っては、これをテーマに議論してきた。この日、グレーのTシャツを着た若き億万長者ザッカーバーグ氏がスーツ姿の通信業界のベテラン勢に向かって、「(ユーザーに)データ・プランを使いたいかと聞いてもダメ。Facebookを使いたいかと聞けば“イエス”と答える」と言ってのけたのは、衝撃的であり、推進役が通信事業者からOTT(Over The Top)に変わったことを印象づけた。

折しもFacebookは前の週にSMSの代用となるモバイル・メッセンジャー・アプリWhatsAppを総額190億ドルで買収すると発表したばかり。WhatsAppの共同創業者兼CEOジャン・コウム(Jan Koum)氏はザッカーバーグ氏と同じ24日の午前中の基調講演に登場し、今年前半までに音声サービスを開始することを発表した。

これらOTTプレイヤーと通信事業者の対立はここ数年のテーマだが、世界の通信事業者は既存の売上を守るのに必死で、根本的な手を打てずにいるようだ。WhatsApp 、Skype、BlackBerry Messenger、FacebookなどのOTTサービスは、すでにSMSのトラフィックを上まわっている。通信業界はGSMAが中心となってチャットやファイル共有のための共通プラットフォームjoynを立ち上げたが、今年はjoynという言葉すら聞こえてこない。2010年に立ち上がったアプリストアのWholesale Applicationsといい、joynといい、業界の取り組みがうまくいかない前例が増えている格好だ。

主役交代は、ザッカーバーグ氏の講演会場の雰囲気からも感じとれた。同じくOTTであるグーグルのエリック・シュミット(Eric Schmidt)会長がMWCに初登場した2010年には、聴衆の通信事業者から「グーグルは自分たちが投資した無線インフラにただ乗りするのか」「ダムパイプに変えるつもりなのか」といった声が上がり、ステージと会場との間に張りつめた空気が流れる一幕もあった。ザッカーバーグ氏の基調講演でもQ&Aはあったが、ダムパイプの話が出ることもなく、和やかな雰囲気のまま45分の基調講演を終えた。

ネットワークはより高速、高キャパシティに

ネットワーク側では、通信インフラ・ベンダー各社がブースを構えて最新技術を展示し、増えつづけるトラフィックとサービス要求への対応策を提案した。

ファーウェイ、エリクソン、NSNのブースはいずれもVoLTE技術を展示していた。VoLTEは韓国で2013年にスタート、今年は米国でサービス開始が予定されており、日本も年内と言われている。通話品質の向上だけでなく、IPベースとなることでさまざまなWebサービスとの連携も期待される。ファーウェイはW3Cのリアルタイム・コミュニケーションAP『I WebRTC』とVoLTEを接続する『WebRTC Gateway』を既存装置への追加機能として展示。『WebRTC』は、SIPの知識がないウェブ・アプリ開発者でもアプリを通信事業者のサービスと接続できるようにするものだ。

LTEの加入者数は世界で2億人に達し、新たに出荷されるスマートフォンの半分以上がLTEに対応するなど、LTEは安定した普及期に入った。一方で、スマートフォンの普及によりトラフィック対策のニーズも高まっており、高帯域化と高密度化によるキャパシティ・アップなどのアプローチで対応していくというのがインフラ・ベンダーと通信事業者の解だ。

高帯域化ではキャリア・アグリゲーション(CA)の3バンド構成となる「3キャリア・アグリゲーション」が展示されていた。ファーウェイは韓国のLGユープラスと共同で、850MHz帯、2100MHz帯、2600MHz帯(各20MHz)の3つをアグリゲートして450Mbpsのスループットを実現するデモを行い、4Kのハイビジョン映像を4本同時に配信する様子を見せていた。4Kテレビの普及を支えるインフラとして、DSLが主流の欧州などでLTEを利用できるというユースケースを示した形だ。NSNはスプリントと共同でキャリア・アグリゲーションを用いたTD-LTE高速化をデモ、下り最高速度2.6Gbpsを達成していた。

高密度化のためのスモールセルもキーワードのひとつだ。中でも設置が難しい屋内は課題となっており、エリクソンは直径10cmと手のひらに載る屋内用超小型基地局『Radio Dot Systems』を披露。ファーウェイはマルチバンド・マルチモード対応屋内ソリューション『LampSite』をテレノール・ノルウェーとともに商用化したことを発表し、さらに屋外向けにはバス停などに簡単に設置できるマルチモード・スモールセル『AtomCell』を展示していた。

2020年商用化の“5G”に向けた動きがスタート

今年のMWCでは、5Gの声があちこちで聞かれるようになった。2020年に商用化と言われている次世代技術で、具体的な標準化作業はこれから。現在は各社が案を出している段階だ。2018年までに5Gの研究開発に6億ドル(約612億円※1)を投資するというファーウェイのブースでは、『5G HyperService Cube』としてスループット、遅延、リンクを3軸とした多面的なオーバービューを見せており、速度(最大10Gbps)、遅延(1ミリ秒以下)などの要件を検討していることを示した。

24日、EUの欧州委員会デジタル・アジェンダ担当コミッショナー、ネリー・クルース(Neelie Kroes)氏がエリクソン、NSN、オレンジ、アルカテル・ルーセントの代表者とプレス向けに発表会を開き、5Gの研究に追加で5,000万ユーロ(約70億円※2)を投じることを発表した。クルース氏は「欧州は無線業界でリーダーだった。GSM標準を発明し、デバイスでも世界を独占した。だが現在は遅れをとっており、西(米国)と東(アジア)にリードを許している」と危機感をあらわにした。欧州のLTEの人口カバー率は2割強で、日本と韓国はもちろん米国にも大きく遅れをとっている。

NFVが実用段階に

無線の技術革新に合わせて、仮想化技術を使うクラウドがネットワークの世界にもやってきている。仮想化技術を用いて、EPC(Evolved Packet Core)などのコア・ネットワーク機能を汎用サーバー上で動かすNFV(Network Function Virtualization)は各社で展示されていた。ファーウェイのブースでは、OpenStackベースの仮想化OS『FusionSphere』を利用したソリューションや、ETSI(European Telecommunications Standards Institute:欧州電気通信標準化機構)で標準化が進んでいる協調レイヤー技術でグラフィカルなUIによる簡便な運用を実現するMANO(Management and Orchestration)などを展示。こうしたソリューションでネットワークのオペレーションを効率化するとともに、機器とオペレーションの両面でコストや時間の削減が図れるという。

NFVはハードウェアとサービスの分離を実現するため、ベンダーにとっては事業モデルが変わることになる。各社はソフトウェアやサービスへのフォーカス、システム・インテグレーションの需要などを商機にしていくようだ。

仮想化が実用化に入りつつあることを思わせるのが、会期中に発表されたスペインのテレフォニカによる仮想化プロジェクト『UNICA』だ。オープン・アーキテクチャを利用して自社通信インフラの仮想化を進め、コスト削減や効率化の改善を図る狙いで、新しいインフラの30%を2016年までに仮想化することを計画している。同社はファーウェイとUNICAに関する今後の協業についての覚え書き(MoU)を締結、両社はすでにPoC(Proof of Concept:概念検証)試験を終えており、今年6月に商用展開を開始する予定となっている。

ウェアラブルの波

イベントの“華”といえる端末。今年はスマートフォンのローエンド化、多様化するAndroid、ウェアラブルがポイントだろう。

アップルのiPhoneが2007年に登場して以来、過去8年の間にiPhoneと同じようなフォームファクターを持つ端末を各社がAndroidで投入した。だがハイエンド側ではすでにひとつの完成型に到達した感があり、次の大きなイノベーションを提示できていないように見える。細かなスペックで競ったり、曲がる画面を出してみたり、というのがメーカーのアプローチだが、果たして消費者をエキサイトさせることができるのか――。

こうした現状から見ると、ウェアラブルは新しい使い方を提案する流れとして期待できる。ファーウェイは開幕前日の23日に同社初のウェアラブル端末『TalkBand B1』を発表。Bluetooth 4.1でスマートフォンと接続するリストバンド型の端末で、1.4インチの画面を持つ本体を取り外してヘッドセットとしても利用できるというユニークなアプローチだ。ファーウェイはこのほかにも『MediaPad』タブレットなど4つの新製品を発表しており、これらを展示したファーウェイの端末ブースは人のにぎわいもさることながら、すっかり上位ベンダーとなった余裕が感じられた。

ウェアラブルでは、サムスンもMWCの直前にスマートウォッチ『Gear 2』(『TizenOS』ベース)を発表し、ブースではこれらスマートウォッチとスマートフォンとの連携を見せていた。ソニーモバイルも1月にCESで発表した『SmartBand』を展示し、スマートフォン側のアプリにデータを送って移動や出来事などの活動記録を残すという使い方を提案した。

ウェアラブルの当面の課題は、ユースケースの提示だろう。なぜウェアラブルを持つ必要があるのか、どんなことができるのか、消費者にメリットや魅力を感じてもらうためにベンダー側は新しいライフスタイルを見せていく必要がある。これにどれぐらいの時間を要するのかによって、市場の速度は大きく左右されそうだ。

吸引力を失ったハイエンド、ローエンドに大きなフォーカス

スマートフォンでは、会期中サムスンが次期フラッグシップ『Samsung Galaxy 5S』を、ソニーモバイルもフラッグシップ『Xperia Z2』を発表したが、より関心を集めたのはローエンドだった。

たとえばノキアは初日、Androidを土台とする『Nokia X』プラットフォームを発表、これを搭載した3機種を披露したが、そのうち2機種は100ユーロ(約1万4,000円※2)を切る価格設定となっている。ノキアのAndroidはグーグルがオープンソースにしているAndroid(「Android Open Source Project」)をフォークしたもので、同社のWindows Phoneスマートフォン『Lumia』に似たタイル・インターフェイスを持つ。アフリカやアジアなどの新興市場はもともとノキアが得意とする市場。同社がAndroid戦略で牙城を守れるかが注目される。

ローエンドでは、今年はレノボの存在感がアップしたことを感じた。PCベンダーの同社は、PC市場の縮小を受けて『PC Plus』戦略のもと、モバイルに大きなフォーカスをしている。すでに中国などアジア諸国でスマートフォンを投入し、高い需要に支えられて2013年第4四半期にはサムスン、アップル、ファーウェイに次ぐ4位、シェアは4.6%となっている(Gartner調べ)。同社は1月、モトローラをグーグルから取得することを発表。今後ハイエンドと成長国市場への拡大に向け、本格攻勢に入ったことを裏付けた。今年はホールの一番奥という場所にもかかわらず多くの来場者を集めていた。

健闘するFirefox OS、25ドルスマホも登場

端末側のもうひとつのトピックがOSだ。Androidのシェアは昨年8割近くに達しており独占状態だが、スマートフォン全体のパイが広がるのを好機に、「Android以外の選択肢を提供する」とローエンドで名乗りを上げているのがモジラの『FirefoxOS』だ。会場ではホール間の連絡通路に大きな縦幕をかけるなど、Firefoxのテーマカラーであるオレンジ色をあちこちで見かけた。

モジラのブースでは、会期中に発表されたファーウェイ初のFirefox OSスマートフォン『Y300』やZTEの最新作を見ることができた。Firefox OS端末は現在3メーカーから提供されているが、MWCでは新たに6機種が加わった。アルカテルはタブレットも投入予定という。

モジラはMWCで新たに通信事業者3社と提携を発表したほか、中国の半導体メーカー、スプレッドトラムと提携し、同社のチップを利用したFirefox OSスマートフォンのターンキー・ソリューションを開発することを発表した。最も安いもので25ドル(約2,550円※1)で販売が可能になるという。この「25ドルスマホ」はメディアの大きな関心を集めた。

 開幕前夜の23日に開催されたモジラのプレス向けイベントでは、日本でFirefoxOSを展開すると1年前に発表したKDDIが「2014年度中に端末を発売する」という計画をあらためて表明。また、楽天とリクルートがそれぞれ『楽天ゲートウェイ』『Cameran』のFirefox OS向けアプリを披露した。

新OSとしては、2013年のMWCでFirefox OSのほか『Tizen OS』、『SailfishOS』、『Ubuntu』が顔を揃えたが、1年が経過したところでFirefox OSが頭ひとつリードしている状況だ。一方で、Windows Phoneのようにマイクロソフトとノキアが組んでもAndroidとiOSの牙城はいまだ崩せていないという事実もある。アップルとAndroid端末ベンダーが次のイノベーションに行き詰まってきたように見える中、消費者が今度こそ新しいOSに関心を示すのか、今後も注目と言えるだろう。

ここ数年の主流だった「黒くて全画面の平たい端末」は曲がり角を迎えた。今年のMWCで、ウェアラブル、「第3のOS」、ノキアのAndroidフォークのような動きなどを見ながら、端末が再び面白くなってきていることを実感した。

※1 1米ドル102円換算

※2 1ユーロ140円換算

末岡 洋子(すえおか ようこ)

ICTを専門とするフリーランス・ライター/ジャーナリスト。ウェブ・メディアの記者を経てフリーとなり、現在は『ITmedia』『ASCII.jp』『マイナビニュース』などで執筆。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている 。