漫遊中国
My Home Town in China
石林のカルスト地形(撮影:Sebastian Böll)
美しい景観と多様な民族文化に出会える「春城(春の都市)」 雲南省昆明市
陸 澤昆(Lu Zekun)
デリバリー・サービス本部 プロジェクトマネジメント部 シニアプロジェクトマネージャー
穏やかな笑顔、落ち着いた口調で堪能な日本語を操る陸澤昆。同じ昆明市出身の女性と遠距離恋愛の末に結婚、昨年男の子を授かり、家事や育児にも積極的に取り組む。趣味はクラシック音楽を聴くこと。
山と湖に囲まれた常春の街
昆明市で生まれ、大学を卒業して日本に来るまでずっとこの街で育ちました。昆明市は高原の中の盆地に位置し、緯度は低いのですが海抜約1,900メートルと標高が高いため、1年中春のような気候で、「春城」と呼ばれています。市の南に広がる、かつて「高原明珠」と呼ばれるほどの美しさを誇っていた滇池という湖は、数十年前から工業化や農地開発による水質汚染が深刻化していましたが、最近は徐々に回復してきています。市の中心部にも翠湖という湖があり、周囲は公園となっていて、市民の憩いの場になっています。大学に近かったので、私も学生時代はよくここで過ごしました。
豊かな森林と複雑な地形からなる雲南省には世界自然遺産が3つもありますが、そのうちのひとつが昆明市内の石林彝族自治県のカルスト地形です。高さ20~30メートルにも及ぶ不思議な形の岩が文字通り石の林のように無数にそびえたっている光景は実に壮観で、自然への畏怖を感じます。 また、雲南省は人口の3分の1が少数民族で、多様な言語・文化を持つ25の民族が暮らしていますが、彼らの生活を体験してみたければ、昆明市内にある雲南民族村というテーマパークがおすすめです。園内には民族ごとに村がつくられ、伝統的な衣装を身にまとった人たちが儀式や民族舞踊などのパフォーマンスを披露してくれます。
雲南民族村(撮影:二泉印月)
豊かな自然と多文化の融合から生まれた雲南料理
自然と文化の豊かさは、食にもあらわれています。キノコや香辛料、薬草などが豊富に採れるほか、少数民族の独特な食習慣が融合し、ユニークな食文化をつくりあげています。 代表的なのは、100℃以上に熱したスープの中に生の魚や肉、野菜などの具と米の麺を入れ、具材に火を通しながら食べる過橋米線という麺料理です。かつて雲南省南部の湖に浮かぶ小島で科挙に向けて勉強している夫のために、妻があたたかい食事を食べてもらおうと、油の張ったスープに麺を入れ「橋を渡って」届けたことから、「過橋」という名がついたと言われています。
過橋米線(撮影:Photo Kao)
「雲南ハム」として知られる塩漬けの豚肉や、乳餅というチーズなども雲南ならではの食材です。また、納豆や湯葉のような大豆加工品や、松茸もよく使われるので、日本人の口には合うかもしれませんね。
経験の幅を広げたい大学ではコンピューター・サイエンスを専攻しました。卒業直前に学生を日本の企業に派遣するプログラムが始まり、それまで日本で働くことなど考えていなかったのですが、めったにないチャンスだと思い、参加することにしました。 13年前に来日して以来、日本人ばかりの日本企業で働いていたので、昨年8月にファーウェイ・ジャパンに入社して初めて中国人の同僚と仕事をすることになりました。ファーウェイの従業員はとても勤勉で、熱心に仕事に打ち込むので、よい刺激を受けています。オフのときの交流が親密なのも、中国らしいところですね。
入社前は法人向けの仕事をしていたので、ファーウェイで通信事業者向けのプロジェクトに携わるようになり、勉強になることがたくさんあります。エンド・ツー・エンドの技術を持つこの会社で、他ではできない幅広い経験を積み、自分のフィールドを広げていきたいと思っています。
Did you know? データが語る中国のいま
この十数年、経済の発展とともに大きな変化を遂げてきた中国社会。その現状を物語るさまざまなデータを通して、中国のいまを切り取る。
コーヒーの生産と消費
生産量急増、国内市場にも期待
中国と言えばお茶の産地であり、世界一の茶葉生産量を誇るが、近年はコーヒー豆の生産も急速に盛んになってきている。世界最大のコーヒー生産国ブラジルと比べればまだ1,000分の1ほどとはいえ、生産量は15年間で9倍も増加している。
そのコーヒー栽培の中心となっているのが、『My HomeTown in China』にも登場した雲南省。温暖で安定した気温と適度な降水量というコーヒー栽培に最適な条件を備えた同省のコーヒー豆生産量は、中国全体の実に98%を占める。20世紀初頭、雲南省の大理にフランス人宣教師がコーヒー豆を持ち込んだのが、中国本土におけるコーヒー栽培の始まりと言われている。その後1988年にネスレが本格的な栽培を開始したのを皮切りに、現在ではスターバックス、クラフト、マックスウェルなど世界大手や日本のUCC上島珈琲など、多くのコーヒー会社が雲南省からコーヒー豆を調達している。とりわけプーアル茶の産地として知られる普洱市は一大生産拠点となっており、茶葉からコーヒーへと生産のシフトが進んでいる。
中国で生産されたコーヒー豆はほとんどが国外へ輸出されており、中国の人口1人あたりの年間コーヒー消費量は0.02kgにすぎない(日本は3.4kg、最多のフィンランドは12kg。国際貿易センターの推計による)。しかしそれだけに、国内コーヒー市場はまだまだ拡大の余地があるとして大きな期待が寄せられている。2007年から2012年の5年間で、カフェの数は1万5,000軒から3万軒に倍増し、家庭用コーヒー豆(インスタント含む)の売上も年平均18%の割合で増加しているとのデータもある(ミンテル調べ)。経済成長にともなうライフスタイルの変化を象徴する現象のひとつと言えるだろう。
スターバックスは現在中国国内に400近い店舗を構えている
Kaleidoscope 異文化の万華鏡
農村地域のコミュニティー・センター ~祠堂(ツータン)
中国では古来より祖先を同じくする同姓の集団(「宗族(ゾンズー)」と呼ばれる)内のつながりが深く、とくに華南では宗族ごとに代々ひと つの土地にまとまって生活し、村落を形成してきた。祖先への崇拝意識が高いこうした村落において、祖先を祀ると同時に地域社会の核と なる役割を果たしてきた建物が「祠堂」である。
祠堂は祖先の位牌を安置して供養するという本来の目的のほか、冠婚葬祭や伝統行 事の儀式を行うなど、宗族内で重要な話し合いをする集会所として利用されてきた。また、一族の規範に背いた者を裁く裁判所としての機 能や、学校の機能を備えた祠堂もある。日本で言えば地域の氏神を祀る神社に近いが、より社会的な意味合いが強く、宗族のメンバーが折にふれて集まり、絆と団結力を強める重要な場所なのである。
各宗族の威厳を示す場でもある祠堂は、多くが質のよい建材を使って建てられ、壮麗な彫刻で装飾されており、とりわけ大広間は立派にしつらえられている。金字でしたためた堂の名前をはじめ、一族の由来や過去の功績などを美しく額装して飾り、その数と豪華さで宗族の栄光を競う。
広東省肇慶市楊池古村にある葉氏の祠堂(撮影:Fang Hsieh)
祠堂の中には複数の同姓宗族が合同で出資して建築された大規模なものもある。よく知られているのは、広東省の72の陳姓宗族の 祖先を祀った陳家祠堂。広州市内の1万5,000平方メートルの敷地に建てられた大小19の建物からなるこの祠堂は、屋根や柱、欄干などいたるところに精巧な彫刻が施されており、観光スポットとしても人気を博している。広東省に多く見られるこうした合族祠堂は氏姓書院とも呼ばれ、各地から科挙の受験のために訪れた同姓の人たちの寄宿舎としても使われていた。
陳家祠堂を飾る精巧な彫刻