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中国最大の動画サイト ヨウク・トゥードウ

通信事業者とOTT(Over The Top:オーバー・ザ・トップ)サービス・プロバイダーの関係は、徹底した競争から「コーポレーション(協力)+コンペティション(競争)=コーペティション」と呼ばれるものに進化してきた。両者がエコシステムにそれぞれの適所を見つけ、双方にメリットがあれば必要に応じて協力しあっているのだ。ヨウク・トゥードウ(優酷土豆、中国で最大の動画共有サイト)のワイヤレス事業運営部門でシニア・ディレクターを務める費溢群(Fei Yiqun)氏が、OTT動画におけるヨウク・トゥードウ、通信事業者、ファーウェイの3者による提携モデルについて語ってくれた。

携帯動画市場の可能性

WinWin:中国の携帯動画サービスの主な特徴と傾向をどのようにとらえていますか。またどのように新しいチャンスをつかもうとしているのでしょうか。

費氏:以前から従来型のインターネット・ユーザーとモバイル・インターネット・ユーザーについて、ユーザー行動を中心にさまざまな比較調査が行われてきましたが、携帯情報端末ユーザーはインターネットを短時間で細切れに閲覧し、ビデオ・クリップも短いものしか見ないだろうと考えられていました。しかし、端末の画面が大型化し、機能が豊富になり、ネットワークの伝送速度が向上したことにより、いまやユーザーは電話機やタブレットを長時間利用するようになり、携帯情報端末は小型のPCのように使われています。

中国では、もはや携帯でのインターネット閲覧を「細切れ」の利用と見なすことができなくなっています。モバイル・インターネット・ユーザーのオンライン利用時間のうち60~70%が携帯端末からのものだという統計もあります。これは細切れの時間とは言えない数値です。ユーザーはより長い時間、継続的にインターネットにアクセスしていると考えられます。

ヨウク・トゥードウの統計では、携帯端末からのトラフィックは急速に増加しており、スマート・デバイスとモバイル・ブロードバンドの進化と相まって、この動きは今後も続くでしょう。当社は携帯動画サービスを戦略的市場と見ています。複数のオペレーティング・システム(AndroidやiOSを含む)をサポートする携帯サイトに加え、Safariブラウザー向けの特殊なジェスチャー制御も開発しました。ヨウク用とトゥードウ用の独立したアプリケーションや、さらには中国語圏で絶大な人気を誇る台湾のバラエティー番組『康熙来了(Kangxi lai le)』をはじめさまざまなビデオ・プログラムごとに特化したアプリケーション、ユーザーがビデオ・クリップをアップロード、ダウンロード、共有するための専用アプリケーションなども用意しました。視聴者に最新のビデオ・プログラム更新情報を提供する豆包(doubao)という動画登録アプリケーションもあります。

WinWin:中国のユーザーのほとんどが無料の動画コンテンツに慣れていることが、コンテンツを商品とする企業にとって大きな課題になっています。この業界の主要な収益モデルはどのようなものだとお考えですか。

費氏:動画ビジネスは敷居が高く、多額の投資が必要です。コンテンツの制作と調達、サーバーと帯域幅の確保という点で、立ち上げコストは従来の (テキストと画像を特徴とする)インターネット・コンテンツに比べてはるかに高額です。そのため、OTT動画業界が利益を上げるのは相当な難題です。現在、ヨウク・トゥードウは3つの部門で収益を上げています。

まず、最大の収益源は広告です。これは急成長している分野ですが、コストの増加が原因で全体の利益幅は縮小しています。2つめとして、有料の会員制サービスも提供しており、ユーザーは広告なしの動画や割安な料金で有料コンテンツを楽しむことができます。ただし、中国のユーザーはまだ有料コンテンツになじみが薄いため、これは実験的なもので、今後どうなっていくかはわかりません。3つめは通信事業者との提携です。既存のインターネット・サービス・ユーザーとは異なり、携帯電話ユーザーはとても便利な方法でサービス料を支払っています。そこで、通信事業者と提携して彼らが持つ合理的な料金徴収システムを活用することにより、広告や会員制課金を上まわる新しい収益モデルの追求に役立てようとしています。

競争から協力へ

WinWin:通信事業者とOTTサービス・プロバイダーを競争相手と考えている人もいれば、その関係をコーペティションと考えている人もいます。費氏のご意見をお聞かせください。

費氏: ヨウクとトゥードウはまったく同じサービスを提供するライバル同士でしたが、いまは合併しています。しかし、通信事業者とヨウク・トゥードウでは事情が異なります。専門知識や、焦点を当てている分野が違うのです。当社には通信事業者のコア・コンピタンスに追いつけない部分がある一方、こちらにも彼らが短期間で追いつけないであろう得意分野があります。

要は、得意なことは自分たちでやって、不得意なことはできる人に任せるということです。これまでは、ヨウク・トゥードウ、通信事業者、機器ベンダーのすべてが事業の拡大を目指していました。いまは、当事者全員が満足できるような協力関係が構築されています。これはビジネス界の自然の法則といえるでしょう。

WinWin:ヨウク・トゥードウ、通信事業者、ファーウェイが協力する上でのメリットと責任とはどのようなものでしょうか。

費氏:通信事業者は3つの領域でコア・コンピタンスを持っています。1つめは、ユーザーに関して総合的かつリアルな情報を握っていることです。これは通信事業者固有の強みです。2つめは、ネットワーク全体を所有し、熟知していることです。ネットワーク・リソースを割り当てたり、ネットワークの伝送速度と品質を向上させることができます。3つめは、便利な課金手段を持っていることです。さまざまな価格設定モデルで、柔軟にパッケージを設計できます。

ユーザーは何事もコスト・パフォーマンスに基づいて評価します。ヨウク・トゥードウの場合は、価格を完全にコントロールすることはできませんが、コンテンツを所有し、動画に関するユーザー・ニーズを把握しています。これは、スーパーマーケットの商品陳列や美術館の展示とよく似ています。何百万ものビデオ・クリップをどのように配置したら最適で見栄えがよく、お客様が喜び、購入意欲と視聴意欲を促進することができるのか。こうした視点は通信事業者にはないものでしょう。

ファーウェイは、ネットワークの全体構造、必要なソフトウェア、そして通信事業者の利益をどうしたら最大化できるかを把握しているため、われわれよりも通信事業者のことを熟知しています。私が感心したのは、ファーウェイが通信事業者に適切なOTTサービス・パートナーを見つけようと努力している点です。これはすばらしいことだと思います。さらに、われわれは特定の国からのトラフィック量などは統計としては目にしますが、それがその国の現実的、総合的なユーザー・ニーズを反映しているとはかぎりません。その点、ファーウェイはグローバルに事業展開しているため、地元の通信事業者との太いパイプがあり、地元のユーザーをよく理解しています。

WinWin:通信事業者との共同事業をいくつか紹介していただけますか。

費氏:中国国内では、チャイナ・モバイルとチャイナ・ユニコムの両社と提携しています。前者に対しては、『G Snap』という携帯動画コンテストの立ち上げに協力し、これまでに3回開催されました。『G Snap』は「ワイヤレス・ボックス・オフィス(仮想チケット売り場)」というアイデアを採用しています。ユーザーは、携帯電話またはPCを介して『G Snap』に投稿された有料コンテンツを見ることができます。料金はボックス・オフィスに蓄積され、そのうちの20%がコンテンツ制作者の収入となります。われわれはこの事業から得られる付加価値をさらに検証し、制作者の可能性を広げて増収を支援することで、今後制作される動画の質と技術を向上させるきっかけにしたいと考えています。

加えて、より新しい方法でも通信事業者との共同事業を進めています。これまでは、「ウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)」モデルと称されるように、通信事業者のプラットフォーム上で動画サービスを提供していましたが、スマート・デバイスの普及に伴って、ユーザーは直接動画サイトを訪れることができるようになりました。そこで2012年8月に、当社は上海のチャイナ・ユニコムと共同で新しい月極課金パッケージを立ち上げました。チャイナ・ユニコム上海のユーザーが携帯電話からヨウク・トゥードウのサイトを訪問するとプロンプトが表示され、10人民元(約145円※)を支払ってヨウク・トゥードウからのビデオ・クリップを無制限に利用できるパッケージに加入するかどうかを尋ねられます。無料のWi-Fiアクセスをあちこち探し回るか、10人民元を支払って高額なデータ使用料を気にすることなく3Gネットワークで当社サイトの無制限ビデオ・クリップを楽しむかは、ユーザーの選択に委ねられています。また、当社もわざわざビデオ・クリップを通信事業者のプラットフォームに転送する必要がありません。ユーザーは当社独自のサイトで直接動画を見ることができます。

さらに現在、ヨウク・トゥードウはファーウェイと共同で、中国のコンテンツを国外へ配信するため、他の国の通信事業者との提携を模索しています。海外で暮らしている中国人が非常に多いので、国外からのトラフィックが大量にあるのです。われわれの動画を海外の通信事業者のプラットフォームに載せれば、動画品質と現地ユーザーのエクスペリエンスは向上しますし、提携パートナー間での新しい収益配分モデルを構築できる可能性もあります。

※1人民元あたり14.5円換算