クアルコムジャパン株式会社 代表取締役社長に聞く
独創的な技術と積極的な協業で通信市場の活性化に貢献
スマートフォンなどモバイル通信端末の心臓部とも言える半導体プロセッサーにおいて、圧倒的な存在感を誇示するクアルコム。その比類なき競争力の源泉は何なのか、グループの世界戦略におけるクアルコムジャパンの役割とは――。今回は、クアルコムジャパン株式会社のクリフォード・フィッキ社長に、新技術の創造と普及にかける情熱と、日本の通信市場の発展に向けたビジョンを語っていただきました。
緊密なコラボレーションのもと次世代技術の創出に邁進
編集部:フィッキ社長は2011年5月にセールス・オペレーション担当のバイス・プレジデントとしてクアルコムに入社されたとうかがっています。クアルコムへの参画を決められた理由をお聞かせください。
フィッキ氏:私はノーザン・イリノイ大学で修士号を取得した後、テキサス・インスツルメンツ、NECエレクトロニクス、マーベル・セミコンダクター、アプライド・マイクロ・サーキットなどで、主にマーケティングと事業開発に携わってきました。半導体ビジネスの世界で30年以上のキャリアを積んだ私から見ても、クアルコムは傑出した独創性と革新性を持った素晴らしい企業グループです。モバイル機器のチップで世界をリードするクアルコムに参画できたことを非常に名誉なことだと感じています。ワイヤレス技術が今後の通信市場をリードしていくのは間違いありません。将来性豊かなモバイルの領域でクアルコムの先端技術を展開していくことは、他では経験できないエキサイティングな仕事だと考えています。
編集部:クアルコムジャパンの社長に就任されてから10か月が経過したわけですが、フィッキ社長はどのような方針で日本でのビジネスを運営していらっしゃるのでしょうか。
フィッキ氏:私の経営スタイルは、ビジネス・パートナーとのコラボレーションを基盤に技術革新(イノベーション)を推進していくというものです。ファーウェイをはじめとする国内外の携帯端末メーカーや通信事業者と協業して新技術を市場に投入し、モバイル機器の可能性を拡げていくこと、それは私たちだけでなくパートナー企業にとっても有益で意義あることだと信じています。さらに、技術革新を進める上で最も大切なのは、エンド・ユーザーであるお客様に満足していただくことです。お客様にモバイル機器を使う喜び、つまりポジティブな「ユーザー体験」を提供できて初めて、私たちの製品が意味を持つという事実を忘れてはなりません。
独創的なR&Dがつくる人と情報の新しい関係
編集部:クアルコムはモバイル端末用のチップで世界No.1のシェアを堅持しています。競争力の源泉はどこにあるとお考えですか。
フィッキ氏:独創的なR&Dによってお客様が真に求めている性能や機能を提供してきたことが競争優位の要因でしょう。たとえばインターネットについて考えてみても、私が半導体業界で仕事を始めた30年前は、その構想が議論され始めた段階でした。構想はやがて有線で実現し、いまではワイヤレスとなって、お客様はパソコン、タブレット、スマートフォンから必要としている情報に容易にアクセスできるようになりました。こうした通信環境の進化を支えたのがチップの高性能化です。優れた処理能力と低消費電力を両立するさまざまな技術要素をひとつのチップに統合・集積して提供すること、それこそが設立以来クアルコムが取り組んできたテーマであり、同時に強みでもあると認識しています。
編集部:日々何気なくスマートフォンやタブレットを使っていると、搭載されたテクノロジーのことまでなかなか考えが及びません。しかしそこにはクアルコムが追求してきた技術の粋が込められているのですね。
フィッキ氏:おっしゃる通りですが、パートナー企業の貢献についても強調しておきたいと思います。お客様とじかに接する通信機器メーカーは、ニーズの変化を迅速かつ的確に捉えることができる立場にあります。クアルコムは彼らとのディスカッションを通じて、次の世代にどんな機能が期待されるかについて多くの示唆を受け、それを製品開発に反映してきました。また私たちはファブレスですので、半導体の製造を委託しているパートナー企業、たとえばTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)などの協力がなければ高性能なチップを実用化することはできません。クアルコムは今年1月にアメリカで開催されたCES(ConsumerElectronics Show)で『Snapdragon800 』シリーズを発表しましたが、これもTSMCをはじめとする各企業とのパートナーシップによって実現したものです。
すべての機器がネットワークでシームレスにつながる社会へ
編集部:CESではクアルコムのCEOであるポール・ジェイコブス氏が基調講演をされました。これはエレクトロニクスの世界に、モバイル化やスマート化がさらに加速する「新しい時代」が到来したことを示す出来事のように思われます。フィッキ社長はエレクトロニクスと通信の今後について、どのような展望をお持ちですか。
フィッキ氏:今後は私たちの暮らしを支えるあらゆるものがネットワーク化され、シームレスにつながっていくでしょう。たとえば家庭にある機器類の中で、いまネットワークにつながっているものは10にも満たないと思います。近い将来それが100や200になる。テレビや冷蔵庫から電球に至るまで、すべての機器がネットワークで結ばれ、てのひらにおさまるスマートフォンでコントロールが可能になるはずです。CESでわれわれのCEOが行った基調講演も、モバイルや通信の技術によって人々の暮らしがどのように変わるかというビジョンをご提示したものと理解しています。
編集部:フィッキ社長もCEOも常に次の時代を見据えていらっしゃるのですね。未来思考を重んじる経営姿勢が、クアルコムの強さの秘密ではないでしょうか。
フィッキ氏:社会や暮らしのあり方を長期的な視点で捉え、次世代のユーザーが求める技術を追求することがわれわれの使命です。私には小さな子どもがいるのですが、その子どもがティーンエイジャーになる頃、どのような製品や機能が必要とされるのかを絶えず想定するようにしています。
ローカルとグローバルクアルコムジャパンの2つの機能
編集部:クアルコムジャパンはグループの最重要拠点のひとつとうかがっています。日本での役割と成長戦略をお聞かせください。
フィッキ氏:私たちの第一のミッションは、クアルコムの先進的な技術を日本の通信市場に導入するということです。その目標を達成するため、日本の通信機器メーカーとのコラボレーションを今後も拡充していく方針です。また、ファーウェイのようなグローバル企業とも協業することで、日本市場全体のスピード感を高めていくという好影響をもたらすこともできるでしょう。クアルコムジャパンは、このようなローカルとグローバルという2つの機能にさらに磨きをかけ、シナジーの最大化を目指していきます。
編集部:日本経済の地盤沈下が喧伝されて久しいですが、フィッキ社長は日本の通信市場の可能性について、どのような見解をお持ちですか。
フィッキ氏:クアルコムにとって日本市場の重要性はこれからも変わることはないでしょう。『Snapdragon』搭載のスマートフォンを世界で最初に発売したのが日本のメーカーであったように、クアルコム製品の展開先として日本は大きな可能性と将来性を持っています。クアルコムジャパンは今後も日本の機器メーカーと協業し、あるいはファーウェイのような海外企業と連携しながら、日本の通信市場の活性化と日本社会の発展に貢献していく考えです。
編集部:クアルコムジャパンはコーポレート・シチズン(企業市民)の責務を果たすためCSR活動にも注力されているそうですね。フィッキ氏:ワイヤレスの技術を応用し、災害発生時に被災地の患者の血圧の測定データをモバイル端末から遠隔地の医療機関に送信するというシステムを、日本の政府や大学と協力して提供しています。また日本の高等学校の一部には授業にスマートフォンを取り入れる動きがありますが、こうした教育における取り組みに対しても必要な支援を行っています。クアルコムのグローバルな能力を使ってローカルな課題に応えていくこと、それが私たちのCSRです。
イノベーションを生み出すオープンな企業風土
編集部:短期間で世界企業に成長したことやR&Dに経営資源を集中投入していることなど、クアルコムとファーウェイには共通点が多いように思われます。フィッキ社長はファーウェイに対してどのような印象をお持ちでしょうか。
フィッキ氏:私たちはお客様の良好かつ快適なユーザー体験に資することを常に念頭に置いて事業活動を行ってきました。こうしたエンド・ユーザーの視点を大切にする価値観は、ファーウェイとクアルコムに共通するものではないでしょうか。また、より良い製品を創造するためには、新しいものに対してオープンでなければなりません。新しいこと、過去と違うことをやることでしか変化は起こせないからです。私は前職で中国市場を統括していた関係からファーウェイの本社を何度か訪問しましたが、そのときの社員の皆さんとのやりとりから、未知の分野に果敢にチャレンジしていくオープンな気風と文化を強く感じました。
編集部:ファーウェイにとって、携帯端末の中核部品を供給していただいているクアルコムはかけがえのないビジネス・パートナーです。最後に、両社の関係強化についてフィッキ社長のお考えをお聞かせください。
フィッキ氏:私はクアルコムの中国でのオペレーションには直接関与しておりませんが、中国市場の重要性は明らかで、クアルコムはそこに膨大なリソースを投下しています。中国の、そして世界の通信業界を牽引しているファーウェイとのコラボレーションは、その意味でもクアルコムの成長に欠くことのできない必須要素と言えます。日本においても、先端技術の市場導入と事業基盤の強化を図るクアルコムジャパンと、モバイル端末のシェア拡大をめざすファーウェイは堅固な協力態勢を築いていくべき関係にあります。モバイル社会に新しい価値を提供していくために、不可能なことを可能にする挑戦をともに続けていきたいと願っています。