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すべてをつなぎ、社会を変えるNB-IoT

2018.07.06

コンシューマーデバイスからスマートシティまで
すべてをつなぎ、社会を変えるNB-IoT

携帯電話研究家としてモバイル通信を追いかけてきた山根康宏氏が、5Gの到来とともにNB-IoTがもたらす“つながった”未来を探ってきたこのコーナー。連載最終回となる今回は、9月にドイツで開催された『IFA2018』での展示を中心に最新事例を紹介しながら、すべてがつながった世界のインフラとして重要な存在となりつつあるNB-IoTの可能性を総括します。



山根康宏(やまね やすひろ)

香港を拠点とし、世界各地で携帯端末の収集とモバイル事情を研究する携帯電話研究家・ライター。1,500台超の海外携帯端末コレクションを所有する携帯博士として知られるが、最近では通信技術やIoTなど広くICT全般へと関心を広げ、多岐にわたるトピックをカバーしている。『アスキー』『ITmedia』『CNET Japan』『ケータイWatch』などに連載多数。


着々と進む実用化
B2Cサービスも登場

5G商用化の足音が具体的に聞こえてきた2018年後半から、IoTに関連したサービスの実用化が相次いで始まっている。各国ではNB-IoTを使ったさまざまなテストが行われており、実サービスとしてローンチした具体例も増えてきた。また、B2BだけでなくB2C向けのサービスにもNB-IoTを利用したものが登場している。

ドイツテレコムの『Park and Joy』は駐車場の空きをリアルタイムで確認できるサービスで、ハンブルクを皮切りにドイツ全土に利用エリアを広げる計画だ。スマートフォンアプリで、空きスペースを探せるほか、車を離れている間は駐車時間を確認でき、駐車料金の支払いも可能。この手のサービスはスマートシティの一環として各地でテストが行われている。

ボーダフォンも、ドイツで同社が提供するスマートホームサービスの一部にNB-IoT内蔵のトラッキングデバイスを使ったサービスを開始予定だ。すでにGSMを使ったデバイスで持ち物やペットのトラッキングサービスを提供しているものの、バッテリーの持ちは数日程度。NB-IoTならより長時間利用できることから、身の回りのより多くのものに取り付けておくことができる。通信事業者にとっても、実用性の高いトラッキングサービスとして新たな収益源となりうるだろう。

低電力・ローミング可能でトラッキングへの活用が有望

ファーウェイはNB-IoT内蔵トラッキングモジュールを発表

9月にドイツで開催されたITと家電の総合展示会『IFA2018』でも、NB-IoT関連の製品やサービスの展示が目立った。中でもファーウェイはスマートフォン向け新型チップセット『Kirin980』に加え、NB-IoT内蔵のトラッキングデバイス『HUAWEI Locator』を発表した。ペットや子どもの追跡も可能で、SOSボタンで緊急時にあらかじめ指定した相手に場所を即座に通達することもできる。この製品はB2B向けではなくコンシューマー向け製品として発表され、今後は一般向けに通信事業者や家電量販店から販売される予定である。

飛行機に乗るときのトラブルの1つである預入荷物の紛失対策に、3GやBluetoothを内蔵したスマートスーツケースが製品化されている。しかし、スマートフォンの充電や通信モジュールの給電用に大型バッテリーを内蔵していることから、最近では預け入れを拒否する航空会社が増えており、市場は成熟前に縮小する方向だ。これからは荷物の追跡用に消費電力が少なく電池の持ちのよいNB-IoTを使ったトラッキングモジュールがもてはやされ、空港やターミナル駅でこの手の製品が販売される時代が来るようになるだろう。

NB-IoTのネットワークは、ドイツテレコムが提供するサービスだけでも、ドイツ、オーストリア、ポーランド、スロバキア、クロアチア、チェコ、ハンガリー、ギリシャと広がっている。セルラーベースのNB-IoTは国をまたいでのローミング利用も可能だ。ファーウェイがいち早くNB-IoTのコンシューマー向け製品を投入したのは、ネットワーク拡大で商用利用が十分可能と判断したからだろう。

スマート家電の普及も後押し

IFA2018では家電メーカーによるNB-IoTの応用事例も見られた。中国のハイセンス(海信)やチャンホン(長虹)は大型TVなど来場者受けする華やかな製品だけではなく、スマートごみ箱やトラッキングデバイスなどIoT関連ソリューションも展示。NB-IoTモジュールもあり、家電製品への組み込みも想定されている。チャンホンのソリューションはファーウェイの『HiLInk』、シャオミ(小米)の『Mijia』など中国のスマートホーム・IoTサービスに対応しており、スマート家電のコントロールや、天気・渋滞情報などを活用したスマートシティとの連携が期待できる。

パナソニックも会期中、ボーダフォンとNB-IoTを活用したスマート家電の実証実験を2018年秋からフランクフルトで行うと発表。家電の遠隔操作や管理を視野に、まずはエアコンで検証実験を行う。家電メーカー各社はスマート家電の開発に長い年月を費やしているが、家庭内にWi-Fiやゲートウェイを必要とするため普及はなかなか進んでいない。NB-IoTで家電が直接ネットワークに接続できれば、スマートフォンにアプリを入れるだけでコントロールできる。NB-IoTの商用化はスマート家電の普及にも役立ちそうだ。

ワイナリーや養蜂もスマート化

これらの事例のように、NB-IoTはスマートな生活を実現するための通信手段の1つとして存在感を着々と高めている。一方B2Bでの応用も、NB-IoTの特性を活かし、これまでスマート化が難しかった農業を中心とした一次産業での採用が進んでいる。

ギリシャではドイツテレコム傘下のコスモート(Cosmote)が地方のワイナリーにNB-IoTを使ったセンサーを導入し、ワインの製造・保管をモニタリングすることで品質の安定化を図っている。またドイツのスマート養蜂はハチの巣内の状況をNB-IoT経由で通知する。重量センサーがハチミツの収穫時を伝え、騒音センサーが巣内の音を感知して環境悪化を知らせる。ハチミツの収穫安定化だけではなく、死滅するミツバチの数を減らすことで自然界の植物の受粉を促すという、地球環境にも好影響を与えるプロジェクトになっている。

ドイツテレコムは地元の養蜂家と自社の敷地内でスマート養蜂を実施している

社会を大きく変えるスマートシティの基幹インフラに

中国江西省の鷹潭市では、スマートパーキングをはじめNB-IoTを活用したスマートシティの実現が進む

センサーによるデータ収集ソリューションは農業だけではなく、都市のスマート化も大きく促進する。この分野では中国江西省の鷹潭市の成功事例が知られている。同市にはチャイナモバイル(中国移動)、チャイナテレコム(中国電信)、チャイナユニコム(中国聯通)の国内大手3事業者がNB-IoT基地局を約1,000か所に設け、接続数は10万を超える。街灯や駐車場、マンホールの蓋、水道メーターに設置したセンサーで収集したデータを活用し、ユーティリティの有効利用を一気に進めた。

スマートシティの実現には、通信事業者が回線インフラを提供するだけではなく、ビッグデータの保存や解析を行うソリューションプロバイダーのほか、運送やEC、病院や学校、商店など異業種間のコラボレーションが求められる。街中のあらゆるデータを収集できる環境も必要だ。低コスト・低消費電力・セルラーネットワークを使う高信頼性という特性を持つNB-IoTは、スマートシティに不可欠な基幹インフラの1つになることは間違いない。

情報収集から解析、商用展開までのエコシステムが構築されれば、新しいビジネスも生まれる。インテリジェンス化された街は住みよい生活環境を与えてくれるだけではなく、エネルギー利用の効率化により環境汚染も低減してくれる。あらゆるモノとモノ、モノと人をつなぐNB-IoTは単なる通信技術を超え、人間の社会生活を大きく変えるものになっていくだろう。