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たゆまぬ探究が導くブレークスルー

2018.07.06

“サイエンス・インカレ” “科学技術映像祭”の「ファーウェイ賞」受賞者に聞く

科学技術の世界では、時に世界をあっと驚かせるような偉大な発明や発見がもたらされることがあります。こうしたブレークスルーは一朝一夕に成し得るものではなく、探究者による長年の忍耐と小さな努力の積み重ねが生み出す成果です。次世代のICT人材育成をCSRの柱に掲げ、未来の科学技術を支える活動を行うファーウェイは、理系学生の自主研究の祭典『サイエンス・インカレ』や、科学技術を伝える優れた映像作品を表彰する『科学技術映像祭』に協賛し、「ファーウェイ賞」を授与しています。今号の『HuaWave』では、今年3月に行われた第7回サイエンス・インカレで同賞を受賞した「別府『湯の花』の皮膚に対する効果」に関する研究と、4月に発表された第59回科学技術映像祭の同賞受賞作品『奇跡の子どもたち』の詳細をご紹介し、長期にわたる探究によってブレークスルーを起こすまでのプロセスに迫ります。

サイエンス・インカレ

自然科学分野を学ぶ大学の学部生などが自主研究の成果を発表する場として、文部科学省の主催により2012年から開催。ファーウェイは2015年から協賛し、新規性・実用性・グローバルに活躍できるコミュニケーション力を備えた研究に「ファーウェイ賞」を授与しています。

科学技術映像祭

科学技術への関心を高めることを目的に、日本科学技術振興財団・映像文化製作者連盟・つくば科学万博記念財団が主催する映像祭。今年で第59回を迎えたこの映像祭に、ファーウェイは昨年に続いて特別協賛を行い、内閣総理大臣賞受賞作品に対して「ファーウェイ賞」を授与しました。

湯の花がアトピー性皮膚炎の症状を改善するメカニズムを解明!

チームワークで「科学的根拠」を探究し、初の快挙

ファーウェイ賞を受賞した別府大学食物栄養科学部食物栄養学科の研究チーム。
左から西山裕妃さん、本浪歩実さん、廣岡亜莉沙さん、二宮香織さん、瀬口まゆさん

全国45万の患者に朗報をもたらす研究成果

別府の「湯の花」が、アトピー性皮膚炎の症状改善に有効――そんな画期的な研究が発表されたのは、今年3月に東京の立教大学池袋キャンパスで開催された「第7回 サイエンス・インカレ」のポスター発表部門でのこと。全国から集まった学生たちの研究熱にあふれる会場内で発表された、別府大学食物栄養科学部食物栄養学科3年生(当時)のチームによる「別府『湯の花』の皮膚に対する効果」と題した研究です。この研究は、全国有数の別府温泉から採れる「湯の花」がアトピー性皮膚炎の症状を改善するメカニズムとその有効性を初めて解明しました。

厚生労働省によると、アトピー性皮膚炎は日本では2番目に患者数が多い皮膚疾患で、全国の患者数は推計で45万6,000人に上ります。強いかゆみを伴うこの疾患に長い間悩まされてきた多くの患者にとって、学生たちによる研究成果は大きな朗報となります。

古くからの伝統に科学的にアプローチ

同科の仙波和代教授の指導のもと、今回の研究に参加したのは、二宮香織さん、西山裕妃さん、本浪歩実さん、瀬口まゆさん、廣岡亜莉沙さんの5名の学生。産学官連携により地元企業と湯の花を活用した商品開発を目指すなか、その共同研究の一環として実施されました。最初のモニタリング調査では、皮膚トラブルを抱えている8名のモニターに湯の花を使った化粧水やクリームを1か月間試用してもらい、調査データをチーム全員で評価・検討。8名とも皮膚症状の改善傾向が見られ、とりわけアトピー症状の改善が顕著だったという結果を得ました。

そこで、二宮さん・西山さんが「湯の花の新規機能の探索」を、本浪さん・瀬口さん・廣岡さんが「湯の花の皮膚への浸透性の検証」を担当し、科学的根拠を得るための実験が進められました。

まず、アトピー性皮膚炎の原因菌の1つとされる黄色ブドウ球菌に対する湯の花の抗菌活性作用を検証し、その効果を確認。次に湯の花を樹状細胞に添加し、マイクロアレイ解析という手法で遺伝子を詳細に解析して、黄色ブドウ球菌への抵抗性を向上させるIrak-4(アイラックフォー)遺伝子の発現上昇を突き止めます。さらに、湯の花が経皮的に全身へ作用する可能性を調べるために、3次元皮膚モデル細胞に湯の花を添加する実験を行ったところ、湯の花成分の一部が皮膚の基底層を通過して真皮に浸透していることが判明します。つまり、湯の花はアトピー性皮膚炎の原因菌への抵抗力を高める遺伝子を活性化させると同時に、湯の花の成分が皮膚に浸透することで全身に広がり、効果を発揮している可能性があることが初めて示されたのです。

この発見は、伝統的に「肌によい」と言われていた湯の花の効果を科学的アプローチで解明した画期的な第一歩でした。医学や遺伝子学の専門ではない学生たちが、実験器具の使い方から学びながら一歩ずつ研究を進め、アトピー性皮膚炎治療の研究の可能性を広げる快挙を成し遂げました。

産学官の共同研究により地元企業が開発、発売した湯の花成分の入った「極み石鹸」と「極みクリーム」

別府「湯の花」を世界に広めたい

チームリーダー 二宮香織さん

サイエンス・インカレのポスター発表で、来場者に研究内容を説明する二宮さん

サイエンス・インカレでは多くの興味深い研究発表と同世代の学生との交流から刺激を受け、非常に貴重な経験ができました。受賞発表で私たちの番号が呼ばれた瞬間は信じられない気持ちで、チーム全員が喜びと達成感を感じるとともに、別府「湯の花」のPRにつながることを大変嬉しく思いました。

チームでは役割分担をして研究を進めていたため、実験の結果や考察の共有がうまくできなかったり、意見が対立したりすることがありました。一方的に自分の意見を押しつけるのではなく、リーダーとしてチームみんなの意見を受け止めながらコミュニケーションをとり、チームワークを築くことがとても大切だと学びました。

今回「湯の花」がIrak-4 遺伝子の発現を上昇させることを初めて科学的に解明できたことは大きな成果でした。また、湯の花の商品の機能性の証明に携わり、自分たちの研究が形になったことも感慨深いです。

今後はアトピー性皮膚炎への確固たる有効性を証明し、さらに他の分野にも応用していきたいと思います。今回の受賞で新規性や実用性を評価していただけたことを励みに、別府「湯の花」をもっと世に広められるよう努力し、世界中のアトピー性皮膚炎の方の悩みが少しでも解消されるよう心から願っています。

科学の視点を持ち、伝える力を持った栄養士に

指導教官・仙波和代教授

別府大学は地域に密着した大学であり、地域貢献に力を入れています。私の研究室では8年前に赴任した当初から地域貢献につながる研究テーマに取り組んでおり、最初は「地獄蒸し」という硫黄の噴気で食材を蒸した伝統食品の脳機能活性化について研究を行い、2015年のサイエンス・インカレで発表しました。それを元に、今回は同じ硫黄噴気で精製する湯の花に着目し、彼女たちに研究参加してもらいました。彼女たちは今後管理栄養士となる学生です。栄養士の仕事はさまざまな栄養素からなる食材を複合的に組み合わせて健康的な食事を考えることなので、複合的な化合物である湯の花の効能を科学的に研究するという経験からは多くを学べると思います。

地方の大学ということもあり、サイエンス・インカレは同世代の学生がどのような考え方でどのような研究をしているのかを知るいい機会になります。また栄養学は比較的新しい学問なので、今後どのような観点から科学として追究できるのかを自ら学んでほしいとも考えました。学生たちの真摯な努力に対してファーウェイ賞をいただき、大学をあげて一同嬉しく思っております。受賞のポイントに「グローバルに活躍できるコミュニケーション力」がありましたが、社会で働く上でとても重要な能力を評価していただけたことは、今後の自信にもつながるでしょう。将来、科学の視点から病気や栄養を考え、そしてそれを医療の場で伝えていけるような管理栄養士になれるよう、この研究で得た考え方と成功体験を大いに役立ててほしいと思います。

希少難病「AADC欠損症」からの劇的な改善を描く、感動のドキュメンタリー『奇跡の子どもたち』に学ぶ

人が持つ力、あきらめない気持ちが可能性を創り出す

映画『奇跡の子どもたち』より、AADC欠損症を患う松林佳汰さん(右から2番目)、亜美さん(中央)、
母親の瑠美子さん(右端)と自治医科大学の医師たち

「少しでもこの病気を知ってほしい」強い意志で撮り続けた作品

優れた科学技術映像を通じた科学技術への関心の換起と普及、社会一般の科学技術教養の向上を目的に、毎年行われている「科学技術映像祭」。今年4月に東京・九段で行われた第59回の表彰式では、タキオン・ジャパン代表で映画監督・映像プロデューサーの稲塚秀孝氏が制作した『奇跡の子どもたち』が内閣総理大臣賞とファーウェイ賞を同時に受賞しました。

同作は、日本でたった3人しかいなかった希少難病「AADC欠損症」(次ページ囲み参照)に苦しむ子どもたちが、家族や医師らに支えられ、日本の小児神経医療史上初となる遺伝子治療によって劇的に改善していくまでを、2007年から10年間にわたり追い続けたドキュメンタリーです。 稲塚氏がAADC欠損症を知ったのは、2006年の秋のこと。3人の患者の1人である山田慧さんの父親から、この病気を世に広げていくことはできないかと相談されたのがきっかけです。作品に登場する山田慧さん(当時11歳)、松林佳汰さん(同7歳)と妹の亜美さん(同4歳)は生まれつき寝たきりで、身体の硬直などの頻繁な発作症状に苦しんでいました。有効な治療薬が見つからないなかでも、子どもたちの笑顔に励まされ懸命に介護し続ける家族と、患者を救うため強い使命感で治療法を模索する医師たち。最初は手探りで患者家族の映像を記録し始めた稲塚氏は、「自分にできることは、AADC欠損症という難病を少しでも多くの人に知ってもらうこと」とその意志を固め、希少難病と懸命に闘い続ける人々の日々を克明に描き出していきます。

リスクをチャンスに変えた「遺伝子治療」の可能性

わずかな治療の手がかりを求めて、稲塚氏は小児神経やてんかんなどの学会やセミナー、海外の患者の取材も行いますが、依然として有効な治療法は見つかりませんでした。

治療法も取材の方向も先が見えない、そんな状況が数年にわたり続いていた2015年2月、松林さんの母親からパーキンソン病の遺伝子治療法をモデルにしたAADC欠損症の遺伝子治療を行うことになったという知らせが稲塚氏のもとに届きます。これは同じくAADCの欠損によって起こるパーキンソン病で実証されていた治療法に着目したもので、この治療で先行する台湾では2010年からすでに開始されていました。この治療では、欠損しているAADC酵素の遺伝子を、治療用の遺伝子を運搬するベクターを使って脳内の被殻という部分に直接導入し、AADCを作らせます。これは日本の小児神経医療では史上初となる試みでした。

日本では前例がなく、困難な脳外科手術による多大なリスクも伴うなか、パーキンソン病の遺伝子治療で実績のあった自治医科大学附属病院において、家族がリスクを理解したうえでの臨床研究という形で実施に踏み切ることになりました。子どもたちが生まれてから十数年、新たな希望の光がついに見え始めたのです。

同年の6月、最初に松林さん兄妹が、翌年には山田慧さんが、多くの障壁と困難を乗り越え、遺伝子治療による脳外科手術を受けました。この手術がリスクをチャンスへと変え、症状は日に日に改善を見せ始めます。寝たきりのまま動かせなかった首がすわり、歩行器を使って自分の足で歩き、車椅子で移動できるまでに回復する姿は、10年間を追い続けた映像を見る者の胸を強く打ちます。

「AADC欠損症」とは

神経伝達物質の生成に必須の酵素AADC(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素)が遺伝子変異のために働かなくなる先天性疾患。神経伝達物質が正常に作られないため、体をうまく動かせず、眼球の上転や全身を硬直させるジストニアなどの発作が起こる。

「納得するまで撮りたい」10年間の撮影の日々がブレークスルーを描くまで

『奇跡の子どもたち』監督 稲塚秀孝氏

実は最初から科学技術をテーマにする意図はありませんでした。取材の開始当初は、とにかく記録しておかなければとカメラを回し続け、先の見えない不安の中で闘病を続ける子どもたちやご家族のためにも、何としかしてこの病気の存在を世に広めたいという一心でした。一方で、何年たっても方向性が見えないまま終わってしまう可能性もありました。

それでも10年間も撮影を続けたのは、映像制作者として自分が納得するまでは撮る、という想いからです。患者である子どもたちをカメラに収めながら、それを世に出さずに放置することはどうしてもできない。懸命に生きようとする子どもたちの姿を追ううちに、どんな形でもいいから作品化して多くの人たちに見てもらわなければという強い決意が生まれました。

いまから振り返れば、子どもたちの症状の改善は「ブレークスルー」と呼べるかもしれません。長年寝たきりだった子どもたちが車いすを動かせるまでになったわけですから、これはもう大変なことです。しかし、治療が行われるまでは、患者やご家族は常に暗がりの中で、治癒の可能性という細い糸を少しずつでも手繰りよせるような気持ちだったはずです。ブレークスルーといえる状況がもたらされたのは、ひとえに患者であるお子さんたちはもちろん、ご家族、担当した医師団、介護やリハビリなどで支援されてきた皆さんのつながりと熱意があったから。そして最後は「決してあきらめない」、この言葉に尽きると思います。

私自身にとっては、『奇跡の子どもたち』が完成し、望外にも科学技術映像祭で最高の評価をいただけたことがブレークスルーでした。科学技術という点だけでいえば他にも錚々たるノミネート作品があったにもかかわらず、この作品を選んでいただけたことに心から感謝しています。今後もより多くの皆様にこの希少難病について知っていただきたいと思っていますので、作品が独り歩きしていくための力をいただけて非常にありがたく思っています。

今後の上映予定

上映時間等の詳細は各問い合わせ先にご確認ください。

科学技術館
青少年のための科学の祭典会場内 7月28~29日
実験スタジアム 2018年9月~2019年2月(毎週土曜日)
問い合わせ:03-3212-8487

鹿児島市立科学館
2018年10月1~31日
問い合わせ:099-250-8511