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DHLサプライチェーンが目指す物流のデジタル変革

2018.04.10

ファーウェイとの協業で実現する“つながった”倉庫

ファーウェイ刊『WinWin』より

ドイツポストDHLグループ傘下でグローバルに物流業界をリードするDHLサプライチェーンは、ファーウェイとともにIoTとクラウドを活用した物流業界向けICTソリューションの開発に取り組み、顧客にフォーカスしたイノベーションの実現を目指している。

DHLサプライチェーン
IT部門シニアディレクター
劉煒(リュウ・ウェイ)

デジタル変革はビジョンではなく現場の課題

「DHLサプライチェーンにとって、デジタル変革は単なるビジョンやプログラムの1つではありません。当社自身とお客様にとっての現実的な問題であり、現場での業務に価値をもたらすものです」
DHLサプライチェーンCIO(最高情報責任者)兼COO(最高執行責任者)のマルクス・フォス(Markus Voss)はこう述べる。「お客様は生産性の向上を喜んでいるうえ、自社倉庫で革新的なテクノロジーを活用できることにもワクワクしています」

DHLは、サプライチェーンの未来はつながった倉庫の実現にかかっていると考えている。労働者が身に付けるウェアラブルや倉庫内のセンサーなどの技術ソリューションによって、あらゆるモノを1つのネットワークにつなげ、ビジネスを最適化することを目指している。

DHLが2016年に発表した『ロジスティクス・トレンド・レーダー』は、今後5年間でIoTが物流業界における主要な推進力になると予測した。また、2020年までにIoTが業界に生み出す付加価値を1.9兆米ドル(約209兆円)と見込んでいる。これを背景に、DHLはIoTを重要な注力分野としている。


幅広い協業プロジェクトを推進

2016年9月、DHLとファーウェイはIoTとクラウドコンピューティングに特化したイノベーションチームを立ち上げ、物流業界向けICTソリューションを共同で開発していくことで合意した。

2017年1月には、NB-IoTベースのスマートコールドチェーン(低温物流)監視ソリューションとeLTEベースの無線ロジスティクスパークソリューションのPoC(概念実証)を上海で完了し、同ソリューションがDHLのビジネスシナリオに適したものであることを確認した。
続いて2月には、IoT技術を活用した幅広いスマート物流ソリューションの実現に向けたMoUを締結。これにより両社は、多数のデバイスを最小限の電力消費で接続するとともに、倉庫管理、貨物輸送、ラストワンマイルの配達におけるクリティカルデータの提供と可視化を通じて物流の統合バリューチェーンを実現することを目指していく。


自動車工場の荷下ろしを効率化するヤード管理ソリューション

さらに2017年9月、両社はDHLが工場内物流サービスを提供する大手自動車メーカーの工場において、NB-IoTベースのヤード管理ソリューションのパイロットテストを共同で実施した。自動車工場での積み下ろしのスケジューリングを手動で行う際に生じる、部品納入の遅延などの問題を解決するためのものだ。

製造工場やロジスティクスパークの屋外エリアはヤードと呼ばれ、サプライヤーの車両が荷物の積み下ろしを行う駐車・積荷スペースが複数ある場合が多い。ヤードは物流プロセスにおける輸送と倉庫保管が交わるポイントであり、ここでの積み下ろしの効率は工場の運営効率にダイレクトに影響する。
ファーウェイとDHLがパイロットテストを実施したのは、350以上の部品サプライヤーが納品する工場だ。サプライヤーの車両は1日に1,000回以上も工場内に出入りし、86か所のドックで部品の荷下ろしを行っている。

これまでDHLはサプライヤーごとにドックを提供し、荷下ろしのスケジュールを手動で管理していた。手動スケジューリングでは、ドックの均等な割り当てが難しい。混雑するドックでは、すいているドックの5倍もの交通量が発生し、1日に50以上の車両が出入りする。さらに、到着した車両から順に荷下ろしをしていると、パーク内とその近辺が渋滞してしまう。渋滞で荷下ろしが遅延すれば、部品の到着が遅れ、製造工程に中断が生じる。また、手動では製造プランの変更に合わせたスケジュール調整も困難だ。

この工場では、工場、サプライヤー、DHLが荷下ろしとスケジューリングに対してそれぞれ異なる要求を持っていた。工場側は定時納品を増やして荷下ろしの効率を、サプライヤーは待ち時間を減らして車両の稼働率を上げたい。DHLはドックの利用状況の可視性を高め、スケジューリングを自動化することで、人件費の抑制につなげようとしていた。

そこで、ファーウェイとDHLは、NB-IoTとファーウェイのクラウドIoTプラットフォーム『OceanConnect』を活用し、ドックの利用状況を可視化してスマートスケジューリングを実現するヤード管理ソリューションを開発した。


NB-IoTと『OceanConnect』で迅速で柔軟な展開が可能に

NB-IoTを選んだ主な理由は3つある。まず、ファーウェイはすでに、NB-IoTの技術的な仕様が物流サービスにおける節電、カバレッジ、キャパシティ、信頼性、遅延の要件を満たすことを実証していた。また、モバイル通信事業者のセルラーネットワークを利用したNB-IoTなら、ネットワーク自体の展開やメンテナンスの手間がかからない。さらに、NB-IoTネットワークは2017年末までに世界で約30件構築されており、利用実績も増加し続けている。そのため、将来的に同様のソリューションを多くの場所で展開できるメリットもある。

一方、ファーウェイのIoT接続管理プラットフォーム『OceanConnect』は、デバイス管理、接続管理、ビッグデータ分析、運用管理、セキュリティ、オープンAPIなどの特長を備え、迅速なデバイス統合とアプリケーション開発を可能にする。『OceanConnect』を活用したことで、ヤード管理ソリューションの開発と統合はきわめてスピーディーに完了した。クラウドベースであるため、今後別の場所で導入する際にもネットワークサービスを柔軟に選択でき、デバイスとアプリケーションの相互運用もしやすい。


荷下ろしとスケジューリングの効率を向上し人件費を50%削減

このヤード管理ソリューションは、ドックの利用状況を中核にサービスプロセスをデジタル化し、さまざまな機能を実現する。利用状況をリアルタイムでモニタリングして可視化するほか、納品可能な時間を調整して工場の管理者に通知し、入場時間やドックの割り当てに関する情報を車両のドライバー向けアプリに表示。さらに、定時納品率と荷下ろし効率のデータ収集と分析を行い、過去の情報の分析に基づいて利用割り当てとスケジューリングを最適化する。

2017年9月に完了した第一段階のパイロットテストでは、荷下ろし効率が25%向上、荷下ろしにかかる平均時間が2,330秒から1,750秒まで短縮した。DHLはスケジューリングの自動化により現場の人件費を50%削減、スケジュール作成にかかる時間を185秒から15秒に短縮し、効率を87%向上した。車両の入場、待機、荷下ろしにかかる時間をデジタルに管理することで、定時納品率は40%から70%に増加した。


顧客志向のイノベーションでさらなる物流の進化を目指す

第一段階の成功を経て、パイロットテストは同ソリューションを工場全体に適用する第二段階へと進んだ。ソリューションは常に最適化され、上流と下流のシステムを統合した全プロセスのインテリジェントなスケジューリングを可能にし、さらなる効率の向上とコスト削減を実現している。このソリューションがもたらす価値は業界全体に認識されており、ある高級車メーカーは2018年前半に新設する工場への導入を計画している。

こうしたヤード管理ソリューションの他にも、DHLとファーウェイはIoTイノベーションにおける協業を深めながら、高額品物流コンテナのトラッキング・共有、物流資産管理、インテリジェント倉庫など、顧客にフォーカスした革新的な物流ソリューションのグローバル規模での展開を進めている。物流業界をリードするDHLが主導的な地位を維持し、業界全体をさらなる進化へと導いていくため、両社は今後もIoTによるデジタル化の推進において協力を続けていく。

※1米ドル=110円換算