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デジタル技術で映画が変わる 20世紀フォックスが目指す次世代の映像体験とエコシステムの進化

2018.02.05

20世紀フォックスは、『スター・ウォーズ』『タイタニック』『アバター』『猿の惑星』など誰もが知っている大作から『キングスマン』『デッドプール』のようなカルト的人気を誇る作品まで、数多くの映画を世に出してきた。同社CTO(最高技術責任者)のハノ・バッセ(Hanno Basse)氏の「重要なのは、これまでも、これからも、ストーリーだ」という言葉には、82年にもわたって名作を作り続けてきた同社の歴史の重みが感じられる。デジタル化が進む映画業界の現状とその未来について、バッセ氏に語っていただいた。

『WinWin』(ファーウェイ刊)編集部

ゲイリー・メイドメント(Gary Maidment)

20世紀フォックス

1935年、フォックスフィルムと20世紀映画が合併して設立。ハリウッドの6大スタジオの1つとして数々の大ヒット映画を制作してきたほか、1950年代には横幅の長いシネマスコープと呼ばれる画像サイズを初めて開発、2009年に世界興行収入1位を記録した『アバター』では3D映画の可能性を切り拓くなど、映画の発展に貢献してきた。

「4K」普及のカギを握る スマートフォン

あらゆる産業と同様、ハリウッドでもデジタル技術は制作側と消費者側の両方に変革をもたらしている。バッセ氏は「最も大きく変わるのは家庭での視聴体験の質」だという。

かつてVHSビデオで視聴していたアナログテレビの映像は、4Kハイビジョンテレビとブルーレイで見る超高精細映像へと変わった。同時に、高画質な映像体験への消費者の期待値も上がり、同社の戦略の方向性にも影響を与えている。「20世紀フォックスが4KとHDR(High Dynamic Range)コンテンツを制作するスタジオを業界で一番最初に設立したのも、そのためです」とバッセ氏は語る。

実は映画における4Kの解像度は4096×2160で、ITU(国際電気通信連合)が定める放送用4K UHD(Ultra High Definition)の3840×2160とは異なる。だが、いずれも超高精細であることに変わりはない。

ただ、「2Kと4Kの違いを一般の視聴者が見分けるのは難しいかもしれません」とバッセ氏は言う。4Kで撮影した動きのある映像は、視力1.0の人の目が見える解像度レベルを超えているからだ。動かない砂を近くで見れば1粒1粒が見えるが、流れている砂を3m先から見ても1粒ずつは見えない。同様に、3m離れて見るテレビの画素数が増えても、その違いがはっきりわかるわけではない。

「4K」のパフォーマンスを実感するには、その性能に適した条件がある。①映画館のスクリーンや50インチ以上の大画面テレビなど大きな画面で見る場合②静止画をじっくりと見る場合③至近距離から見る場合には、4Kは威力を発揮する。②と③はスマートフォンなどのモバイル機器での視聴に特徴的なもので、モバイル端末が4K視聴普及のカギを握っているのもこのためだ。

HDRが映画にもたらす豊かな色彩とエコシステム

一方、HDRは4Kと異なり、画素数の増加によって画質を上げるのではなく、映像の明るさの範囲を広げることで、明暗を問わず精確な色彩表現を可能にする技術だ。解像度も明るさも、どちらもリアルな映像の実現に大きく影響する。実際、色彩という点では1080pのハイビジョンディスプレイでもHDR映像であれば、4Kよりも高い臨場感が味わえる。

「解像度の向上という量的な差をもたらす4Kに対し、HDRは映像を質的に改善します。映画制作者はこれをまったく新しい表現を実現する手段として歓迎しています」とバッセ氏は語る。

しかし、HDRの真価を活かすためには「再生するデバイスのクオリティも問われることになります」。デバイスに加え、安定した遅延のないネットワークも重要だ。

2017年10月、ファーウェイのウルトラブロードバンドフォーラムに登壇したバッセ氏は、「フォーラムでは5Gの実現、帯域の拡張、クラウド技術などについて議論しました。われわれは技術の発展に合わせてデバイスやネットワークの性能に合致したコンテンツを作るよう尽力しています」と話している。これは、端末、ネットワーク、クラウドをエンドツーエンドで進化させていくファーウェイの戦略にも通じる。下層のアーキテクチャから上層のアプリケーションやコンテンツまで幅広いパートナーシップが重要であることも示唆している。

20世紀フォックスは現在、ファーウェイやグループのチップセット部門ハイシリコンを含め、ネットワーク、デバイス、コンポーネントを手がける各企業と協業を進めている。映画・エンターテイメント業界のエコシステムが急速に、そして深くデジタルの次世代領域へと拡大しているのだ。

VR/ARによるまったく新しい映像体験

昨年公開された『猿の惑星:聖戦記』は世界的に高い評価を得たが、観客の心をとらえたのは緊迫感のある感動的なストーリーだけではない。「驚異的」「最先端」「新次元のCG」などと評された視覚効果も大きな話題となった。

VR、HDR、CG、さらには人工知能(AI)を融合させれば、映画・エンターテイメント業界はこれまでにない驚くべき世界へと進化するだろう。ただし、それがどんなものになるのかはまだわからない。「VRやARを活用したストーリーづくりをわれわれも探っているところです」とバッセ氏は語る。「これまでの映画のように起承転結のストーリーが適しているのか、RPG(ロールプレイングゲーム)のような要素を持つものにすべきなのか――おそらくはその中間になるでしょう」

RPGは確かに、1,000億ドル(約11兆2,000億円)の市場規模を持つゲーム業界に成功をもたらした。生き生きとしたキャラクターと複雑なストーリー、プレーヤーの判断がゲームのストーリーを左右するマルチエンディングなど、物語性の強い人気ゲーム作品は数多い。VR/AR、HDR、AIといった新技術は、こうしたインタラクティブで映画的なストーリーをさらに盛り上げるものとして期待されている。プレーヤーや視聴者が作品に没入して自らストーリーを構築していくようなまったく新しいホームエンターテイメント体験がまもなく実現するだろう。

20世紀フォックスはすでに映画へのVR導入を推進している。2016年には同社の研究開発部門フォックスイノベーションラボがVRスタートアップのフェリックス&ポールスタジオ(Felix & Paul Studios)と共同制作を開始した。

バッセ氏はVR制作にはコストと技術的な複雑さのために困難が伴うことを認めつつ、次のように語る。「2019年から2020年にかけて、VRコンテンツの大規模な導入が進むでしょう。画質やグラフィック処理性能、リアルタイムのイメージキャプチャといった機能は、高品質なVRコンテンツ制作にいっそう活用されるようになるはずです。VR/ARには大いに期待していますし、今後の当社のビジネスの柱になることは間違いありません」

20世紀フォックスが描く“未来のストーリー”

CTOを務めるバッセ氏は、映画・エンターテイメント市場を牽引するのは、やはり技術よりコンテンツだと強調する。「コンテンツがあってこそ、技術という器に意義が生まれるのです」

同時に、大量のコンテンツの中から、自分に合ったものを見つけることは難しくなってきている。そこで同社はユーザーが好みや習慣に合ったコンテンツにアクセスできるよう、ビッグデータやAIを活用する方法を模索中だという。

デジタル化が進み、急成長を遂げるエコシステムを背景に、20世紀フォックスは「世界中のオーディエンスに共鳴するストーリーを届ける」(バッセ氏)というビジョンを実現させようとしている。クリエイティビティとテクノロジーの融合は、私たちがいまだ経験したことのないような感動と共鳴をもたらすはずだ。

※1米ドル=112円換算