オープンソースが生み出すイノベーション Linux財団とファーウェイの取り組み
世界はいま莫大な数のソフトウェアで動いており、それらすべてをひとつの企業が構築することは不可能だ。それゆえ、世界の優れたテクノロジー企業はオープンソースの採用に注力している。2016年9月に中国・上海で開催された『HUAWEI CONNECT 2016』におけるLinux財団 エグゼクティブ・ディレクター ジム・ゼムリン(Jim Zemlin)氏の基調講演から、急速な発展を続けるオープンソース・コミュニティの現状と、同財団およびファーウェイの取り組みについて紹介する。
社会を動かし、未来を形作るLinux
オープンソースの重要性がますます高まっている。Linuxはそれを表す最良の事例だ。Linux財団はファーウェイを含む何万もの組織とともに、かつてない規模の技術資産の共有に取り組んでいる。
現在、100以上の企業に所属する3,900名以上の開発者が、5万3,000以上のファイルと2,100万行にも及ぶコードを生成し、Linuxを構築している。この経済的価値は数十億ドルに相当する。Linuxは世界の証券取引所の大多数で採用され、グローバル経済の原動力となっているほか、モバイル端末の組み込みシステムにおいては最大の市場シェアを占めており、ほぼすべてのHPC(High Performance Computing:高性能計算)システムに使われている。まさに現代社会の大半を動かす、史上最も成功しているソフトウェアと言ってよいだろう。
Linuxは用途の広さと規模だけでなく、その開発速度も群を抜いており、さらに加速し続けている。コードは1日に1万800行書き加えられ、5,300行削除され、1,875行修正されており、実に1時間に8回も更新されているのである。
1企業、1組織でこれほど高速な開発を行うことは不可能であり、またその必要もない。Linuxはオープンソース・ソフトウェアとしてどんな企業・組織・個人でも使用できる。Linuxを活用すれば、未来を形作る製品やサービスを生み出すことが可能なのだ。
Linux Foundation |
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オープンソースのオペレーティング・システムLinuxの普及を促進する非営利のコンソーシアム。2000年にOSDL(Open Source Development Labs)として設立され、2007年にFSG(Free Standards Group)と合併して現在の組織となる。世界各国からファーウェイを含む250社以上ICT企業が参加している。 |
オープンソースが市場を切り拓く
オープンソース・ソフトウェアへのコントリビューターは380万人を超え、さまざまなレポジトリ上に誰もがアクセスできるコードが310億行以上も存在している。オープンな技術を提供する企業には数十億ドルもの投資が集まり、シリコンバレーだけで10億ドル規模の企業価値を持つ会社が10社はある。かつてテクノロジー企業はすべてを自前で構築していたが、いまやそれでは生き残れない。これは驚くべき変革だ。
これまでのオープンソース・ソフトウェアは単純に、既存の各企業の独占技術に対するフリーの代用品として使われていた。OSでいえばLinux、データベースでいえばMySQLなど、フリーの代用品は利益を生み出さず、市場を縮小させるものとみなされていた。
しかしいまや、オープンソースは新たな市場を切り拓いている。新たなエコシステムを構築し、それを支える相互運用性の標準を推進している。ビッグデータにおけるHadoopや、仮想化におけるDockerなどがその好例だ。クラウド構築のオープンソース化が進むことで、オープンソースの活用がビジネスチャンスにつながることが広く認知されるようになった。
データプレーン・サービスのような下層のレイヤーからOpen vSwitch、さらにはOPEN-Oのようなオーケストレーション・レイヤーまで、あらゆる階層でオープンソース・プロジェクトはイノベーション、開発スピード、エコシステム構築をリードしている。Linux財団が運営し、ファーウェイとチャイナ・モバイル(中国移動)が主導するOPEN-Oは、NFV/SDNのオーケストレーション・ソフトウェアの構築を目指すプロジェクトだ。筆者は2016年のMWCで2社とともに同プロジェクトを発表したが、そこでチャイナ・モバイルは、同社のOSS(Operations Support System)はいずれオープンソース・ベースになるだろうと述べている。
このほか、世界で最も急速に発展したオープンソース・プラットフォームとして知られるJavaScriptのNode.jsなどもある。オープンソースはさまざまな領域で革新を生み出しており、何千という企業、何万という開発者が、こうしたプロジェクトで優れたコードを書き込もうと競いあっているのだ。Linux財団はその多くにおいて運営者となっており、このようなイノベーションをさらに加速するために何ができるかを常に考えている。
イノベーションを加速するLinux財団の取り組み
ここ数年、当財団はファーウェイを含む多くの企業との協業を通じ、よりセキュアで安定したオープンソース・ソフトウェアに向けた新たな取り組みをスタートさせてきた。セキュリティに関しては、インテルやファーウェイほか20社以上のテクノロジー企業とともに、オープンソース開発者を対象としたセキュアなコーディングのトレーニングや、より信頼できる開示ポリシーの制定などを進めている。これは、開発者が最初からセキュアなコードを書くことができれば、商用展開後の脆弱性を抑えられるはずだという発想に基づくものだ。あらゆるオープンソース・プロジェクトが優れたエコシステムを構築し、迅速に拡大しながら、多くの開発者が協調して貢献を続けられるよう、ガバナンスの向上に努めている。
また、企業のオープンソース・プロジェクトへの投資を促進すると同時に、IP(Intellectual Property:知的財産)であるコードを誰もが自由に使えることを保証するため、企業向けにIP管理のトレーニングも実施している。その目的はオープンソース・ライセンスや特許コミットメント(特定の条件のもとでライセンスなしに特許技術の使用を認めること)など、IPの共有に関する事項を理解してもらい、占有したい資産を維持しながらオープンな共有を推進できる環境を整えることだ。加えて、開発者やユーザー向けのさまざまなトレーニングおよび認証プログラムも提供し、市場のニーズに合った開発・運用ができる技術者の養成にも取り組んでいる。
ファーウェイの貢献
活況を呈するオープンソースの世界で、ファーウェイは主導的な役割を果たしている。OpenStack、Hadoop、CNCF(Cloud Native Computing Foundation:クラウド・ネイティブ・コンピューティング財団)、Sparkなど、数々の重要なオープンソース・プロジェクトにおいてトップクラスのコントリビューターであるほか、Linux財団をはじめ多くのコミュニティで理事などの要職を務めている。
プロジェクトへの貢献という点だけでなく、ファーウェイはオープンソースの活用という点でも世界有数の企業だ。社内にオープンソース管理専門の部署を設け、製品にとって最適なオープンソース・ソフトウェアを選定するとともに、オープンソース開発を購買や設計のプロセスに組み込んでいる。さらに自社製品に導入したコードに改良を加え、それを元のオープンソース・プロジェクトにフィードバックすることで、イノベーションの好循環を生み出し、コミュニティ全体に寄与している。
オープンソース・コミュニティにおけるファーウェイの貢献
Linux |
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OpenStack |
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Hadoop、Spark |
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オープンソースの重要性がこれほど高まっているのは、ソフトウェアがいまや1企業でコーディングできるものではなくなったからだけではない。1社で取り組むよりも、皆で力を合わせたほうがより良いものができるからだ。製品のみならず、エコシステムを生み出す――それができる企業こそが、これからのイノベーションをリードしていくのである。