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DIYからサービスまで、多様化する米国のスマート・ホーム

2017.08.22

あらゆるモノをネットワークにつなげることで、私たちの生活を大きく変えるIoT。その変化は未来の話ではなく、すでに起こり始めています。このコーナーでは、IoTが人々の生活に密着した領域でどんな変革を生み出しているのか、世界各国から最新事情をレポートします。第1回となる今回は、米国のスマート・ホームの現状について。DIY(Do It Yourself)文化が根づく米国では、鍵や電球などさまざまなアイテムがIoT化する一方、生活の「シーン」を総合的に実現するソリューションへの需要も高まっているようです。

マイク・クレル(Mike Krell)

ムーア・インサイツ&ストラテジー(Moore Insights and Strategy)

IoT担当アナリスト

IT・エレクトロニクス業界においてマーケティング、企業広報、事業開発などの領域で30年の経験を持つ。コンシューマー向け・産業向けIoT分野でリサーチとコンサルティングを行うほか、スマート・ホームからワイヤレス技術までIoTに関する幅広い知見を、世界各地での講演や『フォーブス』オンライン版などへの寄稿で共有している。

スマート・ホームはもはやSFではない

スマート・ホームに関する記事は、たいていこんな文句で始まる。

「想像してみよう。車で自宅に帰るとガレージがあなたを自動的に認識して扉を開ける。両手に荷物を抱えてドアまで歩いていくと、ドアは自動で開錠され、廊下の照明が点灯し、部屋にはお気に入りの音楽が流れ、エアコンが快適な温度で稼働を始める」まるでSF小説のようだが、こうしたシーンはすでに現実のものとなりつつある。米国ではこれまでにもCrestron(クレストロン)やControl4(コントロール・フォー)といったビル・住居管理ソリューションを提供する企業がハイエンドの家庭用オートメーション・ソリューションを富裕層向けに販売してきたが、いまでは同様のスマート・ホーム・ソリューションを一般の消費者も手軽に入手できるようになった。ネットワークにつながる新たなデバイスを手がけるメーカーが次々と登場し、市場規模は年々拡大している。

ほとんどの電子機器と同じく、スマート・ホーム向け機器の価格は大幅に下がってきている。ウェブ・カメラは数年で500ドル(約5万6,500円※)から100ドル(約1万1,300円※)にまで下がり、ネットワークで制御できる電灯とスイッチも20ドル(約2,260円※)以下で手に入るようになった。セキュリティ・システムの導入費用さえ、この5年間で数千ドルも安くなっている。こうしたコストダウンの主な要因は、接続がワイヤレス化したことにある。わざわざ業者に配線してもらわなくても、PCやタブレットとスマート・ホーム・デバイスを無線で簡単につなげるようになったのだ。

今年1月にラスベガスで開催されたCESでも、スマート・ホーム関連の展示は大きな存在感を見せていた

統合されたシステムで「シーン」を実現

スマート・ホーム・デバイスでは製品単体としての機能だけでなく、他の製品といかに簡単につながるかが重要になってくる。これは現在のスマート・ホーム市場が直面している課題だ。自動で電灯がつくのは確かに便利だが、消費者が求めているのはそれだけではない。スマート・ホームが真に実力を発揮するのは、冒頭にあげたような「シーン」を実現するところにある。個々の機能だけでなく、消費者が「こんな生活を送りたい」と思い描くシーンを現実にできるかどうかが重要なのだ。こうしたシーンには住環境やライフスタイルの違いが反映されるため、国によっても求められるものが違う。日本では子どもや高齢者の見守りといった用途が重視されるが、米国では防犯がフォーカスされることが多い。

こうした「シーン」の実現には、すべてのデバイスが共通の言語で連携できるシステムが必要だ。これには大きく分けて3つのタイプがある。

①DIY方式:鍵やカメラ、センサーなど個別の製品を設置したうえで、一括でコントロールするためのソフトウェア・プラットフォームを導入する方法。この場合、自分のニーズにカスタマイズしたスマート・ホームが実現できる一方、何をどう組み合わせるのがベストなのかを見極めるのが難しい。デバイスやプラットフォームに幅広い選択肢がある(下表参照)ほか、機器間の接続にもBluetooth、Zig-Bee、Z-wave、Insteon、Wi-Fiなど互換性のない多数の方式があり、その中から将来的に最も長く使い続けられそうなものを選ばなければならない。また、設定には相応の作業量とITリテラシーが必要になる。

数多い製品の中でいま最も注目されているのは、アマゾンのEcho(エコー)だ。Echoはスピーカー型のスマート・ホーム・ハブで、音声認識アシスタントAlexa(アレクサ)によりユーザーの呼びかけで操作ができる。アラームや音楽の再生、天気予報やニュースの読み上げ機能に加え、連携可能なデバイスも豊富で、照明やサーモスタットと接続することで「電気をつけて」「エアコンを強めて」といったリクエストに応えてくれる。

②デバイスとソフトウェアのパッケージ:DIYよりもハードルの低いオプションとして、防犯、照明管理、モニタリングなど、ユーザーが望むシーンごとに必要なデバイスを組み合わせ、それらをつなぐハブとセットで販売されているタイプがある。導入できるデバイスは限られるが、パッケージ内の製品で事足りるユーザーなら、DIYより設置が容易で導入しやすい。

③サービスとしてのスマート・ホーム:さらにユーザーが検討しやすいのが、通信事業者をはじめとするサービス・プロバイダーからサービスとしてスマート・ホーム・ソリューションを購入することだ。携帯電話やケーブルテレビなどのサービス事業者の多くが、セキュリティを中心にさまざまなスマート・ホーム機能を提供しはじめている。すでに既存サービスによって通信や放送という家庭内のインフラに入り込んでいるため、ユーザー側は既存サービスとの契約に上乗せするだけで導入できるだけでなく、バンドリングでコストを抑えられる場合もある。設置サービスやカスタマーサポートが手厚いのも強みだ。

中でもVivint(ヴィヴィント)は、ユーザーの目線に立ったサービスによって「シーン」の提供に最も近いところにいると筆者は感じる。もとはセキュリティ・システムの販売会社だったが、その後ブロードバンド・サービスやクラウド・サービスも展開し、現在ではこれらを統合した形で、販売、設置から導入後のモニタリングまでカバーした包括的で拡張の容易なスマート・ホーム・ソリューションを提供している。

米国では①~③いずれのタイプもプレーヤーが増え続けているが、市場の拡大につれて、より手軽に導入できる③サービスとしてのスマート・ホームの需要が高まっている。すべてがつながったスマート・ホームが、人々の生活の中で当たり前の「シーン」になる日も近いだろう。

※1米ドル=113円換算

VivintはアマゾンのEcho(写真左の黒いデバイス)と連携したサービスもスタート(写真提供:Vivint)

NestのサーモスタットはGoogleNowやIFTTTとも連携(写真提供:Nest)