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通信事業者はイマージョンの時代をリードできるか

2017.07.26

通信事業者は長い間、ネットワークでやりとりされるメディア・コンテンツやサービスの収益化に苦戦してきた。動画への対応が追いつき始めた矢先、VR(VirtualReality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)といった、これまでとは比較にならないほどのネットワーク負荷を課すこととなるイマーシブ(没入型)・テクノロジーが台頭し、再び先行きが見えなくなっている。通信事業者はこうした事態をどう乗り越えるのか。BT(British Telecom:ブリティッシュ・テレコム)の21世紀グローバル・ネットワークス・アンド・コンピューティング・インフラストラクチャ担当プレジデントであるカール・ペナルナ(Karl Penaluna)氏とBBCのCTO(ChiefTechnology Officer:最高技術責任者)であるマシュー・ポストゲート(MatthewPostgate)氏に考えをうかがった。

ファーウェイ グローバル・メディア戦略担当バイス・プレジデント ジョー・ケリー(Joe Kelly)

ジョー・ケリー(Joe Kelly)

ファーウェイ グローバル・メディア戦略担当バイス・プレジデント

ICT分野の企業コミュニケーションにおいて20年以上の経験を持ち、BTの広報ディレクターを経て2012年にファーウェイに入社。ジャーナリストとしても実績があり、世界中の各誌紙にICTに関する記事を多数寄稿している。

4Kへの期待

2015年、BTはヨーロッパ初となる4Kコンテンツ専門テレビ・チャンネル『BTSports Ultra HD』を開始した。英国内のBT顧客を対象としたこのチャンネルの視聴には4K専用のSTB(Set-Top Box:セットトップ・ボックス)が必要だが、設置して契約さえすれば、ヨーロッパの主要クラブ・チームによるサッカー選手権『チャンピオンズ・リーグ』をはじめ、ウルトラHD形式で撮影・配信されるサッカーやラグビーなどの幅広いプレミアム番組を視聴できるようになる。

4K対応機器が1,000米ドル(約12万円※)以下の価格帯になったことで需要が拡大し、4Kコンテンツのニーズも高まっている。コンテンツに関してはまだ十分に出揃っているとは言い難いが、その状況も確実に変化している。

急速に現れる新技術

BBCは、世界で最も成功しているテレビとラジオのインターネット・オンデマンド・サービスのひとつ『iPlayer』を提供している。同社CTOのマシュー・ポストゲート氏によると、BBCはイマーシブ・メディアの台頭が予想される次の時代へ向けて「新しい体制とアプローチ」で対応を始めている。同氏は「私たちが生きる時代は、これまでに例を見ないほどのスピードでテクノロジーが変化しています。インターネットが登場する前の最後の大きなメディア革命は、80年以上前のテレビの発明でした。しかしいまでは、オンデマンド、モバイル、ソーシャル・メディア産業が瞬く間に成熟し、これらのほかにも大きな可能性を持つ分野が数多く出てきています。そして、音声や動画よりもさらにデータ量の多いまったく新しいコンテンツ形態も現れてきました。ウルトラHD、バーチャル・リアリティなどがその例です」と語る。

放送事業者、インターネット・サービス・プロバイダー、コンシューマー・エレクトロニクス産業が連携すれば、イマーシブ性の高いエクスペリエンスを可能にするウルトラHDコンテンツの開発がより進むだろう。テレビが出現したときとは異なり、これから起きるイマーシブ革命では、通信事業者がエコシステムの中核を担うことになる。ウルトラHDは画面上のピクセル数が多いというだけではなく、高画質化によって完全にその場にいるかのようなVRサービスを提供しうる。コンテンツのイマーシブ性とインタラクティブ性に加えて、通信事業者が提供するブロードバンド接続の上り・下り速度の同時性が高まれば、さまざまな新サービスが実現するはずだ。

BTは、期待されるVRアプリケーションをいくつか挙げている。ひとつ目は当然ながらゲームであり、2つ目は映画やテレビだ。同社はさらに、バーチャル宇宙旅行を含むバーチャル・トラベルも主要アプリケーションになると予測しており、バーチャル教育や遠隔手術も社会の変革をもたらす可能性があると考えている。ただし、通信事業者がこれらのイマーシブ・アプリケーションからデジタル・コンテンツ配信による売上を上まわる収益を上げられるかという大きな課題がある。

新たなビジネス・モデルと速度の追求

これまで通信事業者が大量の帯域幅を消費するサービスにかける運用コストは、そこから得られる売上と同時あるいは若干先んじて増加してきた。一方、OTT(Over-The-Top:オーバーザトップ)事業者やソーシャル・メディア運営会社は間違いなくより多くの利益を得ている。通信事業者が成功するためには、新しいビジネス・モデルを作り出す必要がある。また、OTTとネットワークを提供する通信事業者が、これらの新しいサービスにおいてお互いがWin-Winとなるような協業モデルを見いだす必要も出てくるだろう。

放送事業者があらかじめ決められたスケジュールのもと番組を放送する従来の形式は転換期を迎え、昨今では、オンラインによるオンデマンドでの番組視聴が増加している。ネットフリックス(Netflix)やiPlayerなどのサービスが拡大することで通信事業者のインフラは大きな負荷を受けているが、ユーザーはこうした事情など考えはしない。最新のハリウッド映画を楽しんでいるときにバッファによる中断が発生するようなネットワークは選ばれないし、せっかくウルトラHDでチャンピオンズ・リーグ決勝戦を観ているのにネットワークの不具合に邪魔されることなど許されない。

ウルトラHDの出現は、通信事業者に新たな課題をもたらしている。いかにしてウルトラHDの視聴に十分な速さのブロードバンド接続を安価に提供するかということである。4Kコンテンツを1本ストリーミングするには約30Mbpsの途切れのない通信が必要だが、多くの家庭では複数のコンテンツを同時にストリーミングしている。

BTのカール・ペナルナ氏は次のように述べている。「高速ブロードバンドに対するニーズはかつてないほど高まっていると感じます。これはブロードバンド揺籃期からBTが継続して取り組んできた課題です。当社は常に未来を見据えた投資を行っており、今日の、そして将来のユーザーが求めるブロードバンド・エクスペリエンスを革新的な方法で提供していきます」

4KとVRを支える3Tbpsの実現

BTの光ファイバー・ブロードバンドは英国全土をカバーしており、ユーザーに最大330Mbpsの接続を提供している。ペナルナ氏は、「並行してG.fastテクノロジーの導入を進めることで、敷設済みの銅線の速度も高速化します。G.fastは、既存のケーブルを使って論理上ではGbpsクラスというこれまでにないスピードを実現する、お客様の将来のニーズに応えるための重要な技術です」と語る。BTとファーウェイは昨年8月より、一般ユーザーを対象とした英国初の大規模G.fastトライアルを実施している。

ペナルナ氏はさらにこう続ける。「コア・ネットワークの強化も考慮しなければなりません。G.fastが既存の銅線ネットワーク・インフラストラクチャを高速化するためのイノベーションであるのに対し、400Gルーターは長距離光ファイバー回線を高速化します」

BTは2014年10月、ファーウェイと共同でロンドンとサフォーク間の359kmをつなぐ光ファイバー回線を使ってフィールド・トライアルを実施し、実環境で商用ハードウェアを使った最高速度である最大3Tbpsを記録した。これは、非圧縮のウルトラHDの映画12本を約1秒で伝送し、VRを数百世帯に余裕を持って配信できる速度だ。両社はその後アイルランドでもヨーロッパ初の400G OTN(Optical Transport Network)を展開し、2015年1月にはグローバル・テレコム・ビジネス・イノベーション・アワードにおいて「固定ネットワーク・インフラ・イノベーション賞」を共同受賞している。BTは現在、この技術を英国全土のコア・ネットワークに展開することを検討している。

今日、4Kカメラはより身近になった。通信事業者は4Kサービスの利点を見いだし始めており、そのサービスをメインストリーム・アプリケーションに発展させる方法を模索している。ブロードバンドは20年弱の間に通信業界を一変させ、人々の生活や仕事のスタイルも大きく変えた。近い将来、4KとVRによって同じような変化が起こることは間違いない。

※1米ドル=120円換算