オープンソースOS『ONOS』で実現するSDN
SDNおよびオープンソースは、通信事業者の将来にとって非常に重要な技術だ。『ONOS(Open Networking Operating System)』は、SDNとオープンソースを採用した初の通信事業者向けOSである。この独創的な製品を開発したON.Lab(Open Networking Lab:オープン・ネットワーキング・ラボ)の専務理事であるグル・パルルカー(Guru Parulkar)氏に、ONOSプラットフォームと業界におけるSDNの状況、変わりつつある通信事業者の役割について話を聞いた。
『Communicate』(ファーウェイ刊)編集部 カイラ・ミー(Kyra Mi)
SDN導入の加速化を目指して
Communicate:ON.LabおよびONOSの背景についてお聞かせください。
パルルカー氏:SDNはもともと、スタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校で始まったもので、SDNコントローラーやOpenFlowベースのスイッチなどいくつかの開発プロジェクトを行ってきました。3年ほど前からSDNへの注目が高まり始め、業界の取り組みも本格化してきたことから、私たちは実際の製品やソリューションを開発できるオープンソースのSDNプラットフォームが必要になるだろうと予測しました。そこで、SDNの発展を加速するためにNPOとしてON.Labを設立し、通信事業者向けのオープンソースのSDNプラットフォームやツールの開発に取り組んでいます。
ONOSはON.Labが初めて本格的に開発したオープンソースのSDNプラットフォームです。サービス・プロバイダー向けネットワークOSとして、高いスケーラビリティ、性能、可用性を実現し、最適な抽象化を行うよう設計されているため、ネットワークの開発・運用者はONOS上にきわめて簡単にアプリケーションやサービスを構築することができます。
ON.Labを立ち上げた当時、SDNはすでにデータセンターで利用され始めていたので、私たちはSDNの次の目標としてサービス・プロバイダーのネットワークに特化することにしました。オープンソースのプラットフォームを実際に構築しユースケースを実証しない限り、サービス・プロバイダーでのSDNの導入は進まないと考えたことが、ON.Labを立ち上げてONOSの開発に着手したきっかけです。
強力なパートナーシップとチームワーク
Communicate:ONOSを支援しているのは主にどのような企業ですか。
パルルカー氏:AT&T、NTTコミュニケーションズ、SKテレコム、チャイナ・ユニコム(中国聯通)といった大手サービス・プロバイダーに加え、ファーウェイ、アルカテル・ルーセント(Alcatel-Lucent)、シエナ(Ciena)、シスコ(Cisco)、エリクソン(Ericsson)、富士通、インテル( Intel)、NECなどのベンダー各社と米国立科学財団が参加しています。
これら多くのパートナーがON.Labに協力し、ONOSをサポートしてくださっていることにはとても感謝しています。特に、大手サービス・プロバイダーからは、彼らにとって有用なユースケースとは何か、SDNやONOSをネットワークに実際にどのように導入する計画なのかを学んでいます。
Communicate:ONOSの開発には何人ぐらいの技術者が携わっているのですか。
パルルカー氏:SDNベースのOSのようなコア・プラットフォームの開発には、まず少人数のエキスパートによるチームが必要です。ON.Labも、通信業界で主力製品の開発経験を積んだアーキテクト4名と研究職出身者を含む20名の小規模なチームからなっています。加えて、開発チームと品質保証チームもあります。これらのチームが協力して、ネットワーキング、ディストリビューター・システム、ソフトウェア・システムで独自の専門性を発揮し、先進的なプラットフォームを開発しています。
さらに、ON.LabにはAT&Tやファーウェイなどのパートナー企業からも技術者が参加しています。ONOSの開発は、ON.Labチームが中心となり、パートナー企業の技術者たちのグループ、そしてさらに大きな開発者コミュニティによって進められています。
高いスケーラビリティ、性能、可用性を実証
Communicate:昨年はBlackbird、Cardinal、Drakeと3つのリリースが発表されました。これらのリリースでONOSはどのように進化していますか。
パルルカー氏:Blackbirdリリースでは、高いスケーラビリティ、性能、可用性というONOSの主要な特性を実証しました。毎秒200万件のフローを保持できること、ONOSのインスタンスやサーバー数に応じて性能がスケールアップすること、ネットワーク・イベントに100ミリ秒未満で反応できることが示されています。実際、ほとんどの処理は10ミリ秒未満で完了しました。これらはサービス・プロバイダーにとって重要なパフォーマンス・メトリクスであり、オープンソースのSDNコントロール・プレーンとしてBlackbirdが初めてその実証に成功しました。
今後、ネットワーク業界やSDN業界によってこれらのパフォーマンス・メトリクスの標準化が進み、SDNコントロール・プレーンのすべての技術者およびユーザーによって性能評価の基準となることを期待しています。ソフトウェア開発では、機能を正しく実装することに集中するあまり、スケーラビリティや性能や可用性が後まわしにされるケースが見受けられます。しかし、アーキテクチャこそがこれらの要素に大きく影響を与えるもので、OSでは特に顕著です。ですから、ON.Labではアーキテクチャを正しく設計することが性能やスケーラビリティの数値を向上させる唯一の方法であると考え、ここに重点を置いています。
これに続くCardinalとDrakeの各リリースでは、より多岐にわたるユースケースとPOC(Proof-of-concept:概念実証)を可能にするため、アプリケーション処理やインターフェース、セキュリティなどの面で改良が加えられました。
Communicate: SDNやNFVは幅広い分野に広がっていますが、ONOSはその中でどのように位置づけられるでしょうか。
パルルカー氏:ONOSは主に2種類のユースケースとPOCに重点を置いています。ひとつめは、インフラに関わる設備投資と運用コストの削減です。バックボーン・ネットワークについて考えてみると、各サービス・プロバイダーは複数のパケット光ネットワークを個別に運用していますが、ONOSではひとつのSDNコントロール・プレーンでこれらのパケット光ネットワークをコントロールするユースケースの実証を試みています。2つめは、NFVのような技術を活用した収益性のあるサービスを創出することです。そのために、サービス・プロバイダーがONOS上に新たなサービスを簡単に構築する方法の実証に注力しています。
先ほども述べた通り、ONOSは高いスケーラビリティ、性能、可用性を実現するために設計されたサービス・プロバイダー向けのネットワークOSであり、これらの特性にフォーカスした唯一のプラットフォームであると言えます。
新たなサービスでチャンスを切り拓く
Communicate:さまざまなソフトウェアがすでに開発されています。今後の商用開発の展望をお聞かせください。
パルルカー氏:ファーウェイはONOSベースの商用製品やソリューションを開発しているベンダーの1社で、ほかにも数社のベンダーが同様の計画を持っています。また、前述のAT&TやNTTコミュニケーションズなどの企業も複数のソリューションPOCに参加しています。
Communicate:通信事業者にとってOTTとの競争が課題となっています。彼らはどのようにしてOTTと競争あるいは共存していけばよいと思いますか。
パルルカー氏:これからは、競争と協力のどちらもが必要になるでしょう。通信事業者は回線設備という強みを持っており、ユーザーと非常に近い位置にいます。適切なコンピューティング技術、ストレージ技術、ネットワーキング技術を展開すれば、OTTプロバイダーには提供できないような付加価値の高いサービスを開発することが可能でしょう。同時に、OTTプロバイダーにインフラを解放することによって、顧客の関心を引くサービスを共同で提供し、収益を分け合える可能性もあります。つまり、革新的なビジネス・モデルにチャンスがあるのです。多くの通信事業者が、すでにそれを模索し始めています。
オープンで革新的な通信事業者向けSDNエコシステムの構築に向けて
~ファーウェイのONOSベース・ソリューション
ファーウェイはONOSプロジェクトの発足当初からのメンバーとして、同OSの開発に貢献してきました。2015年3月には、ON.LabとONF(Open Networking Foundation)とのパートナーシップを強化し、オープンで革新的なSDNの業界エコシステムを構築し、通信事業者によるSDNの商用利用を推進していくことを発表しました。ファーウェイは、ONOSプラットフォームを全面的にサポートしたSDNソリューションにより、一貫性を持ったオープンかつプログラマブルなSDNネットワーク・アーキテクチャを構築し、通信事業者のニーズに対応していきます。 これまでにファーウェイは、ONOSを基盤とした初のIP+光統合ソリューションとトランスポートSDNソリューションを発表しています。IP+光統合ソリューションは、グラフィカルなマルチレイヤ・ネットワーク・ビューを提供し、リソース制御、IPリンク設定、サービス・プロビジョニングを自動化するとともに、ネットワークのマルチレイヤ・プロテクションを可能にします。トランスポートSDNソリューションは、BoD(Bandwidth on Demand:オンデマンドの帯域制御)などによりネットワーク・レベルのサービスの柔軟なカスタマイズを実現します。 さらに、チャイナ・ユニコム(中国聯通)と共同でONOSベースのSDNコントローラーを用いたL3VPN向けアジャイルVPNソリューションを開発したほか、vCPE(Virtual Customer Premises Equipment:仮想宅内通信機器)とONOSでL3VPNを提供するセントラル・オフィス・ソリューションも発表しています。