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成長期を迎える日本のSIMフリー端末市場

2017.07.04

アジアを中心に世界のモバイル事情をウォッチしている携帯電話研究家・ライターの山根康宏氏に、モバイルとICTを取り巻く日本と世界の現状と動向、そしてさらにその先について解説していただくこのコーナー。スマートフォンの登場によって大きく変わった私たちのモバイル・ライフは、これからどうなっていくのか? グローバルな動きをクローズアップし、コミュニケーションの未来を探ります。今回は、1年前の連載第1回で取り上げたSIMフリー端末について、さらなる成長を遂げた市場の現状を取り上げます。

製品種類が増加 MVNOには必須の存在

 日本でもSIMフリー・スマートフォンの存在感がじわじわと高まっている。家電量販店の週間販売台数や価格調査サイトの人気ランキングでSIMフリー・スマートフォンが上位10以内にランクインすることも増え、高機能な上位モデルも出てくるなど製品のバリエーションも広がりを見せている。日本で販売されるSIMフリー・スマートフォンの機種数は、仕様違いなどを含めると2015年6月時点で50機種を超えている。

 このSIMフリー端末市場の拡大を後押ししているのがMVNO事業者の存在だ。いまや各MVNOは種類豊富なSIMフリー・スマートフォンの中から自社サービスに見合ったものを調達し、販売している。最近ではMVNO契約と同時にSIMフリー・スマートフォンを購入する消費者も多い。総務省によると日本のMVNO契約者数は2014年第3四半期時点で892万契約、前年同期比で33.2%増加しており、携帯電話総契約数に占める割合も同比1.2ポイント増の5.8%で着々と高まっている。

 MVNO各社の基本料金の引き下げ合戦もいずれ限界が来るだろう。そうなると次の競争のステージは扱う端末の種類となるかもしれない。SIMフリー端末の注目度はさらに高まる可能性を秘めているのだ。

増えるオンラインストア アクセサリーも販売

 MVNOにとってなくてはならない存在となっているSIMフリー・スマートフォン。だが端末メーカーもMVNO経由の販売だけに頼るのではなく、自社での直接販売も強化している。今年5月にはファーウェイが自社オンラインストア『Vモール』を日本でも開始(P26 参照)。アジア各国で展開中のVモールの日本上陸は、日本市場でのSIMフリー端末の拡販に本腰を入れることを意味している。

 オンラインストアで販売シェアを急激に高めているのが中国の新興メーカー、小米(シャオミ)だ。同社は新製品をまずオンラインストアで告知、限定数を受け付け、販売開始初日には数十万台が数秒レベルで売り切れることが当たり前のようになっている。

 スマートフォンのオンライン販売が好調なシャオミは、本体のケースや交換電池などの販売も開始。ストラップや本体を立てるスタンドなど自社ブランドのアクセサリー類も扱うようになり、いまでは家庭用の電源タップからライバルであるiPhone用のケーブルまで、自社製品以外で使えるアクセサリー・周辺機器を100種類以上も揃えている。つまりオンラインストアは端末だけを売るのではなく、そのメーカーのブランド品を売るところにもなっているのである。シャオミのウェブサイトを訪問すれば、たとえスマートフォンを買わなくとも、他の機種で使えるモバイル・バッテリー、端末を入れるポーチ、果ては同社のマスコットのぬいぐるみやTシャツまでさまざまなものが購入できる。他メーカーの製品を持っている人でも、アクセサリー類はシャオミのものをついつい買ってしまうわけだ。

各社がオンライン販売を拡大 端末のカスタマイズも

 このような自社オンラインストアを、中国では各メーカーが続々と立ち上げている。OnePlusやIUNIといったハイエンド製品数機種に絞ったメーカーなどは、実店舗を持たずにオンライン販売に特化している場合もある。またファーウェイやシャオミのほか、OPPOなど他の中国メーカーも、インドネシアなど新興国へ進出する際にはオンラインストアも展開し、実店舗で買えなくともネットで簡単に端末を購入できるようにしている。各メーカーはオンラインストアで華やかなハイエンド製品をアピールしつつ、低価格品も同時に提供。消費者の関心の目を向けさせて、実際は低価格なエントリー品を買ってもらう、そんな戦略で新興国でも徐々に販売数を増やしているのである。

 またiPhoneならばどこへ行ってもアクセサリー類は購入できるが、新興メーカーの製品となると液晶保護フィルムですら探すのは難しい。だがオンラインストアでケースやフィルムまで販売されていれば、消費者は安心してその端末を買うことができる。オンライストアはメーカーにとってはもちろん、消費者にとってもメリットの大きい存在なのだ。

 一方、オンラインストアを使って端末の受注販売の利点を最大限に生かした販売を行っているのが、レノボに買収されたモトローラだ。同社はアメリカと中国で一部のモデルを自由にカスタマイズして購入できる『Moto Maker』というオンラインストアを開設している。同サイトでは、ベースとなるモデルを決めたら、電池カバーの種類、フロントカラー、スピーカーや背面ロゴ周りの色などを自分好みにカスタマイズできるのだ。電池カバーだけで26種類もあり、本体のカラバリの組み合わせは実に520種類にも及ぶ。実店舗ではこれだけの種類の製品の在庫を置くことは不可能で、オンラインストアだからこそできる販売方法だ。

格安SIMに最適 待たれるデュアルLTE端末

 ところで、海外ではSIMを2枚装着できるデュアルSIM端末の人気が高まりつつある。新興国では格安SIMを組み合わせて使い、ヨーロッパでは陸続きで移動できる隣国のSIMを入れるなど、複数SIMの利用が広がりつつある。実は日本で販売されるSIMフリー端末の中にもデュアルSIM搭載の製品は多い。ファーウェイが6月に日本で販売を開始したハイエンドモデル『honor6 Plus』(P26 参照)もデュアルSIM仕様だ。

 現在販売されているデュアルSIM端末は片側がGSMのみとなっており、日本国内では2枚のSIMを同時待受けすることができない。海外旅行に出れば、片側を現地の格安SIMでデータ通信用に、GSM側に日本のSIMを入れて電話の着信を受ける、という使い方はできる。しかし、いまや低価格なMVNOのSIMが簡単に入手できる状況を考えれば、日本でもMNOのSIMとMVNOのSIMを組み合わせる使い方がこれから増えてくるだろう。デュアル3G、あるいはデュアルLTE同時待受けに対応した製品がそろそろ出てきてほしいものだ。

ロック解除義務化でさらなる市場拡大へ

 2015年5月1日から日本でも事業者が販売する端末のSIMロック解除化が義務付けされた。原則として事業者は、顧客の要望に応じて自社が販売した端末のロックを外さなくてはならなくなった。これにより日本でもますます「SIMフリー」という言葉の認知度が高まることが期待される。

 MNO販売の大手メーカーのスマートフォンは、機能が豊富なことや販売元が明確なことから中古端末であっても安心して購入できるものとなる。だが、ロック解除後に他のMNO/MVNOで端末として使うにしても、別のMNOのロゴが入っていたり、プリインストール・アプリに不要なものが入っていたりと、一般消費者にとってはやや使い勝手の悪い製品に見えてしまうだろう。これに対して最初からSIMフリーで販売されているスマートフォンなら、余計なプリインストール・アプリも少なく、どのMNO/MVNOでも使いやすい。

 いずれにせよSIMロック解除が義務化されたことで、日本でもようやく端末と回線(SIM)を別々に購入して利用するという考え方が一般消費者の間にも広く認知されるようになるだろう。そうなれば、メーカーが単独で販売するSIMフリー・スマートフォンへの注目度もいままで以上に高まるはずだ。日本のSIMフリー端末市場はこれから成長期に入ることが期待できそうだ。

1.タイムセールも実施するファーウェイのオンラインストア『Vモール』中国版 2.ヨーロッパでも独自ブランドのSIMフリー端末が増加(写真はギリシャのTurbo-X)。家電店と組んでオンライン販売も強化している

山根康宏 (やまね やすひろ)

香港を拠点とし、世界各地で携帯端末の収集とモバイル事情を研究する携帯電話研究家・ライター。商社勤務時代、転勤や出張中に海外携帯端末のおもしろさに目覚め、ウェブでの執筆活動を開始。しだいに携帯電話研究が本業となり、2003年にライターとして独立。現在1,200台超の海外携帯端末コレクションを所有する。『週刊アスキー』『ITmedia』『CNET Japan』『ケータイWatch』などに連載多数。