オープンな協業と長期的な戦略がもたらす価値あるイノベーション
華為技術日本株式会社 代表取締役社長
王 剣峰(ジェフ・ワン)
去る5月21日、当社が開催したメディア向け事業戦略説明会で、私はファーウェイ・ジャパン代表取締役社長に就任してから初めてメディアの皆様と交流の機会を賜りました。当日は予定していた出席者数の倍以上の方々にご参加いただき、日本のメディアのファーウェイに対する注目度の高さを肌で感じるとともに、設立以来10年間、当社の成長を支えてくださったお客様やビジネス・パートナーの皆様への感謝の念を新たにいたしました。
節目の年を迎え、日本における次の10年に思いを馳せながら、ICTが今後の日本社会の発展に寄与する可能性に期待が膨らむとともに、当社がそこでどのような価値を生み出すことができるかを自問しています。
総務省が昨年発表した「スマート・ジャパンICT戦略」は、ICTによるイノベーションで経済成長と国際貢献を実現し、「世界で最もアクティブな国になる」ことをミッションとして掲げています。そこで重要な目標のひとつとなっているのが、2020年の東京オリンピックに向けて世界最先端のICT環境を整備することです。
日本の社会インフラは、世界的に見てもすでに高度に発達しています。しかし、「世界最先端」を追求しつづけるには、デジタルな世界と物理的な世界の融合をさらに推し進め、人と人、人とモノ、モノとモノとがつながりあったスマートな社会を支える新たなICTインフラを構築していかなければなりません。
すべてがつながったスマートな社会では、ネットワークに接続された端末から生成される大量のデータを、高速・大容量のネットワークでやりとりし、リアルタイムに処理する必要があります。ファーウェイはネットワーク、端末、ITの分野で革新的な製品やソリューションを提供してきた実績を生かし、こうした新たなICTインフラの構築をエンド・ツー・エンドでサポートすることを目指しています。とはいえ、社会のあらゆる領域をカバーするインフラの実現には、さまざまな分野のパートナーとの協業を基盤とするオープンなエコシステムを築くことが不可欠です。
スマートフォンのエコシステムに目を向けると、その重要性がよくおわかりいただけるでしょう。これまでの携帯電話メーカーは、ハードウェアからOS、UI(ユーザー・インターフェース)からアプリまで、ほとんどの要素を自前で開発してきました。一方、スマートフォンのビジネス・モデルでは、メーカーはハードウェアとOSとUIのみ、アンドロイドであればハードウェアとUIのみを開発することになり、プラットフォームはすべてのアプリ開発者にオープンになっています。このオープンなプラットフォーム上で、数多くのアプリ開発者によって大量のアプリが生まれ、ユーザーには無限とも言える選択肢が提供されます。このようなエコシステムにより、ハードウェアの価値が最大化されています。
ICTインフラの構築においても、こうしたオープンなプラットフォームによってイノベーションを促進することで、その価値を最大化できるはずです。このようなエコシステムを確立するために、ファーウェイは今後のICT業界の動向や将来性に関する見解を共有できる戦略的なパートナーと、互いの強みを生かしながら長期的に緊密な協業体制を築いていきたいと考えています。たとえば、今号のFeature Story(P2-11)で取り上げたように、ドイツ政府が推進するインダストリー4.0においてはSAPとの密接な協業によりIoTソリューションの開発を進めています。このほかにも、ファーウェイはこれまでに各業界のリーディング・カンパニーを中心とした300社と協業し、エネルギー、教育、医療、行政、金融、運輸、メディア、小売など多分野にわたるソリューションを共同で提供することで、ともに「より“つながった”世界」の実現に尽力しています。
最先端技術におけるイノベーションを生み出すうえでは、大学や研究機関とのパートナーシップも重要な役割を果たします。インダストリー4.0では、欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構(Fraunhofer-Gesellschaft)のほか、ドイツ国内の19の大学と共同研究を行っています。
日本でも、ファーウェイ・ジャパンは国内有数の大学・研究機関とさまざまな形で協力関係を築いています。6月には、日本を代表するインターネット研究・運用プロジェクトであるWIDEプロジェクトに当社のバックボーン・ネットワーク・ソリューションを寄贈したことを発表しました(P29参照)。「産学連携によって構成される自律的で自由な発想を持った研究者が組織の壁を超え、新しい技術を用いて、『より良い社会』を創造し、かつ各自の自己実現を目指す」(同プロジェクト代表江﨑浩氏)WIDEプロジェクトは、1988年からインターネット関連技術の実践的な研究開発を行う研究コンソーシアムとして、現在100社を超える企業および40校以上の学術組織などと共同研究を行っています。当社もその一員として、未来の情報通信技術の研究に必要な大容量トラフィックに備えたバックボーン・ネットワークの構築に貢献できたことを大変うれしく思います。
技術革新には、マラソンのように息の長い長期的な視点での戦略投資が不可欠です。日本で事業を開始して10年、今後もファーウェイ・ジャパンは産学のパートナーシップをさらに強化し、次の10年に向けて日本のICTエコシステムの発展を継続的に支援してまいります。