同軸ケーブルでギガクラスの接続を実現
4K・8Kの超高精細映像やスマートテレビへの注目が高まり、家庭で楽しむコンテンツのリッチ化が進んでいます。こうしたコンテンツを家庭に配信する手段として固定回線の大容量化・高速化が求められると同時に、NTTの「光コラボレーションモデル」の開始によってさまざまな業種の企業が光回線の提供に参入し、新たなビジネス・モデルが生まれてきています。こうした中、インターネット以前から「回線を通じて家庭にコンテンツを届ける」というサービスを手がけてきたケーブルテレビ事業者は、どのように事業環境の変化に臨み、高速接続の実現という課題に取り組んでいるのでしょうか。
今回のSpecial Interviewでは、名古屋地区を中心にケーブルテレビ・サービス、高速インターネット・サービスを提供するスターキャット・ケーブルネットワーク株式会社の常務取締役 経営戦略本部長 出口浩二氏に、同社が昨年スタートした高速インターネット・サービス『スターキャット光』などについてお聞きしました。
スターキャット・ケーブルネットワーク株式会社
1985年、名古屋ケーブルネットワーク株式会社として設立。1990年にケーブルテレビ・サービス事業、1999年にインターネット接続サービス事業、2010年にプライマリー電話サービス事業を開始。設立当初の親会社ヘラルドグループから映画興行事業を引き継ぎ、名古屋市内の2館の映画館の運営も行う。2012年、経営の効率化と競争力の強化を図り、東海地区10社のケーブルテレビ子会社の事業持株会社である株式会社コミュニティネットワークセンター(CNCI)のグループ会社に。2014年10月にスタートした集合住宅向け高速インターネット・サービス『スターキャット光』※では、ファーウェイのD-CCAP(DistributedConverged Cable Access Platform)ソリューションにより、既存の同軸ケーブルとモデムを活用した高速接続を実現している。
※『スターキャット光』を含めたインターネット接続サービスは、CNCIとスターキャットの共同事業です。
ケーブルテレビ事業者だからできること
編集部:御社は今年で設立30周年を迎えられますが、この30年間、インターネットの登場とコンテンツのデジタル化によって御社の事業環境は大きく変化してきたことと思います。こうした変化をどのようにして乗り越えてこられたのでしょうか。
出口氏:当社はCSの多チャンネル化に対応した都市型ケーブルテレビ・サービスとしてスタートしましたが、インターネット接続サービスを開始したのは1999年と、ケーブルテレビ事業者の中では比較的早いほうでした。それまではテレビの片方向サービスしか手がけていませんでしたから、双方向の通信に参入するには試行錯誤の連続でした。キロバイトのナローバンドからメガバイトへ、さらに光サービスによってギガバイトへと、この15年あまりでネットワークは飛躍的に高速化しましたが、当初はこれほど発展するとは予測していなかったというのが正直なところです。ケーブルテレビ事業者として地域ビジネスを発展させるには、お客様に必要とされる新たな付加価値を生み出していくしかありません。より速く安定したネットワーク接続をというお客様のご要望に応えつづけることで、事業を成長させてきました。
編集部:通信市場におけるケーブルテレビ事業者の優位性はどのようなところにあるのでしょうか。
出口氏:われわれは店舗型の営業スタイルではなく、お客様のご家庭を訪問してお話をうかがい、宅内工事まで責任を持って行いますので、ていねいなコミュニケーションを通じて不満や不安を一つひとつ解消し、満足度を上げていくことができます。ユーザーの高齢化も進んでいますから、こうしたきめ細かい対応と顔の見えるやりとりで安心してサービスをご利用いただけるようにすることは非常に重要です。たとえば当社の「インターネットかけつけレスキューサービス」では、当社が提供するサービスに直接関わらなくても、インターネットやパソコンで困ったことがあればスタッフが訪問して解決しています。付き合いが長く気心の知れたお客様には、担当者が携帯電話に直接連絡をいただいてかけつけることもしばしばです。地元のお客様とこうした信頼関係を築くことは、地域ケーブルテレビ事業者のミッションであり、大きな強みでもあります。
編集部:固定通信の分野では光サービス卸を利用した新しいサービスを提供する事業者の参入が加速していますが、こうした動きをどう見ていらっしゃいますか。
出口氏:固定回線と他のサービスのセット販売については、ケーブルテレビ事業者は以前からテレビ、インターネット、固定電話、携帯電話をセットで提供してきたという実績があり、当社はさらに電力を加えた5つのサービスを一括で提供するクインタプル・プレイも計画しています。お客様からすると、支払いや問い合わせ窓口が一本化されたほうが便利ですし、セット割によって料金が抑えられるほか、サービス間の連携によるコストダウンも期待できます。たとえば、電力までセットになれば、ネットワーク経由で電力使用のモニタリングや家電のコントロールをするスマートホームを実現でき、節電にもつながるでしょう。こうした一括型のサービス提供はお客様との関わりがいっそう深くなりますから、先述のようにご家庭にうかがってきめ細かい対応ができ、信頼関係を築いているケーブルテレビ事業者が本領を発揮できるところだと思います。
集合住宅の高速光接続を実現
編集部:御社がサービスを提供している名古屋地区には、市場としてどのような特色がありますか。
出口氏:名古屋市内は集合住宅の比率が高く、当社のサービス・エリアの約70%が集合住宅世帯です。地方都市ならではの傾向として、近年では大家族が世代交代で分散して中心部の集合住宅に移り住むというケースが多く、新築マンションも安定した供給が続いています。これを背景に、『スターキャット光』は集合住宅向けに特化したサービスとして提供しています。また、リニア中央新幹線の開通を見据えた名古屋駅周辺の再開発が進んでいることから、他地域からの企業の流入による法人向けの需要も高まると見ています。当社も光回線を活用した企業向けサービスにより、B2B市場を開拓しているところです。
編集部:『スターキャット光』をスタートして半年ほどになりますが、手ごたえはいかがですか。
出口氏:集合住宅向け高速回線にはニーズがあるものの、既存のマンションを調査してみると、約70%は構造上各住戸までの光回線の引き込みができないという現状がありました。これを解決するために、GPONによるバックボーンとD-CMTS(Distributed Cable Modem TerminationSystem:分散型ケーブル・モデム・ターミネーション・システム)を併用するファーウェイのソリューションを採用し、上位GPON2Gシェアの300Mbpsサービスで集合住宅における接続の高速化を実現しました。集合住宅のデベロッパーやオーナーの皆様に速度という強みを認識していただけるようになり、おかげさまで設置は順調に進んでいます。ここ数年で集合住宅における当社設備の導入率は50%ほどに落ちていたのですが、『スターキャット光』開始後にはかつての70%台にほぼ戻りつつあります。あとは入居者の方々にご利用を検討いただくわけですが、こちらも徐々に認知度が上がっており、1割ほどだった加入状況が、面会してご説明すると約3割ものお客様に既存サービスからの切り替えを決めていただいたという実例があります。ご利用中のお客様からは速度に関するクレームはいまのところまったくなく、高い評価をいただいています。
編集部:ファーウェイのソリューションを導入するにあたり、どのような点を評価していただいたのでしょうか。また、今後どのようなことを期待されますか。
出口氏:名古屋の夏は高温多湿なので、そうした過酷な環境に耐えられる設備でなければなりません。また、日本の住宅事情に合わせた世帯数の少ない集合住宅への対応も必要です。ファーウェイのソリューションは世界各国で導入実績があり、多様な環境や市場の特性に応じてカスタマイズできる柔軟性と機動力の高さを重視しています。日本市場では当社が初のD-CMTS導入事例となりますが、これからお客様のフィードバックをいただき、ファーウェイと共有しながら改善を重ねていくことで、さらに満足度の高いサービスを実現していきたいですね。
既存のケーブルテレビ網を活用して高速インターネットを実現
『スターキャット光』に導入されたソリューションは、ファーウェイ・ジャパンが2014年に日本でいち早く販売を開始した、既存のケーブルテレビ網を活用して高速インターネットサービスを実現する通信規格DOCSIS3.0※1対応のD-CMTSです。世界市場シェア1位を誇るファーウェイのGPONアクセス・システム※2をベースにした同システムにより、下り最大2Gbpsのデータ通信速度を実現するとともに、同軸ケーブルによるインターネット接続区間を限定することで雑音を低減し、サービス利用者により優れたサービスを提供することができます。また、従来、ケーブルテレビ会社の通信局舎側に設置されていたCMTS機能を集合住宅内またはその近くに配置することができるため、集合住宅単位のネットワーク設計が可能となり、多様なサービス・プランの提供が可能になります。
ファーウェイ・ジャパンは6月10日~11日に東京国際フォーラムで開催される『ケーブル技術ショー 2015』に出展いたします。ブースではD-CMTSのほか、4K/8K映像配信を支えるファーウェイの各種ソリューションをご紹介します。ファーウェイ・ジャパンは同イベントを主催・後援する日本CATV技術協会、日本ケーブルテレビ連盟、日本ケーブルラボの会員にもなっています。