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欧州FTTH委員会の戦略

欧州はいまだ厳しい財政状況にある。だが、欧州FTTH委員会(FTTH Council Europe)は今後5年間で、欧州のFTTH/FTTB(Fiber-To-The-Home/Building:ファイバー・ツー・ザ・ホーム/ビルディング)の利用世帯数が2013年の7,780万世帯から倍増すると見込んでいる。eヘルスからオンライン・ゲームにいたるまであらゆる分野で画期的なアプリケーションやサービスが開発されている現在、超高速ブロードバンドの実現を可能にするFTTHの重要性があらためて注目されている。欧州FTTH委員会の事務局長であるハルトヴィヒ・タウバー(Hartwig Tauber)氏に、欧州のFTTHの現状と展望を聞いた。

『WinWin』(ファーウェイ刊)編集部
リンダ・シュー(Linda Xu)

FTTH Council Europe

ファイバーによる超高速ネットワーク・アクセスの普及を目的として2004年に設立された業界団体。現在、通信業界、学術機関、メディアやeヘルスなどの関係機関から、ファーウェイを含む150のメンバーが参加し、欧州全域におけるファイバー・アクセスの拡大に努めている。

目標実現のカギとなるFTTH

ファーウェイ:欧州委員会が2010年に策定した『欧州デジタル・アジェンダ』は、2020年までに欧州の半数の世帯に100Mbps以上の超高速ブロードバンド接続を提供するという明確な目標を定めています。これほどの高い普及率を達成するには、ほぼユビキタスなサービスが必要です。こうしたサービスを実現するにあたって、FTTH技術はどのような役割を担うことになるのでしょうか?

タウバー氏:このアジェンダでは、2020年までに30Mbps以上の高速ブロードバンドをどこでも利用できるようにすること、そのうち少なくとも50%を最低でも100Mbpsの超高速ブロードバンド・サービスとすることを目標に掲げています。欧州諸国の政府の中には民間への財政支援を行って目標を達成しようとする国もあり、特に地方部や低所得地域など、民間企業が新たなブロードバンド・インフラストラクチャ構築に二の足を踏むような地域に政府からの支援が投入されています。しかし公共資金を投入するからには、将来にわたって活用可能なソリューションがなければなりません。それがFTTHなのです。FTTH委員会は、持続可能な未来を創るためにはFTTHがカギとなると考えています。帯域幅のキャパシティ、速度、セキュリティ、拡張性という面で将来的にも活用可能であると広く認められているためです。

 エンド・ユーザーにとって100Mbpsは何を意味するのでしょうか。100Mbpsの接続というのは、ほとんどの欧州諸国で現在提供されているブロードバンドの平均速度の10倍以上であり、音楽ならアルバム1枚分を5秒で、テレビ番組なら30秒で、高画質の映画でもたったの7分でダウンロードが完了します。しかし、残念ながら現在このような超高速インターネットを体験できるのは欧州のユーザーのわずか2%に過ぎません。100Mbps接続はダウンリンク速度のみならず、アップリンク速度としても定義される必要があります。FTTHを介したこのような超高速ブロードバンドが実現すれば、最高レベルの品質と信頼性が必要とされる医療分野やセキュリティ分野などで、より機能性に優れたサービスやアプリケーションを大規模に展開することが可能となります。

 欧州のFTTH市場は、先行する2つの市場をいまだに追いかけている状態です。2013年末までに、FTTH/Bの総加入者数は北米では1,000万、アジア太平洋地域では8,000万を超えていますが、欧州28か国の総加入者数は780万にとどまっています。欧州は、光ファイバーをより積極的に展開していくための決断を迫られているのです。いま、その決断を下さなければ、将来的に大幅な遅れを取ってしまうでしょう。

28の市場からなる欧州 FTTH普及率も多様

ファーウェイ:欧州における光ファイバー展開は地域によって異なっていますが、現在の欧州全体のFTTHの状況はいかがでしょうか。

タウバー氏:単一の欧州市場というのは存在しません。EUだけ見ても、28の市場があるのです。欧州以外の国からは、欧州委員会が法案を出せば欧州市場は完全に規制できるという幻想を抱かれがちですが、それぞれの市場には独自の歴史があり、市場の自由化の方法もセグメンテーションも異なります。モバイル分野へ長期的な投資を続けてきたオーストリアなどの市場もあれば、北欧諸国のように固定回線への投資を強化してきた市場もあります。欧州FTTH委員会がブロードバンドと光ファイバーへの投資について明確な枠組みを作るべきだと考える理由はここにあります。

 我々の最新の統計によると、CIS(Commonwealth of Independent States:独立国家共同体)を含む欧州39か国で、2013年末の時点で約320のFTTH/Bプロジェクトが動いています。リトアニア、ラトビア、アンドラはいずれも100%のカバレッジでFTTH/Bをリードしており、ポルトガルが67%のカバレッジでそれを追う形となっています。トルコとスペインは最も高い成長率を示しています。ロシアは新規加入者数の増加(2013年は140万人以上)が顕著で、トルコ、フランス、スペインがこれに続きます。ロシアは絶対数でも依然として大きく、2年連続で最大の市場となっていますが、フランスやイタリアなど従来からの経済大国は勢いがなく、ランキングでは下位となっており、ドイツとイギリスはいまだランク外です。

 FTTHの展開をいっそう進めるためには、規制側の理解もある程度必要です。光ファイバー展開を計画通りに進めていくためには、規制当局からの確約がなければなりません。通信事業者が光ファイバーに投資するには長期的な財源の確保が必要であり、それでこそ市場はいま以上に成長することができるのです。このような安定した環境により、北欧諸国は現在、地方部にも光ファイバーを広げようとしています。

長期的な価値を生む光ファイバー

ファーウェイ:過去6年間で、年間およそ170億ユーロ(約2兆3,460億円※)が固定ネットワークに投資されてきました。高額な投資ですが、通信事業者はどのようにして妥当なROI(Return On Investment:投資利益率)を確保しているのでしょうか。成功事例を教えていただけますか。

タウバー氏:170億ユーロというと巨額に思われるかもしれませんが、この額で高速道路を何km分建設できるかを考えると、実はそれほど膨大ではありません。ブロードバンド・インフラへの投資は、その他多くのインフラと比較すると、かなり少額なのです。毎年、240億ユーロ(約3兆3,120億円※)が固定ネットワークとモバイル・ネットワークに投入されています。通信事業者は多くの新設工事をしてきたと言いますが、ここで問題となるのは、実際の投資はネットワークのアップグレードに対するものなのか、または単に既存ネットワークの保守に対するものなのかという点です。

 成功事例をひとつ挙げたいと思います。スウェーデンのストックホルム郡とストックホルム市が所有する公共企業ストーカブ(Stokab)は、同市内でパッシブ・ファイバー・インフラを提供しており、これまでに少なくとも19億ユーロ(約2,622億円※)の収益を上げていると言われています。ストーカブは20年近くにわたり、競合性と中立性を備えたすべての人々のためのオープンな光ファイバーへの投資を実施し、ネットワークを拡大してきました。これは事実上公的な助成金なしで光ファイバーを展開したモデル・ケースとして認識されており、ストックホルムでの通信サービス提供に競争をもたらしました。通信事業者は、高額な投資や競合他社からのリースをしなくても、ストーカブの光ファイバーをリースして自社の光ファイバー・ネットワークを設計することができます。今日、ストックホルムにおける光ファイバーのリース費用は世界各国の首都の半分以下、場合によっては大幅に下まわっています。これは、通信事業者だけでなく、高速で信頼性のある通信技術を必要とするあらゆる企業にとってコストが削減されていることを意味しています。

 コストがより低額になったことで、ストックホルムでは医療などの領域で超高速ブロードバンドを活用した新規サービスの適用も進んでおり、電子政府サービスのおかげで市は大きな恩恵を受けています。その結果、同市のブロードバンド通信向けネットワークは現在、世界最大のオープンな都市ネットワークとして最も広く知られるものとなりました。市内の90%を超える世帯に接続が提供され、企業においてはほぼ100%を達成しています。ストーカブはポジティブ・キャッシュ・フローを実現するまでに5年以上を費やしました。

ファーウェイ:欧州でFTTH市場の成長を妨げている要因は何でしょうか。

タウバー氏:現時点での問題は、株主を抱える最大手通信事業者の多くが長期的な投資に積極的ではないことです。株主は配当と株価が短期間で向上することを望んでいます。そのため、欧州FTTH委員会は2年前に投資家のための特別なタスクフォースを設けました。これまでに長期的な投資をしている主要な機関投資家を招き、さまざまな経験を共有し、ビジネス・モデルを模索しようとしています。現在、大手通信事業者は一般的に垂直統合型アプローチを採用しており、光ファイバー・ネットワークの構築だけでなく、光ファイバー・サービスの提供から運用まであらゆる事業を手がけています。こうした大手各社が投資を望むのは、長期的な価値があり何年も先まで利用され続ける最下層のレイヤー(物理的なインフラストラクチャ)です。幸い、すでに光ファイバーの敷設に向けて動き出した大手通信事業者もいます。たとえば、ポルトガル・テレコム(Portugal Telecom)は光ファイバー展開の最前線におり、これまでに同国の人口の46%にサービスを提供しています。

 ほとんどの市場では大手通信事業者だけが注目されがちですが、北欧市場に目を向けると、光ファイバーを提供する主な企業は大手ではなく、ストーカブのような中立的企業や公益企業です。こうした企業のほうが長期的な投資をしやすいためです。多くの場合、大手事業者が光ファイバーに投資するには、政治的に良好な環境が必要となります。自国内では光ファイバー導入が高額すぎて実施できなくても、別の国で系列企業により光ファイバーを広く展開しているという大手事業者もあります。この典型的な例はドイツ・テレコム(DeutscheTelekom)です。同社はドイツ国内では光ファイバーの導入に積極的ではありませんが、マケドニアとハンガリーでは同社の系列企業が光ファイバーを広範囲に展開しています。つまり、光ファイバーの構築を実施しうるのは自国の大手通信事業者のみではないということです。大手事業者は株主の投資を引きつけなければなりません。したがって、多様な状況下にある各大手事業者の個々のニーズに合った形で光ファイバーを導入する方法を考える必要があります。

FTTHがもたらす未来のサービス

ファーウェイ:ファーウェイはユビキタスなブロードバンドによって「よりつながった世界」を実現することを目指していますが、それにはモバイル・アクセスのほうが重要な要素だという考えもあります。これについてはどのようにお考えですか。

タウバー氏:私たちはモバイルに愛着があります。モバイルは生活の一部であり、多くの人がスマートフォンやタブレットを常に使用しています。モバイルと固定回線の間には、本来の意味での競争というものはありません。モバイルの使用頻度が高くなるほど、より多くの光ファイバー接続が必要となるからです。LTEネットワークを構築してエンド・ユーザーに100Mbpsの速度を提供しようとすれば、あらゆる場所に光ファイバーに接続された基地局が必要になります。一方、家の中では4K TVやPlayStation 3をモバイルには接続しないでしょう。家庭内のワイヤレス・ネットワークの多くはワイヤレス・ルーターを利用して構築されますが、これは十分な速度を備えた固定ネットワークがあって初めて可能となります。私自身の例で言うと、娘と息子と私が一斉にタブレットでストリーミングをしようと思ったら、それなりの接続がなければネットワーク全体がダウンしてしまいます。つまり、モバイルと固定ネットワークはお互いに補完的な関係を持ち、両方とも同じくらい重要なのです。

ファーウェイ:今後5年間のFTTHの発展についてどのような見解をお持ちですか。

タウバー氏:最近流行りのeラーニングやeヘルスなどから見ていきましょう。これらは20~25年ほど前から話題にはなっていました。それでもなかなか軌道に乗らなかったのは、ネットワーク品質が大変貧弱だったためです。いまでは光ファイバー・ネットワークによって、eケア・ロボットを利用した遠隔サポートで高齢者の在宅介護ができるようになっています。同様の体験が、ほかにも多くのサービスで可能になってきました。過去10年間、私たちがブロードバンド・サービスを使って何ができていたかを振り返ってみると、以前はYouTubeもFacebookもInstagramも存在せず、ビデオや映画をアップロードできるような手段はありませんでした。しかし現在はブロードバンドの活用方法が完全に変化しており、スマート・シティ、スマート・リージョン、自動運転などのインフラが話題になっています。これらはすべてワイヤレス接続で可能となるかもしれません。しかし、無線トラフィックのオフロードに関してはどうするかというと、やはり光ファイバーが必要になります。あらゆる場所に光ファイバーが必要になるのです。

 今後間違いなくトラフィックを急増させるであろうサービスのひとつに、新たな4K超高精細度コンテンツがあります。今年ラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)に行った際、会場で簡単な計算をしたのですが、たとえば80GBの超高精細度の映画をダウンロードするとして、DSL(Digital Subscriber Line:デジタル加入者線)では3日かかります。これではオンデマンドとは呼べません。光ファイバー・ネットワークでは、このような体験が大幅に向上します。

 現在、北欧、スペイン、ポルトガルなど、いくつかの市場が進展を見せています。私たちは決定権を握る人たちを十分に説得できると考えています。重要なのは、欧州が適切なソリューションを選択することです。当委員会の委員長が言うように「一度だけ、正しく行う(Do it once, do it right)」べきなのです。正しい決断ができれば、欧州における光ファイバーの展開は加速していくでしょう。

※1ユーロ138円換算