モバイルが変える未来:日本で立ち上がるSIMフリー端末市場
今号からスタートするこのコーナーでは、モバイルとICTを取り巻くテーマを毎回ひとつ取り上げ、アジアを中心に世界のモバイル事情をウォッチしている携帯電話研究家・ライターの山根康宏さんに、日本と世界の現状と動向、そしてさらにその先について解説していただきます。スマートフォンの登場によって大きく変わった私たちのモバイル・ライフは、これからどうなっていくのか? グローバルな動きをクローズアップし、コミュニケーションの未来を探ります。第1回は、5月末にファーウェイ・ジャパンも販売を発表した「SIMフリー端末」です。
増えるSIMフリー端末 低価格な製品も登場
日本でSIMフリー端末市場が少しずつ盛り上がりを見せている。大手携帯電話事業者(MNO:Mobile Network Operator)を経由せずに単体で購入でき、しかも値ごろ感ある価格のSIMフリー・スマートフォンの種類が2014年に入ってから増え始めた。契約縛りもなく簡単に購入できるSIMフリー端末はこれから徐々に日本の消費者に認知され、市場も拡大していくと見られている。
日本ではMNOでのSIMカードの単体契約が事実上難しい。またSIMフリー端末の価格もMNOが販売するSIMロック端末より割高である。そのためSIMフリー端末はこれまでも各社が販売してきたが広く普及するには至っていなかった。
だが、2014年に入ってからSIMフリー端末を取り巻く環境が大きく変わり始めている。中でも1万円台で購入できる低価格なSIMフリー・スマートフォンが登場したことは、大きなニュースとなった。
日本ではMNOの販売する高性能な最新スマートフォンが実質無料で購入できるケースが多いものの、2年間の固定契約が必須だ。それに対してSIMフリー・スマートフォンは契約不要で単体購入でき、しかも本体価格も安い。SIMフリー端末の登場はこれまでの携帯電話の買い方の常識を大きく覆そうとしているのだ。
MVNOの参入が増加 OTTも利用を後押し
低価格なSIMフリー・スマートフォンの普及を後押ししているのがMVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)の低料金なSIMカードだ。日本の携帯電話市場は回線契約と端末割引販売が事実上一括となっており、SIMカードだけを契約して別途自分の持ち込み端末で利用することには割高感があった。
だがMVNOの市場参入が相次いだことで通信回線のみを契約することが容易になり、料金の低価格化も進んでいる。そこに低料金のSIMフリー端末が登場したことでMVNO契約に目を向ける一般消費者の数も増え始めている。
そして、スマートフォンの普及は携帯電話の利用形態を大きく変えた。インスタント・メッセージやSNS、写真共有など、OTTプレイヤーが提供するサービスの利用が広がっており、MNOが提供するサービスへの依存度が下がっていることも、MVNOの利用促進に一役買っている。
海外ではすでに普及 オープン・マーケット販売も
では、この動きは日本だけのものなのだろうか? 海外市場に目を向けると、日本と類似したMNOによる携帯端末の直接販売が主流のアメリカや韓国ではSIMフリー端末市場は活発ではない。だが両国ともMVNOの数は多く、低価格サービスとして広く認知されている。
一方、2G時代からSIMカードが採用され、回線と端末販売が分離されていたヨーロッパからアジアまでの広い地域では、SIMフリー端末の販売は活発だ。ヨーロッパではMNOによる回線契約とSIMロック端末のバンドル販売が一般的だが、実はそれと並行して家電量販店や携帯電話専門販売店ではSIMフリー端末も併売されている。
アフリカやアジアでは、SIMロック端末の販売よりもSIMフリー端末市場が大きく広がっている。これは平均所得が低い国が多く、MNOがSIMロック端末を安価に販売し、後から通信料金でその割引分を回収する、という手法が取れないからだ。そのため新興国や途上国ではエントリー・レベルの製品ではあるが1万円程度のSIMフリー・スマートフォンも多数販売されている。
また、アジアの中で平均所得の高いシンガポールや香港でも端末はSIMフリー販売が行われている。MNOで回線契約とセット販売されるiPhoneなどのハイエンド端末もSIMフリーだ。
これらの地域では、端末メーカーが自社の販売店や代理店を通じてSIMフリー端末の販売も行っている。家電店へ行けば、TVや冷蔵庫と並んでSIMフリーのメーカーブランド・スマートフォンが売られている。
さらにはEコマースの拡大により、オンライン販売に力を入れるメーカーも増えている。中でも中国市場ではいまや各メーカーがオープン・マーケットを利用したスマートフォンの販売に大きく力を入れている。レノボやファーウェイ、ZTEといった大手メーカーはもちろんのこと、1機種で新規参入する新興メーカーはむしろオンライン販売に特化することで販売網の狭さをカバーしようとしている。いま話題の中国新興メーカーの小米(シャオミ)も、市場への参入開始時はオンライン販売に特化していた。
プリペイド利用も一般化 グローバルMVNO事業者も
これらSIMフリー端末を活用するためにはもちろんSIMカードが必要だが、ヨーロッパやアジアではもともと回線契約と端末販売が分離されている。そのためMNOでSIMカードだけを契約することもすでに一般的だ。
そして、低料金プランとして各MNOはプリペイド・サービスを提供している。プリペイドSIMカードはどの国でも販売されており、国によっては身分証明書の提示が必要なケースもあるが、コンビニエンス・ストアでも購入できるなど入手も容易だ。
毎月の携帯回線の維持費を安く抑えたい学生や年配者などは、プリペイドSIMカードを使っている。プリペイドSIMカードの利用者数は新興国だけではなくヨーロッパの先進国でも多いのだ。
つまり、日本のMVNO SIMカードの役割を海外ではプリペイドSIMカードが担っている。もちろんMVNOも各国に存在し、MNOのポストペイドやプリペイド・サービスよりもさらに安い料金を提供している。レバラ・モバイル(Lebara Mobile)やライカモバイル(Lycamobile)は、MVNOながら低料金を武器に世界各国に事業を拡大している。
スマートフォン市場を活性化 日本もSIMフリー機が広がる
MVNOのSIMカードとSIMフリー端末は低価格品が多いとあって、日本ではこれからブームが起きようとしている。SIMフリー端末はまだニッチな存在であり、iPhoneなどハイエンド製品と、独自開発された低価格・中スペックの製品に2分化されている。
だがファーウェイが複数製品の投入を発表した(囲み記事参照)ことで、他の大手メーカーの日本参入の可能性も高まった。日本のSIMフリー端末市場は今後数年内に大きく成長するかもしれない。
とはいえMNO加入者すべてがMVNOに移行し、誰もがSIMフリー端末を買い求めるということにはならないだろう。MVNOとSIMフリー端末の広がりは消費者のスマートフォンの利用ニーズの多様化にマッチするものであり、MNOでハイエンド・スマートフォンを契約購入する以外に選択肢がないという状況を変えるものになる。
消費者が回線と端末それぞれ複数の選択肢を得ることで、日本のスマートフォン市場全体のさらなる活性化につながる。また、日本から世界に向けて新しい製品やサービスが生まれることも期待できるだろう。
山根康宏 (やまね やすひろ)
香港を拠点とし、世界各地で携帯端末の収集とモバイル事情を研究する携帯電話研究家・ライター。商社勤務時代、転勤や出張中に海外携帯端末のおもしろさに目覚め、ウェブでの執筆活動を開始。しだいに携帯電話研究が本業となり、2003年にライターとして独立。現在1,200台超の海外携帯端末コレクションを所有する。『ITmedia』『マイナビニュース』『CNET Japan』『ケータイWatch』などに連載多数。
ファーウェイ・ジャパンは5月30日、SIMロックフリー端末の販売を開始することを発表。市場に新たな選択肢を提供することで、急速に多様化が進む消費者ニーズの変化に応えることを目指す。
LTE対応スマートフォン『Ascend(アセンド) G6』(P27参照)をはじめ、優れたモバイル体験を提供するタブレットシリーズ『MediaPad(メディアパッド)』の最新製品『MediaPad X1』『MediaPad M1』『MediaPad 7 Youth2』、ファーウェイ初のウェアラブル端末『TalkBand(トークバンド) B1』、5月にフランスで発表された薄さ約6.5mmのグローバル・フラッグシップ・スマートフォン『Ascend P7』など、世界市場で展開している幅広い製品ラインを順次発売予定。