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ウェアラブル時代の新たなビジネス・モデル

ウェアラブル・テクノロジーはインターネットのビジネス・モデルを変え、私たちが日々インターネットにアクセスする具体的な方法を変える。五感を補い、視覚、聴覚、記憶などの身体的な制限を克服することで、人類がその可能性を最大限に生かせる未来が訪れるだろう。

ファーウェイ2012ラボ メディア・テクノロジー・ラボ 張夢晗(Zhang Menghan)、王戎(Wang Rong)

『WinWin』Special Edition「Connecting the 4.4 billion unconnected」(ファーウェイ刊)より

より自然なコミュニケーションの実現

通信の究極の目的は、すべての人々が物理的な制約なく自由に、いつでもどこでも手軽にコミュニケーションできるようにすること、すなわち「通信をフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションと同じぐらい自然なものにすること」だ。だが、現状のコンピューターやスマートフォンは技術的な限界や人工的なデザインのために直感的な操作性に欠けており、タッチスクリーンやアイコンなどに不慣れな人たちは「インターネットは苦手だ」と思ってしまう。とりわけ、高齢者や障害のある人たちにとっては、使いづらい機器が多い。ハードウェアやソフトウェアを設計する技術者と一般ユーザーの間には大きなギャップが存在しているのだ。

特別なニーズを持つユーザーを想定した端末機器も出まわってはいるが、携帯電話の場合はその多くがポケットやカバンの中にしまわれたままで、ユーザー・データの収集も十分にできていない。こうした現状は、ウェアラブル・テクノロジーの登場によって一新するだろう。携帯電話とは違い、ウェアラブル機器は人体に密着し、ユーザー・データを正確かつ長期間にわたって収集することができる。現在はまだ単に機器が作動して情報を収集するという受動的なやりとりが中心だが、技術が進歩すれば、いずれは機器がユーザーの行動をより能動的に学習し、操作性を高めるといった使い方も可能になるだろう。

次なる成長へ

ウェアラブル・テクノロジーは萌芽期にあり、スマート・ウォッチやリストバンドなどの製品は真にインタラクティブな機器と呼ぶにはほど遠い。しかし、先行するこうした製品は今後の方向性を示唆している。マイクロソフトが最近発表したような音声入力による自動翻訳は、音声情報をテキストにしてディスプレイに表示することができる。同様に、もしグーグル・グラスが視覚情報を音声化できるようになれば、視覚障害のあるユーザーにとって便利な機能となるだろう。

これらは始まりに過ぎず、私たちの生活が本当の意味で変化するのはさらにその先だ。現在は、サイバー空間での営みと現実の日常生活はある程度分離されている。スマートフォンの画面を見るためにはいまやっていること(車の運転や歩行など)を中断し、画面上で用事を済ませてから、元の活動に戻る。だが、人間の五感を補うウェアラブル・テクノロジーははるかに直感的に利用できるため、オンラインの世界の機能や情報を現実の生活体験の中に持ち込むことが可能になる。

コスト構造の変化

このような技術の登場により、通信事業者のビジネス・モデルにも変革が求められる。ウェアラブル・テクノロジーが普及すれば、データは空気のようなものとなり、これまでのように「500MBで30ドル」といったような課金制度は通用しなくなる。ではどうすればよいのか? その答えはウェアラブル・テクノロジーを取り巻くエコシステムにある。

現在のインターネットはコンテンツの消費が主な用途のひとつとなっており、ユーザーはホーム・ビデオを見るような感覚で最新のハリウッド映画をオンラインで視聴するが、そのためにはHD動画を配信できるだけの十分な帯域が必要とされる。コンテンツ配信に要する帯域分に関するコストをコンテンツ・プロバイダーが自ら負担することもあるが、ほとんどの場合、通信とコンテンツの料金を支払っているのはユーザーだ。

一方、ビッグ・データの重要性がうたわれる中、コンテンツ・プロバイダーはより多くのユーザー・データを求めている。ユーザーにとって価値があるのは自分たちがダウンロードする下りデータだが、コンテンツ・プロバイダーにとってはユーザーから上がってくる上りデータがきわめて貴重な情報となる。グーグルはユーザーの検索データの分析だけで多大な利益を上げているが、それは氷山の一角に過ぎない。コンテンツ・プロバイダーにとって、下りデータが水だとすれば、上りデータは金脈である。ウェアラブル・テクノロジーは、それを掘り起こすのに最適なツールなのだ。

人体ネットワークの可能性

ウェアラブル・テクノロジーと五感を持ったネットワークの登場にともない、BAN(Body Area Network)というコンセプトも提案されている。BANは、人体に取り付けられたさまざまなセンサーによってユーザー・データを収集するネットワークだ。ウェアラブル機器はネットワークそのものとして、あるいはそのコントロール・センターとして機能する。

BANのセンサーはIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の延長であり、ネットワークの中のノードといえる。これらのノードは複数のインターフェースを通じてメインのネットワークと接続するとともに、オフライン時には独立したクローズドなサブネットワークの役割を果たす。これは「浸透型ネットワーク」とも呼べるもので、私たちの生活の隅々に徐々に入り込んでくるだろう。浸透型ネットワークは、ユーザーの手をわずらわせることなく、それどころか気づかれることすらなく、貴重なユーザー・データを大量かつ長期にわたって収集し、蓄積することができる。

現在インターネット上のユーザー・データはほとんどがテキスト・ベースで、音声と画像が若干あるのみだ。こうしたデータの中には有用な情報が多く含まれており、これらのデータを活用するためのデータ・マイニング技術も数多く開発されている。しかし、こうした情報よりもさらに重要なのは、脈拍や血圧、気温、外的環境など、ユーザーが提供する手段を持たないデータであり、これらを活用すれば医療、交通、公共の安全といった用途に役立てることができる。BANはこうした情報を収集するのに最適なツールだ。たとえば、犯罪現場を目撃したときに、ささやくだけで警察を呼び、それを合図に通報者が装着しているメガネ型デバイスが周囲の状況を自動的にスキャンして目撃情報を記録するといった使い方が考えられる。

新たな収益モデル

とはいえ、コンテンツ・プロバイダーにとって価値ある情報はやはりユーザーの嗜好に関するものだ。ネットワーク上にデータがあふれ、コンテンツ・プロバイダーがそのデータにアクセスするために通信事業者に料金を払うようになれば、ユーザーに課金されるインターネット使用料はさほど必要なくなり、いずれは完全になくなるかもしれない。

しかし、他のプレーヤーが先にデータを入手してしまうようでは、こうした事態は実現しない。世界最大のOTTであるグーグルが提供するブロードバンド・サービス「グーグル・ファイバー」は、通信事業者を完全に中抜きにしてユーザー・データを収集する試みだ。中小のコンテンツ・プロバイダーはいずれ、サービスを提供するためにネットワーク上のデータにアクセスしたいと、通信事業者の協力を求めるようになるだろう。彼らがグーグルと競争するためにはそれ以外に道はない。これはインターネット企業の収益モデルにも類似している。無料のサービスを提供し、広告とユーザーの行動データ収集から利益を得るのである。

ウェアラブル・テクノロジーは私たちがインターネットにアクセスする方法に変化をもたらし、このイノベーションは、ICTに革命を起こす。ユーザーと端末とのやりとりがより便利になり、さらに多くのソースから情報が得られるようになって、インターネット使用料がゼロに近づいていく日も遠くない。ウェアラブル機器が人間の五感を補完し、身体的な弱点による限界を克服し、思い通りのライフスタイルをかなえる、無限の可能性を持った「つながる世界」の扉がまもなく開かれる。