成熟したLTE市場でユーザー体験の向上を目指すPCCW-HKT
人口700万人の香港で、携帯通信会社5社と10個のLTEネットワークによる加入者獲得の競争が繰り広げられている中、PCCW-HKTは他社を一歩リードしている。同社のワイヤレス担当上級副社長であるヘンリー・ウォン(Henry Wong)氏は、「広域Wi-Fiカバレッジ、RAN(Radio Access Network:無線アクセス・ネットワーク)共有、強力なバックホール(FTTS)プロビジョニング、3Gと4Gの料金プランの整合性を取ることが成功の鍵だ」と語る。
『WinWin』(ファーウェイ刊)編集部 Julia Yao、Linda Xu
PCCW-HKT
香港に本社を置き、同地を中心に世界各国でブロードバンド、固定電話、モバイル、IPTVサービスを手がける通信事業者。2000年にPCCWによるHKT(香港テレコム)の買収によって設立。従業員数約21,500名。
飽和が進んだ市場
ファーウェイ:2013年に香港ではLTEに関して主にどのような進展がありましたか。
ウォン氏:香港ではここ2年間データ・トラフィックが毎年倍増しています。OFCA(Office of Communications Authority:通信事務管理局)は2009年に2600MHz帯で3つのLTE FDDライセンス、2012年に2300MHz帯で3つのLTE TDDライセンス、2013年には2600MHz帯でさらに4つのLTE FDDライセンスを発行しました。過去数年の間にOFCAが開放したLTE FDD、LTE TDD両ネットワークの新スペクトルは合計230MHzになります。これらの新スペクトルに加え、香港の通信事業者はGSMサービスの需要が減ったことを理由に、LTEサービス向けに既存の1800MHz帯をリファームしています。香港のLTE市場はたいへん成熟しており、9個のLTE FDDネットワークと1個のLTE TDDネットワーク、合計10個のLTEネットワークがすべて商用運用されています。携帯電話市場は飽和状態で、普及率は2013年4月に220%を超えました。
ファーウェイ:PCCW-HKTはLTEデータ市場で、3Gと比較してどのような戦略を取っていますか。特に価格設定に関する戦略についてお聞かせください。
ウォン氏:3Gを利用中のお客様には、価格は3Gのままで最高のモバイル・ブロードバンド・サービスを受けていただきたいというのが当社のマーケティング戦略です。当社の3Gと4Gの価格は基本的に同じです。3Gの料金プランを支払っていたユーザーは、4Gで追加料金を取られることはありません。たとえば10GBの固定月額料金を支払っている場合、このパッケージをそのまま4Gに適用します。お客様は4G対応の携帯端末を使いはじめると、すぐさま4Gサービスを利用できるようになります。香港の現在の4Gサービス普及率は市場のLTE携帯端末の普及率と連動しています。現時点ですでに4Gサービスを利用しているユーザーはおよそ10~20%です。
当社は無制限データ利用プランを廃止し、すべてのパッケージにデータ量による段階的な価格設定を設けています。初期のころは5GBが最も人気のサービスでしたが、現在では10GBを利用する人が増えています。加えて、150Mbpsのデータ速度を可能とするCat 4(Category 4)対応のスマートフォンを商用化したのに伴い、最近80GBのプランを提供しはじめました。LTEの速度が増すにつれ、ユーザーのデータ消費量も増加していくでしょう。それに応じて、当社は大容量データ向けのより高額なプランを設定し、ARPU(Average Revenue Per User:加入者1人あたりの売上)を増加させる計画です。
ファーウェイ:PCCW-HKTのLTEネットワークの現状と次の展開を教えてください。
ウォン氏:当社は2012年4月に2600MHz帯を利用したLTEネットワークを商用化しました。また2013年初め、LTE用に1800MHz帯をリファームし、現在ではLTE1800をカバレッジ・レイヤー、LTE2600をキャパシティ・レイヤーとして香港全域にLTEカバレッジを提供しています。2600MHz帯には20MHz幅があり、LTE搬送波全体で150Mbpsの速度を実現しています。また、CSFB(Circuit-Switched Fallback:回線交換フォールバック)も装備し、2012年から本番運用しており、現在VoLTE(Voice over LTE)サービスの商用化に向けて準備を進めているところです。
ファーウェイ:香港の都市部は地球上で最も人口密度が高いエリアと言えます。そこで、御社はスモールセル計画をどのように進めているのでしょうか。またスモールセルをネットワークにどのように統合して膨大なデータ量に対応しているのかをお聞かせください。
ウォン氏:現在当社は3Gカバレッジの補完のために600のフェムトセルを配備しています。しかし、フェムトセルはマクロセルに干渉するという欠点があり、キャパシティ拡大には不向きです。一方、スモールセルはHetNetアーキテクチャでキャパシティを拡大する要素として重要な役割を果たします。スモールセルを配備する技術的な課題のひとつは、広域に汎在するファイバー・バックホールです。バックホールのプロビジョニングを合理化するため、当社はバックホールのアーキテクチャを市内交換局を中心に再設計しました。具体的には、エッジ・ルーターを市内交換局に集中させることで、スモールセル接続のための集合ハブとなるようにしました。これにより、メトロIPネットワークを経由してコア・ネットワークに接続するまでのファイバー距離を最短化することができました。同様に、この設計によって市内交換局はBBUホテルとしても機能します。
Wi-Fiとモバイルのシームレスな統合
ファーウェイ:PCCW-HKTは広域かつ信頼性の高いWi-Fiネットワークを自社の強みとされていますが、御社顧客のWi-Fi体験は競合他社のものとどう異なるのでしょうか。また、その背後にある主要な技術イノベーションを教えてください。
ウォン氏:PCCW-HKTは香港で最大手のWi-Fiプロバイダーで、モバイル・ネットワーク用のセル・サイトは約2,000ですが、Wi-Fiホットスポットは1万2,000以上も持っています。バス停、地下鉄(車内Wi-Fiアクセスを含む)、フェリー、大型ショッピング施設、レストラン、カフェ、大学など人々が集まる施設の屋内・屋外をカバーし、最良のWi-Fi体験をユーザーに提供しています。
当社はWi-Fiネットワークに長らく携わってきました。特にモバイル・ネットワークとWi-Fiの統合に力を入れており、2008年にはEAP-SIM認証を利用してモバイルとWi-Fiシステムを統合しました。これにより、ユーザーはSIM認証に基づきシームレスにWi-Fi認証ができます。2011年には、Wi-Fiネットワークへのアクセス向上を目的にHotspot 2.0(Wi-Fiへの認証とローミングを自動的に行うための仕様)のトライアルを数回実施しました。2 0 1 3 年7月には802.11acも商用化し、これまでで最大の速度をユーザーに提供しています。また現在、新たなゲートウェイを用いてWi-Fiとモバイル・ネットワーク間でデータ・セッションを統合する機能を実装しており、これによりユーザー・プレーンとコントロール・プレーンがモバイル・ネットワークと統合することになります。2014年にはANDSF(Access Network Discovery and Selection Function:アクセス・ネットワーク発見選択機能)を実用化し、QoS(Quality of Service:サービス品質)制御のもとでモバイル・サービスとWi-Fiサービスへのシームレスなアクセスを提供できると見込んでいます。
ファーウェイ:Wi-Fi向けの料金設定はどのようになっていますか。またWi-Fi運用から得た利点は何でしょうか。
ウォン氏:Wi-Fiネットワークへの投資は安価ではありません。Wi-Fiアクセス・ポイント機器は高額ではありませんが、Wi-Fi提供のためのバックホールがたいへん高価なのです。基本的にWi-Fi料金は携帯料金に組み込まれており、これが当社のサービスのセールス・ポイントになっています。当社にとっての利点はWi-Fiにトラフィックをオフロードできることです。ユーザーはどれほど高速で大容量のサービスでもいずれトラフィックを使い果たしてしまいますが、Wi-Fiでネットワーク容量を最大化することで、ユーザーに最適なモバイル・ブロードバンド・サービスを提供することができます。さらに、Wi-Fiを配備することは将来的にスモールセル開発の道を拓くことにもつながります。
効率的なリソース分配を可能にするRAN共有
ファーウェイ: PCCW-HKTとハチソン(Hutchison)は2600MHz帯のLTEネットワークを共有していますが、LTEではネットワーク共有が可能となる一方、QoSモデルが3GPPにより定義されていないため、通信事業者の中にはQoSが課題となっているケースもあります。PCCW-HKTは、この点に関していかがですか。
ウォン氏:当社のMOCN(Multi-Operator Core Network:マルチオペレーター・コア・ネットワーク)RAN共有アーキテクチャでは、ネットワークを共有しているのはRANのみです。MOCNアーキテクチャでは事業者ごとに別々のEPC(Evolved Packet Core:進化型パケットコア)を利用できるため、各社がそれぞれにスイッチング基盤やHLR(Home Location Register:ホーム・ロケーション・レジスター)/HSS(Home Subscriber Server:ホーム加入者サーバー)の加入者データベース、QoS制御のためのPCRF(Policy and Charging Rules Function:ポリシーと課金ルール機能)を装備できます。MOCNアーキテクチャにより、各社独自のサービス・アプリケーション開発やプロビジョニングの実施、料金プランの設定が可能になるのです。MOCNアーキテクチャを利用したファーウェイのネットワークでは、無線リソースが柔軟に割り当てられるため、eNodeBの無線リソースを各社で分けあうことができます。たとえば、ある事業者の加入者1人がセルの無線リソースを使い果たし、データ率がピークに達したとしても、他の事業者の別のユーザーが同じセルに入ってくると、自動的に50/50のリソース共有に切り替わります。そのため、ユーザーはフェア・ユース・ポリシーを享受し、各通信事業者は所有する無線リソースを最大限に活用して、運用と無線リソースの活用を公正に保つことができます。したがって、MOCNが配備されている環境ではQoSの問題はないと言えます。
ファーウェイ: MOCN RAN共有の技術サポートのほかに、御社はファーウェイのエンド・ツー・エンド・ソリューションに対してどのような期待や要望をお持ちでしょうか。
ウォン氏:当社はこれまで、MSC(Mobile Switching Center:移動通信交換局)、EPC、PCRFなどの2G、3G、LTEネットワークにファーウェイのエンド・ツー・エンド・ソリューションを装備してきました。従来のネットワークは異なる技術をお互いに閉じた形で採用していましたが、現在はさまざまな帯域での異なる技術どうしのスペクトル・リファーミング、2G/3G/LTEネットワーク全体でのリソースの蓄積、IPコアやIP-RANバックホールの共有、さらにMOCN RAN共有などにより、ネットワークの統合が進みつつあります。アーキテクチャが統合されると、これまでとは違った技術ソリューションが必要となります。たとえば以前の障害管理方法では、あるiManager M2000が2Gのみを監視し、別のiManager M2000が3Gまたは4Gのみを監視していましたが、現在はiManager M2000一台で統合ネットワークを監視しています。障害管理にはさらに、構成管理、トラブルシューティング、障害復旧のために、ネットワークのコンポーネントをより詳細に特定する機能が求められます。ネットワークのアーキテクチャが変化している状況を考えると、エンド・ツー・エンド・ソリューションをどのように適用していくかについて新しいアプローチが必要です。ファーウェイにはぜひそれを期待したいですね。