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最先端のNAND技術を基盤にストレージの新たな可能性を追求

社内屈指の高収益カンパニーとして新市場の創造に挑む

2013年8月、2015年度までの3年間を対象とする中期経営計画を発表し、市場伸長に過度に依存しない「創造的成長」に向けて新たなスタートを切った東芝グループ。その牽引役として期待されているのが、半導体とストレージ分野で世界最大級の事業スケールを誇る社内カンパニー、セミコンダクター&ストレージ社です。今回は同社の成毛社長に、NAND型フラッシュメモリを中核とする製品戦略と通信の未来についてうかがいました。

セミコンダクター&ストレージ社

東芝グループの半導体およびストレージ事業を一体運営する社内カンパニーとして、メモリ、システムLSI、ディスクリート半導体、CMOSセンサ、SSD、HDDなど先端的な製品とシステム・ソリューションを展開している。なかでも東芝が開発したNAND型フラッシュメモリは、モバイル端末の進化をリードするデバイスとして、また大容量ストレージの基幹技術として、いまも熱い注目を集めている。成毛康雄社長は東京工業大学の理工学研究科博士課程を修了して東芝に入社。四日市工場長、メモリ事業部長などを歴任したのち、2013年6月に執行役上席常務およびセミコンダクター&ストレージ社社長に就任した。

卓越したオペレーション能力と微細化技術でNAND市場をリード

編集部::2013年8月に発表された東芝グループの中期経営計画では、新たな価値の創造と新規市場の開拓による「東芝ならではの成長」(創造的成長)が謳われました。中計で掲げた「3つの柱」のひとつ、ストレージ事業を展開するセミコンダクター&ストレージ社への期待も一段と高まっていることと推察します。

成毛氏:基幹技術であるNANDを中心に申し上げると、当社は世代を経るごとにビットコストを下げ、それによってこれまで使われなかった分野に用途を広げるというサイクルで事業を展開してきました。常に新しいマーケットをつくりながら物量・金額ともに伸ばしてきたわけですが、ここ数年はスマートフォンに使われて物量が飛躍的に増大しています。次のステップとして重視しているのは、ビッグデータや各種ソリューションをクラウド上で扱うための大容量ストレージです。NAND型フラッシュメモリを用いたSSDやエンタープライズ用のHDDに注力し、新たなマーケットを創出していく計画です。

編集部:東芝はNAND型フラッシュメモリを発明した会社として世界に先駆けて実用化し、製品用途の拡大と市場の成長を牽引してこられました。NANDと大容量ストレージの今後について、どのような認識をお持ちでしょうか。

成毛氏:われわれはいままで、平面で微細化を進めることによってNANDの容量拡大とコストダウンを図ってきました。競合メーカーの1社は先般、メモリセルを縦方向に積む3次元NANDの生産を開始しましたが、当社は来年度も平面の展開を継続し、微細化をきわめた次世代製品を投入する計画です。3次元NANDの研究開発も他社に先んじて進めていますが、現行の技術と生産設備では十分なコストダウンが実現できないと判断しました。今後1 年程度をかけて技術を熟成させ、「BiCS(Bit Cost Scalable)」としてリリースするとともに、さらにその先の次々世代製品についても開発を推進し、お客様のご期待に応えていきます。

 またデータセンター向けなどのエンタープライズ用途では、応答速度の向上といった特性面の改善が強く求められています。当社ではこうしたニーズに対して、優れた操作性を持つMLC(Multi-Level Cell)NANDによるコントローラー搭載NANDソリューションを提供してまいります。

編集部:有力企業の間で製品戦略が異なっているわけですね。競合に打ち勝つための御社独自の強みは何だとお考えでしょうか。

成毛氏:当社はこれまでNAND型フラッシュメモリを生産する四日市工場で300mmウェハーへの投資を積極的に行ってきました。そこで培った高度なオペレーション能力と自動化技術が他社に対する優位性のひとつになっています。日本国内に生産拠点を置くことは国際的にはコストの面で不利になりがちです。しかし当社では卓越したオペレーションでコスト削減に成功し、円高基調の時代でもグローバルな競争力を失いませんでしたし、昨今円安が進んだことによって、その強みがより鮮明になりました。そして、もうひとつの優位性が微細化の技術です。当社のメモリ事業はDRAMからの撤退後はNAND型フラッシュメモリに特化し、その微細化推進に全力を注いできました。現在でも世界最高水準を維持していると考えています。

通信キャパシティの拡大に貢献する東芝独自のデータ転送技術

編集部:NAND型フラッシュメモリがスマートフォンやタブレットなどのモバイル端末に搭載されることで、大量のデータをインターネット経由でダウンロードしたり、端末間でやりとりすることが可能になりました。通信の進化とストレージの役割について、どのような展望をお持ちですか。成毛氏:近年、「ゼタバイト」や「データ爆発」といった言葉を耳にすることが多くなっています。インターネットのトラフィック総量が2015年にゼタバイト(10の21乗)レベルに達すると予測されているわけですが、データ爆発時代を迎えたとき、個々の高機能端末と基地局だけでは情報の伝達容量に限界が来ることは必至です。端末と端末、地域のWi-Fi拠点と端末間の通信がこれまで以上に活発化するでしょう。また、夜中に録っておいた映画をワンタッチでスマートフォンに転送し、通勤電車の中で観るといった使い方もこれから増えてくると思います。私どものNANDがストレージとして伸びていくためにも通信のキャパシティ向上は不可欠の課題だと捉えています。ファーウェイは基地局・端末間の通信能力を拡充することに尽力されていますが、当社はもっと近距離の、いわば「ヨコ」のデータ転送に力を注いでいます。すでに、無線LAN搭載SDHCメモリカード「FlashAir TM」や、モバイル端末どうしを接触させるだけでデータを送信できる近接無線転送技術「TransferJet TM」の規格に対応した無線ICなど、研究開発の具体的な成果が続々と表れています。

編集部:東芝グループは、「エネルギー」「ストレージ」「ヘルスケア」を3本柱とするスマート・コミュニティの実現を目指しています。スマート・コミュニティではBiCSやSSDなどの次世代ストレージデバイスが大きな役割を担うことになりますね。

成毛氏:東芝は原子力発電や交通などの社会インフラから、家電、医療システム、半導体、ストレージまで広範な領域でビジネスを行っています。従来、それぞれの事業は独立傾向にありましたが、スマート・コミュニティ構想のもとで、各事業が相互に連携しシナジーを生み出す態勢が整いました。この将来ビジョンではもちろんストレージ・デバイスが重要な要素となりますが、その他にも、エネルギーの効率的な利用を可能にするパワー素子やCMOSイメージセンサをはじめとする各種センシング素子、先に述べた近距離無線など、当社の保有するさまざまな技術・製品がその役割を果たすことになります。

海外売上高比率80%を支えるボーダーレスな事業運営体制

編集部:東芝グループ全体では海外売上高比率が55%に達していますが、セミコンダクター&ストレージ社の地域別売上高はどのようになっていますか。成毛氏:当社の海外売上高比率は2013年3月期で約80%でした。当社は携帯端末やPC、デジタル家電などの電子機器を筆頭に、自動車、産業機器、電源装置など、さまざまな産業分野に製品を提供していますが、それらのメーカーの多くが海外に主要な生産拠点を置いています。またスマートフォンやデータセンターなどのハイエンド領域では外国メーカーが強みを持っていますから、当社の販売先も必然的に海外が中心となります。生産についてもグローバルな最適化を目指していますが、ウェハーのプロセスについては、四日市工場クリーンルームの自動化が進み、コスト対応力もあることから、引き続き国内で頑張っていきたいと考えています。

編集部:電子機器の世界に国境はないということがよくわかりますね。御社が今後、事業を拡大していく上で、特に重視されている国や地域はありますか。

成毛氏:特に注目しているのは経済発展の続く中国と東南アジア諸国です。中国では近年スマートフォンが急速に普及し、販売台数ベースで全世界の約3分の1を占める巨大市場となりました。Androidベースのアプリケーションを多数搭載するためには、メモリ容量をもっと増やす必要がありますから、当社にとってきわめて有望なマーケットであることは間違いありません。広大な国土をカバーするために、自社拠点を整備するだけでなく、現地協力会社の販売網を活用して各地域の特性に応じた販売戦略を取っています。また、科学教育の支援活動を通じて、東芝とセミコンダクター&ストレージ社に対する認知度の向上と優秀なローカル人材の確保に努めています。一方、東南アジアでは2013年4月に東芝セミコンダクタ・タイ社がディスクリート製品の量産を開始しました。いま地球全体のものづくりは中国と東南アジアを中心に動いていますので、当社でもこの両地域を中心に事業基盤の一層の拡充と売上の拡大に取り組んでいく方針です。

事業の根幹=技術力で世界トップの地位を守り続ける

編集部:御社が中国市場を重視されていることは、ファーウェイにとっても非常に心強いことです。成毛社長はファーウェイに対してどのような印象をお持ちでしょうか。

成毛氏:少し昔の話になりますが、深センのファーウェイ本社のショールームを訪問し、基地局などの展示物を見せていただいたことがあります。そのとき受けた印象は「技術に対して真摯な会社だな」ということでした。技術者比率が非常に高い会社であることもうかがいました。そうした技術に対するこだわりこそ、ファーウェイが通信やネットワークの分野で着実にシェアを伸ばすことができた原動力ではないでしょうか。マネジメントの経営姿勢や意思決定の速さ、世界の潮流をしっかりと見据えて事業を行っていることなど、見習うべきことの多い会社だと思います。ファーウェイと当社には、技術志向の企業文化を有していることなど共通点も多いですし、これからも緊密なパートナーシップを維持していきたいと希望しています。

編集部:当社もグローバルカンパニーとして世界の経済社会の発展に寄与されてきた御社から多くのことを学んでいきたいと考えています。それでは最後に成毛社長の今後の抱負をお聞かせください。

成毛氏:私は大学院時代に半導体を研究しましたが、当時、半導体は量産化のステージを迎えており、実際に開発・生産を手がけているところで半導体に取り組んでみたいと考えて東芝に入社しました。東芝ではウェハーの加工プロセスや新製品の開発に携わることができ、この会社を選んだ決断に間違いはなかったと振り返っています。今後、半導体やストレージは時代の要請に応じて進化発展していくと思いますが、当社は経営環境の変化に左右される事業規模ではなく、事業の根幹である技術力で常にトップを走り続けたいと考えています。