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通信の社会インフラ化を支えるムラタの独創技術と世界戦略

通信の社会インフラ化を支えるムラタの独創技術と世界戦略

海外売上高比率が89.1%(2013年3月期)に達するグローバル企業・村田製作所。積層セラミックコンデンサーや表面波フィルターなど、独創的な研究開発から生み出された高品質な製品を世界市場に発信し、携帯端末の小型化・高機能化と通信の進化に大きく貢献しています。今回は村田製作所の通信事業を統括する中島規巨常務執行役員に、同社のグローバル戦略と通信の未来に対するビジョンをうかがいました。

株式会社村田製作所

1944年創業。コンデンサー、圧電製品、通信モジュールなど、高度な独自技術を基盤とする多彩な製品ラインナップで、エレクトロニクス産業の発展と快適な市民生活の実現に貢献している。2013年4月には「真のグローバル化」「全員マーケティング」「ものづくり力の進化」を行動指針とする「中期構想」をスタートし、村田恒夫社長のもとで次なる成長への取り組みを本格化した。中島規巨・通信事業本部長は、2013年6月に村田製作所の取締役ならびに常務執行役員に就任。野球をこよなく愛する1961年生まれの若きリーダーである。

要素技術の垂直統合でムラタ独自の製品群を創出

編集部:村田製作所は、通信・コンピューターから自動車、環境・エネルギー、ヘルスケアまで広範な領域でビジネスを展開されています。はじめに通信事業本部の主力製品と市場におけるシェアを教えてください。

中島氏:主力の商品は大きく分けて3つあります。第一はムラタの固有技術であるLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)を使用したフロントエンド・モジュール。携帯電話の話す・聞くという機能、あるいは周波数の変更を自動的に行う機能を担っているデバイスです。第二は表面波フィルターと言いまして、特定の周波数だけを通して、いらない周波数は通さないというデバイス。第三はワイヤレスLANやBluetooth®での接続を可能にするコネクティビティ・モジュールです。これらはいずれもスマートフォンに不可欠な部品であり、ファーウェイの製品にも採用いただいています。世界全体でのシェアは、フロントエンド・モジュールが50~60%、表面波フィルターは約40%、コネクティビティ・モジュールは約60%を確保しています。

編集部:3つの主力商品のすべてで世界のトップシェアを維持されているのですね。村田製作所の強さの秘密はどこにあるとお考えでしょうか。

中島氏:当社の優位性は2つあると思います。ひとつはお客様から見たときの安心感です。コンデンサーやインダクターといった単機能部品から通信モジュールや電源モジュールのような高機能複合部品まできわめて幅広い商品ポートフォリオを形成していることに加え、常に最高の品質を追求する企業姿勢がお客様からの信頼につながっていると考えています。もうひとつの強みは柔軟な研究開発体制です。ムラタは、材料技術、プロセス技術、設計技術、生産技術、ソフトウェア技術、分析評価技術など、あらゆる要素技術を自社保有し、それらを垂直統合することによって独創的なデバイスやモジュールをつくり出してきました。材料開発から生産までの一貫体制を構築していることで、スマートフォンの小型複合化といったテーマ別の研究開発も進めやすくなっています。

編集部:世界No.1のシェアを維持するためには、生産能力の拡充や販売ネットワークの整備などの事業体制強化策もタイムリーに実施する必要がありますね。

中島氏:ムラタの製品は世界中で多くのお客様にお使いいただいています。そのため、たとえばスマートフォンはこういった種類の製品が今後これくらい売れるだろうといった、市場動向に関する情報をかなり正確に把握できていると思います。精度の高い情報分析に基づいて戦略的に資本投下、設備投資を行ってきたことが、スマートフォンやタブレット端末の大きな市場成長にキャッチアップできた一番の要因でしょう。

多様な価値観を内包する真のグローバル企業を目指して

編集部:次にグローバル戦略についておうかがいします。村田製作所全体では海外売上高が90%近くに達していますが、通信事業本部の海外比率はどの程度でしょうか。

中島氏:通信事業本部の海外売上高比率は全社合計より高く、現在は90%を超えています。最も多いのが中国向けで売上高の約50%、次いで韓国、米国となっています。ムラタは創業者である村田昭の理念やフィロソフィーを継承した「社是」を企業経営の基盤としていますが、私はその中で「文化の発展に貢献し」という一節を最も重要視しています。文化に貢献するためにはドメスティックではいけない、世界を視野に入れて考え行動しなければいけないという思想がムラタのグローバル展開の根底にあると感じています。

編集部:積極的な海外展開の背景には、創業時から受け継がれてきたDNAがあったのですね。いま村田製作所グループは、世界を目指す多くの日本企業からグローバル化のお手本として見習うべき存在とされています。

中島氏:ありがたいことですが、本年4月にスタートした中期構想で「真のグローバル化」を行動指針に掲げたように、ムラタはまだ本当のグローバル企業にはなっていません。一般に言われてきたグローバル化は、日本の先進技術や生産システムを海外に持っていくことでした。まずアメリカに渡り、アジアでの生産を定着させ、ヨーロッパでも事業を展開して、世界標準でものづくりを行っていく。そのようなstandardization(標準化)ではムラタは確かに先行していたでしょう。しかし、世界経済におけるアメリカや日本の地位が変化し、人口動態的に中国やインドがマーケットの主役になりつつある現在、ムラタが提供してきた価値が本当に各リージョンで求められているものなのか、それが問われるようになっています。これから必要となるのはマルチドメスティックあるいはローカライゼーションの思想であり、世界各地域の多様な価値観にしっかりと対応できる企業こそ真のグローバル・カンパニーだと言えるのではないでしょうか。

編集部:村田製作所は1990年代前半に中国市場に進出され、現在では中国各地に生産・販売会社を設置されています。中国市場において通信事業本部はどのような成長戦略をお持ちでしょうか。

中島氏:中国を本拠とする企業にも二通りあり、ファーウェイやレノボのようにグローバルに事業展開されているお客様と、中国の国内市場で活躍されているお客様では、われわれの対応や戦略は大きく異なります。たとえばファーウェイについては、ムラタの製品ポートフォリオの広さ、網羅性を生かしながら、ヨーロッパ向け、中国国内向け、日本向けなど仕向地別の提案をしています。またご要望に合わせて研究開発のテーマ設定を変更したり、モジュールや製品の開発に共同で取り組むケースもあります。一方、国内市場を中心とされているお客様のニーズは製品供給のフレキシビリティと価格にほぼ集約されますので、スタンダードな量産品の拡販と対応力の強化に努めています。今後も堅調な発展が期待できる中国市場では、お客様の特性によって価値提供の内容を変えていくのが基本的な方針です。

通信の社会インフラ化と新たなビジネスチャンス

編集部:先ほど日本国内向けの販売は10%に満たないとお聞きしました。少子高齢化や製造業の海外移転が進行する中、日本市場の重要性はこの先、次第に薄れていくのでしょうか。

中島氏:人口の減少が続いていますので、マーケットのボリュームに大きな伸びは期待できません。しかし、日本には新開発の技術を積極的に活用する土壌があります。新たな技術提案に対してすばやく反応が返ってくるため、そこでイノベーティブな試みの成否や技術の確かさを確認することができます。また現在、世界ではスマートフォンなどで家電や車載機器のコントロールができる、つまり通信機能が生活のあらゆる側面に拡大する「通信の社会インフラ化」が始まっていますが、こうした新たな事業セグメントの開拓・確立に日本の通信機器メーカーは重要な役割を果たしていくはずです。

編集部:おっしゃるように、通信の社会インフラ化が進むにつれて私たちのライフスタイルは大きく変わってきています。村田製作所はこうした未来の通信社会をどのようにサポートしていこうとお考えですか。

中島氏:HEMS(Home Energy Management System)やBEMS(Building Energy Management System)などのスマート技術が注目を集めていますが、車載においてもMiracast®(ミラキャスト)という伝送技術を駆使して、カーナビ画面とスマートフォンをシンクロナイズするシステムが開発されています。地図情報や渋滞情報など、スマートフォンで受信した最新情報をカーナビに取り込んで確認することができるわけです。また医療分野では、心臓ペースメーカーのデータをスマートフォンやタブレット端末を通して医療機関に配信するシステムが構築されていますし、農業分野ではビニールハウス内の二酸化炭素濃度や土壌の水分量をスマートフォンで遠隔操作するスマートアグリの取り組みが活発化しています。スマートフォンの普及率はおそらくあと3年ほどで頭打ちになると思いますが、スマートフォンやタブレット端末の用途はさまざまな分野に拡張されるようになる――われわれはそういったイメージを描いて研究開発を進めています。

 スマートフォンやタブレット端末向けでは、通信速度の向上や製品の小型軽量化が強く求められてきましたが、通信の社会インフラ化が進むと、ムラタの提供すべき価値が従来とは異なってくる、つまり価値のパラダイムが変わるわけですから、それに的確に対応していくことが重要になります。たとえば携帯電話の平均的な製品サイクルは2年ほどですが、ビルの空調や自動車、白物家電の場合は10~20年の稼働を前提にしなければなりません。またこれまで通信機器とは無縁だった業種の方々が通信ビジネスに関わることになりますので、よりきめ細かいサポートができる体制を整えていく必要があるでしょう。

文化の発展に貢献する仕事に社員一人ひとりが誇りを持つ

編集部:村田製作所は20年前からテレビCMや新聞広告を通じてブランドの認知度向上に注力されてきました。また自転車型ロボット「ムラタセイサク君®」の活躍が、営業活動や採用活動にプラス効果をもたらしていると聞いております。ブランド価値に対する考え方をお聞かせいただけますか。

中島氏:B to B企業のブランディングには2つの価値があると考えています。ひとつはお客様から信頼していただけるという対外的な価値、もうひとつは従業員が自社の事業や製品に誇りを持てるようになるという対社内的な価値です。日々の顧客対応と製品の品質、テレビCMやロボットを使ったPR活動の相乗効果で、通信機器メーカーのお客様からは一定の信頼を獲得してきました。次は、われわれが頑張っていこうとしているオートモーティブやスマート・コミュニティー、医療といった分野でムラタの価値をいかに訴求していくかが課題となります。対社内については、われわれはエンドユーザーの高評価を直接体感する機会がほとんどありませんから、企業広告や「ムラタセイサク君®」を通じて自分たちの会社が文化の発展に貢献していることを理解し、誇りを持って仕事をしてもらうという点でも意義あることだと思っています。

編集部:中島様ご自身は、村田製作所という会社に対してどのような思いをお持ちですか。

中島氏:私は1985年に入社し、セラミックス材料の開発に従事したあと、工場勤務やフランス駐在を経て、1993年に本社の研究開発部門に戻ってきました。自動車電話が登場してまもなくの頃で、ムラタはその後、セラミックスや薄膜の微細加工といった基幹技術を駆使しながら、通信というエレクトロニクスの成長分野にリソースを集中していくことになります。会社の成長と通信産業の発展が同時に進行していく、その只中にいられたのは非常に幸運なことでした。いまスマートフォンやタブレット端末は成長過程にありますが、変化しつづける通信市場においては、その「次」を見据えて技術開発を推進していかなければなりません。そして、社員一人ひとりに自分が「事業部長」であるという意識を持って仕事に取り組んでもらい、これからのムラタを支えていく人材を育てることも、私の重要な使命だと考えています。

編集部:最後に、中島様にはファーウェイ本社に何度もお越しいただいていますが、ファーウェイについてどのような印象をお持ちでしょうか。

中島氏:ファーウェイの経営陣とお会いするとき、同席した若い方が積極的に発言されるのを聞いて、自由に意見を言うことのできる開かれた風土があることを強く感じました。またムラタはInnovator in Electronics®をスローガンとしているように、技術革新によって産業と文化に寄与することを企業の根本理念としており、イノベーションを重んじる経営姿勢という点で両社には共通するものがあると感じています。現在は携帯端末用の電子部品を中心にご提供していますが、ムラタは基地局向けの技術も多数保有していますので、今後はそうした領域も含めて協業の範囲を広げ、技術力を信頼の礎としたパートナーシップを発展させていきたいと希望しています。