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ICTの新たなフロンティア――SDN

ONF(Open Networking Foundation)のダン・ピット氏に聞く

SDN(Software-Defined Networking:ソフトウェア定義ネットワーク)がICT業界で新たな注目を集めている。多くのICT専門家がSDNは従来型のネットワーク・アーキテクチャに革新的な変化をもたらすと語るようになってきたが、そもそもSDNアーキテクチャとは何なのか。SDNで解決できる問題とは何か、またベンダーや顧客はどのようにSDNに備えるべきなのか。ONF(Open Networking Foundation:オープン・ネットワーキング・ファウンデーション)のエグゼクティブ・ディレクターであるダン・ピット(Dan Pitt)氏に聞いた。

ファーウェイ:SDNのような新しいネットワークのパラダイムが必要な理由は何でしょうか。

ピット氏:現在のネットワークのパラダイムは、30年も前から変わっていません。すなわち、ネットワークのスイッチやルーターは、6,000にも及ぶ分散プロトコルで制御される完全なネットワーク・インテリジェンスをそれ自体の機能として備えていなければならない、というものです。こうしたネットワークにおいては、新たに要求事項が発生した際、さらにプロトコルを上から書き加えることで対応するしかありません。結果として無数のネットワーク・プロトコルが生まれ、標準化委員会の審査や独自環境での実装に何年もかかってしまいます。一方SDNではネットワークが直接プログラム可能になるため、通信事業者のニーズをより臨機応変に満たすことができるわけです。

ファーウェイ:SDNの定義を教えてください。SDNアーキテクチャとは何でしょうか。

ピット氏:SDNとは、ネットワークのスイッチング機器から制御機能を分離し、それを論理的に切り離されたネットワーク・オペレーティング・システム(OS)に移行させたネットワークのことで、これにより直接かつリアルタイムにネットワーク機能のプログラミングができるようになります。これまでは製造者しかプログラムできないルーターのみが制御機能を持っていましたが、ネットワークOSはごく普通のコンピューター・サーバー上で稼働するため、誰でもプログラム可能となります。論理的に一元化されたコントロール・プレーンによってプログラムができるという点がSDNの核心です。

ファーウェイ:SDNにおけるOpenFlowの役割は何でしょうか。

ピット氏:OpenFlowはSDNの3大構成要素のひとつです。ひとつめの要素は、制御とフォワーディングの分離です。フォワーディングは単にネットワーク・スイッチ上の高速パケット処理となり、制御は前述の通りネットワークOS上で論理的に一元化されます。

OpenFlowは2つめの要素で、OpenFlowプロトコルによりパケットの処理に必要なフォワーディング・テーブルがスイッチへと送られます。従来のネットワークではスイッチとルーター側でフォワーディングの経路を決定する必要があり、コスト、性能、製品化までの時間の観点から課題がありました。SDNでは通信事業者のネットワーク管理の要望に合わせて制御ソフトウェアがパスを決定します。

3つめの要素は、一貫性がありシステム全体をカバーするプログラミング・インターフェースがネットワークOSに備えられていることです。これによって、実際にネットワークのプログラムが可能になる、すなわちソフトウェア定義が実現することになります。

制御とフォワーディングを切り離さなければ、SDNの利点はほぼすべて失われてしまいます。制御とフォワーディングを切り離してもOpenFlowがなければ、フローテーブル情報をスイッチに送る別の手段が必要となります。OpenFlowはこれを可能にする業界標準で、汎用性がきわめて高いプロトコルです。

制御とフォワーディングの分離、OpenFlowプロトコル、一貫性がありシステム全体をカバーするプログラミング・インターフェースをすべて備えたものがSDNであると言えます。ファーウェイ:SDNでどのようなことが可能になるのでしょうか。ピット氏:SDNは、ネットワークの硬直化や要件の変化に対するスピーディーな対応、仮想化の実現、コストの抑制などを可能にします。現行のインフラストラクチャのあり方では通信事業者は新しいサービスを迅速に展開することができません。ベンダーおよび標準化委員会が新機能を承認して独自の運用環境に組み込むまで待たなくてはならないからです。

SDNでは、通信事業者は自ら必要なソフトウェアを設計するだけでネットワーク機能を決定することが可能になります。SDNの持つ柔軟性、スピード、仮想化能力により新たな取り組みが実現できるでしょう。通信事業者や企業は、通常のソフトウェアを使用していつでも新サービスを作成・提供できるようになるのです。OpenFlowのフォワーディング処理情報によってネットワーク機能を抽象化することで、ネットワークは仮想化され、アプリケーションに論理リソースとして処理されるようになります。

また、ネットワークはこれまでコマンドライン・インターフェースでの手動設定に頼っていたため、コンピューティングの世界では当たり前となった仮想化の流れに長らく乗り遅れることとなり、結果として運用コストの増加、ビジネス要件に即したネットワーク更新の大幅な遅れ、エラーの誘発などにつながっていました。しかしSDNでは、ポートやアドレスなど特定のネットワーク要素とアプリケーションを連携させる必要がなくなるので、ネットワークの物理面を即時に進化させることが可能になります。アプリケーションの設定変更コストやネットワーク機器の手動設定コストも不要です。

ファーウェイ:SDNには他にどのような利点がありますか。ビジネスや経済に恩恵をもたらすのでしょうか。

ピット氏:SDNにより、プログラマーなら誰でも、普通のサーバー、普通のOS、普通のソフトウェアを使用して、ネットワークをプログラムできるようになります。そうなれば、高度にカスタマイズされたソリューションの選択肢が無限に広がり、膨大な市場が生まれます。新機能を実装する際は、ネットワークの動作すべてが、ベンダーが専有するハードウェアやソフトウェアではなく、オープン・ソフトウェアに基づくものとなります。

さらにマルチキャストや負荷バランスなど、いくつかのネットワーク機能はこれまでより格段に簡単に提供できるようになります。トポロジー制限(現在データセンターのトラフィックの大半を占める仮想マシン間の東西トラフィックがツリー構造によって阻害されること)もなくなります。

一般的には、SDNの5大利点として以下のようなことが挙げられます。

  • ネットワークの使用、運用、販売の方法が臨機応変になる。
  • ベンダー専有の製品の場合はベンダー側の計画を待たなければならないが、SDNでは通信事業者が必要な機能を自ら制御するソフトウェア上で実装できるようになるため、サービス導入のスピードが向上する。
  • 手動での構成が減るため、運用コストが削減され、障害が発生しにくくなる。
  • ネットワークを仮想化することでコンピューティングとストレージが統合され、IT運用全体を単一のツールセットでスマートに行うことができる。
  • ネットワーク、さらにはIT全体を、より的確にビジネス上の目的に適合させることが可能になる。

ファーウェイ:SDNが受け入れられる上で、近年どのような変化があったのでしょうか。今後の課題とそれに対する対策についても教えてください。

ピット氏:ONFは昨年、OpenFlowベースのSDNの実装と導入を促進するべく、適用可能な標準を開示したほか、プロトタイプのデモや相互運用実験、プラグフェスト(各社製品の相互接続性をテストするイベント)を開催し、ホワイトペーパー、ソリューション・ブリーフ、チュートリアルなどを発行しました。こうした取り組みにより、ベンダーや通信事業者から製品の発表や発売が進んできています。

OpenFlowベースのSDNは、超大規模データセンターから法人向けデータセンター、公共および民間のクラウド・サービス・プロバイダー、マルチテナント型ホスティング設備、ロジスティクス・コーディネート、通信事業者ネットワーク、キャンパス・ネットワーク、回線交換ネットワーク、光ネットワークに至るまで、さまざまな環境ですでに導入されています。またサービスに関しても、ネットワーク仮想化、セキュリティー、アクセス制御、負荷分散、トラフィック・エンジニアリング、アドレス管理、エネルギー管理など、多岐にわたる分野で使用されています。

OpenFlow標準は、IPv6、拡張可能なコード、トンネルなどの機能に対応してアップデートされています。さらに、スイッチ構成、相互運用テスト、適合性テストについての標準も追加しました。また、OpenFlow上でアプリケーション、管理システム、既存のコントロール・プレーン、キャリア・サービスなどと連携するオーケストレーション機能のアーキテクチャを研究しており、OpenFlowをLAN環境のイーサネット・スイッチのみでなく、光伝送、回線交換、ワイヤレス伝送技術にも応用できるようにしていきます。

ONFは、ネットワークがOpenFlowスイッチのハードウェアとしての性能上の利点をより生かしたものになるよう、またOpenFlowベースのSDNを展開しようとする事業者が、多大な投資をしてきた既存のネットワークにOpenFlowの性能をより簡単に導入できるようにする取り組みを進めています。OpenFlowの技術基盤がこれだけしっかりと整い、ベンダーによる開発が進む中、OpenFlowを活用した付加価値要素が現れはじめています。OpenFlowを業界標準にした意義はここにあります。

ファーウェイ:ベンダーにとって、次のステップは何でしょうか。

ピット氏:来年は市場でネットワーク構築が再び注目を浴びるだけでなく、多大な事業価値を生み出すことが予想されます。ベンダーはその利益を顧客に還元することになるでしょう。OpenFlowの性能を取り入れた各種スイッチやルーター、ネットワーク制御や仮想化ソフトウェア製品が急速に増えています。またOpenFlow上で機能するL4-7のソフトウェア・ベース仮想アプライアンスの生産を加速させる動きもあり、専用のハードウェア・アプライアンスに取って代わろうとしています。

ONFでは引き続き技術標準を向上させ、アーキテクチャの理解を深めることで、適用性や実用性を高め、実装数を増やしていくつもりです。ベンダーにはこれを踏まえて、SDN展開を考慮して設計したプロトタイプ、製品、プラットフォーム、ツールを世に出していくことが期待されています。

ファーウェイ:通信事業者にとって、SDNに対する準備をする上で次のステップは何でしょうか。

ピット氏:SDNに対してはネットワーク展開や運用の際に3段階のアプローチをとるよう、いつもお勧めしています。まず取引先のベンダーに対し、どんなSDNソリューションがあるのか、OpenFlow標準にどの程度準拠しているか、他のサプライヤー製品との相互運用性がどれだけあるかといった点についてヒアリングします。

次に、少なくとも実際に自分たちでトライアル展開をしてみることです。そうすれば何がしっくりくるのか、興味を惹くものは何か、購入すべき製品や自前で設計するべきソフトウェアは何か、どんなスキルをアップデートしたり新たに獲得したりする必要があるかがわかってきます。そしてSDNを採用する目的がコスト削減のためなのか、利益獲得のためなのかを決定します。この目的しだいで、プロジェクトが大きくなるにつれ、どのように経営陣に交渉して財源を確保するかが左右されます。

最後に、ユーザーのニーズに最も見合うように技術を進歩させていくため、ONFへの参加を考慮いただければと思います。ONFは実際に技術を利用するユーザーをとりわけ尊重しています。われわれは、どのような課題に取り組み、何を承認するか、またその方法について、ユーザー主体で決定していくことを主眼とした団体であり、ユーザーにとってよりよいSDNの展開を目指しています。